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フォルクスワーゲン、WTCR参戦車両「ゴルフ GTI TCR」についてロイヒター選手が解説する記者説明会
2019年11月15日 21:03
- 2019年10月26日 開催
フォルクスワーゲン グループ ジャパンは、ドイツ本国のモータースポーツ部門 フォルクスワーゲン モータースポーツがレーシングチームやジェントルマンドライバー向けに販売しているTCR規格のレーシングカー「ゴルフ GTI TCR」に関する記者説明会を開催。鈴鹿サーキットで10月25日~27日に開催された「WTCR」日本ラウンドに出場したベンジャミン・ロイヒター選手による車両解説が行なわれた。
この記者説明会は、独フォルクスワーゲンの日本法人フォルクスワーゲン グループ ジャパンがTCR規格のレーシングカーのストリート版「ゴルフ GTI TCR」を日本投入するのに合わせて行なわれたもので、記者説明会が行なわれた週末には鈴鹿サーキットでTCR規格のレーシングカーを利用したレース「WTCR」(FIA世界ツーリングカーカップ)の日本戦が開催されたタイミングで行なわれた。
カスタマーレーシングに力を入れるフォルクスワーゲンのモータースポーツ活動。WTCRにはSLRと協力して参戦
ドイツの自動車メーカーにして、グループ全体ではトヨタ自動車と世界1位の座を常に争っているドイツのフォルクスワーゲンは、モータースポーツ活動に熱心なメーカーの1つとして知られている。よく知られている活動としては、2013年~2016年にかけて行なわれたWRC(世界ラリー選手権)への参戦だろう。WRCは市販車ベースのラリーカーを利用してタイムトライアルの形式で争われる自動車レースで、古くから人気を集めている。フォルクスワーゲンは2013年に参戦を開始すると、マニファクチャラーズタイトル、そして所属していたドライバーであるセバスチャン・オジェ選手のドライバーズタイトルの両方を4年連続で獲得するという結果を残した。
そのWRCへの参戦を2016年終わりに終了してからは、2018年にパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(アメリカで行なわれているヒルクライム形式でのタイムトライアルレース)に「I.D. R Pikes Peak」という電動レーシングカーで挑戦し、史上最速のタイムをマークして優勝するなどしている。
そして現在、フォルクスワーゲンが最も力を入れているのが、カスタマーレーシングと呼ばれる、レーシングカーを顧客に販売する形式でのモータースポーツ活動だ。カスタマーレーシングとはマニファクチャラー(日本的な言い方をすればメーカー)が自社の市販車をベースとして、一種のチューニングカーをレーシングカーとして設計、製造し、それをカスタマーとなるレーシングチームやジェントルマンレーサーなどに販売する。レーシングチームはそれを利用してレースを行なうというレーシングカービジネスのことを意味している。
日本のSUPER GTのGT300クラスでも利用されているFIA-GT3や、スーパー耐久シリーズでクラスも用意されているTCRなどがその代表的な例として知られており、BOP(Balance of Performance)と呼ばれる性能調整の仕組みがうまく機能としており、異なるマニファクチャラーの車両を利用しても均衡したレースが展開されているため、人気を集めている。
TCRはここ数年特に盛り上がっており、トップカテゴリーとなり世界規模で行なわれているWTCRを頂点として、各地域で選手権が行なわれており、日本でもTCR Japanというシリーズがスーパーフォーミュラと併催で今年から開催されており、ジェントルマンドライバーから人気を集めている。
フォルクスワーゲンはこのTCRでカスタマーレーシング向けのレーシングカーとしてゴルフ GTI TCRを投入しており、これをカスタマーチームに販売しているほか、TCRのトップカテゴリーとなるWTCRには、SLR(セバスチャン・ローブ・レーシング)と協力して4台体制で参戦している。といっても、TCRではマニファクチャラーがワークスチームとして参戦することはできないので、あくまでSLRが参戦の主体であり、フォルクスワーゲンはそれをサポートするという体制になっている。
カスタマーレーシングで重要になるのはサポート体制。パーツやチームをバックアップする体制を整えている
10月25日~27日に鈴鹿サーキットでスーパーフォーミュラと併催で行なわれたWTCRの日本ラウンドには、そのSLRも4台体制で参戦していた。日本でもよく知られている2015年のWTCCチャンピオンのロブ・ハフ選手、WTCRの前身となるWTCCにも参戦していたメディ・ベナーニ選手、そしてヨハン・クリストファーセン選手とベンジャミン・ロイヒター選手の4人のドライバーが参加していた。そしてその週末のレースでは、ヨハン・クリストファーセン選手がレース3で優勝、ロブ・ハフ選手がレース2で2位という結果を残している。
このWTCR 日本ラウンドの週末に、フォルクスワーゲン グループ ジャパンは、ゴルフ GTIをベース車両にした特別仕様車となる「ゴルフ GTI TCR」の発表会を行ない、受注を開始している(別記事参照)。そのゴルフ GTI TCRは、その名前が同じことからも分かるように、カスタマーレーシング向けに販売されているゴルフ GTI TCRのストリートバージョンと位置付けられており、WTCRなどでのノウハウもフィードバックされている車両となっている。
その開発に関わったのが、WTCRに参戦している4人のドライバーの1人であるベンジャミン・ロイヒター選手だ。ロイヒター選手は、レーシングバージョンのゴルフ GTI TCRの開発ドライバーでもあり、フォルクスワーゲンのモータースポーツ活動に欠かせないドライバーの1人である。そのロイヒター選手が、WTCRの日本ラウンドが開催されている期間中に、日本の報道関係者を対象としたWTCRレーシングカーに関する記者説明会を行なった。
ロイヒター選手やフォルクスワーゲンの関係者によれば、ゴルフ GTI TCRは、グループ企業であるアウディ、セアトと共同で開発されており、シャシーやパワートレーンなどには共通のパーツが使われている。その上でボディの空力などは各社が開発しており、セアトであれば「CUPRA TCR」として、アウディであれば「Audi RS3 LMS」として、そしてフォルクスワーゲンであれば「ゴルフ GTI TCR」として提供される。なお、製造はスペインにあるセアトのレーシング部門であるセアト・スポーツで一括して行なわれており、そこから各メーカーに引き渡されてサポートなどが行なわれる。
カスタマーレーシングで重要視されているのがこのサポートになる。というのも、例えばレース中に接触があってバンパーのパーツを替えないといけない場合、ユーザーとなるレーシングチームはマニファクチャラーに発注して販売してもらうことになる。その在庫がなく修理までに時間がかかるといったことがあってはならないので、各マニファクチャラーは本拠地などにパーツデリバリーセンターを用意しており、注文を受けるとすぐに出荷できる体制を整えているのだ。また、WTCRのようなインターナショナルなレースでは、メーカーのサポートがそうしたパーツと共に出張っており、その場でパーツを販売する体制を整えている場合がある。
フォルクスワーゲンの場合はSLRとジョイントする形でWTCRに参戦しているので、もちろんそうした体制を整えている。また、サポートは何もそういった物理的なパーツの交換などにとどまらない。レースカーからのデータを解析してチームに助言する体制も整えており、サポートチームのメンバーはかつてWRCに参戦していた時のメンバーとも重なっているという。すでに述べたとおり、2013年から4年連続でWRCのチャンピオンを獲得したフォルクスワーゲンだけに、その優秀さは折り紙付きだ。
レーシング版のエンジンは350PSとストリート版よりもさらに高出力だが同じエンジンを採用
ロイヒター選手は、そうしたWTCRに参戦しているゴルフ GTI TCRのレーシングバージョンの特徴について説明。エンジンは基本的にストリートバージョンに搭載されているエンジンと同じだが、エアクリーナーが違っていたり、インタークーラーがレーシング用の特別版になっているという。最高出力もストリート版が290PSであるのに対して、レーシング版では350PSとなっている。
また、ギヤボックスは市販車では7速のDSG(フォルクスワーゲンのデュアルクラッチトランスミッション)となっているが、レーシングバージョンではDSGとシーケンシャルギヤボックスの2つから選ぶことができるという。シンプルな構造になるシーケンシャルギヤボックスと比較して、DSGは複雑な構造になってしまうので、重量が増えたりするので、WTCRのようなスプリントレースではシーケンシャルギヤボックスが選ばれ、耐久レースではドライバーの快適性や耐久性も重要になってくるのでDSGが選ばれる傾向にあるとロイヒター選手は説明した。ただし、シーケンシャルギヤボックスを選ぶ場合は追加のコストがかかるとのことだった。なお、TCRの車両でDSGとシーケンシャルの2つからギヤボックスを選べるようにしているのはフォルクスワーゲングループだけの特徴だとロイヒター選手は説明した。
フロントブレーキもストリートバージョンでは大きな1ピストンのキャリパーを採用しているが、レーシングバージョンでは6ピストンの強力なキャリパーが採用されている。ロイヒター選手によれば、ブレーキバランスはタイヤの劣化に合わせて、レース前半はフロント寄りにして、レース後半にはリア寄りに設定を変えるなどしてドライブしているということだった。