試乗インプレッション

走りも装備も魅力が高まったアウディ「TT」。クーペとロードスターの乗り味の違いは?

スポーティでありつつ、異なる走りの個性

よりスポーティかつ付加価値を高めた

 初代「TT」の誕生は1998年。翌年には日本に上陸を果たし、斬新なスタイリングが大いに話題となったのは今でも印象に残っている。それから20年あまり、時間の経過とともにTTは見た目も走りもスポーティ色を強めてきた。2015年に日本に上陸した現行の3世代目もその流れにあり、2019年に大幅な改良を実施した最新版は、よりその傾向が強まった。

 変更は見た目が中心で、今回撮影したS lineパッケージ装着車は、シングルフレームグリルがブラックの立体的な3Dハニカムメッシュとなったほか、バンパー、サイドスカート、リアディフューザーのデザインが新しくなり、テールランプ下にはエアアウトレットを模したデザインエレメントを追加するなど、個性的なスタイリングはよりスポーティさを増した。

撮影車両は「TT ロードスター 45 TFSI quattro」(626万円)。ボディサイズは4190×1830×1360mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2505mm。最小回転半径は4.9m。TT クーペは全高が+20mmの1380mmとなる
立体的なハニカムメッシュとなったシングルフレームグリルや、バンパー、リアディフューザーなどのデザインを変更
アルミホイールはオプションの5アームスターデザインコントラストグレーパートリーポリッシュト(鍛造)を装着。組み合わせるタイヤはブリヂストン製「ポテンザ S001」(245/35R19)
45 TFSIはLEDヘッドライトを標準装備。撮影車両はオプションの自動配光を行なうマトリクスLEDヘッドライトを装着

 インテリアでは、撮影車両にも装着されていた「エクステンデッドアルミニウムルックインテリア」の設定が拡大されたほか、新たにレザーパッケージに同色部分を拡げたカラーエクステンデッドレザーを採用。S lineパッケージ装着車には表皮素材がアルカンターラとレザーの組み合わせで、ダイヤモンドステッチを配し、スポーティさとプレミアム感を高めた「Sスポーツシート」が新たに与えられるなどして全体的に付加価値を高めた。

TT ロードスター 45 TFSI quattroのインテリア。ステアリングやセレクターノブがロゴ入りの専用品になるほか、ステンレス製ペダルカバーに加え、ウィンドウスイッチ、ミラースイッチのエッジがアルミニウムルックになるオプションのS lineパッケージを装着
メーターは12.3インチのフルデジタルインストルメントパネルを採用し、好みに応じて表示を切り替えられる「バーチャルコックピット」を標準装備
シートはダイヤモンドステッチを施したアルカンターラ/レザーのSスポーツシート
バックレストにはS lineロゴが入る
ドアを開けると見えるTTのロゴが心をくすぐる
TT ロードスターのトランク容量は280L。クーペでは305Lに広がる

 走行性能面では、エントリーモデルである2WD(FF)の「40 TFSI」の最高出力が従来比+17PSの197PS、最大トルクが同+70Nmの320Nmへと大幅なパフォーマンスの強化が図られたことが伝えられる。しかも価格も、件のエントリーモデルなら488万円と控えめだ。アウディのスポーティモデルだからもっと高いと思っている人も多いようだが、実はそうでもない。

 中堅の「45 TFSI suarto(以下「45 TFSI」)」はクーペが610万円、ロードスターが626万円と屋根の有無による価格差が小さいことも特徴で、286PS/380Nmを発生する高性能版の上級グレード「TTS クーペ」も814万円だ。なお、5気筒エンジンを積む最上級グレードの「TT RS」は、残念ながら日本向けがすでにカタログ落ちしている。

直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「CHH」型エンジンを搭載。最高出力169kW(230PS)/4500-6200rpm、最大トルク370Nm(37.7kgfm)/1600-4300rpmを発生する。JC08モード燃費は12.5km/L。組み合わせるトランスミッションはDCTの6速Sトロニック

クーペとロードスターの性格の違い

 そんな最新版TTの45 TFSIのクーペとロードスターを箱根ターンパイクでドライブした。実はひと足早く、TTの名称の由来にもなった英マン島TTレースのコースで最新版のTTSをドライブする機会があり、その走りのほどを過去記事でもレポートしているが、日本国内で最新版に乗るのは初めてのことだ。

 アウディお得意のマグネティックライドはドライブセレクトとも連動していて、AUTOにしておけば快適性と走りのバランスがよくなる。いつもながら引き締まっているのによく動く。クーペとロードスターでは走りのキャラクターが差別化されているようで、クーペの方がより締まっている。姿勢変化が小さく、走りにダイレクト感があり、スポーツカーらしさをより直感させる味付けだ。

クーペとロードスターで走りのキャラクターを差別化
クーペの方がスポーツカーらしさを感じる締まった乗り味

 一方のロードスターはクルマの性格に合わせて、いくぶんしなやかで乗り心地がよい。路面のアンジュレーションを巧みにいなしつつ、4輪の接地性が損なわれることもない。このあたりはアルミニウムとスチールの複合構造ASF(アウディスペースフレーム)の軽量高剛性なボディも効いていることに違いなく、クーペはもちろんロードスターもオープンボディとは思えないほど剛性を感じさせる。操舵に対しても極めて正確に狙ったラインをトレースしていける。いずれも、アウディのプレミアムコンパクトスポーツという期待にも十分に応える走り味を身につけている。

ロードスターはオープンとは思えないほどの剛性を感じる

 現状のTTは全車に直列4気筒 2.0リッターターボエンジンを搭載するが、45 TFSIの瞬発力のあるパワフルな加速フィールはなかなか快感だ。どの回転域からでもついてくる俊敏なアクセスレスポンスを誇り、トップエンド付近まで勢いを衰えさせることなくよく回る。野太く勇ましい感じのエキゾーストサウンドも、よりスポーティになったTTによく似合う。ロードスターならそれをダイレクトに味わうことができるのもうれしい。

スポーツカーながら機能性にも優れる

 ユニークなデザインとスポーティな走り味とともに、2シータースポーツらしからぬほど機能性に優れるのもTTならでは。クーペにある小さなリアシートがロードスターにはなく、そのスペースにソフトトップが格納されるため機構的にもシンプルにできるおかげで、50km/hまでなら走りながらでもルーフが開閉可能で所要時間も短い。

 トランクのスペースも意外と広く、小旅行のための2人分の荷物程度なら余裕を持って積める。一方のクーペは独立したトランクリッドはなくハッチバックとなっており、トランク自体の深さはロードスターと大差ないものの、リアシートを倒せばゴルフバッグを縦に2個載せられるらしく、いざとなればけっこう大きな荷物でも積むことができそうだ。

ソフトトップの開閉に要する時間は10秒以内。50km/h以下であれば走行中の操作も可能

 ロードスターは寒い時期でもオープンエアドライブを積極的に楽しめる装備が充実しているのもうれしい。サイドウィンドウに加えてオプションのウインドブロッカーを使うと風の巻き込みを大幅に抑えることができる。新しいSスポーツシートは見た目だけでなく着座感も良好で、シートヒーターとエアスカーフを使えば寒さ知らずだ。そしてクルマから降りて少し離れて眺めると、ロードスターのオープンにした姿がとても美しく絵になることをあらためて実感する。

オプションのウインドブロッカーは電動で高さを調節可能。シートにはエアスカーフ(ネックヒーター)も採用し、寒い時期でも快適にオープンエアドライブが楽しめる

 次期型の計画はなく現行型が最後と伝えられるTTだが、久々にドライブしてTTならではの魅力をいろいろと再発見した次第。そして最新版のTTは、そんなTTの魅力がさらに高まっていたことをお伝えしておきたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸