試乗インプレッション
フォルクスワーゲンの最小サイズSUV「T-Cross」、侮れない実力をまざまざと見せつけられた
直列3気筒1.0リッターターボ搭載モデルを公道で体感
2020年1月20日 07:00
日本導入モデルは通常グレードではなく特別仕様車
フォルクスワーゲンの最小サイズSUVである「T-Cross」が日本で発表された。すでに陸揚げされて出荷前点検であるPDI(Pre-Delivery Inspection)も進み、2020年1月から納車がスタートするとのことで、この先、街中で見かけることも多くなると思う。筆者は2019年9月にドイツ本国仕様の試乗を行なっている。こちらでは大人3名+ラゲッジルームに荷物を満載した状態で、ドイツの高速道路であるアウトバーンや市街地を走らせたのだが、そこでは直列3気筒1.0リッターターボの侮れない実力をまざまざと見せつけられた。
日本に導入されたモデルは、通常グレードではなく特別仕様車の「1st(ファースト)」と「1st Plus(ファーストプラス)」の2グレード。いわゆる装備を中心に通常グレードからグレードアップさせたもので、1st Plusでは本国での上位グレードとほぼ同等の内外装と装備がおごられている。今回はその1st Plusの取材を日本で行なった。
コンパクトハッチバックモデル「ポロ」をベースとするT-Crossだが、小さく最小(全長4115mm、全幅1760mm)といっても全高は1580mmあり、やはりそばに立つと立派なSUVの装いだ。しかしながら兄貴分の「T-Roc」(現行「ゴルフ」がベースのSUVで現時点、日本未導入)や、日本でもおなじみの「ティグアン」に比べれば当然ながらサイズは小さく、その点ではコンパクトな部類であることに違いない。中でも全長が短いこと、最小回転半径が5.1mに抑えられていることから、都市部での使い勝手はとてもよかった。今回の取材中、狭い道路を何度も通ったり駐車場の入出庫を繰り返したりしたが、見切りがいいことや着座位置の調整幅が大きいため、ポロよりも運転しやすい場面も多々あった。
T-Crossの美点はもちろんサイズだけではない。キャビンやラゲッジルームが縦/横ともに大きく使いやすい。全幅は1760mmだが、室内幅は1460mm(独フォルクスワーゲン公式サイト調べ)と現行ゴルフの1469mm(同)と並び、室内高に関しては1034mm(同前席)で同じくゴルフの1018mm(同前席)を多少ながら上まわっている。ボディのスリーサイズとホイールベース、車両重量などが近いマツダ「CX-3」の室内幅は1435mm、室内高は1210mmだ。
こうして数値でみればミリ単位。よって誤差の範囲に思われるかもしれないが、実際に座ってみるとやはりポロとの違いは大きく、平面に見えるインパネやドア・ドアノブ、そしてシート、さらには足下スペースに至るまで基本デザインはポロを踏襲しながらも、可能な限り各部を内側にえぐりつつ、外光による反射を考慮して奥行き感を演出して視覚的に広がりがあるように見せている。
さらに1st Plusの美点は内外装のポップなデザイン。独フォルクスワーゲンの公式サイトによると、690~790ユーロ相当の有償デザインパッケージが装着されていて、ドアミラー、18インチホイール、インパネのダッシュパッド、シート生地が、ボディカラーに応じて「オレンジ」「グリーン」「ブラック」の3色で彩られた専用品に置き換えられる。取材車のボディカラーは「マケナターコイズメタリック」と呼ばれる鮮やかなブルーメタリックで、3色からはグリーンが選択されていた。
ラゲッジルームも広い。ただ、こちらもボディサイズ相応で、床面積がとりたてて広いわけではなく、実際には室内高を活かしたことで容量を稼いでいる。リアシートは背もたれを前に倒すだけのシングルフォールディング方式。よって、完全なフラットフロアにはならないものの、それでも出っ張りなどがないため長尺物の収納には困らない。また、背もたれ上部には可倒レバーがあるので、リアゲートを開けた状態で倒すことができて便利だ。さらにリアシートは140mmのスライドが可能で、一番前に動かした際の最大ラゲッジ容量は455L(最小ラゲッジ容量は385L)。最大ラゲッジ容量の状態で後席に座ってみたのだが、身長170cmの筆者が適正なドライビングポジションを取ったリアシートは以下の感じになった。広々とはいかないものの、長時間の移動でなければ窮屈には感じない程度。うまくまとめてきたな、という印象だ。
3気筒1.0リッターターボの実力は
乗り味はどうか? 直列3気筒DOHC 1.0リッターガソリン直噴ターボ(116PS/200Nm)に乾式クラッチ方式の7速DSG(デュアルクラッチトランスミッション)の組み合わせで、駆動方式は前輪駆動のFF方式のみ。車両重量は1270kgと、同一エンジンのポロ(95PS/175Nmの低出力版を搭載)と比べて110kg重い。
よって、T-Crossでは重量増加に合わせて7速DSGのギヤ段のうち、市街地などで多用する4速ギヤの比率を1%、高速道路での緩加速で多用する6速のギヤを0.4%ローギヤード化するとともに、最終減速比を1~4速で7.6%、5~7速で11.0%、バックギヤで8.3%それぞれローギヤード化した。ちなみにカタログの燃費数値を見ると、1世代前のJC08モード比較では、ポロが19.1km/Lであるのに対して高出力版で車両重量のかさむT-Crossが19.3km/Lと逆転。多少ながらも上まわっている。
もっとも、こうした現象はフォルクスワーゲンに限ったことではなくて、日産自動車「スカイライン 400R」でも同じエンジン型式のV型6気筒DOHC 3.0リッター直噴ガソリンツインターボを搭載する「スカイライン GT」との比較では、101PS/75Nm高く、車両重量が60kg重く、最終減速比が6.6%ローギヤードされた400RのWLTC市街地モードが4.8%(0.3km/L)上まわる。走行特性と車両負荷のバランスなどから400Rの燃費数値が伸びたのだ。一方、過給圧が高めで推移するWLTC高速道路モードでは、高出力版の400Rが同じ比較で3.2%(0.4km/L)悪化する。
まぁこうした話は重箱の隅をつつくようで、前述した室内幅や室内高の話と同じく誤差のようだが、T-Crossにおけるドライブフィールはポロとの比較試乗を行なった結果、結構な違いとして体感できた。運転していて“いいね!”と感じられたのが、市街地でのゆとりある走り。アクセル開度にして30%程度の領域では、平坦路だけでなくちょっとした上り勾配でも常にいつでも同じ躍度が得られるので、運転のリズムをとりやすい。ちなみに、とあるトランスミッションメーカーの統計によると、一般ドライバーの85%以上の方が、アクセル開度50%以下で日常の運転操作を行なっているという。
いずれにしろ、T-Crossの場合はベースモデルであるポロとの比較で多人数乗車やラゲッジルームへの積載量増加(冒頭のドイツ試乗がまさにそれ!)など車両負荷の高くなることが日本市場でも増えるだろうから、こうした変更は単なる技術昇華の領域に留まらず、商品性の向上にとっても有意義な策だ。
2020年も引き続きSUVブームが続くと予想されるが、フォルクスワーゲン グループ ジャパンによると伸び代が大きいのはT-Crossが属するコンパクトクラスで、現時点でも日本におけるSUV市場の36.0%のシェアを占めているという。今後のT-Cross、そして競合車の動向にも注目したい。