試乗インプレッション

スバル「インプレッサ SPORT」に試乗。大幅改良してデザインも乗り味も一新

「XV」の「e-BOXER」搭載モデルのよさも再確認

誰もが日常で感じられる“走りの愉しさ”とは

 SGP(スバルグローバル プラットフォーム)第1弾として2016年に登場し、同年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した「インプレッサ」が、2019年秋に大幅改良を実施。「アイサイト・ツーリングアシスト」を全車標準装備としたほか、内外装デザインの変更による質感向上、サスペンションの改良、追加グレードの設定などを行なった。

 新しくなったフロントフェイスは、よりワイド&ローなイメージが強調されている。アルミホイールは動きのあるデザインとなった。すでに高かったインテリアの質感もさらに引き上げられたことが見て取れる。

 装備面では、アクセスキーに対応した運転席シートポジションメモリー機能や、ドアミラーメモリー&オート格納機能、リバース連動ドアミラー、集中ドアロックなど、日常的に使う上で役に立つ機能が拡充されたのも歓迎だ。

岡本幸一郎が大幅改良を行なった「インプレッサ」「XV」に試乗
大幅改良を実施したインプレッサ SPORT 2.0i-L EyeSight。撮影車となる4WDモデルの価格は246万4000円。新デザインのフロントグリルやアルミホイールでワイド&ローなイメージを強調。ボディサイズは4475×1775×1480mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。最小回転半径は5.3m
ヘッドライトは新意匠に変更するとともにハイ&ロービームランプをLED化
17インチアルミホイール。装着タイヤはブリヂストン「TURANZA T001」(205/50R17)
こちらは18インチアルミホイール。装着タイヤは横浜ゴム「ADVAN Sport V105」(225/40R18)
パワートレーンは今回試乗した最高出力113kW(154PS)/6000rpm、最大トルク196Nm(20.0kgfm)/4000rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 2.0リッター直噴「FB20」型のほかに、最高出力85kW(115PS)/6200rpm、最大トルク148Nm(15.1kgfm)/3600rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 1.6リッター直噴「FB16」型エンジンをラインアップ。どちらもトランスミッションにはリニアトロニックCVTを組み合わせる。JC08モード燃費は2WDモデルで16.0km/L~17.2km/L、4WDモデルで15.8km/L~16.8km/L
インプレッサ SPORTのインテリア。撮影車はオプションのブラックレザーセレクションを装着。室内の広がりを演出するため、インストルメントパネルとドアパネルの形状に一体感を持たせるデザインを採用
安全面ではフロントカメラを用いた先進安全技術「EyeSight」や、歩行者用エアバッグを含む計7つのエアバッグを標準装備
ステアリングスポーク右側には全車速追従機能付クルーズコントロールやステアリングアシストのスイッチを配置。ステアリング右下には、ステアリングに連動してヘッドライトの向きが変わる「SRH(ステアリングレスポンシブヘッドライト)」や「スバルリヤビークルディテクション(後側方警戒支援システム)」のON/OFFスイッチなどを配置

 まずはインプレッサ SPORTの「2.0i-L」を駆る。すなわち「2.0i-S」に対して、タイヤサイズが18インチではなく17インチとなり、トルクベクタリングも付かないのだが、それでも俊敏さは十分に味わうことができた。「誰もが日常で感じられる走りの愉しさ」をさらに追求したという走りは、たしかに従来に比べて印象が変わっていた。

 STIも参画したというサスペンション改良の具体的な内容は、フロントのスプリング形状を、これまで端部が点で接していたため操舵によりずれる可能性があったのをなくすため、平らにして面で接するよう変更。これに併せてダンパーおよびEPSの特性を最適化するとともに、クロスメンバーとリアサブフレームの溶接を見直して強度向上を図ったという。

 これらが効いて、ステアリングの切り始めからキビキビと応答し、イメージしたとおり遅れなくリニアに曲がることが感じ取れた。おかげで市街地で普通に乗るにも、ステアリングを切るたびに俊敏なハンドリングを楽しむことができる。半面、スポーティであることには違いないのだが、いささか中立付近が過敏な印象もあり、好みは分かれる気もする。

 フラット感の増した乗り心地もなかなかのものだ。足まわりはよく動きながらも、けっして不快ではない。コーナーでのふんばりも効いて、ロールも抑えられている。また、もともと同クラスの競合に対してインプレッサの優位性を感じていた後席の居住性についても、今回もあらためて優れた快適性を確認できた。

 全車に標準装備された最新のアイサイト ツーリングアシストは、いつもながら加減速が丁寧なことに感心する。加えて車線中央維持機能のステアリング制御も、とてもスムーズで自然に仕上がっている。車間距離を最も近づけると白線が上手く認識できずフェイルすることもあるのだが、設定を1段階遠ざけるだけでほとんどフェイルしなくなる。

アイサイト・ツーリングアシストの全車速追従機能付クルーズコントロールと車線逸脱抑制制御をONにすると、マルチファンクションディスプレイが専用表示になるほか、メーター内のマルチインフォメーションディスプレイにアイコンを表示。スバルリヤビークルディテクションがONの状態では、後方から車両などが近付いてくるとサイドミラーのインジケーターがオレンジ色に点灯して警告してくれる

e-BOXERの恩恵を再確認

 続けて、「XV Advance」をドライブした。カジュアルな外観だけでなく、こうした小粋な雰囲気のインテリアを楽しめるのもXVならではである。なお、純ガソリン車は1.6リッターのみ残され、2.0リッターの設定がなくなったことには少々驚いたのだが、ドライブして納得した。

XV Advance。4WDモデルのみの設定で、価格は292万6000円。ボディサイズは4465×1800×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。最小回転半径は5.4m。切削光輝の18インチアルミホイールを装着し、タイヤはブリヂストン「DUELER H/P SPORT」(225/55R18)を装着
シルバー塗装のフロントバンパーガードやサイドクラッディングがSUVらしさを演出。ルーフレールはオプションとなり、XV Advanceはブラック塗装のローマウントタイプ
インテリアはインプレッサと同装備だが、Advanceはブルーの差し色が追加されるほか、シート表皮がブルーステッチ入りのトリコット/トリコット+合成皮革となる
Advanceのパワートレーンは最高出力107kW(145PS)/6000rpm、最大トルク188Nm(19.2kgfm)/4000rpmを発生する水平対向DOHC 2.0リッター直噴「FB20」型エンジンと最高出力10kW(13.6PS)、最大トルク65Nm(6.6kgfm)を発生する「MA1」型モーターを組み合わせた「e-BOXER」にリニアトロニックCVTの組み合わせ。このほかに、水平対向4気筒 1.6リッターエンジンを搭載するモデルも2020年初頭に発売予定。e-BOXER搭載モデルのWLTCモード燃費は19.2km/L。リアに容量4.8Ahのリチウム電池を搭載する

 e-BOXERによる出力向上はわずか10%とはいえ、あるとないとではずいぶん違う。最初にドライブしたインプレッサも、SIドライブのIモードを選択してもストレスを感じさせないよう、中間加速は穏やかでも出足は俊敏に味付けされていたが、e-BOXERはさらに応答遅れがなく、アクセルを踏んだとおりリニアに加速し、車速のコントロールもしやすいので乗りやすい。ガソリンに対する重量増は約100kgながらフォレスターと比べても車両重量が軽いので、モーターがアシストしてくれるe-BOXERの恩恵がより大きく感じられる。決してスペックの高くないモーターをフルに活用している印象で、10%は小さくない。

 また、水平対向の素性のよさもあり、エンジン再始動時のショックが小さいこともe-BOXERの強みで、走行中はエンジンがいつかかったのか本当に分からないことにも感心する。さらに、実験部隊がこだわったというブレーキフィールも、回生していると思えないほど自然だ。スバルはあえて協調回生をやっていないのだが、そのメリットがある。

e-BOXERモデルはマルチファンクションディスプレイに専用表示が追加される

 サスペンションや電動パワーステアリングはインプレッサのように変更はないが、クロスメンバー、サブフレームの剛性向上についてはXVも実施しているとのことで、乗り味も微妙に洗練されていた。

スバルの走りを体感できる「愉しさ確認台車」

 さらに、ステージを変えて、STIのノウハウを活かし、WRXの応答性を実現したという「愉しさ確認台車」に、ごく限られたスペースではあるが試乗した。これは今回のインプレッサをベースにSTIがダンパーチューニングのみを実施したというもので、研究できたときには時期的に間に合わず市販車には採用できなかったとのことだが、これがなかなか妙味だった。

 減衰をかなり高めにしたらしいことは走り始めから明らかだったが、グリップ感が高まり、ステアリングを切ったときの反応もより俊敏で一体感が増していた。アクセルを踏んだまま転舵しても接地性が損なわれず、姿勢変化もさらに抑えられて、目地を通過してもフラットなままいなす。欧州車によくあるような、とても骨太な印象の乗り味になっていた。

 これがいずれどういう形で世に出てくるのかも実に楽しみだ。

現在スバルでは、購入前にアイサイト・ツーリングアシストをより理解してもらうための取り組みとして、VRを用いた体験を各ディーラー店舗に順次導入している。アイサイト・ツーリングアシストの機能をまだよく分からないという方は、ディーラーで思わずステアリングを握りたくなるほどのリアルさを体感してみてはいかがだろうか

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一