試乗インプレッション

400PSオーバーの日産「スカイライン 400R」、その存在意義を考察する

405PSの「400R」

 今日の日産自動車において「スカイライン 400R」の存在価値はとても大きい。405PS/48.4kgfmを生み出すV型6気筒3.0リッターツインターボエンジンの存在には強く惹かれるし、なにより「技術の日産」に裏打ちされた速さと走りを直感的にイメージさせる。言い換えれば、他の日産車に足りない、そして失ってきたものをいっぱい持っている。

「速さを謳うなど、このご時世いかがなものか……」とのご批判や、「そんなにパワーがあると危ないし、そもそも燃費数値もわるそう……」といったご心配はごもっとも。それでもなお、筆者は400Rに賛同したい。

 なぜか? それは“全車速域で心と体が満たされるから”。その昔、「パワーは麻薬だ」といった趣旨の広告表現があったが、まさしく400Rのそれは内燃機関ならではの高揚感があり、味わうほどに虜になる。これが賛同する大きな理由だ。以下、具体的に。

交通コメンテーターの西村直人氏が400Rを考察

 400Rは走り出しからして濃厚。反応に適度な緩さを持った電子制御スロットル方式のアクセルペダルをじんわり踏み込むと、それとほぼシンクロするようにジワッと車体が動き出す。そして躍度はすぐに安定するから、その先の速度コントロールも非常にやりやすい。こうした大排気量エンジンのような豊かなトルク特性に、思わず懐かしさがこみ上げる。

 スペックも魅力的だ。「GT-R」が搭載する「VR38DETT」型エンジンと同じVRを名乗る「VR30DDTT」型のトルクカーブを見ると、1600-5200rpmの幅広い領域で最大トルク値を発揮している。もっとも、この値はアクセルペダルをグッと踏み込み過給圧が指定の上限に達した際の値だから、じんわり踏んだ際には最大トルク値に満たない。

 ただ、その領域から周辺の交通状況にあわせてアクセルペダルを踏み込んでいくと、連続する加速度は二重、三重に高まっていく。しかもその高まり方は和音のように自然で、人の感性に寄り添うように優しく、そして力強い。

 また、アクセルの踏み加減1つひとつに対して忠実に反応してくれるから、運転操作が非常に丁寧になっていく。この素直な傾向は減速時、つまり踏み込んだペダルを戻す際にも感じられ、結果としてハイパワーターボエンジンながら、アクセルコントロールが非常にやりやすいという二律背反の性能が成立する。

今回試乗したのは、9月に発売されたプレミアムセダン「スカイライン」の新グレード「400R」(562万5400円)。ボディサイズは4810×1820×1440mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2850mm。車両重量は、同じエンジンを積む304PS版のGTシリーズ系で最重量の「GT Type SP」にプラス30kgの1760kg。なお、9月の大幅改良により、これまでフロントグリルやホイールセンターキャップなどに使ってきたインフィニティのエンブレムを日産エンブレムに変更している
エクステリアでは専用デザインの19インチホイールやレッド塗装のブレーキキャリパー、ブラックドアミラーなどを採用するとともに、トランクリッドに400Rのエンブレムを装着。さらに国内販売の日産車で初採用の「IDS(インテリジェントダイナミックサスペンション)」を標準装備する
400Rに搭載するV型6気筒DOHC 3.0リッター直噴ターボ「VR30DDTT」型エンジンは、最高出力298kW(405PS)/6400rpm、最大トルク475Nm(48.4kgfm)/1600-5200rpmを発生。WLTCモード燃費は10.0km/L
インテリアでは400R専用のキルティング加工のシートやレッドステッチを採用

 こうなると、400Rは実用性重視のつまらないクルマなのか、単なる優等生で力持ちなのかといえばまったく違う。ストローク量がたっぷりとられたアクセルペダルを深く踏み込んでいくと、今度は名に恥じない強烈な加速力を披露する。

 それこそ低速ギヤ段では7200rpmのレブリミットまで一気に上り詰めていくし、そもそも後輪駆動で405PS、車両重量がかさむといっても1760kgだからその勢いはすさまじい。ちなみに7速ATの各ギヤ段の比率は、同じくVR30DDTT型を搭載する304PS版の「スカイライン GTシリーズ」と同じだが、400Rでは最終減速比が6.6%ほどローギヤード化され加速性能が向上している。

 でも、不思議と荒々しさはほとんど感じられない。いや、正確にはそう感じさせないほど車体やサスペンションの取り付け剛性が高いから強烈な加速をしっかり受け止めているのだ。また、GT-Rと同じVR型とはいえボア×ストローク比率は異なり(GT-Rはショートストロークで400Rはスクエア)、さらに体感上の共通項ともなれば圧倒的に少ない。GT-Rと同じく400Rもべらぼうに速いが、出力特性はマイルドかつ人懐っこく、過激で人工的な演出は薄いのだ。車内で聞き取れるエンジンサウンドにしても、GT-RというよりVQ型に近いと感じた。

IDS、DASがもたらすもの

 今回は一部テストコースでの試乗を行なったものの、都市高速と市街地での走行が主体で連続するカーブや山道などを走らせることはできなかった。ただ、その分、普段使いとしての車両評価は行なえた。

 400Rにはダンパーの減衰力を自動的に調整する「インテリジェントダイナミックサスペンション」 が標準装備となる。電磁式比例ソレノイドダンパーを用いたいわゆる電子制御ショックアブソーバーだが、この機構と400Rが装着するランフラットタイヤ 、ダンロップ「SP SPORT MAXX 050 DSST CTT」の相性がとてもよかった。低速域ではしなやかで、都市高速で遭遇した少しきつめのカーブや段差でもしなやかさを失わずにしっかり路面を捉え続ける。ランフラットタイヤながらパターン/ロードノイズも小さい。こうしたタイヤの特性にも助けられ、400Rは総じて上質でしなやかな乗り味だ。

「DAS(ダイレクトアダプティブステアリング)」による効果も大きい。KYBが製造するこのシステムは、2013年にスカイラインが世界で初めて量産車として採用した電子制御ステアリング機構だ。普段はステアリングと操舵ギヤに物理的な機構を介在させず、ステアリングの操作を電気信号に変換してタイヤを操舵。システムエラー発生時など、緊急の際にはフェールセーフとしてクラッチ機構が働き、強制的にステアリングと操舵ギヤが物理的につながる仕組み。このDASは、2017年のマイナーチェンジで第2世代まで進化していたが、今回はターボモデルの追加に併せて専用にチューニングが図られた。

 乗り味を大きく変えるドライブモードセレクターはハイブリッドモデル、および304PS ターボのGTモデルにも備わる。筆者の400Rにおける市街地走行でのおすすめは、ドライブモードセレクターを任意の設定が選べるPERSONALモードとし、「エンジン・トランスミッション」を標準、「ステアリング」をスポーツ+、「サスペンション」を標準、「インテリジェントトレースコントロール」を作動、「アクティブレーン」を強め、をそれぞれ選択した状態。

400Rのドライブモードセレクター画面。「SPORT+」「SPORT」「STANDARD」「ECO」「SNOW」とともに、任意の設定が選べる「PERSONAL」から選択可能

 数ある運転支援技術のうち、アクティブレーンコントロールはDASとの相性が抜群で、雑味のないステアリングフィールにビシッとした直進安定性が加わる。これだけでもぜひ、多くの方々に体感していただきたい。ちなみにアクティブレーンコントロールとDASは、ともに「ProPILOT 2.0」のシステムを構成する要素技術だが、この感性評価を行なった日産の開発部隊は純粋にすごい。人の感性をとことん追求したのだろうと感心した次第。

 もっとも、この400Rに限らず新型スカイラインはクルマそのものの完成度が大いに高められている。だからこそ、DASやドライブモードセレクターの効果ははっきりと体感でき、19インチのランフラットタイヤを堂々と履きこなすことができている。こうした工業製品としての熟成こそ、400Rのようなエッジの立ったモデルが独り立できる主たる要因なのだろう。

 昨今、BEV(電気自動車)を筆頭に、いわゆる電動駆動車の取材が多くなった。“静かで速い“はもとより、例えば日産「リーフ」では1万分の1秒という世界でモーター制御を行なっているから、走りは実に滑らかだ。また、その緻密さはゆっくりアクセルペダルを踏み込む際のリニアな加速力を支える技術でもあり、先だって試乗した市販車リーフをベースにツインモーター化したレーシングカー「RC_02」では、内燃機関のレーシングカーでは難しい人が歩くよりも遅い速度域での車速コントロールが自在に行なえた。

 一方、純粋な内燃機関の進化はどうか? 15年ほど前から全世界的に流行りだしたダウンサイジングターボ化は、今や新たな内燃機関を市場に導入する上では不可欠な手段となった。組み合わされるトランスミッションも、機械的な伝達ロスを限りなく減少させて高効率化を図る。

 言うなれば400Rの存在は、こうした時代が求める電動化や高効率化に対して真逆に位置する。取材時の燃費数値は8.3km/L(満タン法)と想像よりもよかったが、それでもクルマを単なる移動体としてのみ捉えれば無駄が多いと評されるだろう。でも、400RはそのRの冠が示すとおり人に夢を与え、心満たされる走りを全身で表現する。だからこそ速度によらず走らせることが純粋に楽しめて、そして心が豊かになる……。400Rはそんなクルマだった。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学