試乗インプレッション

どこが進化した? 日産「GT-R NISMO」2020モデルでサーキット全開アタック

常に進化を果たすその姿勢こそがGT-Rならではの世界観

GT-R NISMO、どこが進化した?

 間もなく登場して12年。つまりは干支がひと回りしてしまうことになる日産自動車「GT-R」だが、この段階でまた改良が加えられ、進化を果たした。ベースモデルについては以前お伝えした通りだが、まだまだ改良の余地があったのかと感心するばかりだったことを思い出す。今回はその進化の究極にあるNISMO仕様だ。

今回の試乗会ではベースのGT-R(2020モデル)にも試乗

 2020モデルと名付けられたこのクルマは、数々の軽量化とともにターボチャージャー、タイヤ、サスペンションを変更したという。大改良が行なわれた2017モデルでも究極の姿に行きついたと感じていたが、今回は果たしてどんな世界を見せてくれるのか? まずは1つひとつのアイテムに対してどのような改良を施したのかを見てみることにしよう。

 ターボチャージャーについては従来型と同様にIHI製が使われるが、タービンブレードの翼枚数を11枚から10枚へと削減。さらに薄肉化することで14.5%もの重量を削減しているところがポイントの1つ。イナーシャについては24%も削減されている。これによりスロットル操作に対するツキのよさが生まれ、立ち上がり加速が向上したという。

GT-R NISMO 2020モデルが搭載するV型6気筒DOHC 3.8リッターツインターボ「VR38DETT」型エンジンは、最高出力441kW(600PS)/6800rpm、最大トルク652Nm(66.5kgfm)/3600-5600rpmを発生
GT-R NISMO 2020モデルでは、2018年のGT3レーシングカーから使用される新型ターボチャージャーを採用。タービンブレードの枚数を減らす一方で最新の流体・応力解析を用い、形状を見直すことで出力を落とすことなくレスポンスを約20%向上させることに成功

 軽量化については外観を見ても理解できるところが多い。GT3レーシングカーのイメージを引き継ぐルーバーを備えたフロントフェンダーはカーボン製で仕上げており、エアアウトレットによるエンジンルームの冷却、さらにはフロントのダウンフォースの向上やルーバーの形状を吟味することでリアのダウンフォースの維持もされているようだ。このカーボンフロントフェンダーで4.5kgの軽量化を実現している。さらにカーボンエンジンフードで2kg、カーボンルーフで4kg軽くなっている。

 GT-R NISMOは従来からカーボンフロントバンパーで4kg、チタンマフラーで4.5kg、カーボンリアバンパー&トランクリッドで2.5kgの軽量化を行なっていたが、それをさらに進化させたことになる。数値にすると大したものではないが、クルマの先端部分での軽量化は運動性能に確実に効いてくるだろう。

GT-R NISMO 2020モデルのボディサイズは4690×1895×1370mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2780mm。車両重量は1720kg。価格は2420万円
ルーフ、エンジンフード、フロントフェンダー、バンパー、トランクリッドにカーボン素材を採用。ルーフにはカーボン素材の間により低比重の材質をはさみ込むことでさらなる軽量化を図った。これら外装部品により、従来から約10.5kgの軽量化に成功した。なお、フロントフェンダーにはエアダクトが設けられ、エンジンルームからの熱を逃がすだけでなくエンジンルーム内の内圧を下げる役割を持つ。さらにエアダクトの排出風によってフェンダー外表面の流速を下げることで表面リフトを減少させ、フロントタイヤのダウンフォースを増やす効果もあるという
FUJITSUBO製チタン合金製マフラー
インテリアでは、カーボンシェルにコアフレーム構造を追加することで軽量化をしながら剛性を高めることに成功した新開発のレカロ製カーボンバックバケットシートを採用

 タイヤについては従来型同様でダンロップ製を採用しているが、今回はトレッドパターンもプロファイルも大幅に変更したようだ。トレッドパターンはこれまでの6リブから4リブになり、ブロックがかなり大きめに改められた。見た目からも走れるタイヤに生まれ変わったことが伺える。プロファイルはタイヤのたわみ部分を増やすことを狙い、安定的に接地面積を増やしたとのこと。ショルダー辺りの形状はやや丸みを帯びている。これにより接地面積は11%アップしたそうだ。また、コンパウンドもナノレベルでの変更を行なうことで7%のグリップ向上ができたらしい。

 足まわりについては路面への追従性を高め、よく動く足とすることでロードホールディング性能を引き上げたとのこと。カーボンブレーキや新ホイールの採用により、バネ下重量で16.4kgの軽量化を実現しているNISMO。それとハイグリップタイヤに合わせた新たなセッティングはどうなっているのかが見どころだ。

足下では9本スポークのレイズ製鍛造アルミホイールを採用するとともに、新開発のハイグリップゴムを採用したダンロップのランフラットタイヤ「SP SPORT MAXX GT600 DSST CTT」(フロント255/40ZRF20、リア285/35ZRF20)を装着
世界最大級のサイズを誇る新開発のカーボンセラミックブレーキ。ブレーキローター径はフロントφ410mm、リアφ390mm。キャリパー色には熱による変色がもっとも少ないというイエローを採用した。2020年モデルのGT-R NISMOでは、ブレーキとカーボン製の外装部品、レカロシートなどを合わせて合計で約30kgの軽量化を実現したとアナウンスされている

常に進化を果たす姿勢こそがGT-Rならではの世界観

 袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗を開始すると、まず驚いたのはノーズの動きだった。R35 GT-Rは初期型を所有していたこともあり、かなり馴染み深いクルマなのだが、12年前のそのクルマとは全くの別物であることを感じられる仕上がりだったのだ。2017モデルでもその片鱗を見せていたが、その時とも明らかに違っている! ライトウエイトスポーツかと思えるほどのシャープな鼻先の動きが感じられるのだ。

GT-R NISMO 2020モデル/袖ヶ浦フォレストレースウェイ(7分55秒)

 もちろん、ライトウエイトスポーツとは言い難い重量級のクルマであり、他のクルマに馴染んだ人からすれば「まだまだ重たい」と言うかもしれない。だが、R35 GT-Rに乗ったことのある人なら確実にステアリングのひと切りで感じられる違いがあるはず。それほどに軽快さが際立っていた。

 軽快なのはそれだけじゃない。スロットルを入れた瞬間の動きもとにかく機敏に仕上がっており、応答遅れが見事に払拭されたイメージがある。いつでもどこでも、どんな回転域であっても臨戦態勢にいられるのは、紛れもなくターボチャージャーの変更によるところが大きい。伸び感については変わらないはずだと聞いていたが、高回転に達するまでのイメージがこれまでと大幅に違っていることもあって、高回転への吹け上がりは爽快感が高い。

 シャシーはしなやかさがかなり生まれたイメージで、どこまでも路面を突き放さない感覚が豊かだ。グリップが高まったタイヤのおかげもあってか、いつまでもベタっと路面に吸い付いている感覚。2017モデルでは多少リアが暴れるようなところを制御するところが面白いと感じていたが、2020モデルはあくまで終始安定方向。これはタイムもかなり速くなっているのではないだろうか?

 日常域からの扱いやすさも増したというカーボンブレーキは、リニアさが増したところがポイントの1つ。ストッピングパワーはかなりのものであり、車速が伸びたことで窮屈に感じる袖ヶ浦フォレストレースウェイでも躊躇なくブレーキを遅らせることが可能だった。走り出しからチェッカーまでほぼ全開で走らせたが、制動感に変化はなく、最後まで安心して走れたことも好印象。ドライバーが我慢することなくずっと走れるところがイイ!

 もう改良の余地はないだろうと勝手に考えていたGT-Rだが、先を諦めずに突き進むその姿は相変わらず美しい。例え干支が1周しようとも、常に進化を果たすその姿勢こそがGT-Rならではの世界観だといっていいだろう。そろそろ終わりはいつか? なんて心配していた1台だが、この勢いならまだまだ現役生活は続きそうだ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学