試乗インプレッション

大幅改良した日産「スカイライン」。ハイブリッドと3.0リッターターボ、どちらが魅力的か

各グレードの購入比率はハイブリッドが約半数でトップ

筆者の新型「スカイライン」サマリー

・パワートレーンは3.5リッターハイブリッドと3.0リッターツインターボ
・話題の「プロパイロット 2.0」は現状、ハイブリッドモデルのみ
・ツインターボモデルの先進安全技術は基本的に従来どおり
・スカイライン史上最強の405PSを誇る「400R」が誕生
・原稿執筆時(8月27日現在)で1553台を受注
・各グレードの購入比率はハイブリッド49%、ツインターボ27%、400R24%
・「400R」は20~30歳台の購入者が他グレードよりも多い
・エンブレムは「インフィニティ」から「日産」へ変更


 7月16日に発表(発売は9月)、同19日に受注開始となった新型「スカイライン」。新型を名乗るが、中身は2013年11月に発表され、2014年2月末に販売を開始した13代目スカイラインだ。13代目は2017年12月に意匠変更や「ダイレクトアダプティブステアリング」をはじめとした機能部品の改良を伴うマイナーチェンジを実施していることから、大きな変更は事実上2回目にあたる。

 新型の販売は好調で、この原稿を執筆している8月27日時点で1553台をすでに受注し、その約半数となる49%がハイブリッドモデルだ。ハンズフリー走行のTV-CMで話題の「プロパイロット 2.0」を装備できるのは、現状ではハイブリッドモデルのみとのことで、プロパイロット 2.0が牽引役となっていることは明らかだ。

 国内新規導入のV型6気筒DOHC 3.0リッター直噴ツインターボモデルは、304PS/405PSの2種類が存在し、304PSは「GT」を名乗る通常仕様で、405PSが「400R」専用の高出力仕様。このうち今回はハイブリッドモデルと304PSの通常仕様の2グレードに試乗した。400Rについては10月初旬に試乗できるので、追ってレポートしたい。

9月に発売される大幅改良した新型「スカイライン」。写真はV型6気筒DOHC 3.0リッターツインターボ「VR30DDTT」型エンジンを搭載する「400R」(552万3120円)。最高出力298kW(405PS)/6400rpm、最大トルク475Nm(48.4kgfm)/1600-5200rpmを発生する
400Rのエクステリアでは、専用デザインの19インチホイールやレッド塗装のブレーキキャリパー、ブラックドアミラーなどを採用。トランクリッドには400Rのエンブレムが備わる
400Rのインテリアではレッドステッチをあしらったキルティング加工のシートを装備

明らかに進化しているハイブリッドシステム

 最初にステアリングを握ったのはハイブリッドモデル「GT Type SP」の2WD(FR)仕様。特徴は日産独自の「1モーター2クラッチ方式」であること。トランスミッションである7速ATの前部にモーター兼ジェネレーターを内蔵し、トランスミッションの前と後にクラッチを配置することから1モーター2クラッチ方式を名乗る。スカイラインや「シーマ」では縦型配置エンジンと組み合わされる。ちなみに、この1モーター2クラッチ方式のハイブリッドシステムは2010年10月に発表(11月に発売)された「フーガ ハイブリッド」に初めて搭載され、13代目スカイライン登場時からラインアップされている。

 エンジンはV型6気筒DOHC 3.5リッター「VQ35HR」型で、306PS/35.7kgfmを発生する。68PS/29.6kgfmを誇るトランスミッション内蔵モーターは、通常のATではトルクコンバーターが配される場所に置かれる。モーター一体型とすることで、コンパクトな設計であることも特徴だ。

ハイブリッドモデル「GT Type SP」(604万8000円/2WD)のボディサイズは4810×1820×1440mm、ホイールベースは2850mm。従来モデルではフロントグリルやホイールセンターキャップなどにインフィニティのエンブレムを装着していたが、今回の大幅改良に合わせて他の日産車と同様の社名エンブレムに変更された
大幅改良モデルのエクステリアでは、エンブレム変更のほかにフロントグリルに日産ブランドの象徴である「Vモーショングリル」を採用するとともに、リアまわりではスポーツエキゾーストフィニッシャーを装着。リアコンビネーションランプはスカイラインのデザインアイコンである丸目4灯スタイルになった。GT Type SPの足下は19インチホイールにダンロップ「SP SPORT MAXX 050 DSST CTT」(245/40RF19)の組み合わせ
インテリアではハイブリッドモデルにプロパイロット 2.0で必要なプロパイロットスイッチやドライバーモニター、カラーヘッドアップディスプレイ、7インチアドバンスドドライブアシストディスプレイ、電動パーキングブレーキ(ターボモデルは足踏み式)などを装着

 2つあるクラッチはそれぞれ役割が違う。1つ目の「前クラッチ」はエンジンとトランスミッションを結合/分離する働きがあり、2つ目の「後クラッチ」は動力を駆動輪と結合/分離する働きがある。具体的な働きはこうだ。まずは発進やクリープ走行時。バッテリーのSOCに余裕があって諸条件が満たされていれば、前クラッチは分離したまま、トランスミッション内蔵モーターの動力を駆動輪に伝えるために後クラッチに結合することで動き出す。このまま増速する際も、先の諸条件が許せば前クラッチを分離したまま、7速あるトランスミッションを1速→2速とシフトアップさせてモーターだけでの走行も可能。このとき、後クラッチは車体に不快なショックが出ないよう、シフトアップ時など状況に応じて結合/分離を行なう。

 ちなみにZFにも1モーター2クラッチ方式のハイブリッドシステムがあった。前クラッチの位置はどちらも同じだが、後クラッチの位置は日産方式がトランスミッション後方であるのに対して、ZF方式ではトランスミッション内部に配置されている点が違う。これにより日産方式では、トランスミッションのほとんどの部品をガソリン/ハイブリッドの両モデルで共有できるメリットがある。

ハイブリッドモデルが搭載する最高出力225kW(306PS)/6800rpm、最大トルク350Nm(35.7kgfm)/5000rpmを発生するV型6気筒DOHC 3.5リッター「VQ35HR」型エンジン。これに最高出力50kW(68PS)、最大トルク290Nm(29.6kgfm)の「HM34」型モーターを組み合わせる

 今回、取材を受けていただいた日産自動車の技術者によれば、「2010年の登場以降、1モーター2クラッチ方式に大きな変更はありませんが、これまで何度も制御方法の改良を行なってきました」という。確かに新型スカイラインでは改良効果が大きく出ており、走りの質感が大きく向上している。

 例えば、これまで不得意だった停止状態から人がゆっくり歩き出すようなイメージで発進させるような繊細なアクセル操作に対して、新型スカイラインは実に従順な反応を示す。これはクラッチ制御技術の向上だけでなく、日産の電動化技術、具体的にはモーターのトルク制御技術に関連する昇華との相乗効果だ。

 乗り味はこれまでのハードな一面がなりを潜め、全域でかなり上質になった。19インチのランフラットタイヤを装着しているにもかかわらず、低速域から高速域に至るまでランフラットタイヤ特有の硬質でゴツゴツとした微振動がほとんど感じられない。これにはシャーシ全般の見直しとともに、ハイブリッドモデルにのみ装着される「ダブルピストンショックアブソーバー」の効果も大きい。振動周波数に応じてダンパー内部のオイル流路を開け閉めすることで、減衰力を切り替える機構だ。

 全グレードで標準装備の「ダイレクトアダプティブステアリング」だが、ターボでは専用チューニングが施された。つまりハイブリッドモデルが素の仕様だ。ダイレクトアダプティブステアリングは、いわゆるステア・バイ・ワイヤ方式のステアリングシステム(KYB製)のこと。ドライバーのステアリング操作をタイヤに対してダイレクトに伝えることを得意とし、荒れた路面ではステアリングに無駄な入力(キックバック)を伝えないことが特徴。

 2017年のマイナーチェンジで第2世代へと進化し、雪道など滑りやすい路面でステアリング操作に対する追従性能を向上させている。実際、第1世代と第2世代をそれぞれ搭載した新旧スカイラインで雪上や氷上テストを行なったが、第2世代では後輪が滑り出した際のカウンターステアに対するステア速度が適正化され、さらにドリフトアングルを保ちやすくなっていた。

 駐車場での取りまわしや、市街地走行をイメージした走行シーンでは、しっとりとしたダイレクトアダプティブステアリングの特性が心地よい。重厚な乗り味とのバランスも図られていて、ステアリングの切りはじめから戻すまでの一連操作のなかに一貫した動きが感じられ、さらに直進性能もグンと向上したことから車格は明らかに1ランク上がった。

 パワーフィールは現在でも第一級。エンジンとモーター&バッテリーの相乗で発揮できるシステム出力は364PSであることに加えて、高出力モーターがエンジントルクの谷間を埋めるように上乗せするため、発進時から7000rpm近くまでずっと力強さが持続する。これも1モーター2クラッチ方式の利点だ。この価格帯(スカイラインのハイブリッドモデルは540万円台スタート)のハイブリッドモデルにはトヨタ自動車「クラウン」があるが、パワーフィールではスカイラインが、静粛性能ではクラウンがそれぞれ上まわるものの、乗り味そのものは甲乙つけがたい。

スポーツ走行を強く意識したツインターボモデル

「GT Type P」(455万4360円)

 一方、ツインターボモデルでは「GT Type P」に試乗した。筆者は、この「VR30DDTT」型エンジンが北米に導入された2016年当時から興味津々だったのだが、パワーフィールはその期待を裏切ることなく気持ちよさが際立っていた。

 ボア×ストロークはともに86mmとスクエアな関係にあることから、低・中回転領域のトルクをしっかり出しつつ高回転域までしっかりとまわる。しかも3600rpm(1600-5200rpm)という幅広いエンジン回転領域で最大トルク40.8kgfmを保ち続けることから、シフトアップ直後の躍度変化も極めて少ない。じんわり踏んでも、グッと踏んでも同じようなタイムラグの後に躍度が発生するから走行リズムを作りやすい。絶対値では負けているものの、台形カーブを描くフラットなトルク特性はBMWの直列6気筒3.0リッターターボ「B58」型エンジンにも通ずるものがある。

「GT Type P」が搭載するV型6気筒DOHC 3.0リッターツインターボ「VR30DDTT」型エンジンは、最高出力224kW(304PS)/6400rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/1600-5200rpmを発生

 しかしながら、ターボモデルの乗り味とダイレクトアダプティブステアリングの特性は、想定している速度領域が高いようで、乗り方にしても強めのブレーキングで前加重をかけてからコーナリングに向かうような、いわゆるスポーツ走行を強く意識しているように感じられた。ハイブリッドモデルで体感できた、路面にヒタッと吸い付くような安定した走りとは方向性が大きく違う。

 GT Type Pの装着タイヤは18インチのランフラットタイヤだったのだが、タイヤの縦バネやトレッド面の硬さからか、シートから終始小刻みな上下動が感じられた。荒れた路面を通過する際の強い入力に対しても、体への衝撃がやや強め。ハイブリッドモデルで走らせた同じ道を、同じような速度で走らせてみると違いはより明確で、筆者にはハイブリッドモデルのしなやかさが新型スカイラインには似合うように思える。

 ちなみに、試乗したハイブリッドモデルのランフラットタイヤはダンロップ「SP SPORT MAXX 050 DSST CTT」を、ターボモデルのランフラットタイヤはブリヂストン「POTENZA S001 RFT」を装着していた。

 ダイレクトアダプティブステアリングはターボ専用に操舵初期の応答性を高めているが、装着タイヤとの相乗効果で終始ステアフィールが標準状態では軽めである点も気になった。ここは、ドライブモードセレクターのカスタマイズ機能(ハイブリッドモデルは32通り、ツインターボモデルは最大336通りから選択可)を使って重めのステアフィールに変更することもできるので、ディーラーでの試乗時にはぜひとも変更して違いを体感していただきたい。

 新型スカイラインでは、先進運転支援技術であるプロパイロット 2.0がパワートレーンに並んで話題の中心だ。ということで、注目のプロパイロット 2.0についてはこのレポートの後にじっくりと報告したいと思う。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学