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日産の最新技術体験会レポート。新4輪制御技術を搭載する電動駆動テストカーに乗った

「ニッサン インテリジェント モビリティ テクノロジーツアー2019」

新4輪制御技術を搭載する「リーフ」の試乗もあった「ニッサン インテリジェント モビリティ テクノロジーツアー2019」をレポート

 2019年の東京モーターショー(以下、TMS)に出展される新技術のいくつかを事前に体験できる取材会「ニッサン インテリジェント モビリティ テクノロジーツアー2019」(以下、NIMTT)が開催された。今回はTMSに合わせた形となったが、日産では過去15年ほど定期的に新技術をお披露目する場を設けていた。そこでは基礎研究段階の技術から、もうすぐ市販車へ実装されるものまで幅広く紹介され、同時に開発担当者の方々から直々に機能説明が受けられるため、取材を行なうわれわれとしても車載技術の方向性を勉強するいい機会となっていた。

 今回のNIMTTは2つの会場に分けて開催された。1つ目の取材現場は、テストコースを有する「追浜試験場GRANDRIVE」(神奈川県横須賀市)。ここでは、新たな4輪制御技術を搭載した電動駆動テストカーの試乗を筆頭に、コネクテッドカーに向けたリアルとバーチャルを結ぶ技術「Invisible-to-Visible(I2V)」、一部車両に実装されている「インテリジェントルームミラー」の次世代型についてそれぞれデモンストレーションがあった。

 2つ目の取材現場は、神奈川県厚木市に本拠地を構える「日産先進技術開発センター」。こちらでは、ProPILOT/ライフオンボード技術/電動化技術/ニッサンエナジーシェア/コネクテッドカーについて、概要説明と開発担当者へのインタビューが行なえた。

NIMTT最大のトピック、新4輪制御技術とは?

 GRANDRIVEで試乗した電動駆動テストカーは、NIMTT最大のトピックでもある。試乗したテストカーには、これまで日産が培ってきた「電動化技術」「4WD制御技術」「シャシー制御技術」を統合制御した、新しい電動駆動による4輪制御技術が搭載されている。ご存知のように、日産ではこの3分野においてそれぞれ技術を昇華させてきた。

 電動化では1947年のEV(電気自動車)「たま」にはじまり、2019年8月末現在で43万1000台を世界で販売してきた「リーフ」の躍進。4WD制御では1989年に登場したR32 スカイライン GT-Rに搭載された前後輪自動駆動力配分システム「アテーサE-TS(Advanced Total Traction Engineering System for all Electronic Torque Split)」の熟成。さらにシャシー制御では、1985年に登場したR31 スカイラインが量産車として世界で初めて4輪操舵技術「ハイキャス(High Capacity Actively Controlled Suspension)」を搭載するなど、いずれも現在に至るまでその名を残している。

新4輪制御技術がもらたす価値
日産では「電動化技術」「4WD制御技術」「シャシー制御技術」の3分野の技術を昇華させてきた
新4輪制御技術のアドバンテージ
テストカーの主要スペック
新4輪制御技術によって前後のタイヤにかける駆動力を緻密にコントロールし、クルマの姿勢変化を抑える
新4輪制御技術のメカニズム

 今回の電動駆動テストカーは、こうした3分野を電動化技術で統合させることが狙いだ。これにより、電動車両ならではの滑らかな走りはそのままに、快適性とハンドリング性能の向上、さらには滑りやすい路面でも安定した走行性能を発揮させるという。

 ベース車両は現行型「リーフ e+」の62kWh仕様だが、後輪にもリーフ e+のモーターを搭載したツインモーター仕様の4輪駆動である点が大きく違う。システム出力は227kW(約308PS)/680Nmを発生し、前後のサスペンションとステアリング機構も専用に改められた。

リーフ e+がベースだが、中身はEM57モーター×2基仕様の4輪駆動モデル
足下はレイズ製17インチアルミホイールにコンチネンタル「UltraContact UC6」(215/55R17)の組み合わせ。専用サスペンションなどを採用しており、トレッドもベースのリーフ e+と異なるという
室内に備えるモニターで左右にかかるGが表示されるとともに、各タイヤにトラクションがかかっているかどうかがひと目で分かるようになっていた

 実は今回、時間の関係から同乗試乗であったが、10月末には実際にステアリングを握ることができるので、詳細はその際にレポートしたい。もっとも同乗とはいえ、先の3分野を統合した制御技術の相乗効果は素晴らしく、ウェット路面での定常円旋回がまるでドライ路面であるかのようにグイグイと回り込んでいくことが体感できた。

 また、電動駆動テストカーは前後モーター制御の最適化によって急激なアクセルペダルOFFでの減速(e-Pedalによる回生ブレーキ発生)時に前のめりになる車体の動き(ピッチング)を大幅に減少させる「フラット制御」も採用する。こちらも詳細は後日のレポートに譲るが、減速時に頭や上半身が前にもっていかれる体の動きがフラット制御によって大幅に減少し、逆にシート座面に大腿部が押しつけられるような不思議な感覚を体感した。

 Invisible-to-Visible(I2V)では、ゴーグル越しに見えるARアバターと双方向の会話を楽しみながら目的地まで快適に移動するというデモンストレーションが行なわれた。このI2Vは、2019年のCESに出展されたのでご記憶の読者も多いだろう。

 ちなみに日産では、2007年に4輪操舵を行なう電動化プロトタイプ車両「PIVO2」をTMSに出展しているが、その車内には「ロボティック・エージェント(Robotic Agent)」と呼ばれるドライバーとのコミュニケーションロボットが搭載されていた。これこそARアバターの前身ともいうべきHMIだ。

 NECと共同開発を行なったロボティック・エージェントはダッシュボード中央に設置され、その右側にセットされたカーナビゲーション機能を持ったモニターと人工音声でドライバーとの意思疎通を図る。ロボティクス・エージェントは内蔵カメラでドライバーの個人認証を行ないつつ、例えば目的地までの間に渋滞が発生している場合には、「落ち着いて安全運転で行きましょう!」と語りかけ、焦りなどからくる事故を防ぐ取り組みが行なわれていた。

ゴーグル越しに見えるARアバターと双方向の会話を楽しみながら目的地まで快適に移動するという、Invisible-to-Visible(I2V)のデモンストレーション

 日産自動車総合研究所 モビリティ・サービス研究所 エキスパートリーダーの上田哲郎氏によれば、「I2Vは研究段階の技術ですが、MaaS(Mobility as a Service)などで実現するSAEレベル4以上の移動車両では目的地の情報をいち早くお伝えし、移動の質を高めることができます。また、ARアバターは遠隔地で実際に人が演じているため、ゴーグル越しとはいえ体験された方は5分もすれば、あたかも人と会話しているかのような親和性が得られます」とのことだ。

左が従来のインテリジェントルームミラー、右が次世代型インテリジェントルームミラー。画像の鮮明さとともにサイズが縮小されているのが分かる

 次世代型インテリジェントルームミラーは、車載カメラの高画質化(100ppi→162ppi)と、夜間の視認性向上(HDRを100dB→120dB)のほか、見やすさの向上を狙いフレームレス構造を新たに採用。半年以内に実装されるというが、現行型と見比べると確かに高精細で分かりやすい。ただ、こうなると既存ルームミラー位置にある必然性が減少するため、目線を上方にしなくても見える位置に配置したい。

 なお、老眼対策としては肉眼から520mm以上離れていればよいとのことで、試験的に装着されていた「エクストレイル」で計測してみると、身長170cmの筆者(遠視)が正しい運転姿勢をとった際は540mmほど確保されていた。

次世代型インテリジェントルームミラーのデモでは、昼と夜に走行した際に録画した映像が流された。特に夜の映像はこれまで以上に鮮明であることが確認できた

軽量な遮音材「音響メタマテリアル」に注目

 日産先進技術開発センターに場所を移し、日産自動車 総合研究所所長である土井三浩氏のプレゼンテーション、そしてProPILOT/ライフオンボード技術/電動化技術/ニッサンエナジーシェア/コネクテッドカーについて概要説明が行なわれた。

 いずれもこの先に注目される技術だったが、なかでも印象的だったのは電動化技術の「音響メタマテリアル」と、コネクテッドカーの「シームレスな結合型ディスプレイ」だ。

 音響メタマテリアルはいわゆる遮音材の一種。ご存知の通り、電動化車両では遮音性能の高め方が重要。これまで遮音性能を高めるには鉄板やガラス、またゴムなどの遮音材を厚くすることで相応の効果が得られていたが、その分、車両重量が重くなることが欠点であった。

 音響メタマテリアルは、鉄など一般的な遮音材と比べて4分の1の重量(m 2 換算)で大きな遮音性を発揮する。具体的には、重量密度(kg/m 3 )が近い一般的な遮音材である発泡ウレタンとの透過損失(500Hz/dB)を比較すると、音響メタマテリアルは5~7倍の性能を発揮。また、透過損失が近いガラス(2mm厚)と重量密度を比較すると、音響メタマテリアルは40~300倍の性能を発揮する。こちらも近いうちに実装されるようだ。

音響メタマテリアルについて
音響メタマテリアルは周期構造と膜で構成される軽量な遮音材料

 一方、シームレスな結合型ディスプレイは12.3インチの横長TFT液晶を2つ並べたもので、情報を左右の画面で行き来させることができる点が新しい。すでにメルセデス・ベンツでは、2013年登場の現行「Sクラス」から12.3インチの横長TFT液晶を2つ並べて使用しているが、同じ情報(例:カーナビ画面など)は左右画面で同時に表示できるものの情報は左右独立したもので、それぞれの画面内で完結する。

 見た目にも斬新だ。日産の結合型ディスプレイでは液晶そのものはフラット画面だが、ケースを真上から見るとS字型に湾曲させることで奥行きのある車内空間を演出できるようになった。具体的には、ステアリング越しの画面は奥まり、センター部分のディスプレイは出っ張り気味になる。実際に画面は動かないが、ケースに緩やかなカーブがつけられていることで、好評だった2代目「エルグランド」の可動式カーナビ画面を思い起こさせる。

シームレスな結合型ディスプレイ

 日産ではこの先もインテリジェントモビリティとして、インテリジェントドライビング/インテリジェントパワー/インテリジェントインテグレーションの3本柱で車両開発を進めていくというが、今回のNIMTTではその一端を体感することができた。最後に繰り返しになるが、前述した電動駆動テストカーについては試乗後すぐにレポートをお届けしたい。

外界とコクピットをつなぐ情報を、シーンに合わせてタイムリーに表示するという「セミミックスドリアリティ ディスプレイ」のデモも体験できた