試乗インプレッション

魅力は快適な居住空間にあり。メルセデス・ベンツの新型「Bクラス」をチェック

乗降性に優れ、ラゲッジルームの使い勝手もよし

AとB、違いは?

 2019年6月、日本市場に新型「Bクラス」が導入された。遡ること約半年、2018年10月に導入された「Aクラス」に続く新世代コンパクトクラスだ。エンジンやトランスミッション、そしてプラットフォームは両モデル共通だが、ボディサイズは新型Bクラスの方が大きくゆとりがある。そこで今回は新型Bクラスの紹介を中心に、Aクラスとの違いについても触れてみたい。

 ところでメルセデス・ベンツの流儀では、A→B→Cとアルファベットが後ろへカウントされるとボディや車格が大きくなり、続く数字がパフォーマンスを示している。これについてはご存知の読者も多いだろう。過去、この数字は2.0リッターエンジン搭載モデルなら「200」といった具合にエンジン排気量に準じていたが、おおよそ2000年代からはスーパーチャージャーやターボチャージャーなど過給機の装着により、出力やトルクが向上した場合は実際の排気量よりも大きな数字を用いている。つまり過給していない、より大きな排気量の自然吸気エンジンと同等のパフォーマンスがあれば、実際の排気量よりも大きな数字を名乗っていた。

 たとえば今回試乗した新型Bクラスの「B 180」では、排気量1331ccの直列4気筒DOHC直噴ターボエンジン(136PS/5500rpm、20.4kgfm/1460-4000rpm)を搭載している。これはメルセデス・ベンツの自然吸気エンジンでいえば1.8リッタークラスに相当するパフォーマンス(PSやトルクの値)があるとし、「180」が与えられているわけだ。

今回試乗した「B 180」は直列4気筒DOHC 1.4リッター直噴ターボエンジンを搭載し、最高出力100kW(136PS)/5500rpm、最大トルク200Nm/1460-4000rpmを発生する

 また、数値は市場に応じた最適化も図られていて、現行Sクラスが日本に導入された2013年当時、欧州仕様で「S 500」と呼ばれていたモデルが日本仕様では同じエンジン&パフォーマンスであっても「S 550」として販売されていた経緯がある。

 もっとも、こうしたバッヂに与えられた数字はISG(Integrated Starter Generator)やBSG(Belt Driven Alternator Starter)、そしてBEV(Battery Electric Vehicle/電気自動車)などパワートレーンの電動化を迎え、今後は意味が変わっていく。そもそも日本仕様のICE(内燃機関)搭載モデルには自然吸気エンジンの設定はすでにない。また、BEVである「EQC 400 4MATIC」では前後2つのモーターの出力合計が408PSであることから、「400」を名乗っている。

 さて、新型Bクラスだ。写真で見る限り、ボディラインはずんぐりとした印象があるが実車の印象はかなり異なる。前後デザインは適度にシャープで、サイドデザインにしても前後の鋭さを邪魔しないシンプルな面構成でまとめられている。Aクラスがそうであるように、新型Bクラスも塊感があって個人的には大きく惹かれる。

サイドデザインは前後の鋭さを邪魔しないシンプルな面構成でまとめられる

 Aクラスと比べて車高がずいぶんと高そうだが、現時点で発表されている欧州仕様のカタログ値によると、B 180の全高はAMGラインを装着した場合で1541mm、標準仕様で1562mmと見た目ほど高くない。ちなみにカタログに記載されている「A 180 Style」のスリーサイズは4440×1800×1420mm(全長×全幅×全高)で、B 180のAMGライン装着車は欧州仕様で4426×1796×1541mm(全長×全幅×全高)。

B 180(AMGライン装着車)のボディサイズは4426×1796×1541mm(全長×全幅×全高。欧州仕様)で、ホイールベースは2729mm。先代にくらべて全長を約50mm、ホイールベースを約30mm拡大することで、ゆとりある室内空間を確保した

 さらにホイールベースは新型Bクラスが2729mmでAクラスが2730mmだから、両モデルでの主立った違いは120~140mm高い新型Bクラスの全高だ。これは筆者の希望的観測だが、過去の例からしておそらく日本仕様の新型Bクラスの全高は、カタログ値でAMG/標準ともに1550mm以内に収まるのではないか。もしそうであるならば、立体駐車場での利便性も確保されるためありがたい。

 しかし、この全高の違いが新型Bクラスの居住性や使い勝手を大きく向上させた。なにより筆者が感心したのは、開放感がグンと高まったこと。前席では高められたヒップポイント(着座位置)に合わせてダッシュボードの形状が変更され、上下方向の視界がより大きくなった。全高が高くなったのだから当たり前だが、ドアトリムのデザインも同時に変更されており、視覚的な相乗効果はとても高い。

 後席はさらに快適だ。形状やサイズこそAクラス(標準仕様)と同じように別体式のヘッドレストを採用した40:20:40分割可倒式シートだが、やはりここも高められたヒップポイントとの関係でゆったりと座れる。前席シート下の足下スペースもAクラスより大きく、乗り降りする際にシートレールなどに触れることなくスッと足の出し入れができる。また、サイドシルも低めだから乗降性がとてもよい。

インテリアではインストルメントクラスター上方のカウルを廃止し、ワイドスクリーンディスプレイをダッシュボード上部に置くことで、より解放感を感じられる横方向のワイドさを強調するデザインを採用。居住性については、前席の室内幅を33mm拡大して1456mm、フロントのヘッドルームを5mm拡大して1052mmを確保。さらにリアシートのバックレストに4:2:4分割可倒式を採用するなど、室内空間とユーティリティ性も強化した
前席シート下の足下スペースはAクラスより大きく、スッと足の出し入れができるのはポイントが高い

 ラゲッジルームは積載性に優れる。床面の高さが調整できるフロアボードの採用で、リアバンパー部との仕切り段差がない。よって、重量のかさむ荷物でもさっと出し入れできるし、Aクラスよりも有効室内高の数値が大きいため、ラゲッジルームの積載スペースも上方に伸びている。

 一般的にラゲッジルームの広さは、いわゆるVDA方式による容積で語られることが多い。新型Bクラスは5名乗車状態で455L、後席を倒した状態で1540Lと、クラスの水準値からやや上に位置するレベルだが、メルセデス・ベンツの流儀で突起物が抑えられ、部分的にえぐられてもいるため、かさばる荷物であっても積み込みやすい。ちなみに筆者の愛車であるS204型Cクラス・ステーションワゴンのラゲッジルームもVDA方式では平凡な値だが、前述の特徴から荷物の出し入れはしやすい。

ラゲッジルームのレイアウト

新型Bクラスの魅力は快適な居住空間

 新型Bクラスの走行性能はAクラスに準じたもの。試乗したガソリンエンジン搭載モデルであるB 180以外に、A 200 dに搭載されている直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ディーゼルターボエンジン(150PS/3400-4400rpm、最大トルク32.6kgfm/1400-3200rpm)を「B 200 d」として用意する。トランスミッションはB 180が7速デュアルクラッチトランスミッションの「7G-DCT」で、B 200 dが8速化された「8G-DCT」となる点もA/Bクラス共通だ。

 サスペンション形式もAクラスと同じ形式。だが、今回の試乗ルートではAクラスに比べ新型Bクラスの乗り味はマイルドであることが分かった。Aクラスの試乗時と同じ大人3名+撮影機材で一般道/高速道ともに走らせてみると、路面の状況がわるくなる、つまり荒れてくるほど新型Bクラスの減衰力がきれいに立ち上がり、体に伝わる振動が小さく収束も早いと感じられる。

 装着タイヤは試乗したB 180がハンコック「ventus S1 evo2」であるのに対して、A 180 Styleはブリヂストン「TURANZA T005」。ともに排水性を重視したマルチな高性能タイヤという点は似ているし、ランフラットタイプではなくサイズ(225/45R18)や指定空気圧も同じであった。「形式は同じですが、モデルごとの設定は変更しています」(メルセデス・ベンツ日本)とのことなので、ダンパーやスプリングレート、アッパーマウントシムなどに違いがあるのだと理解した。

試乗車のB 180はハンコック「ventus S1 evo2」(225/45R18)を装着

 最後に結論! 新型Bクラスの魅力はずばり快適な居住空間だ。対してAクラスにはスポーティな外観を裏切らないシャープな走行性能がある、と筆者は判断した。さらに前後席ともに快適性の向上という意味で、またラゲッジルームでは使い勝手という意味で、新型Bクラスの魅力は表現できる。なおメルセデス・ベンツ日本によると、ディーゼルエンジン搭載モデルであるB 200 dの配車・登録手続きは、消費税がアップする10月1日以降になるという。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学