試乗インプレッション

見た目、機能、走りの3拍子を備えたアウディの新SUVフラグシップ「Q8」

クーペのようなルーフライン、22インチの大径ホイールなどでダイナミズムを表現

スタイリッシュでダイナミック

 2006年に「Q7」で大型SUV市場に参入したアウディは、その後もQモデルのバリエーションを増やして成功を収めてきた。そして近年、ますますSUVの多様化が進む中で、プレミアムブランドを中心に活況を呈しているクーペスタイルのSUVに、ついにアウディも名乗りを上げた。よりスタイリッシュな大型SUVを志向するユーザーに向けて開発された、Qモデルの新たなフラグシップとなる「Q8」だ。

 実車を目の前にすると、ほぼ全長5m、全幅2mに達する大柄な外寸はもちろん、非常に印象的なデザインが醸し出すその存在感に圧倒される。もっとも注目すべきは、標準で最大22インチという大径タイヤ&ホイールだ。ちょっとやりすぎではと思えるほどのサイズだが、SUVの中でできるだけカッコよく見せるには、これが最良の手段というデザイナーの主張によるものだとアウディ ジャパン プロダクトマーケティングマネージャーのヴァーンズ・ドミニク氏は述べる。

 厚いベルトラインに薄いウィンドウグラフィックとエレガントな弧を描くルーフラインを組み合わせ、アウディの象徴的存在である往年の「クワトロ」を彷彿とさせるブリスターフェンダーに大きなタイヤを収めた姿は、独特のダイナミックさを感じさせる。

 また、Aモデルの六角形との差別化を図るべく、Qモデルの新たな特徴となる八角形のシングルフレームグリルが与えられたフロントフェイスも、これまでとはまた違ったひとクセある表情で印象に残る。

今回試乗したのは9月3日に発売されるクーペスタイルのフルサイズSUV「Q8」。試乗車の「Q8 55 TFSI クワトロ」(992万円。消費税8%込)のボディサイズは4995×1995×1705mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2995mm
エクステリアでは、新しいQファミリーの顔となる8角形デザインのシングルフレームグリルを採用するとともに、クーペライクなルーフライン、フレームレスドア、最大22インチの大径ホイールなどでダイナミズムを表現。試乗車は5ツインアームデザインの22インチホイールにコンチネンタル「コンチスポーツコンタクト 6」(285/40R22)を装着
Q8のヘッドライト点灯パターン(27秒)

クーペスタイルながら高い機能性

 リアからの眺めはQ7よりも「A8」に近く、クーペのようなフォルムながら後席や荷室の広さは十分に確保されており、SUVとして不満のない機能性を身に着けている。特徴的なのは、SUVでありながらサッシュレスドアを採用したことだ。これによりルーフを低めることができたほか、ドア開口形状がよくなることで良好な乗降性を実現している。

 ほぼ3mに達するホイールベースも効いて、後席の居住空間は申し分ない。リアシートを100mm前後スライドできるのも便利だ。荷室もこれだけ広くて使いやすければ申し分ない。しかも、アウディ車がおしなべてそうであるように、荷室のクオリティ感にも大いにこだわっていることがうかがえる。

インテリアではA8などと同様に、タッチディスプレイを全面的に採用したMMIタッチレスポンスや大型バーチャルコクピットを備えるとともに、コネクテッド機能の「Audi connect」を搭載。
前後100mmのスライド調整が可能なリアシートなど、5名の乗員に十分なスペースを提供
ラゲッジスペースは605Lの容量を持ち、リアシートバックを折りたたむと1755Lまで拡大する

 車内の雰囲気もA8に通じるもので、ラグジュアリー感と先進性と機能美に満ちている。A8などと同様に、タッチディスプレイを全面的に採用したMMIタッチレスポンスはとても使いやすい。大型のバーチャルコクピットや、一見どこにエアコンの吹き出し口があるのか分からない横基調のインパネも新鮮だ。このフォルムゆえ、後方視界にはそれなりに制約もあるが、そこをとやかくいうのは野暮というものだろう。

 今回の試乗会の宿泊地である白馬といえば、21年前の長野オリンピックでスキージャンプ競技の開催された地であることはご存知だろうが、このとおりジャンプ競技場も健在で、今でも多くの観光客が訪れるという。そしてアウディといえは、1980年代にTV-CMで放映されて話題となった、クワトロの優位性を表現すべく雪のジャンプ台を駆け上がっていくシーンを覚えている人も少なくないだろう。というわけで、せっかくアウディで白馬に行くのだから、ジャンプ競技場を目指さないわけにはいかない。

軽快で上質な走り

 Q7には2.0リッター直4エンジンの設定もあり、意外なほど販売比率も高いようだが、フラグシップたるQ8には本国にもその設定はなく、ひとまず3.0リッターV6エンジンのみが与えられた。なお、将来的には電動ターボチャージャーを備えたディーゼルが加わる可能性はあるようだ。

 まず、エンジンをスタートさせても、かかっていないのではと思うほど静かで振動も小さいことに驚く。アイドリングストップからの再始動も極めてスムーズだ。これには48V電源によるマイルドハイブリッドシステムも効いていることに違いない。エンジンはさすがに340PS/500Nmを発生するだけあって十分に力強く、2.2tに達する車体をものともせず加速させ、その走りが極めて滑らかであることにも感心する。

Q8が搭載するV型6気筒DOHC 3.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力250kW(340PS)/5200-6400rpm、最大トルク500Nm/1370-4500rpmを発生。これに48Vマイルドハイブリッドシステムと8速AT「8速ティプトロニック」、クワトロ4WDシステムを組み合わせ、JC08モード燃費は10.3km/Lとしている

 さらには、ダンピングコントロールサスペンションや後輪操舵システムにより、走りは本当に軽快感すら覚えるほど小気味よく、それでいてフラグシップにふさわしく上質に仕上げられている。これほど大柄でありながら応答遅れもなく、アウディらしい正確な操縦性を示すのもさすがというほかない。

 この車体ながら、思ったよりもずっと小まわりが利くのもポイント。駐車する際には、A8より導入されたMMIスクリーン上のカメラビューにより、パーキングの際に縁石への接触を回避するのに役立つ「カーブストーンアシスト」も重宝する。

 そしてワインディングを軽く攻めると、内に秘めていたダイナミックな一面が頭角を現す。Q8を選ぶユーザーの期待にもしっかりと応えているといえる。見た目、機能、走りのすべてを兼ね備え、とりわけデザインを際立たせた、これほどのクルマが1000万円あまりからの価格設定とは、内容を考えるとかなりお買い得に思えてくる。

 試乗後はグランピングを初体験。さらに翌日、参加者向けにいくつかのアクティビティが用意されていて、筆者はせっかくの機会なので、これまた人生初のパラグライダーを希望。さすがに単独ではなく、インストラクターとのタンデムフライトで、前日に下から見上げたジャンプ競技場を空から眺めることができたのは感動モノだ。ああ、Q8もパラグライダーも、やみつきになりそう……。

人生初のパラグライダーを体験してきました!(試乗記と関係なくてすみません)

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛