試乗インプレッション

400PSのツインモーターEV、ジャガー「I-PACE」

ジャガーのEV「I-PACE」で熊本~博多のロングドライブを楽しんだ

スポーツカーメーカーが作り上げた400PSのツインモーターEV「I-PACE」

 航続距離438kmを誇るジャガーのEV(電気自動車)「I-PACE」。日本では先ごろ「2019-2020 日本カー・オブ・ザ・イヤー」の「10ベストカー」に輝き、ドイツでは「ゴールデン・ステアリング・ホイール賞」のミッドサイズSUV部門において「ベストSUV」賞を獲得するなど、世界で高い評価を得ているジャガー初のBEV(バッテリのみで動くEV)になる。

 そのI-PACEのロングドライブを行なう機会があった。初日はI-PACEで熊本空港から福岡まで、阿蘇のワインディングと高速道路を約160kmあまり走り、2日目はそのI-PACEに加えて、ジャガーランドローバーのハイパフォーマンスモデルを担う「SVO=スペシャル ビークル オペレーションズ」部門が手がけた「SVR」を中心に、熊本のHSR九州サーキットで全開で走らせるという、実に楽しみなプログラムが用意されていた。

 まずは熊本空港でI-PACEを受け取り、阿蘇へと向かう。22インチ仕様の乗り心地はやや硬めながら、やはりルックスは20インチ仕様よりもずっとよい。

 独特の斬新なスタイリングは、車高は1565mmと1550mmをわずかに超えており、一応SUVにカテゴライズしているが、100%EVだからこそ実現した、まったく新しいものだ。前後のオーバーハングを縮め、既存のジャガーと逆にキャビンを前に出すことで、スペース効率と新しいカッコよさを追求したとのことで、このデザインが居住性や各部のクリアランスなどパッケージングのこともかなり意識して設計されたことは、実際に前後席に座ってみるとよく分かる。ラゲッジスペースも相当に広い。

EVであり、車体もしっかりしているため、走行音は基本的に静か

 後席は膝前が広々としている上、高めのヒップポイントによりヒール段差も十分に確保されているのに頭上空間も余裕がある。パノラマルーフの開口部はこれ以上ありえないほど広く、シェードを不要とした特別なガラスを用いたことも特筆できる。

 ジャガーらしいクラフトマンシップと先進性の融合したインテリアもI-PACEならでは。見やすくて使いやすい新感覚のタッチプロデュオも画期的だ。ただし、クリープの有無や回生の強弱を調整する際にメニュー階層を入らなければならないなど、もう少し整理されるとよいかなと感じた部分も見受けられた。

ジャガーらしく上質な作りのインテリア
メーターはフルデジタル。メーターパネル内ナビゲーションが行なわれる
SUVタイプのため室内空間は広い。新しい外観デザインが活かされている

インパクト満点の瞬発力

 ジャガーが100%EVを手がけたというのは意外な気もしたが、ジャガーの創業以来の理念である「ビューティフルファーストカー=美しく速いクルマ」を追求したことはドライブしてもヒシヒシと伝わってくる。

 前後に搭載した各147kW/348Nmの強力なモーターと90kWhという大容量のバッテリによる動力性能はかなりのものだ。さすがは400PSで700Nm、0-100km/h加速が4.8秒というだけのことはある。とにかく出足の瞬発力はインパクト満点だ。現状のどんなに高性能なエンジンとトランスミッションを組み合わせても、この電光石火のレスポンスと一気に立ち上がるトルク感を超えることはできないとつくづく思う。それも高性能EVたるI-PACEの大きな価値に違いない。

 加えて、モーター音でジャガーらしさを表現したという「アクティブサウンドデザイン」という新たな試みを楽しむこともできる。むろんなくてもよい装備ではあるが、EVを少しでも楽しいものにしようという意気込みを感じる。

 そんなリニアな加速性能と、動きが素直で一体感のあるフットワークが相まって、その走りはとても車両重量が2250kgにも達するとは思えないほど軽快で俊敏だ。これにはねじり剛性に優れるアルミボディや、絶対的な重量は大きくても重量物を車両の中心の低い位置に寄せたことが効いているに違いない。おかげで阿蘇のワイディングを気持ちよく走ることができた。この走りを具現化するためにあえてモーターを用いたといわれれば、それも納得の思いである。

 ミルクロードからマゼノミステリーロードを走り、国道212号を経由して日田IC(インターチェンジ)より大分自動車道へ。航続距離には余裕があったが、途中せっかくなので急速充電も試してみた。さらに、九州自動車道、福岡都市高速を走って目的地へ向かう。まったく躊躇することなく長距離をドライブできるのもI-PACEの強みだ。

 翌日は20インチ仕様をドライブしたところ、22インチ仕様では少々気になった揺れや微振動が小さく、フラット感も高いことが分かった。また、22インチ仕様にはサポートの高い形状のシートが与えられるのに対し、20インチ仕様は一般的な形状となる。22インチ仕様のほうがダイレクト感があり見た目もよかったわけだが、もし相談されたらどちらを薦めるべきか悩むことになりそうだ。

SVRも交え、その実力をサーキットで試す

サーキット走行も行なった

 そしてHSR九州サーキットへ。公道ではできないようなことも試すことができたが、I-PACEは本気で攻めてもしっかり応えてくれることがよく分かった。応答遅れのない俊敏なハンドリングは、巧みな前後の駆動力配分の制御も効いて見事なまでにニュートラルステア。それを高いスタビリティのもとで、まさしくオンザレール感覚で楽しむことができて、本当に気持ちよく走ることができた。EVである以前に、スポーツカーメーカーであるジャガーが生んだ、あくまでスポーツカーであることを伝えてくる。

 動力性能も申し分ない。同じコースでドライブした一連の「SVR」に対しても遜色ないほどの加速力を、はるかにシンプルに実現しているのもEVなればこそなせる業に違いない。しかも連続周回してもパワーがたれないことにも驚かされた。Formula Eと同時にワンメイクレースもやっているくらいなので、それも想定して設計されていることに違いないが、聞いたところ、熱に強いモーターを採用するとともにバッテリを水冷式としてしっかり温度管理しているとのことで、納得である。

ジャガーのスポーツラインアップと比べても、存在感の高さを感じるI-PACE

 以下、SVRモデルの各車についてひとことずつ述べたい。まずレンジローバースポーツ SVRは、重くて重心も高く、今回用意された中ではもっともサーキットを走るのが苦手なはずだが、そのハンデを感じさせないほどの走りっぷりに感心。力強く加速し、あまり挙動を乱すこともなくよく曲がる。

 ドスのきいた迫力あるエキゾーストサウンドも、いかにもSVRらしい。さすがにブレーキング時には重さを感じるが、フロントに6ピストンのキャリパーを持つブレーキが付いているおかげで制動キャパシティに不安はない。むろんいろいろ手をかけたことが効いているからにほかならないわけだが、大柄なSUVでもよくぞこんな走らせ方ができるものだ。

レンジローバースポーツ SVR

 逆に、究極的なパフォーマンスを楽しませてくれたのがFタイプ SVRだ。後輪駆動ではなくFタイプの中で唯一AWDとなるが、それもあってなんら不安に感じることなく床まで踏める。剛性感が高く、走りに一体感があり、挙動変化も小さい。今回の中でもっとも動力性能が高かったのはいうまでもないが、カーボンセラミックブレーキにより、周回を重ねてもまったくフィーリングが変わることがなかったのも恐れ入る。

Fタイプ SVR

 かたや味付けが妙味だったのがF-PACE SVRだ。550PSとややスペックでは下回るも、むろん動力性能は十分すぎるほどで、しかも操縦感覚には自らの手で操れる領域がより残されていて、アクセルやブレーキの加減で曲がり具合を積極的にコントロールできる感覚があった。その意味では、F-PACEよりも楽しめるように思えたほどだ。

F-PACE SVR

 一方、XJR575は実はSVRの一員ではないのだが、文字どおり575PSのエンジンが与えられる。ただし、フラグシップサルーンたるXJとしての位置付けからか、SVRモデルほどスポーツ性能を追求しておらず、足まわりも快適性を意識したことがうかがえ、ブレーキも対向ピストンではないためこうした場所では少々きつかったが、立ち上がりの力強さとストレートでの伸びやかな吹け上がりはさすがであった。次期型はフルEVになることが伝えられているXJだが、こうしたXJR575のようなモデルがあったことも記憶に残しておきたく思う。

XJR575

 ご参考まで、筆者のドライブによる各モデルの最大加速Gは、上からFタイプが0.64G、F-PACEが0.63G、XJRが0.58G、I-PACEが0.54G、レンジローバースポーツが0.53Gだった。I-PACEも遜色なく、立派なものだ。ジャガーランドローバーの先進性と走りにかける情熱と、その実力の高さを体感した、濃密な2日間であった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。