試乗インプレッション
ジャガーのピュアスポーツカー「Fタイプ」がマイチェン。ポルトガルで3モデルに試乗
シリーズ頂点に位置する「R」クーペの走りは感動もの
2020年2月28日 13:01
Fタイプがマイチェン
「70kWモーターを含むハイブリッドシステムを搭載」という部分こそ、ショーモデルならではの“仮の姿”だった。だが、流麗でダイナミックなスタイリングに関しては、2011年に開催されたフランクフルト・モーターショーに出展されたコンセプトモデル「C-X16」ほぼそのままという状態でデビューとなったのが、2013年に発売されたジャガーのピュアスポーツカー「Fタイプ」だ。
このモデルの名称が、1961年の発売と共に世界でヒットを飛ばし、後に往年の名車とまで謳われることになった「Eタイプ」にオマージュを抱いたものであることは言うまでもない。実際、FタイプはEタイプの生産が終了されて以来、40年近くの時を経た末に復活を遂げた、ジャガーにとっては久々となる2シーターモデルでもあるのだ。
「911 カブリオレとボクスターの狭間を狙う」というマーケティングの結果、まずコンバーチブルのボディからデビューとなったFタイプは、当初から予想されていた通り間もなくクーペボディも追加設定。そんな2種類のボディに共通するスラリと長いフロントフード下に収められるのは、いずれも8速ステップATと組み合わされた3つの異なるデザインの心臓だ。
最もベーシックなユニットが直列4気筒2.0リッター、中間がV型6気筒3.0リッター、そしてトップレンジに位置付けられるのがV型8気筒5.0リッター。いずれも過給機付きのガソリンユニットというラインアップである。
今回ここにお伝えするのは、そんなジャガーきっての硬派なピュアスポーツカーであるFタイプに、ライフ半ばと目されるタイミングでの大幅なリファインが施されたモデル。
とはいえ、いわゆるマイナーチェンジということもあって、アルミ製ボディの骨格構造や前出のエンジンバリエーションは、基本的にはこれまでのアイテムをキャリーオーバー。一方、今回のリファインでの最も大きなトピックは、ご覧のようにフロントマスクが一新されたこと。リアビューも、ライセンスプレートまわりの造形やテールランプのグラフィックが変更を受けた。
縦方向に奥行きが大きかったヘッドライト形状が、横方向に切れ長な造形へと変わり、ジャガー車で特徴的なグリル形状にも手が加えられるなど、顔付きの変更はかなり大胆。それもあり、新たなイメージを演出するという観点からすれば、このフェイスリフトはその効果を大いに醸し出すことに成功していると言える。
ただし、これほどまでに大きなイメージチェンジが図られると、当然そこでは「前の方がよかった……」という声も現れることになりそう。登場してまだ日の浅い「Eペイス」が、これまでのFタイプに準じた顔付きを採用したことも含め、このフロントマスクの大胆チェンジには、賛否双方の声が聞こえてきそうである。
一方、メータークラスター内のフルバーチャル表示化や、大型化したセンターディスプレイの採用、さらにはスマートフォンアプリを経由してのナビゲーションシステムの設定や空調機能の乗車前コントロールの実現など、コネクティビティ部分がイッキにアップデートされたのは最新型ならでは。
そんなマイナーチェンジ版モデルの国際試乗会は、冬なお気候温暖なポルトガルの地で開催された。
3モデルをテストドライブ
時間的な都合もあり、今回テストドライブを行なうことができたのはV8エンジンを搭載したクーペの「R」と、同じくクーペの4気筒モデル、そしてV8エンジンを搭載するコンバーチブルという3台。ちなみに、V8ユニットには2種類のチューニングレベルが設定されていて、FRレイアウトを備えたコンバーチブルに搭載されていたのは、450PSの最高出力と580Nmの最大トルクを発生する仕様となる。
一方、“走りのフラグシップ”の立ち位置が与えられたクーペのRグレードに4WDシステムとを組み合わせて搭載されたのは、実に575PSという最高出力と700Nmの最大トルクを発生するハイパフォーマンス仕様。かくも高出力の心臓を搭載の上で、4WDモデルならではのトラクション能力の高さも生かし、発表された最高速は300km/h、0-100km/h加速はわずかに3.7秒と、もはや走りのデータは紛れもないスーパーカー級だ。
こうして、いかにも美味しそうなスペックを並べる“御馳走モデル”は後のお楽しみとして、まずは最もベーシックなクーペで走り始めてみると、こちらでもその絶対的な動力性能は決して侮れないものであることが確認できた。
「2.0リッターで4気筒」と耳にすると、スポーツカーの心臓としてはいささか物足りなさそうにも思えてしまう。しかし実際には、0-100km/h加速が5.7秒といったデータにも裏打ちされるように、アクセルペダルを深く踏み込めば「なかなかどうして!」と思える俊足ぶりを提供してくれるのだ。
もっとも、「4気筒としてはなかなか」と思えるチューニングが施されたことは理解ができるものの、スポーツ派ドライバーの気持ちからすれば、やはり物足りないのはサウンド。かくして、この部分にこだわった場合、もはや1人勝ちという状態になるのが、昨今稀有になりつつある大排気量・多気筒エンジンの咆哮をダイレクトに耳にすることのできるV8ユニットを積んだコンバーチブルであった。
Fタイプが「911 カブリオレとボクスターの狭間」を狙いつつ、まずはコンバーチブルボディから登場したというのは前述の通り。まるでポルシェに対して宣戦布告を仕掛けたかのような、デビュー当初の開発陣からのそんなコメントを思い出しつつ改めて最新のコンバーチブルに乗ると、感心をさせられたのはポルシェ車のそれを上まわるほどの感触で、しかもルーフの開閉にほとんど影響されることのない、オープンモデルとしては屈指と思えるボディ剛性感の高さだった。
そして、かくも強固なボディがあるからこそ、大いに楽しむことができたのがワインディングロードでの走り。走りのペースが高まるにつれ、積極的なアクセルONと共に後輪側が外側に張り出そうとする挙動は、いかにもFRレイアウトの持ち主ならでは。
一方で、そうした動きが決して危うさを伴わず、高い安心感をキープしたままで楽しむことができたのは、やはり堅牢なボディがあってこそのことに違いない。
しかし、そんなV8 コンバーチブルの走りすら霞んでしまうほどの、さらに高度なポテンシャルを披露したのがシリーズ頂点に位置する「R」クーペの走りだ。
4輪の接地性はどんなシーンでもすこぶる高く、それを証明するかのように575PS/700Nmという怒涛のパワーとトルクが無駄なく駆動力へと変換されるのがまずは感動もの。1.8t級の重量を忘れさせるほどに軽快感に富んだハンドリング感を味わわせてくれるのも、また同様の印象だ。
「源流を辿ればそもそもはスポーツカーメーカー」と、ジャガー自身ではそうアピールをする一方で、「それでもなかなかそうしたイメージは湧かない」という人も、こうしたFタイプの鮮烈な走りのテイストを実際に味わってみれば、瞬時に納得せざるを得ないはず。
こうして、ジャガー車のラインアップ中にあっても、自らのブランドの本質を最も分かりやすく表現している1台――それが、このFタイプというモデルだと言ってもいいかもしれない。