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ジャガー、フル電動耐久レーシングカー「VISION GRAN TURISMO SV」を発表

ゲーム「グランツーリスモ」向けに開発した究極のマシン

2020年12月16日(現地時間)発表

 英ジャガー・ランドローバーは12月16日(現地時間)、プレイステーション4用ソフトウェア「グランツーリスモ」向けに開発した最新のフルEV(電気自動車)のバーチャル・レーシングカー「Vision Gran Turismo SV」を発表した。

 このモデルは、実際にフルスケールでのデザインスタディを経て作られたもので、最高速255mph(約410km/h)を誇り、完璧に磨き上げられたエアロダイナミック・デザインとレースで培ってきたパワートレーン・テクノロジーが組み込まれる。

 ジャガーは2019年10月にも、グランツーリスモシリーズ用のバーチャル・レーシングカーとして、初のフルEVスポーツカー「Vision Gran Turismo Coupé」を開発・発表していて、ジャガーの伝統を受け継ぐ究極のデザイン、ドライバーを重視したインテリア、そして卓越した乗り心地とハンドリングで、ゲーム愛好家たちから高評価を得ている。

 今回ジャガーのデザイン・チーム、SVメンバー、ジャガー・レーシングから成る開発チームにとってVision GT CoupéはVision Gran Turismo SVの出発点であり、パフォーマンスを向上させるためにすべてを再評価し、ジャガーの耐久電動レーシングカーの可能性について検証したという。

 このプロセスの基盤となったのは、オンラインビデオやフォーラムで交わされるゲームプレイヤーからのフィードバックを詳細に分析することで、さらに「仮想世界テスト」と何時間にもおよぶ「実走テスト」を組み合わせることで、デザインおよび開発チームはVision Gran Turismo SVをいかに最適化させるかを正確に判断し、完璧なゲーム用の電動耐久レーシングカーに仕上げた。

 究極のバーチャル耐久レーシングカーとしてデザインされたVision Gran Turismo SVは、そのスタイリングやサーフェスだけでなく、塗装に至るまで、ル・マン24時間レースにデビューし輝かしい戦績を残した「C-TYPE(1951年)」や「D-TYPE(1954年)」へのオマージュもみてとれる。

 ジャガーのデザイン・ディレクターであるジュリアン・トムソン氏は「レーストラック、公道で走行させるために開発したD-TYPE、XKSS、I-PACE、I-TYPEは、いずれも、常に同じDNAを共有しています。Vision GT Coupéを担当したデザイン・チームは、グランツーリスモのために究極のゲーム用電動耐久レーシングカーをつくりたいという依頼を受け、SVメンバーとジャガー・レーシングのエンジニアたちは一丸となって、本当に特別なものを作り出すことに成功しました。Vision Gran Turismo SVは、非常にドラマティックで魅力的なクルマで、現実世界の自動車デザインの限界を完全に取り払ったときに何が可能になるのかを示しています。実物大モデルによるデザインスタディを行ない、私たちは過去からインスピレーションを受けながらも未来を見据えた究極の電動レーシングカーです」と述べている。

エキスパートたちによる開発

 流線型で軽量な複合材ボディ構造のVision Gran Turismo SVには、4つのモーターを搭載し(VISION GT Coupéは3つ)、インテリジェントな全輪駆動システムとトルクベクタリングから得られるトラクションとダイナミクスにより、最高出力1400kW(1903PS)、最大トルク3360Nm、0-60mph(約100km/h)加速1.65秒、最高速255mph(約410km/h)という優れたパフォーマンスを発揮。また、このパワーを最大限に活用して、ゲームプレイヤーにさらなる爽快なレース体験を提供するというタスクが、ジャガーのSVエンジニアリング・チームに託されたという。

 ジャガーSVのエンジニアリング・ディレクターであるジャマル・ハミーディ氏は「私たちに与えられた目標はパフォーマンス、ハンドリング、サウンドトラックなど、VISION GT Coupéをさらに特別なものにするため、すべての要素をより高いレベルへと引き上げることでした。チームはその目標を達成しただけではなく、その目標をはるかに凌ぐ結果をだしました。24時間耐久レースの極限状態でも戦い抜くバーチャル電動レーシングカーを生み出したのです。それだけでなく、この作品をバーチャルの世界で実現しただけでなく、圧倒的な存在感をもった実物大モデルを実際に作り上げました。グランツーリスモに対するゲームプレイヤーたちの期待感が盛り上がることは間違いありません」とコメント。

 Vision GT Coupéのエレガントなシルエットは、Vision Gran Turismo SVにも明確に受け継がれ、中でもC-TYPEやD-TYPEにインスパイアされたフェンダーの曲線がその最たる例で、フロントアクスルを駆動するモーターを追加したにもかかわらず、ホイールベースは2721mmのままとなっている。

 また、全長は5540mmで、エアロダイナミクスを改善することを主眼として全体で861mmほど延長。高速コーナリング、ロングストレートでの高速安定性を向上させるために必要なダウンフォースを増やすため、新開発のフロントスプリッターとデプロアブル・リアウイングを装備している。

 さらに空気抵抗を最小限に抑えながらダウンフォースを最大化するという、相反する課題を同時に解決するため、SVチームはジャガーのデザイナーたちと協力し、ダイナミクスや安定性、パフォーマンス、効率を改善させる連携機能を開発。より大型で効率的なスプリッターがフロントアクスル上にダウンフォースを発生させ、さらにフロントバランスチャンネルの開口部が前輪の面全体に空気を送り、乱気流を減らしながら車両の後方に向かってスムーズに流れるように構築。ホイールウェルを通過した空気もフェンダー内の排出口からリア方向へスムーズに流れる構造になっている。

 完璧に密閉されたアンダーボディには、フロントアクスルの後方に高速安定性を高めるためのキールエレメントがあり、空気の流れを加速させて減圧し、車体の浮きを抑えながら、大型のベンチュリを介して排出される。

 Vision Gran Turismo SVのために開発されたデプロイアブル・リアウイングは、「XJR-14」などジャガーのDNAを受け継ぐ耐久レーシングカーにインスピレーションを受けて開発された最も効率的なエアロパーツで、コンセプトから最終デザインまで、何度も試行錯誤を経て完成したという。メインの固定部分が車両の後部を包み込み、リアハッチに溶け込むように融合するウイングは、ボディワークの不可欠な要素としてデザインされ、耐久レースに必要な空力性能も備えている。2つの可動式セクションは、必要に応じて速度が上がると自動的に上昇してダウンフォースを発生させ、空力抵抗を抑える状況下では規定の位置まで自動的に下降する機構を設けている。

 その結果、空気抵抗係数(Cd値)は0.398と、レーシングカーとしては圧倒的に低い数値を実現しながらも、483kg/200mph(約320km/h)のダウンフォースを発生。ジャガーSVのエアロダイナミクス担当シニア・エンジニアであるマイケル・オリーガン氏は「すべての空力特性は、最先端の計算流体力学解析を用いて入念に計算されています。これはジャガーのレーシングマシンI-TYPEなどの、現実世界でのプロジェクトとまったく同じ方法で行ないました。この短期間でVision Gran Turismo SVを現行の耐久レーシングカーと同水準のパフォーマンスを持つ、信頼性の高い電動レーシングカーに仕上げられたことをとても誇りに思います」と語っている。

電動システムのパフォーマンス

 ジャガー・レーシングのエンジニアは、6シーズンにわたってI-TYPEの開発をしてきた知識と経験をすべて注ぎ込み、Vision Gran Turismo SV向けに4つのモーターを採用したフル電動駆動システムを開発。作業は主に2つのプロジェクトに分かれ、ひとつはフロントアクスルに2つ目の300kW(407PS)のモーターを搭載して高出力とトルクを実現すること、次により大きな負荷に対応するために温度制御システムを改良し、耐久レース中も長時間の高速走行と加速性能を維持することを目指したという。

 Vision Gran Turismo SVの駆動システムは、各ホイールに1つずつモーターを配置。さらに各モーターにそれぞれ1速トランスミッションが装備され、高トルク定格に必要な強度と堅牢性を確保し、最小限の質量と摩擦にして効率を最大化して発揮する能力を備える。

 この電動全輪駆動システムと各ホイールにそれぞれ1つのモーターを配置する構成により、横方向と縦方向のトルク配分を無限に制御することができ、すぐれたトラクション、敏捷性、コントロール性を両立したトルクベクタリングが可能になっている。また、軽量かつ高剛性なボディ構造の下部に、最新のリチウムイオンバッテリーパックを搭載し、低重心、低いロールセンター、ほぼ完璧に近い重量配分を実現した。

 ジャガー・レーシングのチーム・ディレクターであるジェームズ・バークレー氏は「ジャガーのレーシングマシンI-TYPEと並行してVision Gran Turismo SVの開発に携わったことは、ジャガー・レーシングのエンジニアたちにとって、彼らの専門知識や経験を2台のすばらしい電動レーシングカーに応用するという、これまでにない機会となりました。どちらのモデルも最先端のシミュレーションツールを使用して設計・開発され、フル電動パワートレーンとソフトウェア技術を最大限に活用しています。フォーミュラEのシーズン7、そしてグランツーリスモでそのパフォーマンスを発揮することを楽しみにしています」と述べている。

 温度管理システムは、液体窒素循環冷却装置を追加して強化し、バッテリーが理想的な温度範囲内にとどまり、より長い時間最大出力を供給できるように設計。また、この液体窒素冷却装置はキャビン内のブーストボタンと連動していて、極めて厳しい動作条件下においてもバッテリーが上限温度を超えることはないという。

究極のバーチャル・ドライビング・エクスペリエンス

 Vision Gran Turismo SV では、ドライビング・エクスペリエンスの基本となる独自のパワートレーン・サウンドスケープをさらに進化。4つのモーターを搭載し、よりパワフルでトルクフル、そして力強く、個性的でありながらもジャガーらしく、さらに未来志向のサウンドを生み出す。4万rpmのレッドラインで最高潮に達するサウンドは、真のレーシングDNAを反映しており、ドライバーにかつてない満足感を提供。

 レース用にデザインされたインテリアは、ピュアで滑らかなサーフェスの数々がドライバーを完全に包み込み、計器類や操作系を本来あるべき位置に配置し、よりハイレベルなコクピットを提供。さらに、サステナブル(持続可能)な「TYPEFIBRE」というジャガーが開発した本革よりも軽量で快適性と耐久性のある革新的な代替素材で2席のシートを覆うなど、構成部品はすべて、先進的な軽量素材を使用して高精度で美しく製作。TYPEFIBREはジャガー・レーシングが新型レーシングマシンI-TYPE5にも採用して、ABB FIAフォーミュラE世界選手権のシーズン7でテストする予定だという。