試乗インプレッション

ダイムラー・トラック AG傘下の大型トラック、自動化レベル2技術搭載のメリットを探る

「アクトロス」「カスケディア」「スーパーグレート」の3モデルに乗った

交通コメンテーター・西村直人氏がダイムラー・トラック AG傘下の大型トラック3車に乗った

大型トラック3車に自動化レベル2の技術を実装

 ダイムラー・トラック AGが世界の各地域で販売する大型トラック3車に、SAEによる自動化レベル2の技術が実装された。最初にレベル2を分かりやすく説明すれば、前走車に追従する「ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)」と、車線の中央を維持するようステアリングの操舵アシストを行なう「LKS(車線中央維持機能)」を組み合わせた運転支援技術のこと。

 改めてこの自動化レベルとは、0~5の6段階で区切られた技術のことで、レベル2までを運転支援技術、レベル3以上は自動運転技術と呼ばれている。また、この区切りと段階ごとの技術は乗用車だけでなく今回紹介する大型を含む商用車でも同じ枠組みで、センサーやソフトウェアの部分的な共有も視野に開発が進められている。

 世界で初めて自動化レベル2の技術を搭載した量産大型トラックは、2019年初頭に生産を開始したメルセデス・ベンツ「アクトロス」。続いてフレートライナー「カスケディア」に搭載され、1月から発売を開始。そして、2車に前後して三菱ふそう「スーパーグレート」にも搭載された。

ダイムラー・トラック AG傘下の大型トラック3車
メルセデス・ベンツ「アクトロス」
フレートライナー「カスケディア」
三菱ふそう「スーパーグレート」

 ところでCar Watch読者の皆さんにとって、大型トラックは少し縁遠い存在かもしれない。アウトラインを紹介すると、アクトロスはメルセデス・ベンツを名乗ることからもお分かりの通り、主たる販売地域は欧州で、例えばEU各国をつなぐ高速道路を活躍の舞台とした物流の主役。バリエーションは豊富で、BEV(電気自動車)「eアクトロス」も販売中だ。

eアクトロス

 一方のカスケディアは、米オレゴン州に本拠地を構える商用車メーカー「フレートライナー」から送り出されている。2015年には「インスピレーショントラック」として自動化レベル3の技術を搭載したプロトタイプを米ラスベガスで発表、筆者も現地で試乗した。最後のスーパーグレートはご存じの通り、日本を代表する商用車メーカーである「三菱ふそうトラック・バス」のフラグシップモデルだ。

インスピレーショントラック

 メルセデス・ベンツ、フレートライナー、三菱ふそうは、いずれもダイムラー・トラック AGの傘下に収まるブランドで、欧州地域ではメルセデス・ベンツ、北米地域ではフレートライナー、そして日本を含めたアジア地域では三菱ふそうがそれぞれ販売を受け持っている。画像で確認できるように、3車はいずれも大型車ながら、スーパーグレートがパネルバン仕様のいわゆる大型トラックであるのに対して、アクトロスとカスケディアはトラクターで、それぞれにトレーラーとして海上コンテナ(ドライコンテナ)を牽引している。

メルセデス・ベンツはドイツを代表する企業。旧ダイムラーAG(社)に属し、これまではその一角だった。2019年11月1日、大がかりな組織改編が行なわれ、メルセデス・ベンツ AG、ダイムラー・トラック AG、ダイムラー・モビリティ AGという3つの企業体として分社法人化された

 今回の試乗はテストコースとはいえ、自動化レベル2の技術が非装着車に対してどのようなメリットがあるのか体感することが目的の取材会であったため、試乗は必要な運転免許証保持者に限定されていた。幸い筆者は、過去に商用車のテストドライバー職を担当していたこともあり、大型/大型二種/牽引免許を保有しているので、3車のステアリングを握ることができた。

乗り味は三者三様

 まず、レベル2の機能を使わずに素の状態でそれぞれ走らせてみた。実は3車、見た目だけでなく搭載エンジンも違い(厳密には同系列だが、試乗したカスケディアは別型式の14.8リッターでほか2車は10.7リッター)、トランスミッションや各アクスルなどは主要部品の多くを共有しているのだが、その乗り味は三者三様。

 筆者のお気に入りはカスケディアだ。ボンネットスタイルに圧倒されながら乗り込めば、まるで往年のアメ車のようにパワーステアリングのアシストはとても強く、片手でくるくると回せてしまうほどに軽い! 乗り心地もステアリング特性に合わせたソフトな傾向だが、そこから想像する以上に直進安定性が抜群に高い。トラクターながらボンネットスタイルなので、ホイールベースは同じトラクターであるアクトロス(3700mm)よりも50%以上長い5615mmもあることや、独自のキャスター角設定などがそれを助長する。徹底した安楽志向、それがカスケディアだ。

 アクトロスはメルセデス・ベンツの名の通り、ビシッとした走りが特徴。ステアリングに対する反応は過敏ではなくむしろ遅めなのだが、操舵から一定のタメのあとに正確にノーズが動き出す様は精密な機械のそれだ。乗り心地はいたって重厚。もっともカスケディアもそうだが、シートの減衰特性が抜群にいいので一層そう感じさせる。感心したのはシートやステアリングの調整機構だ。身長170cm/体重68kgの筆者から、2m/100kg超の立派な体躯のドライバーまでピタリと一度で合わせることができる。重宝したのは、左足の上方にあるステアリングのチルト&テレスコ調整用ロックを外すために設けられた足踏み式レバー。これなら正しい運転姿勢を崩すことなく自在にステアリング位置の調整ができる。

アクトロスの運転席まわり
カスケディアの運転席まわり
カスケディアのペダル配置。アクセルがオルガン式で、ブレーキが吊り下げ式
スーパーグレートのペダル配置。アクセルが吊り下げ式で、ブレーキがオルガン式
アクトロスのペダル配置。アクセル、ブレーキともにペダルは吊り下げ式

 スーパーグレートは長年の試乗や長距離テストを共にした慣れ親しんだ1台。今回の2019年モデルでは、40km/h付近と高速道路で多用する80km/hあたりでのステアリングの落ちつきが大きく増して、運転疲労度が格段に少なくなった。インテリアは新旧のよさを併せ持つ独特な雰囲気。原形は1996年に誕生した初代スーパーグレートそのままだが、メーター中央部にはTFT液晶画面が組み込まれ、ステアリングは握りが太くなり、ステアリングスイッチも増えた。改めて生まれ故郷である喜連川研究所の高速周回路を走らせてみると、やはりスーパーグレートは日本の道路にジャストフィットするようにサスペンションやステアリング特性が作り込まれているなとホッとする。

レベル2機能はどうか?

 続いてレベル2の機能を試す。前述したように、3車の走行性能を決める主要部品は共有化されているが、レベル2を機能させるための技術にしても3車共通。使用センサーやシステム構成、そして制御内容に変わりはない。よって、ここからはスーパーグレートをもとに詳細を解説していく。

 レベル2を実装するスーパーグレートには、ADA(アクティブ・ドライブ・アシスト)、ABA5(アクティブ・ブレーキ・アシスト5)、インテリジェント・ヘッドライト、交通標識認識機能の4つの先進技術が搭載されている。このうち、レベル2を担うのはADA。このADAは従来からスーパーグレートが搭載しているACC「PCA(プロキシミティ・コントロール・アシスト)」に、LKSと車線逸脱抑制機能を追加したことでレベル2を成立させた。センサーはナンバープレート下部に設けられたミリ波レーダー(79GHz帯)が前走車を捉え、フロントウィンドウ中央下部に設置された光学式単眼カメラ(扇角は約120度)で車線を認識する。LKSと車線逸脱抑制機能は、ボール&ナット式油圧ステアリングの頭上に追加された電動モーターにより操舵アシストを行ないつつ、その副次的効果として路面からのキックバックに対して反力を生み出すことで安定性も高まった。

カスケディア(写真左)とアクトロス(写真中、右)によるADA。今回は三菱ふそうのテストコースを使った試乗だったので、公道では許されていない手を放した状態での走行も試してみた。各国各地域の技術指針に則り、手放しが検知されるとほどなくして警報ブザー&ディスプレイ表示による報知がしっかりと行なわれ、そのまま手放しを続けると60秒しないうちに車線中央維持機能が解除された
スーパーグレートによるADA。メーター中央のTFT液晶画面にセンサーの認識情報と、ドライバーによる設定情報が同時に表示される
使用しているミリ波レーダーは3車で同じ。それぞれこの位置に搭載される
電動モーター付油圧式パワーステアリング。この電動モーターによりステアリング操作が補助され、さらに路面からのキックバックに対する反力を発生させて直進安定性を高める

 肝心のLKS機能はとても優秀で、車線幅3.2~4.4mの道路を走行中にADAを機能させる、つまりはACCを使った走行を行なうと介入する運転支援技術だ。センサーである光学カメラは単眼式で、80m先の道路形状を把握して電動モーターによってステアリング制御を行なうのだが、直線・カーブ含めて極めて自然な動き。また、0km/hから車線を捉えているので渋滞時も機能する。2019年モデルでは、車体自体の改良とLKSの相乗効果により抜群の高速安定性を手に入れたといえる。

 ちなみに、一般的なパネルバンの大型トラックであるスーパーグレートと、トレーラーを牽引するトラクターのアクトロスやカスケディアでは、直進安定性にはじまりカーブでのドライバーによるステアリング操作などが微妙に違っていて、車線変更後の収束特性も異なる。しかし、ADAによるLKA機能は同じ技術を使っているものの、それぞれで相当な距離を走り込み、さらにソフトウェアや制御ロジックに変更を加えることで、パネルバン/トラクターの異なる走行特性に合わせた操舵アシストを実現したと開発を担当したエンジニアの面々は語る。

開発を担当したエンジニアの面々。左からメルセデス・ベンツのテストドライバーであるウド・クーン氏、ダイムラー・トラックス・ノースアメリカのブライアン・ダニエルズ氏、三菱ふそうトラック・バス株式会社の木下正昭氏

 今回は運転支援技術のレベル2であることから、たとえ作動中であってもステアリングから手を放すことはできないが、それでもADAのサポートを受けながらの走行では、身体的な疲労度は半分程度にまで減少すると筆者には感じられた。

 また、実際の道路環境では、必ずしも車線の中央を維持するのではなく、例えば工事中区間を走行する際には、道路に設置されたパイロン側を避けるために車線の左右どちらかに少しだけ寄って走らせたいこともある。ADAではそうした場面を想定し、制御の設定変更で車線中央から右/左にそれぞれ5%寄せて保持することもできる。

 昨今では、乗用車のレベル2を体感したことのある読者も多いと思う。筆者は、雨天の夜間、車線の中央維持をサポートしてくれるLKSのありがたみを強く感じるが、これは一度の走行距離が長くなる大型トラックでも同じことがいえる。過去の長距離テストではLKSがあればさらに安全に走れるのではないか、と想像したものだ。

 こうして大型トラックのレベル2が実現したわけだが、当たり前のことながら大型車は乗用車と比べて車体が大きい。よって、道路幅に対して車線維持機能の精度を乗用車以上に高めなければならず、技術的なハードルが高かったと3車の技術を開発したエンジニアは口をそろえていた。

 2月27日、いすゞ自動車は大型トラック「ギガ」にレベル2相当の運転支援技術をオプション装備として搭載可能としたが、この先、各国の商用車にこうしたレベル2の運転支援技術が数多く展開されていくことだろう。

従来のリアビューミラーに代わるミラーカムシステム。このミラーカムシステムは、ドラミラーの鏡を光学式カメラに置き換えた先進安全技術。鏡と比べてより広範囲な後方確認が行なえ、夜間の視認性も向上する。すでにアクトロスには実装されていて、プロフェッショナルドライバーのための支援技術として各国から高い評価を受けている

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。