試乗インプレッション

三菱ふそう「エアロクィーン&エアロエース」(2019年モデル)、直6 7.7リッターエンジンに組み合わせる8速AMTがキモだった

リニアに生み出せる加速フィールは、運転しても乗客としても気持ちよい

エアロクィーン&エアロエースが2019年モデルに

 三菱ふそうの大型観光バス「エアロクィーン&エアロエース」が2019年モデルとなって発売された。Car Watchでは発表会での様子などが別記事として紹介されているが、今回は試乗レポートに的を絞ってお届けしたい。

 今回の試乗は、三菱ふそうの喜連川研究所内にある日本屈指の広さを誇る高速周回路で行なった。これまで筆者は商用車全般のテストドライバーを務めたことや、大型バスでの送迎ドライバーを行なっていた経験があり、現行型のボディでエアロクィーンとエアロエースを名乗るようになった2007年以降、この2車では公道を含めかなりの距離を走り込んできた。

 2017年モデルになって、エアロクィーンとエアロエースのパワートレーンは劇的な進化を遂げた。ダウンサイジング化されたエンジンの搭載と、クラッチペダルのない2ペダル方式のトランスミッションへとパワートレーンが変更されたのだ。エンジンは直列6気筒12.8リッター「6R10」型(420PS/350PS)から直列6気筒7.7リッター「6S10」型(381PS)へ換装され、3ペダル方式の一般的な6速MTから2ペダル方式の8速AMT「ShiftPilot(シフトパイロット)」に置き換えられた。今回試乗したのは2019年モデルだが、走行性能に関する部分はこの2017年モデルに準じている。

 従来型が搭載していたエンジンから排気量にして約40%もダウンサイジング化が図られたが、同時に従来型のエンジンに対して最大で540kgの軽量化を図ることにも成功し、実用燃費数値が大きく向上した。さらに8速化され、各ギヤ段が細分化されたことで、ダウンサイジング化により懸念される低中速域におけるトルク不足にも対応している。

2019年モデルに進化した大型観光バス「エアロクィーン&エアロエース」に三菱ふそうの喜連川研究所で試乗することができた。2019年モデルではLEDヘッドライトやフォグランプを採用した新しいフロントマスクが与えられるとともに、「アクティブサイドガードアシスト」「ABA4 歩行者検知機能追加」「ドライバー異常時対応システム(国交省準拠)」「バスコネクト(BusConnect)」「火災延焼防止装置」といった安全装備が与えられている

ShiftPilotの優秀さ

 高速周回路ではそのパフォーマンスのすべてを試す前に、完全停止状態から20km/h程度までの微速での走行フィールを徹底的に確認する。ご存知のように、大型観光バスとなると一度に走る距離が長く、途中には渋滞路に巻き込まれることも多い。大型連休の初日や年末年始は渋滞の発生確率が上がり、発進→緩加速→微速走行→減速→停止の繰り返しとなる運転操作が延々と続くこともある。

 そうした過酷な状況でもShiftPilotは優秀だった。Dレンジにシフトしてブレーキペダルを離すとクリープ機能によってスッと2速ギヤ(極端に勾配がきつい場合は1速ギヤ)で走り出し、1km/h、2km/hの増速を見越したアクセルペダルの操作に対して従順に反応してくれるからだ。坂道などで停止状態を保持して発進を補助するヒルホルダー&イージーゴーは、平坦路でも機能させることができる。これは乗用車でのブレーキホールド機能のような仕組みだが、秀逸なのはそこからアクセルペダルを踏み込んだ際に感じるブレーキリリースの滑らかさにある。2017年モデルからECB(電子制御ブレーキ)となったことも重なり、ジワッとした減圧が確実に行なえるようになった。これなら、渋滞路が続いてぐったりと寝込んでしまった乗客の頭を揺らすことなく、13tを超える巨体をフワッと前に押し出せる。従来型の3ペダル方式では左足の繊細なクラッチリリース操作で行なっていた超絶滑らかな発進を、いつものように行なうアクセルペダル操作だけで再現できるのだからありがたい。

エアロクィーン&エアロエースの運転席まわり。さまざまな安全装備が追加されたことが2019年モデルのトピックの1つで、例えばアクティブサイドガードアシストでは左側方の対象物を捉えてメーターパネル内の表示で注意を促したり、シートを振動させてドライバーに回避行動を促したりする

 かなり意地悪くジンワリとしたアクセルペダル操作を何度も繰り返したが、乾式クラッチ方式のクラッチミート制御には感服した。過去にトルクコンバーター方式のATを搭載した大型観光バスも販売されていたが、クリープ走行時の駆動トルク制御が難しく、登坂路で滑らかな発進操作を行なうにはブレーキ操作との併用が求められていた時代もあったという。故に、大型観光バスでは3ペダル方式のMTが主流であったわけだが、ShiftPilotではそんな心配はほとんど要らない。試すことができなかった登坂路でのクラッチミート制御が気になるところだが、平坦路に限っていえば言うことなし。これぞまさに“微速の美学”だ。

 減速性能もよかった。大型商用車の場合はサービスブレーキ(乗用車でのフットブレーキ)は「止めるブレーキ」と言われ、「速度調節ブレーキ」にはもう1つの減速装置である補助ブレーキを使うことが一般的。エアロクィーンとエアロエースでは補助ブレーキに「流体式リターダー」を採用した。理論上、流体式リターダーは停止直前まで減速力を発生させることができるというが、実際には5km/h程度で減速力は感じられなくなる。

 最も顕著な特徴は、従来の補助ブレーキと比べて最大減速度が強いことだ。ShiftPilotのレバーを上方向へ動かすことで作動する流体式リターダーは5段階の調整が可能。最強で作動させると、状況にもよるが0.2~0.3G程度の減速度を発生させることができる。日産「e-POWER」のワンペダルではないが、サービスブレーキの作動回数は従来型(ジェイクブレーキ&シフトダウンブレーキ)よりも大幅に減らすことができ、車両のメンテナンスコスト削減効果も望める。

 肝心の速度調節も実に自然。大型観光バスの市街地走行では予測運転が安全走行の要となることから、1km/h単位での速度調節が不可欠。その点、流体式リターダーでは常に作動1段階目に入れておくとリズムよく走れる。また、40~50km/h付近からアクセルをOFFにした際の減速度は、従来型(6速MT車)での4速ギヤ走行時に近い。

 欲を言えば、1段目の減速度をもう少し下げたいし、ダイムラートラック「アクトロス」などと共用のShiftPilotのレバーはステアリングからやや遠く、平均的な日本人の掌ではステアリングから大きく手を離す必要があるなど課題も見えた。とはいえ、この流体式リターダーのおかげで下り勾配などでの速度調節が劇的に容易になった。

 テストコースなので持てるポテンシャルを安全に試す絶好の機会でもある。そこで微速テストに続いて、完全停止状態からアクセルペダルを全開に踏み込んでみた(最高速は速度リミッターにより115km/hに制御)。ShiftPilotにはシフト制御プログラムが3タイプ用意されている。燃費優先の「オートモード」は早めのシフトアップを行ない、パワー優先の「ダイナミックモード」では各ギヤ段で引っ張り気味にキックダウンも早め、「マニュアルモード」は字のごとくシフトレバーによるマニュアルシフト操作に特化させている。当然ながら全開時はダイナミックモードを選択!

ペダルまわり

 大型観光バスでの営業運転では御法度である運転操作の1つ、完全停止した状態からアクセルペダルを完全に踏み切ってみると、一瞬の間を置いて車体が蹴飛ばされるようにグンと前に出る。力強さは十分だ。その後、2→3→4速ギヤへとリズミカルにシフトアップが行なわれ、最高出力381PSを発生する2200rpmを200rpmほど超えた2400rpm付近で60km/hに達する。

 総ギヤ段数がMT時代の6速からShiftPilotでは8速ギヤ段となったことで、テンポよく加速できるようになった。さらにAMT化によってMTでは物理的に避けられなかったシフト操作時のトルク抜けが最小限に控えられている。この状況を公道で考えた場合、一般道であれば周囲の交通に対して時にリードできるほどの加速力となり、ドライバーの心理的な負担もほとんどないと言える。

プロドライバーの道具としての使いやすさ

 しかし、中間加速域となると話は別だった。ダウンサイジング化によって最大トルク値が従来型から410Nm(42kgfm)ほど低下していることから、30km/hあたりから60km/h程度までの大型観光バスが多用する速度領域では加速力が不足気味。これは過去の公道テストの経験からいっても断言できる。それを裏付けるように、ShiftPilotを装着した2017年モデル以降、エアロクィーンやエアロエースを所有する事業者やドライバーからは「発進加速性能は抜群。でも、中間加速域での加速力がややもの足りない。都市高速道路などで遭遇する勾配のきついランプで、かつ合流路が短い状況が重なるとしんどいこともある」という声も聞いた。

 この原因はなにか? 従来型では単純に最大トルク値が現行型よりも大きいだけでなく、駆動輪にかかる最大駆動力の発生回転域が新型の2~3倍程度も幅広い。よって、国道のオーバーパスや高速道路でのだらだらと続く登坂路でもシフトダウンをせずに走り切ることができた。また、空気の整流効果を高めるフラッシュサーフェース化が進んだとはいえ、依然として大型観光バスは前面投影面積が大きく、速度の二乗で増えていく空気抵抗値は70km/hを超えたあたりからその値が無視できなくなる。つまり、車両の加速力に対して空気の壁がストレートに影響を及ぼしてくる場面では、最大駆動力をどれだけ幅広く引き出せるのかによってドライブフィールは大きく左右される。

 実際の数値で比較する。カタログ上の駆動力曲線で確認する限り、12.8リッターの従来型が2速ギヤで発生していた駆動トルクは4万1000N(2速ギヤ)ほどあるのに対して、7.7リッターの現行型は4万7000N(同)程度と15%も高い。しかし、その最大値を発生する速度域で見てみると、従来型では15km/h程度(7→22km/h)あったものが、現行型では5km/h(13→18km/h)ほどと3分の1程度に留まり、18km/hを過ぎると一気に駆動トルクは下降する。

381PSを発生する直列6気筒7.7リッターターボ「6S10」型エンジン

 これを実際の加速フィールで分かりやすく表現するならば、従来型がアクセル操作に対して文字通りリニアに加速力が高まり躍度がしばらく安定し、さらにトルクダウンを感ずるころにはレッドゾーン近くになるためおのずとシフトアップ操作となるのに対して、新型はアクセルを踏み込むとちょっとした間があいてグワッ~と一気に躍度が高まり、程なくして急激に加速力が弱まってしまう、となる。

 もっとも8速化のギヤ段細分化はこうした特性を見越してのことだし、40%ものダウンサイジング化によってカタログ数値である重量車モード燃費値において4.25km/Lから4.9km/Lと15%以上伸びた。また、実際に長距離走行を行なった際の実用燃費数値も、事業者曰く「数%伸びている」という。走行性能の確保も大切だが、走行距離が長い大型観光バスにおいては燃費数値の向上、つまり事業者からみればTCO(トータルコストオブオーナシップ)の観点から比較すれば現行型の高い総合性能が喜ばれるのだろうとの想像もつく。

 ただ、そこは商用車開発と販売で長年の実績がある三菱ふそうだ。ダウンサイジング化による出力特性変化はShiftPilotを賢く使った運転操作でかなりリカバリーできることも分かった。プロフェッショナルドライバーの道具としての使いやすさとでもいうべきか。ShiftPilotは、乗用車のATのように深く踏み込んだ際にシフトダウンを誘うキックダウンスイッチがある。これを積極的に活用して、その先に必要とする加速力を生み出せるように予めシフトダウンしておくか、乗客への滑らかさを優先する場合はShiftPilotのシフトノブを1回下げてマニュアル操作でシフトダウンを行なっておくことで、かなりの領域をカバーできることが分かった。従来型から値は下がったとはいえ、アクセル操作に対してリニア(直線的)に生み出せる加速フィールは運転していても、乗客として乗車していても気持ちがよいものだ。

 大型商用車の世界では、この先も最先端技術の導入が進んでいく。今回は大型観光バスだったが、同時期に試乗した大型トラック「スーパーグレート」も大きく進化した。機会があればレポートしたいが、ボディの基本的な骨格は1996年当時からキャリーオーバーの部分が多いと聞けば誰もが驚く。しかし、電装系部品の見直しや新機構の導入によって燃費数値の向上のほか、NOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)など排出ガスに含まれる有害物質も1974年の「昭和49年規制」の値からNOxでは5%にまで減少し、PMに至っては1%になるなど徹底したクリーン化が進められた。これはポスト新長期規制として定められた値で、日本のディーゼル商用車は世界で最も厳しいカテゴリーの排出ガス規制に適合している。働く自動車である商用車の世界はとても奥が深い。

エアロクィーンと大型トラック「スーパーグレート」の走行シーン(1分28秒)

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。