試乗インプレッション

「GT3 RS」(991型)相手でも不足なし! サーキット&公道で感じたポルシェ新型「911 カレラ S」(992型)の実力

ニュル北コースのラップタイム7分25秒は伊達じゃない

従来の991型からどこが変わった?

 より速く、より快適、そしてもちろんよりスポーティに――そんな難しい課題によるモデルチェンジを繰り返しながら、すでに半世紀以上も世界のスポーツカーの頂点に君臨するのが、ご存じポルシェ「911」。992型と呼ばれる昨年デビューした最新のモデルは数えて8代目。従来の991型が登場してから、7年ぶりにフルモデルチェンジを行なったことになる。

 発表されたのは、まずはクーペの高性能バージョンである「カレラ S」と、その4WD仕様の「カレラ 4S」。さらに、そこからわずかな時間差をおいて、オープンボディの「カレラ S カブリオレ」「カレラ 4S カブリオレ」もすでにラインアップに加えられている。もちろん、これまでの歴史を振り返れば、この先にはさらなる高性能グレードや、逆によりベーシックなバージョンが追加をされることも、もはや“時間の問題”と捉えて間違いない。

 一見したところでは、「どこから目にしてもピュアな911そのもの」という雰囲気に仕上げられた992型。それでも目を凝らせば、フロントフード上には空冷エンジン搭載の最終世代である993型まで存在していた2本のプレスラインが蘇り、フロントフード先端とバンパー間との見切り線も、やはり空冷時代同様の直線基調のラインへと変更されたりと、これまで以上にヒストリーを意識した要素を多用しているように思えるのが特徴の1つだ。

 さらに、より顕著に新型であることをアピールする外観上の変更点がリアビューに集中していることも間違いない。991型では2タイプが用意されていたボディは、今度はこれまでは4WDモデルに与えられていた、いわゆる“ワイド版”へと統一。これを受け、従来はやはり4WDモデルのみに採用が限られていた左右のテールランプ間を結ぶ“光のストラップ”が、後輪駆動系モデルにも展開されることになったのも見どころだ。

 立体的な文字を用いた「PORSCHE」ロゴの採用は、他の最新ポルシェ車と同様のフォーマットに基づいたもの。それゆえ、こうしてフロント以上に印象の変化幅が大きなリアビューも、結果的には「予め想像ができた通りの仕上がり具合」と、そのように感じる人も少なくなさそうだ。

今回スペインで試乗したのは、2018年に米国で世界初公開された第8世代となる新型「911」(992型)。写真の「カレラ 4S」のボディサイズは4519×1852×1300mm(全長×全幅×全高、ホイールベースは2450mm。日本での価格は1772万円(カレラ Sは1666万円)
新型911のフロントボディは従来から45mmワイド化されるとともに、ドアと面一の電動ポップアウトハンドルの採用によってテーパーの付いた滑らかなサイドラインを際立たせるデザインに仕上げた。また、初代911を彷彿とさせる新しいLEDヘッドライトを採用したほか、リアまわりではワイドな可変式リアスポイラーとエレガントなシームレスのライトバーを備えるのが特徴
新型911が搭載する水平対向6気筒 3.0リッターターボエンジンは、最高出力331kW(450PS)、最大トルク530Nmを発生。カレラ 4Sの0-100km/h加速は3.7秒(スポーツクロノパッケージ装着時は3.5秒)

 かくして“ワイドボディ”への統一のため後輪駆動モデルではボディが40mm以上拡幅された992型の911。かねてから「これ以上は大きくならないでほしい……」と願っていたファンからすれば、これは残念に思えるポイントと映るかも知れない。

 一方で、そうしたワイド化はポルシェが「不可欠」と判断した事柄ゆえ、決して見た目の迫力だけを狙ったものではないことも明らか。実は、992型でのトピックは、前後輪で幅方向のみならず径も異なるシューズを初採用した点にもある。後輪の接地形状を縦方向にも拡大することを目的に、「前輪以上にファットで大径のシューズを履かせる」ため、それをカバーするにはよりワイドで懐の深いリアフェンダーが必要になったからだ。

 同時に、やはり992型でのトピックの1つが「世界初」を謳うウェット路面感知システムの標準採用。このシステムは、濡れた路面を走るときにフロントのホイールハウジング内に巻き上がる水しぶきを、そこにレイアウトされた音響センサーが認識することで路面状態が変化したことをドライバーに知らせるもの。このワーニングを目にしたドライバーが走行モードを「ウェット」へと切り替えることで、スタビリティコントロールやエアロダイナミクス、エンジンマップの設定などが、ウェット走行に適したプログラムに変更される仕組みだ。

 前述のタイヤ接地面積の拡大は、ウェット路面での走行安定性(特にハイドロプレーニング現象の発生容易性)とはある面で表裏一体の関係。ライバルにはまだ例を見ないこうしたシステムの標準採用は、排水性に課題を抱える接地面積の大きなシューズを履きながら大パワーの心臓を搭載するスーパースポーツカーの今後に、一石を投じたことになるのかも知れない。

 こうして、エクステリアに関しては「あまり代わり映えがしない」という声と「思っていた以上に変わった」という声が入り混じりそうな一方で、インテリアは「フルモデルチェンジらしい変貌ぶり」と意見がまとまりそうなのが992型のデザインでもある。

 ドライバー正面に位置する大径アナログ式のタコメーターや、ステアリングコラムのドア側にレイアウトされた回転式のスタータースイッチは、もはや「911である限りは変えようがない」とも受け取れそうなアイコン的部分。それでも、前述のタコメーター以外はバーチャル表示化されたメーターのディスプレイや、ダッシュボード中央部分にレイアウトされた大きくワイドなディスプレイ、そして従来型ではズラリと並べられていたメカニカルなスイッチ類が大幅に削減されたセンターコンソールなどが、エクステリアデザイン以上に「世代が変わったこと」をアピールする。

インテリアでは1970年代の911モデルを想起させる直線的なラインを特徴としたダッシュボード、ポルシェ特有の中央のレブカウンターの横に位置する2つのフレームレスの薄型自由形状ディスプレイなどを採用

 そんなセンターコンソールとダッシュボードを敢えて分断した造形によって、ダッシュボードの水平基調が強調されているのも992型ならでは。一方、それゆえ空調の中央吹き出し口の位置が大きく下げられたのは、機能上はマイナスとも言えそうだ。

 逆に、機能面から好感を抱くことができるのは、ダッシュボードの中央下端やセンターコンソールの前端部分に、ドライブモードや空調をダイレクトに操作するためのトグルスイッチが残されたこと。このところ、「スマホライクなタッチ操作」を謳いつつメカニカルなスイッチを廃止することが大流行している。だが、それらがブラインド操作を受け付けず、場合によっては走行中の使用が極めて危険でさえあるのは、すでに自明というものだろう。

 そうしたウイークポイントも踏まえつつ、今の時代に不可欠なドライバーアシストシステムやコネクティビティ機能の拡充には、タッチパネル式の操作法で対応をしながらも必要最小限のメカニカル・スイッチは残して素早くダイレクトな取り扱いにも対応したのが、992型の吟味された操作系デザインという印象だ。

サーキットで見せた圧倒的な加速能力

 スペインはヴァレンシアのサーキットを基点に開催された国際試乗会に用意されていたのは、カレラ Sとカレラ 4Sのクーペモデル。まずはカレラ Sでサーキットコースへと躍り出ると、早々にして実感させられたのはもはや“普通の911シリーズ”のそれとは思えないほどの、圧倒的な加速能力だった。

 ポルシェ試乗会の流儀に則って、サーキットでの走行は今回もプロドライバーが駆る先導車付き。もっとも、先導車とは言っても背後のゲストが食らいついていく限りはドンドンとペースが上がっていくのもいつものこと。加えれば、今回の先導車はなんと991型の「GT3 RS」。相手(?)に不足は全くないのである!

 基本的には従来型ユニットをキャリーオーバーしたものの、新開発された8速PDKとの組み合わせで搭載されているツインターボ付きの3.0リッター水平対向6気筒エンジンは、タービン径が3mm、コンプレッサー径が4mm拡大されたと報告される新たなターボチャージャーの採用やインテーク/エキゾースト系のリファインに加えて、部分負荷領域では1気筒当たり2つの吸気バルブの作動に位相差を与えることで燃焼の改善を図るなど、新たにさまざまな手が加えられた。

 そしてその仕上がりぶりは、時代の要請に応えて排気系の抵抗を増してしまう理屈となる微粒子フィルターが組み込まれた悪影響など微塵も伴わないもの。極低回転域から一切のターボラグなしに見事にパワフルな吹き上がりを示すそんな心臓は、もはや「凄まじい」という形容が躊躇なく当てはまる加速力を実感させてくれることになったのだ。

 すなわちその加速力は、あらゆる場面でGT3 RSに肉薄するどころか、タイトコーナーからの立ち上がりなどでは差を詰めるほど。ローンチコントロールの機能が含まれる“スポーツクロノパッケージ”付きのテスト車の場合、0-100km/h加速がわずかに3.5秒というデータも「まさに納得!」という印象であったというわけだ。

 一方、そんなサーキットで乗ったテスト車は、こうしたイベントに供されるモデルとしては珍しくリアのアクスルステアリング(4WS)やアクスティブスタビライザー“PDCC”、セラミックコンポジットブレーキ“PCCB”など、数多ある走り関係のオプションが非装備という仕様。にも関わらず、そのドライビングが予想以上に操りやすいことにも改めて驚かされることになった。

 もちろん、コンマ1秒のラップタイムを削るべく限界ギリギリを見極めながら走るとなれば、ハナシは「その限りにあらず」ということにはなりそう。だが、そこまでは至らないにしてもそれなりのレーシングスピードでもさほどの緊迫感を押し付けられないことに、このモデルが秘めるシャシー能力の高さを改めて教えられることになったのもまた事実だった。

 そんなクローズドコースでのプログラムの中には、場所を散水したミニサーキットに移動しての、例の「ウェットモード」の体験も用意されていた。

 標準モードではコーナーでのアクセルONでテールを大きく振り出すような場面でも、こちらを選択することでその量が激減したというのは半ば“想定内”の挙動。それよりも印象に残ったのは、「制御が過剰に介入しない」という事柄で、大きくカウンターステアを当てなければならないほどに姿勢が乱れればもちろん制御の介入は明快な一方、それ以前の段階ではエンジン出力が極端に絞られて、イライラ感を芽生えさせたりするといった不快な感覚は皆無だった。

 仮に自身で992型を手に入れたとしたら、ウエット路面に差し掛かってワーニングが発せられれば、抵抗感ナシにこのモードを選択しそう。それでも、そんな選択をあくまでドライバー任せとしている点も、やはりポルシェらしい考え方だと思わされることになった。

フラットなボディの動きを実感させるカレラ 4Sか、よりシャープな身のこなしのカレラ Sか

 サーキット内でのプログラム終了後は、そこを基点とした70km弱の距離を1時間強ほど掛けて巡る、一般道の周回コースへと出発。今度は共に前出の“走りのオプション”をフル装備したカレラ Sとカレラ 4Sで、同じコースを同様のペースで走行してみた。

 道幅が狭く、タイトなコーナーが連続しがちなこのコースで、その効用を幾度となく実感させられたのは、低速域では逆位相の制御が行なわれるリアのアクスル・ステアリングだった。時に対向車とすれ違うのが困難なほどのタイトなコーナーが連続するコースでも、望外なまでに身軽な走りを実感させてくれたのは、実は違和感に繋がらない範囲の中で機敏な動きを実現してくれた、このアイテムの働きが大きかったと思える。

 と同時に、個人的には速度が高まるにつれてカレラ Sに対する前輪の接地感の高さが強調され、同時に後輪側を軸としたピッチモーションも小さく思えるカレラ 4Sの挙動により惹かれたのも事実。

 その差は決して大きくはなく、カレラ Sでも十分過ぎるほどのリアの安定感やトラクション能力の高さを実感できたことは事実。よりフラットなボディの動きを実感させるカレラ 4Sに大きな魅力を感じるか、50kgの軽さがもたらすよりシャープな身のこなしが見どころのカレラ Sを取るかは、少なくともドライの舗装路面を走行する限り、まさに「ドライバーの好みによるところ」と表現することができそうな印象だ。

 今回のテストドライブでは、時間やロケーションなどの制約から高速でのクルージングを存分に試すことができなかったのは残念。恐らくそうした場面では、992型の新たな見どころであるドライバーのアシストシステムやコネクティビティのありがたみを、より明確に味わうことができたに違いない。

 しかし、そんなトライが叶わなかった中でことさらに記憶に残っているのは、“普通のカレラ S”にしてGT3 RSにさしてヒケを取らないという圧倒的なスピード性能。そんな992型の特徴が決して「個人の感覚」などによるものではないことは、(恐らくは“走りのオプション”をフル装備したモデルのデータであろうとはいえ)ニュルブルクリンク北コースのラップタイムが7分25秒という驚愕の速さマークしたという、公式コメントが物語っているのである。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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