ニュース
ポルシェジャパン 七五三木社長に聞く、ポルシェのモータースポーツ活動
「ポルシェのスポーツカーのDNAは創業時から変わっていない」
2019年5月7日 00:00
ポルシェと言えば、説明をする必要もないほど世界的に有名なスポーツカーメーカーで、創業以来さまざまなモータースポーツに参戦し続けている。ポルシェ 917、ポルシェ 935、ポルシェ 956/962C、ポルシェ 911GT1などル・マン24時間レースの歴史を彩ったレーシングカーや、パリ・ダカールラリーに出走していたポルシェ 959などなど、紹介していたら切りがないぐらいの名車と勝利の歴史がポルシェのモータースポーツの歴史と言える。
そして近年のル・マン24時間レースへの挑戦と言えば、ポルシェ 919 Hybridを擁しての2015年から3連勝を飾ったル・マン24時間レースが挙げられる。特に2016年には中嶋一貴選手が操るトヨタ TS050 Hybirdが残り5分でストップするという悲劇のもう一方の主役がポルシェ。ポルシェからトヨタに対して発したお互いを称えるメッセージは多くの日本のファンの心に響いた。
そうした長い歴史を持つポルシェのモータースポーツ活動について、ポルシェジャパン 代表取締役 社長 七五三木敏幸氏に話をうかがった。
──2016年のル・マン24時間レースの後、ポルシェが発したメッセージは日本のレースファンの気持ちに深く突き刺さりました。
七五三木氏:ポルシェの中で、当日現場にいた幹部級といえる人材の中で実質的に日本人は私だけになっており、実は本社CEOのオリバー・ブルームから、こんなメッセージを出そうとしているのだが、日本のしきたりや文化、そして心情的に大丈夫だろうか?ということを事前に聞かれました。そこで私は「何よりもライバルに対してのリスペクトであり、日本人の心情にも合っている」と答え、あのような形で公開させていただきました。
──一昨年のル・マン24時間レースを取材しましたが、その時に感じたことはジャッキー・イクス氏やデレック・ベル氏といったレジェンドのル・マンウィナーが登壇して、ポルシェについて語るプレスカンファレンスが行なわれるなど、歴史と伝統を重視しているのだなという姿勢を感じました。
七五三木氏:私も参加していましたが、そのプレスカンファレンスが行なわれたのはわれわれがサルトサーキットに持っているポルシェ・エクスペリエンス・センターです。そこでは、3日間フルにプログラムをやっています。24時間レースが終わった後には、表彰台の裏側辺りにあったポルシェのホスピタリティブースで関係者などで祝っていると、トヨタ自動車 会長 内山田竹志氏らみなさまが訪ねてくれ、お祝いの言葉をいただきました。
ポルシェの幹部や、アンバサダーを務めていたジャッキー・イクスなどみんなものすごく喜び、トヨタの人たちと写真を撮ることになりました。その時にトヨタの人たちにもカップを持っていただいて写真を撮ったのですが、トヨタの方がぼそっと「オレたち、勝ってないけどいいよな?」って日本語で語っていたのを、私だけが理解したのですが、さすがにほかのポルシェの人たちには言えなかった(笑)。レースをしているときはライバルとして真剣に戦っていますが、レースが終わればそれも終わり。そうしたライバルという存在がいかにかけがいのないものであるのかを目の当たりにして、レースは素晴らしいと心から感じました。
──残念ながらLMP1でのル・マンへの挑戦はその年で終わってしまいましたが、現在もLMGTEでル・マン 24時間に参戦し続け、Formula Eへの参戦を開始します。ポルシェはなぜモータースポーツに参戦し続けているのですか?
七五三木氏:フェルディナント・ポルシェ博士がなぜこの会社を作ったのかというと、軽量で効率がよくてしかも速いスポーツカーが当時なかったからです。スポーツカーを作りたい、それがこの会社のDNAなのです。そしてそれがほぼイコールでレースである。これがポルシェのモータースポーツ活動の神髄。これが無くしては成り立たない、どこの国に行ってもその答えは一緒です。
──現在SUPER GTと併催で行なわれているPCCJ(ポルシェカレラカップジャパン)は、いわゆるカスタマーレーシングとも言うべき、ポルシェの顧客がレーシングカーを購入して楽しむレースです。これは顧客サービスの一環として開催しているのですか?
七五三木氏:PCCJには2つの側面があります。まずはポルシェのオーナーさまに、実際に公道で走っていただけるクルマに近い形でサーキットを走れます。そうしたいわゆるジェントルマンドライバーのお客さまだけでなく、プロのドライバーにも参戦していただいているので、ファンの皆さまにもそうした公道を走っているポルシェに近いクルマでプロがイコールコンディションで戦う姿をお楽しみにいただけます。
もう1つは弊社のお客さまにカスタマーレーシングでポルシェの「味」を100%味わっていただきたいからです。ポルシェの特長は、お買い求めいただいたお客さまに日曜日にはサーキットで思い切り走っていただいて、月曜日には通勤に利用する、このような使い方ができるクルマはほかにはない。非日常を知っていただき、日常でも利用する。その両方をカバーするのがポルシェなのです。
──2017年までのポルシェ 919 Hybirdやこれから参戦するFormula Eなど、ポルシェは電動のレーシングカーに熱心に取り組んでいます。市販車でもそういう動きがあると思いますが、それはなぜですか?
七五三木氏:本社のCEOであるオリバー・ブルーム自身が、2028年には9割のポルシェが電動になると説明しています。ですが、強調したいのはそうだからと言ってもポルシェのスピリットはまったく変わらないということです。
これまでの歴史的に見ても、オイルショックがあったり、CO2の規制が厳しくなったりと環境が変わってきています。その度にポルシェは変わらぬスポーツドライビングの体験を提供してきました。
国によっては2040年にはガソリン車は売れなくなるかもしれない、そうした中でもポルシェのスポーツカーは同じスポーツカーであり続けるということであって、電動化がトレンドだからとかそういうことではないのです。
──自然吸気エンジンがターボになったり、ディーゼルになったり、それが次は電動化になっていく。そのようなことと理解すればよいですか?
七五三木氏:そのとおりです。2019年の9月以降に欧州でリリースされ、来年の頭ぐらいに日本でも投入する計画のEVスポーツカーとなる「タイカン」ですが、実はすでに世界各地の支社の社長は体験しています。スポーツカーの特徴というのは、アクセルを踏んだときに、このぐらいの強さまでパワーが出てほしいという、言ってみればフィーリングを実現するものだと考えていますが、このタイカンでは電気になっただけで、そのフィーリングはポルシェのこれまでのスポーツカーそのもので、思いどおりに動いてくれました。震えましたね、ポルシェってこんな電動車を作れるのだと。
──将来的にこうしたカスタマーレーシングも電動になるのですか?
七五三木氏:そこはまだ明確ではありません。しかし、いろいろな地域で規制があることによってレースを諦めることがないようにしないといけないと考えています。お客さまファーストで、規制をクリアしていきます。具体的にはどういうことかと言えば、よく社内で冗談で言うのですが、かつては馬で通勤していました。今は馬で通勤している人はいませんが、今でも競馬はなくなっていませんし、限られた場所で馬を走らせることができます。今は9割がガソリン車で、将来ガソリン車が公道を走ることはなくなるかもしれませんが、サーキットではそうではないかもしれないということです。
いずれにせよ、再度強調させていただきたいのですが、どんな場合でもレース活動は辞めない、何らかの形でレースは続けます。たとえパワーユニットが変わったとしてもポルシェはポルシェであり続けます。そうしたポルシェのDNAはこれからも何も変わらない、私たちはそう考えています。
このポルシェによるカップ戦が楽しめるPCCJは、今後第11戦まで開催される。
第5戦、第6戦:5月25日(土)~26日(日) 鈴鹿サーキット(SUPER GT 第3戦 鈴鹿と併催)
第7戦、第8戦:6月15日(土)~16日(日) 富士スピードウェイ(Sportscar Together Day[Porsche Experience Day])
第9戦、第10戦:8月3日(土)~4日(日) 富士スピードウェイ(SUPER GT 第5戦 富士と併催)
第11戦:10月11日(金)~13日(日) 鈴鹿サーキット(F1日本グランプリと併催)
その中でも第7戦、第8戦が開催される「Porsche Sportscar Together Day 2019」はポルシェファンのためのイベントとなっており、新型911(992型)を全国のポルシェセンターでの展示に先駆けて初公開するなど、さまざまなプログラムが用意されている。