試乗インプレッション
航続距離438kmのジャガー初フルEV「I-PACE」、その加速力はスーパーカー並み
ワンペダルドライビングのフィーリングはどうか?
2019年4月1日 00:00
ジャガーからBEV(バッテリー式電気自動車)の「I-PACE」がデビューした。ジャガーの各ラインアップにはPHEV(プラグインハイブリッド)も含めたハイブリットはなく、今後の欧州のCO2規制にも不安を残したが、一気にフルEVで前進した格好だ。
しかもI-PACEは本格的なEV(電気自動車)として専用設計されたモデルで、既存のプラットフォームからのコンバートではない。BEVではエンジンを搭載しないためにキャビンの設計が比較的自由になり、I-PACEではキャビンを前に出して居住空間を広くとったキャビンフォワードとしてホイールべースを長くとり、乗り心地や安定性に対して大きなメリットがある。
横から見ると低いボンネットと四隅に配置されたタイヤ、そして長いホイールベースが特徴だ。デザインはセダンにこだわらず全高は無理に抑えていないので、独特のSUVフォルムを持っている。
全長は4695mmとそれほど長くないが、ホイールベースは2990mmとLクラスミニバンほどもある。全幅は1895mmでかなりワイドボディだが、低いボンネットのため、それほど大きくは見えない。全高は1565mmとSUVというよりもちょっと背の高いセダンといった佇まいで、I-PACEのBEVらしいユニークなデザインを際立たせている。
BEVのI-PACEは高性能モーターを前後輪用に2基使い、4輪を駆動する4WDだ。搭載するリチウムイオンバッテリーは総電力量90kWhという大きなもの。ちなみにBEVの日産「リーフ」が40kWh、「e+」で62kWhだから、その出力の大きさが分かりやすい。この大きな電池は12セル×36モジュラーで構成され、強固なシェルに入れられてフロア下に納められている。高性能の軽量モーターは147kW/348Nmのパワーを誇り、このモーターを前後に配置することでトータル294kW/696Nmの出力を出す。パワーにすると400PSである。ジャガーのモーターはレアアースを使った永久磁石で、特徴としては低中速回転での電力損失が少ないと言われる。
車両重量は大きなバッテリーを積んでいるので、パノラマルーフ装着車で2250kgと重量級だが、航続距離はWLTCモードで438kmとされるので、行動半径はかなり広がる。余談だが、フォーミュラEのサポートイベントとして開催されているワンメイクレースの「I-PACE eTROPHY」では装備を外してレース用のパーツを付け、2tを切る重量となっている。というわけで、市街地で争われるI-PACE eTROPHYもなかなか見応えがある。
ボディはジャガー車の例にもれずアルミで作られており、軽量化されているとともに、車体中心の低い位置にバッテリーを置くのでそれを守るアルミフレームや前後のアルミサブフレームなどで、ジャガー車の中でも最も高いねじれ剛性を実現したとされる。ちなみに前後重量配分は50:50となっている。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアは「F-PACE」の改良型インテグラル・リンクで通常モデルはコイルバネだが、オプションでエアサスペンションも選択でき、この場合は車高調整される可変ダンパーとなる。試乗車はこのエアサスペンションだった。
キャビンは広く、明るい。ルーフ全面のガラス・パノラミックルーフは太陽光を吸収し、再放射する特殊コーティングが施されており、なんとも言えない空間で気持ちがいい。ブラインドはなく、その必要もないという。長いキャビンは後席が広いだけでなく、ラゲッジルームも奥行きが広い。ユニークさだけではなく、優れたパッケージングで実用性も高い。EVらしいのは大きなエンジンがないので、ボンネット下にも27Lの小物を置けるスペースがあることだ。
さらに、プロペラシャフトのないメリットを活かして、リアシート下には狭いが手まわり品を置けるスペースが設けられており、リアシートを有効に使えてうれしい。ラゲッジルームはDピラーが寝ているのでバンのようには積めないが、656Lの収納能力がある。もちろんリアシートが倒せるので、一気に1453Lのスペースが出現する。
ドライバーズシートに座ると、視界のよさとヘッドクリアランスがタップリしていることに気付く。電池を収納する関係でフロアが高くなるEVで、予想以上にたっぷりしているのは驚いた。もちろんリアシートも同様だ。
ドライビングポジションも無理のない姿勢で、ペダルやステアリングにも余裕をもって届く。アイポイントはセダンより高いのとボンネットが下がっているので、視界は開けている。
車内のインターフェースは「レンジローバー ヴェラール」で採用したデュアル・タッチスクリーンの「TouchProDuo」をジャガーで初めて採用している。タッチスクリーンに触れて階層に入っていき、各種のセッティングができる。このタイプのインフォテインメントシステムはコントロールスイッチの露出が少ないので、拒否反応が出るとなかなか手ごわいが、I-PACEの場合、少しコツを掴むと感覚的に階層に入っていくことができた。
Touch Pro Duoを使ってクルマ側の設定をする。最初はEVながらクリープができるモードとブレーキ回生を強めにしていよいよ街に乗り出す。
幅の広さが気になるかと思ったが、走り出してしまうと意外と大丈夫で、見切りがいいのは魅力だ。ただし、リアウィンドウの上下幅が狭いので、後方視界は制限される。その代わり、ブラインドスポットモニターといった各種センサーのおかげで、それほど不便は感じなかった。
EVでクリープができるとトルコンATのように走れるので、坂道などでも油断して後ろに下がったりしないのでありがたい。ただ、回生ブレーキを強くしていたのでアクセルを離すとグンと減速してピッチングが大きく出てしまい、同乗者にとってはあまり気持ちのいいものではなかった。アクセルOFFで最大0.2Gの減速Gが出るので結構強い。ブレーキペダルを踏まないでも停止できるワンペダルドライビングが可能だ。このモードで慣れるまでには少し時間がかかるが、回生ブレーキを弱くするとより自然な減速をするが、EVらしいワンペダルドライビングができるので、こちらでもI-PACEを楽しめる。
試乗車はエアサス仕様で「乗降時」「通常」「オフロード時」の3段階の調整が可能。上下の高さは90mm調整できる。ジャガーによると、オフロードモードでは水深500mmまでの走行ができるようだ。スマートな外観以上にタフなEVだ。
また、ひとたびアクセルを踏みこむと、あっという間に高速道路の制限速度まで到達する。その爆発力はスーパーカー並みで、カタログによると0-100km/h加速はわずか4.8秒という。
ドライブモードは「Eco」「Comfort」「Dynamic」がメインで、その他に悪天候時など困難な状況での走行をサポートする「AdSR(アダプティブサーフェイスレスポンス)」というモードがある。各モードではアクセルゲインが異なり、例えばDynamicだと発進でアクセルをちょっと踏むとI-PACEは飛び出しそうになり、走り始めてからのアクセルの反応が非常に鋭い。Comfortでも十分に速いので、通常はEcoかComfortで充分にスムーズで速い。
低重心のためロールは非常に少なく、正確で安定したハンドリングが得られるが、Dynamicではさらにロールが減り、レーシングカーのような姿勢変化の少なさだ。ただ2.2tという重量は依然としてあるので、過信してはいけないと思う。
乗り心地は路面からの凹凸には反応するが、余分な動きはなく快適だ。長距離ドライブでも疲れないのはEV特有の振動の少なさに加えて、このピッチングの少ない乗り心地が貢献している。
将来を見据えた自動運転につながるレベル2の機能にも取り組み、ドライバーコンディションモニターなど、支援機能にも積極的だ。
充電だが、現在普及している家庭用の3kWの充電器ではI-PACEのバッテリーが空になると3日ほどもかかってしまうが、次第に普及が予想される6kWだとその半分になるほか、急速充電器を使ったつなぎ充電と目的地で充電する方法を使うと、にわかに現実的な走行距離になる。
EVは税金の多くが免税となるほか、ガソリンと比べて走行コストが3分の1いう試算もある。価格帯は「S」の959万円から、「FIRST EDITION」の1312万円まで幅広い。まだまだEVは高価だが、将来に開ける技術が注目される。