試乗インプレッション

本格的オフロードコースで感じた、トヨタ「ハイラックス」シリーズの実力

50周年記念モデル「Z“Black Rally Edition”」にもオンロードで乗った

ハイラックスシリーズにオン/オフロード試乗

 トヨタ自動車「ハイラックス」のデビューは1968年。2018年に50周年を迎えたことを記念して、特別仕様車「Z“Black Rally Edition”」が追加発売された。

 ハイラックスは6代目モデルだった2004年に日本国内での販売を終了し、海外専用モデルとなっていた。その主な国は南米とアジアで、生産国もタイ、アルゼンチン、南アフリカなど、海外6か国で生産している。8代目となった2015年以降、日本での販売を希望するファンが増えたとのことで、実際にトヨタのスタッフもオートサロンなどで直接そういったユーザーの声を耳にし、2017年9月に日本への導入を決断したという経緯がある。もともと1000台程度を導入する予定だったが、導入初年度の2017年に約1500台を販売。そして2018年には約6500台を販売しているのだ。日本導入モデルの生産国はタイだ。

 特に日本のカスタマーは、TRD(トヨタカスタマイジング&ディベロップメント)から販売されるアフターパーツ装着率が高いとのことで、今回の特別仕様車向けにも同社から専用パーツがリリースされている。Z“Black Rally Edition”には「オフロードモンスター」というサイドネームが付けられているが、その装備内容は18インチのブラックホイール、ホワイトレタータイヤ、専用バンパー&グリル+オーバーフェンダー。インテリアには専用のブラック加飾とオプティトロンメーターを配置している。

今回の試乗会では、2017年9月に発売を開始したピックアップトラック「ハイラックス」シリーズにオン/オフロードで試乗することができた。写真は2018年12月に発売された、ハイラックス誕生50周年記念モデル「Z“Black Rally Edition”」(394万7400円)。ボディサイズは5320×1885×1800mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3085mm。車両重量は2090kg
Z“Black Rally Edition”はハイラックスの上級グレード「Z」をベースに、専用デザインのアルミホイールやフロントグリル、バンパーなど採用し、これらをブラック塗装で統一。また、4輪の存在感を強調するブラック塗装のオーバーフェンダーや18インチのホワイトレタータイヤ(265/60 R18)、ブラックメタリック塗装のドアミラー&アウトサイドドアハンドル、ブラック塗装のテールゲートハンドル、グレー塗装のリアバンパーなどによってベース車との差別化を図っている
インテリアではオプティトロンメーターに専用デザインが与えられるとともに、ステアリングホイール、ダッシュボード、ドアトリム、サイドレジスター、シフトレバーベゼルなどにブラックメタリック加飾を設定。ルーフヘッドライニングやピラーガーニッシュ、ルームパーテーション、バックパネルトリムなどは、通常のホワイト系からブラックに変更されている
直列4気筒2.4リッター直噴ディーゼル「2GD-FTV」型エンジンは、最高出力110kW(150PS)/3400rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/1600-2000rpmを発生。JC08モード燃費は11.8km/L。トランスミッションは6速ATで、パートタイム4WDシステムにより4輪を駆動

 世界販売されるハイラックスが搭載するエンジンは、ガソリンエンジン2種にディーゼルエンジン2種。このうち日本に導入されているのは2.4リッターターボの1種類。最高出力150PS/3400rpm、最大トルク400Nm/1600-2000rpmを発生し、これに6速AT+副変速機を採用したパートタイム式4WDという組み合わせ。

試乗会会場には冷凍車、欧州仕様車、南ア仕様車、TRD用品装着車など、さまざまなバリエーションのハイラックスが展示されていた

道なき道のある国で人気な理由

 2年前に日本再導入された際に試乗したので、その時のレポートはこちらを参照してほしい。このときの試乗では主に一般道を走行。プラスして試乗会場に特設されたプチクロカンコースを走行したが、今回は岩場もありの本格的なオフロードコースでの試乗。試乗会場は愛知県の猿投アドベンチャーフィールドだ。本格的オフロードコースなら副変速機をローレンジに入れて急な登降坂を走ることもできる。オフロード性能が優秀だからこそ、新興国での販売が好調なハイラックスの真価を感じることができるというもの。さっそく走り出してみよう。

 コースは予想以上に狭く、ステアリングをフルロックまで切ってやっと曲がれるようなカーブもいくつかある。コースインしてやってきたのは、いきなり25度の登坂。しかも狭い上に路面がわるいというレベルではなく、かなり掘れ込んだ凸凹がそこら中に展開する。「マジかよ、ボクまだ慣れていないんですけど、いきなりコレ行かせるの?」と心の中で焦る。サーキットは得意ですけど、こういうのはちょっとね……(笑)。

 こういう時はクルマの性能に頼るに限る。最初からオフロードモードのトップレベルのL4(4WDローレンジ)にセットする。L4にセットするにはATのセレクターを一度ニュートラルにしてからの操作となる。アクセルを踏み込むといとも簡単に上り始める。L4はローギヤードレンジだから、3速1500rpmぐらいでも力強い。しかし掘れ込まれた凸凹を通過するたびに、やはりタイヤが空転して速度が落ちる。ただし、空転した瞬間にそのタイヤにブレーキをかけて、駆動が逃げないようにしてしっかりと4輪で上っていく。なるほど、こんなに簡単に急な上り坂をこなすのだから、ジャングルのような道なき道のある国で人気があるわけなのだと納得。

 ところで、ダッシュパネルにはリアデフロックのボタンが存在する。そこでリアデフロックをONにしてみると、今度はブレーキ制御が入らない。これは当然で、ブレーキを使わなくても4輪が空転することはないのだから。しかもトラクションコントロールもOFFになる。こちらも安心してこの急登坂を上っていくのだが、先ほどの急な曲がり角では曲がらない。これも至極当然で、デフロックだからリアの左右輪に差動が発生せず、曲がりにくいのだ。つまり、真っ直ぐな坂ならまだしも、曲がりくねった道ではデフロックよりもブレーキ制御の方が賢く走れるというわけ。

 そこでもう一度同じ坂に戻り、今度はH2で登れないか試すことにした。H2とはハイギヤードレンジの2駆ということ。つまり、一般舗装路を走る後輪駆動のモードだ。そう、ハイラックスはエンジン縦置きのFRベースの4WDなのだ。意地悪だが、普通に一般路を走ることを想定する同モードでこの坂道にチャレンジ。すると最初は普通に上り始めたが、やはりすぐに後輪が空転して上れなくなる。そこで先ほどのダッシュパネルにあるダイヤルをH4(ハイギヤードの4WD)にセット。今度はまったく問題なく上り始めた。

 しかし、このモードだと最初にL4で走行した時のようなブレーキ制御は行なわず、空転した場合は普通のトラクションコントロールとなるため車輪が止まってしまって上れなくなるらしい。そこでやはりL4にセットすることである程度空転を許すトラクションコントロールモード(アクティブトラクションコントロール)になり、さらにそこにブレーキによる制御で駆動が逃げることを制御する。つまりL4はただローギヤードの4WDになるだけではなく、電子制御のコントロール系も含めてオフロード専用のプログラムになるわけなのだ。

 上ったら今度は下りである。やはり急な下り坂に。ここではダウンヒルアシストコントロール(いわゆるヒルディセントコントロール)のスイッチをONにして、約4km/hに速度をコントロールしながらゆっくりと安心な速度で下ってゆく。ドライバーはアクセルもブレーキも踏まず、ただステアリング操作に集中していればよく安全だ。

 その後、ひと通りオフロードコースを走ったが、オフロードでもかなり乗り心地と室内静粛性が高いことが印象的だった。これは一般道でのオンロード試乗でも感じたことだが、ラダーフレームを採用するモデルに共通して言えることで、「プラド」しかり「ジムニー」しかりなのだ。このラダーフレームに、フロントはコイルスプリングのダブルウィッシュボーン式サスペンション、リアはリーフスプリング式のリジットを採用する。このリーフスプリングは5枚重ねられていて、通常は3枚が機能し、荷物を積んで荷重が増えると残りの2枚も機能する仕組みになっている。

 ところで、最近は都内でも小型の建売住宅が好調のようで、その玄関先には必ずと言っていいほど駐車スペースが設けられている。都内でよく見かけるのがドイツ製SUVか「アルファード/ヴェルファイア」、ときどき「CX-5」や「CX-8」といったところ。お洒落な家にはスタイリッシュSUVかミニバンが定番になっている。そう、クルマも家を飾るファッションアイテムなのだ。ここにZ“Black Rally Edition”が置かれていれば、かなり渋いと思うがどうだろう?

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在64歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

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Photo:安田 剛