インプレッション

トヨタ「ハイラックス」(車両型式:QDF-GUN125-DTTHH)

日本でも復活した8代目、オンロード&オフロードでの実力は?

 ピックアップトラック。ボクがインディ500に挑戦していた1990年代、チームのメカさんたちの半分はこのピックアップトラックに乗ってサーキットに通っていた。工具類やバッグなどをポーンと荷台に放り込み、さっそうと走り出す姿を思い出す。アメリカしてたなぁ!あのころは。それくらいにピックアップトラックは印象的だったのだ。今も米国では、若者を中心にSUVとともにとても人気のあるモデルだ。

 それを証明するかのように、2017年のLAモーターショーにはたくさんのピックアップトラックが出展されていた。とくに、トヨタ自動車のブースには「ハイラックス」の米国版ともいえる「タコマ」と大型の「タンドラ」が展示されていた。しかも、ただ展示されているだけではなくTRD製品によってさまざまな加飾が施され、そのアクセサリー製品の数の多さにかなりビックリ! とにかく、かなりのスペースにトヨタ製ピックアップトラックのカスタマイズモデルがズラリと並んでいた。

 少し時間が経ってしまったが、日本でもハイラックスが復活している。ハイラックスは1968年に初代モデルが発売され、6代目モデルが2004年に日本国内での販売を終了。その後、7代目モデルは日本に導入されなかった。というわけで、現行モデルは8代目。そして、今回日本でも再販されることになったのだ。しかし、このハイラックスは日本では製造しておらず、タイにあるトヨタ・モーター・タイランドのバンポー工場で製造されている。従って、8代目ハイラックスは輸入車ということになる。タイで製造する理由の1つに、“ASEAN加盟国で製造することによって、加盟国間でのクルマの輸入関税が低くなる”ということがある。つまり、ハイラックスはASEAN諸国でかなりの人気モデルなのだ。

試乗車となったハイラックス Z。ボディカラーは「アティチュードブラックマイカ」で価格は374万2200円

 では、8代目ハイラックスの日本導入モデルのスペックを簡単に紹介しよう。ハイラックスのようなモデルをピックアップトラックと呼んでいるが、日本での正式な呼び方はボンネットトラックなのだそうだ。キャビンと荷台が一体になったものをピックアップトラックと呼び、別々なものはボンネットトラック。つまり、ハイラックスはキャビンと荷台がセパレートしている。ボディサイズは5335×1855×1800mm(全長×全幅×全高)とそれなりに大きい。ただ、全幅1855mmは大きさの割に日本の道路事情にマッチしていると言える。実際、運転していてもそれほど大きさを感じなかった。アイポイントの高さも手伝って、運転はとてもしやすい。エンジンは1種類のターボディーゼルのみで、直列4気筒2.4リッターの排気量から150PS/400Nmを発生。トランスミッションは6速AT。これに副変速機がプラスされたパートタイム4WDだ。

ハイラックス Zのインパネ。オートエアコンは標準装備で、T-Connectナビはディーラーオプション(20万4120円高)
シルバー加飾付きの本革巻きステアリング、クルーズコントロールを標準装備
6速ATはノーマルモードに加え、右側のスイッチ操作でエコモード、パワーモードに切り替えることも可能
直列4気筒 2.4リッター直噴ディーゼル「2GD-FTV」型エンジンは、最高出力110kW(150PS)/3400rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1600-2000rpmを発生。JC08モード燃費は11.8km/L

 ハイラックスの特徴であり今や個性とも言えるのが、近年流行りとなり常識化しつつあるモノコック構造ではなく、キャビンと別体のラダーフレームを有することだ。トヨタのSUVにはこのラダーフレーム構造を持つモデルがいくつかある。「ランドクルーザー」「ランドクルーザープラド」がそれだ。これらの車種はトヨタのカンパニー制の中でCVカンパニーが開発・生産を手掛けている。

試乗の合間に開発担当者にインタビュー。8代目となるハイラックスは、当初は日本導入の予定がなく、日本で販売するために必要な装備の追加に苦労したとのこと。左フロントのサイドアンダーミラーは大型ヘッドライトの影響からアームが長くなり、リアのナンバープレートは上側からベースを伸ばして固定しているという

この快適さに触れたら欲しくなる

 運転席に座ると、わりと乗用車っぽいドライビングポジション。予想はもっとベンチに座るように立ったポジションを想像していたのだが、とてもコンフォタブルだ。ステアリングは革巻きでステッチが見えるスポーティなもの。Aピラー付け根のドアミラーステー内側にはオーディオのツイーターが装備されていて、明らかに過去の商用車というイメージはない。それと、室内がとっても静かでハーシュ(突き上げ)をあまり感じない。実はこれ、ラダーフレームを持つクルマに共通したもので、フレームの上にキャビンが乗ることで、この接続部分もある種のクッションの役目を果たすことから、タイヤから伝わる振動や音が小さくなる効果があるのだ。

 ただし、大きめの突起を通過したときのリアの跳ね感はそこそこある。これは、荷台の積載重量が500kgと余裕があり、それに対応する板バネがリアサスペンションに装着されているから。フロントはコイルスプリングのダブルウィッシュボーン式サスペンションだが、リアはリーフスプリング式のリジットなのだ。このリーフスプリングは5枚重ねられていて、通常は3枚が機能し、荷物を積んで荷重が増えると残りの2枚も機能する仕組みになっている。試乗時は空荷なので、大きな入力があったときはわずかにこの2枚が作用するようだ。しかし、シートの衝撃吸収力がいいので不快感はそれほどではない。トランスミッションのドライブモードバリエーションも3種類あり、エコモード、ノーマルモード、パワーモードがチョイスできる。

全幅は1855mmあるが、視点が高くて運転しやすい。タイヤからの衝撃をフレームとキャビンのあいだでも吸収できるので、シートの衝撃吸収力がいいことも合わせて乗り心地が良好
ハイラックス Zはアルミホイールを標準装備。タイヤサイズは全車265/65 R17で、試乗車はブリヂストンの「DUELER AT」を装着

 公道での試乗はかなり快適で、日ごろは荷物を載せることがない人でもこの快適さに触れたら欲しくなる、と言えるほどのもの。ディーゼルだし経済性も高そうだ。そこで、今度はオフロード性能を試すために、試乗会場内に設けられた丸太を使ったプチクロカンコースを走る。ここでの走行は、ステアリングコラムの左下にあるトランスファーの切り替えスイッチをL4モードに切り替える。このモードは3種類あり、通常はH2モードにセットしているが、これは後輪の2輪駆動。H4モードにセットすれば通常走行での4WDだ。そしてこのL4モードでは高いスピードは出ない代わりに駆動力が増す。

トヨタ「ハイラックス」の丸太モーグル走行(41秒)
試乗会場には海外のオフロードレースに参戦している2台のハイラックスも展示
TEAM JAOSからアジアクロスカントリーラリーのT1Dクラスに参戦した「TEAM JAOS HILUX AXCR 2017 Ver.」。“ドアがない状態”をプリントしたカッティングシートをドアパネルに貼った「スケルトングラフィック」も特徴的
過酷なレースを走り抜くために生み出されたマシンだけに、ノーマルのハイラックス以上に軽々と丸太コースをクリアしていく

 ハイラックスの4WDは基本的にパートタイム4WDだが、リアデフをロックすることもできる。丸太越えでは1輪が浮いた3輪走行時にリアデフをロックしなくてもいとも簡単に通過することができるのだ。これは、空転するタイヤ1輪だけに自動的にブレーキをかけて、空転を抑えて駆動力が分散しないようにする「アクティブトラクションコントロール」というシステム。デフをロックするとタイヤの差動がなくなるので曲がりにくくなる。ここでは真っ直ぐの丸太越えだからデフロックも有効だが、岩場や雪道などでは差動も生かしたアクティブトラクションコントロールの方が使いやすい。ただ、最初にタイヤが空転し、そこから制御し始めるので少し不安を感じるのだが、慣れてしまえば問題ナシ。

TRD(トヨタテクノクラフト)製のパーツを多数装着した「TRD ハイラックス」
デッキスペース上に追加して収納量を拡大する「キャノピー」(税別36万円)は、油圧ダンパーで後方と左側のハッチが開く。カラーは写真のレッドのほか、ホワイトとブラックを用意
キャノピーはABS樹脂製。金属製のパーツでサイドパネルにがっちりと固定される
スチール製でレッドにカラーリングされた「フロントアンダーカバー」(税別4万円)やABS樹脂製の「フロントバンパーカバー」(税別3万5000円)などを装着
金属製で乗降性が高まる「サイドステップ」(税別10万円)。全幅が60mmワイドになる「オーバーフェンダー」(税別8万円)は、装着時に車両構造変更が必要で持込登録となる

 試乗会場にはTRD製のアクセサリーパーツを組み込んだモデルも展示されていたが、かなりスポーティでカッコいい。ベースのデザインでもかなりスタイリッシュだから、ちょっとしたブームが起こりそうな予感がする。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在63歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:安田 剛