試乗インプレッション

ジャガー初のEV「I-PACE」、400PS&4WDのパフォーマンスに驚く

前後バランスに優れ、正確なハンドリングとライントレース性能を実現

ジャガー初のEV(電気自動車)で、“エレクトリック・パフォーマンスSUV”と呼ばれる「I-PACE」に米国で試乗。日本では2018年9月に受注を開始しており、価格は959万円~1312万円

ジャガー初のEV

 世界の自動車メーカーは今、EV(電気自動車)に夢中だ。ボク自身、2018年11月に中国 広州モーターショーで進化し続ける中国製EVを目の当たりにし、また試乗も行ない驚きを隠せないでいる。中国製EVの話は別レポートで掲載する予定なのでお楽しみに。

 ここでのお話は、ジャガー初のEVである「I-PACE(アイ ペイス)」にいち早く米国ロサンゼルスで試乗したこと。WCOTY(ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー)の選考委員が集まり開催される合同試乗会での試乗だ。したがって、自動車メーカーが開催する試乗会ではない。それゆえ試乗コースも自由で、市街地から高速道路、そして箱根のようなワインディングを走ってきたので、その印象をお伝えしよう。

I-PACEのインテリア。ジャガーとして初めてAI学習機能を利用した「スマート・セッティング」を採用したのがトピックの1つで、リモートキーとスマートフォンのBluetoothを利用し、ドライバーが車両に近づくと自動的に認識。ドライバーごとにシート位置、空調の温度設定、インフォテインメントなどを自動調整する機能を備える

 ジャガーはI-PACEを「エレクトリック・パフォーマンスSUV」と呼んでいる。だからそのEVシステムにも興味はあるが、それよりもハンドリングはどうなのか? 前後に2つのモーターを搭載したI-PACEは4WD。そのことを念頭に、エンジェルスクレスト・ハイウェイという箱根のようなワインディングを走ってみた。ドライブモードはスポーツ。I-PACEはエアサスなので、ドライブモードによってサスペンションの硬さが変わる。

 乗り始めてすぐに感じるのは、これまでのジャガーのような猫足ではない。予想よりはるかにハード系のサスペンションセッティングだ。たしかに22インチのホイールにセットされているタイヤサイズは255/40 R22。今どき40%扁平はそう珍しくもないが、さすがに22インチホイールに装着されたルックスは迫力がある。そのアグレッシブな印象がそのままのサスペンションフィールだ。ただし、硬いものの路面のアンジュレーションにボディが跳ねるといったことはなく、しっかりと路面に追従している。

試乗車が装着していた22インチホイール。タイヤはピレリ「P ZERO」(255/40 R22)

 よくよく観察すると、路面からの入力がタイヤに入った瞬間にサスペンションが吸収している。その動きはごくわずか。そして、すぐに硬まったかのようにハードなフィーリングに変化している。ステアリング操作への反応も同じように、ステア初期に少しだけロールするがその後は硬い。エアサス以外の情報では、フロントがダブルウィッシュボーン式で、リアはインテグラル・リンク式だ。インテグラル・リンク式はBMWも採用していて、ダブルウィッシュボーン式やマルチリンク式の仲間と考えてよい。乗り心地重視でハンドリングも犠牲にしないサスペンションシステムだ。

 22インチタイヤで乗り心地を損なわず、このハードなサスペンションはドライバーの心をくすぐる。個人的な好みは昔のジャガーのような動系サスペンションだが、硬くとも跳ねないこの足ならアクセルを踏んでみたくなる。そこでペースを上げてみた。

I-PACEのボディサイズは4682×2011×1565mm(全長×全幅×全高。全幅はミラーを除く)で、ホイールベースは2990mm(数値は欧州仕様参考値)。このボディに90kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載するとともに、2つのジャガー製モーターを採用し、合計の最高出力は400PS、最大トルクは696Nmを発生

 まず驚くのはペースを上げても車体の落ち着き感、そしてキャビン内の快適感に変化が少ないこと。なにかエンジン音のような、おそらく演出による作り出された音だと思うが、その高鳴りはあるもののクルマ内外のスタビリティに変化が少ない。安定しているのだ。そしてコーナリング中はこれまで感じなかったロール感がある。といっても、速度に比例してロールを明らかに感じ取れるようになったが、腰がしっかりとしているので柔らかいと感じることはない。コーナーへのターンインから小さい操舵角で(本当に小さい)進入。これがとてもスムーズで安定感抜群! やはり90kWhものリチウムイオンバッテリーを2990mmのホイールベースセンターに低く敷き詰めて、前後重量配分50:50にしているだけのことはある。前後のバランスがとにかくよい。

 米国といえども、ここの車線幅はそれほど広くない。箱根とそれほど変わらないイメージだ。I-PACEのディメンションは4682×2011×1565mm(全長×全幅×全高)。これはジャガー「F-PACE(Fペイス)」とほぼ同じサイズ。それなりの車幅があるのに大きさを感じさせないのは、この正確なハンドリングとライントレース性能のおかげだろう。

車体はI-PACE専用に開発された、94%にアルミニウムを使用する軽量・高剛性な「アルミニウム・アーキテクチャー」を採用。ボディ構造の一部としてフロントとリアにアルミニウム製のサブフレームを備え、その間に低い位置でバッテリーフレームをレイアウトすることで50:50の前後重量配分と“ジャガー史上最も高い”というねじり剛性(36kNm/deg)を実現

 実はこのとき、同じ試乗会に参加する別車両がボクのドライブするI-PACEをロックオンしていた。そのモデルはBMW「M2 コンペティション」で、ドライブしているのは同じWCOTYのジャーナリスト。それなりのスキルがあるようでピタリと付いてきている。そこで、あくまでもコントロールの範囲内でペースアップする。コーナー立ち上がり加速ではI-PACEが持つ400PS/696Nm(0-100km/h加速は4.8秒)の、しかも4WDによるリッチなトラクション性能がモノをいうようで、ミラーのなかのM2が若干小さくなっていく。M2も敵ではないことが分かった。恐るべしI-PACEのパフォーマンス。

 このスポーティなコーナリングで感心したのは、コーナーに進入してタイヤのグリップ限界に近づいたところで早めにアクセルを全開にすると、4WDによるベクタリング効果なのか前後輪のバランスがとれて、よりスムーズにコーナリングすること。EVゆえに電子制御が働いたときのコントロールが正確でしかもデジタルな速さ。走りに関してはテスラとタメを張れるかそれ以上だろう。

 SUVとしての使い勝手という見地では、センターアームレスト下に10.5Lの収納、そしてリアシート後方のラゲッジスペース容量が656Lとかなり広い。インテリアの質感もジャガーならではの仕上がりだ。

 また、105km/h以上の速度になると、エアサスが車高を約10mm自動的に下げて空気抵抗を減少させ、燃費ならぬ電費をよくする。その航続距離は470km(WLTPサイクル)。90kWhの容量を持つリチウムイオン電池は急速充電40分で80%を充電。15分チャージすれば約100kmの走行が可能となる。一般家庭充電では約10時間で80%の充電が可能。やはり電池容量が大きいとそれなりの時間がかかるのは致し方ないところ。しかし-40℃(一般的なEVは-30℃まで)の環境でもパフォーマンステストを実施して開発したという。ジャガーの厳しい保安基準をクリアしているのだ。日本国内でもテスラを見るように、I-PACEが走りまわる日が楽しみだ。

【お詫びと訂正】記事初出時、一部数値に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在64歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

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Photo:佐藤靖彦