試乗インプレッション

V6エンジンに置き換わったアウディ「RS 5」、高いパフォーマンスと実用性

新設計のV6 2.9リッターツインターボはスーパースポーツに匹敵する性能

さりげなくタダモノではない

 1263万円という車両価格は、「A5 クーペ」のエントリーモデルに対して倍とはいかないまでも、かなりの差額。そして間を埋める「S5」に対しても372万円高い。その価値はいかに……?

 最大の関心事であるエンジンについて、従来の4.2リッターV8自然吸気に代えて、2.9リッターV6ツインターボに換装されたのが現行「RS 5」の特筆すべきポイントだ。それについては後ほど詳しく述べるとして、まずは見た目の話から。

 往年の「アウディ クワトロ」を彷彿とさせる15mmワイドとなるブリスターフェンダーを備えたボディや、各部に配されたシルバーのアクセント、専用のシングルフレームグリルやハニカムのエアインレットなど、RSモデルとしてのアイテムの数々が与えられた外観は、やはり標準系とは異質の空気を放っている。とはいえ、あくまでさりげないところがRSモデル、ひいてはアウディらしい。

日本では2017年6月にデビューしたプレミアムスポーツクーペ「RS 5 クーペ」(1257万円)は、アウディのハイエンドスポーツモデルを手がける「Audi Sport GmbH」が開発したA5シリーズのトップモデル。ボディサイズは4725×1860×1365mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2765mm
エクステリアでは専用シングルフレームグリルや大型エアインレット、専用デザインの前後バンパー、リアディフューザーを装着。20インチアルミホイールにピレリ「P ZERO」(275/30 ZR20)をセット。撮影車はオプションのカーボンスタイリングパッケージ(63万円)、セラミックブレーキ(フロント。84万円)、RSスポーツエキゾーストシステム(17万円)などを装着

 身体を包み込むような高いホールド性を提供するファインナッパレザーのSスポーツシートに収まると、各部に配された赤のステッチやバックスキンのパーツ、アルミニウムのデコラティブパネルなどが目に入る。これまたさりげなく、それでいてタダモノではない雰囲気を感じさせる。

 いろいろアップデートの早いアウディのことなで、まだ世に出てそれほど時間の経過していないRS 5ですらインターフェイス系にすでに古さを感じるのは否めないが、先進安全運転支援装備も含め機能面では十分に充実していることには違いない。

 また、居住性に優れ、広くて使いやすいトランクや、成人男性でも問題なく座れるリアシートなど、以下で伝える高いパフォーマンスを身に着けながら、日常の足として使える実用性を兼ね備えていることも、このクルマの特徴であり本質でもある。

ブラックインテリアではダイヤモンドステッチングを施したファインナッパレザーの「Sスポーツシート」を装備するとともに、アルミニウムレースアンスラサイトのデコラティブパネルをレイアウト

スーパースポーツに匹敵する性能

 新設計の2.9リッターV6ツインターボエンジンの450PS、600Nmというスペックは、V8だった従来型に対して最高出力は同値、最大トルクは実に170Nm増となる。ご参考まで、S5と比べると約100PS/100Nm、「A5 2.0 45 TFSI」に対しては約200PSS/230Nmもそれぞれ高い数値となり、まぎれもなくRSの称号が相応しいもの。0-100km/h加速も3.9秒と、4秒を切っているからかなりのものだ。

エンジンは先代で採用していたV型8気筒DOHC 4.2リッター自然吸気エンジンから、新開発のV型6気筒DOHC 2.9リッターツインターボエンジンにスイッチしつつ、最高出力はこれまでどおりの331kW(450PS)、最大トルクは170Nmアップの600Nmを発生。JC08モード燃費は10.7km/L

 ドライブすると期待どおり、どこからでもついてくるという表現がまさしくピッタリのパワフルな加速フィールに圧倒される。1900-5000rpmというワイドな回転域で最大トルクをフラットに発生するだけあって、下からずっと力強い。さらにはターボ付きとは思えないほどのシャープなアクセルレスポンスにも感心させられる。これにはVバンクの間に配置された2基のターボチャージャーを経て最短距離で燃焼室に最適に空気を導くという「デュアルブランチシステム」も効いていることに違いない。そのままトップエンドまで勢いを衰えさせることなく伸びやかに吹け上がる。スーパースポーツとはまったく異質の控えめなルックスながら、性能はスーパースポーツに匹敵する。

 組み合わされるトランスミッションは、DCTの「Sトロニック」ではなくトルコンATの8速「ティプトロニック」となるのも個人的には歓迎だ。おそらく許容トルク容量の問題によると思われるが、SトロニックもDCTとしてはかなりスムーズとはいうものの、やはりティプトロニックには敵わないし、シフトチェンジは極めて素早く、ダイレクト感でもまったくひけをとらないほどよくできているからだ。

 V8からV6になってどうなるのかが気になるエキゾーストサウンドも、RSモデルとして期待されるものはしっかり受け継いでいる。低く響くサウンドは十分に迫力があり、物足りなさを感じることもない。ダイナミックモードを選ぶとより瞬発力と音量が増し、アクセルOFF時にもパラパラとレーシーな音をたてるようになる。

軽快な中にも重厚な味わい

 全体的なドライブフィールが、従来のRS 5が持っていた重厚感とは異質の軽やかな乗り味となったことも特徴だ。ただし、軽快感の際立つS5に比べると、RS 5は軽快な中にもいくぶん重厚な味わいが残されているように感じられたのは、RSモデルへのアウディのこだわりかもしれない。

 前後5リンクウィッシュボーン式の足まわりは接地性に優れ、可変ダンパー機構のダイナミックライドコントロール(DRC)を備えた「RSスポーツサスペンション」が与えられる。RSモデルらしく引き締められた足まわりが、ガッチリと路面を捉える感覚を伝えてくる。ハイペースのコーナリングでもビクともしない。

 そういえば、このクラスのメルセデスAMG 63シリーズやBMWのMモデルは後輪駆動のみの設定であるのに対し、アウディのRSはクワトロだ。操縦安定性は極めて高く、限界がはるか彼方にある印象を受けるのは、それもあってのことに違いない。

 さらにリア左右輪間のトルク配分をアクティブに制御するスポーツディファレンシャルが、適宜リアの旋回外輪を増速してくれるので、タイトコーナーでも小舵角でターンインできて、ノーズがインを向いたままグイグイと加速して立ち上がっていける。普通ならばプッシュアンダーステアが出そうな状況でも、その兆候すら感じさせない。

 走りの本質はとても刺激的でありながら、それをひけらかす感じではない。あくまでさりげなく高性能を堪能させてくれる。それがRS 5 クーペが持つ世界観ということだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸