試乗レポート

アウディのスポーツモデルの頂点「RS 5 クーペ」とSUVモデルの「RS Q8」それぞれの魅力とは

アウディのレーシングスポーツ=RSの名が付いた2台を試乗

スポーツカーのあらゆる要素が詰まっているRS 5 クーペ

 アウディ・スポーツモデルの頂点に立つのがRSだ。今もボクに強烈な印象を残しているのはV型8気筒 4.2リッターを搭載した「RS 4」。自然吸気のストレートに伸びる圧倒的なパワーとそれを受け止める強靭なシャシーに絶句し、そして夢中になった。「最後のV型8気筒 4.2リッター自然吸気エンジンになるかもしれないから乗っておいた方がいい」と勧めてくれた人がいて試乗した。最初は馬力の大きなスポ―ツバージョンだと思っていたが、乗ってビックリ、本気のスポーツカーだった。今もそのアドバイスに感謝している。

 その刺激的な体験から「RSはタダモノじゃない」という思いが常にあった。そもそもRSは「Racing Sport」の略。名前からして気合が入っている。その名の通り、サーキットもこなせる能力をもったクルマだった。

 さて、久しぶりのRSはまずA5クーペをベースとした「RS 5 クーペ」からスタートした。端正なデザインの正統派ノッチバック2ドアクーペである。

ボディサイズは4715×1860×1365mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2765mm、車重は1750kg。価格は1340万円
ルームミラーに内蔵されたカメラが対向車や先行車を検知すると、直接光を照射しないようにコントロールしつつ、それ以外の車間エリアや周辺は明るく照らし続けるマトリクスLEDヘッドライト/レーザーハイビーム
LEDリアライトには、ダイナミックで視認性の高い照明パターンを展開するターンインディケーターを搭載。帯状のLEDライトの各セグメントが順次点滅し、クルマが曲がる方向に内側から外側に向かって伸びるように発光する
試乗車はRSスポーツエグゾーストシステムを装備(価格19万円)
スポーティなグロスレッド塗装はオプション。フロントキャリパー、リアキャリパーともにRSのロゴが入る(価格96万円)

 おとなしいホワイトのボディに履いた大径ホイールからのぞく伝統のドリルドブレーキローターに6ポッドの巨大な赤いブレーキキャリパーが見える。他のA5と同じ120㎜の最低地上高がさらに低く見えるのは扁平率の小さな275/30ZR20のコンチネンタル・スポーツコンタクト6のためだろう。

 ボディサイズは4715×1860×1365mm(全長×全幅×全高)で、ベースとなっているA5とは全長で10mm、全幅で15mm広げられている。日本ではラージサイズだが乗ってみるとそれ程サイズ感はない。

フルデジタル高解像度12.3インチ液晶ディスプレイのバーチャルコクピットは、RSモデル専用表示メニューとして、中央に回転計を配し、パワー/トルク、Gメーター、タイヤプレッシャーモニタリングを併せて表示できる
前席はホールド性の高いスポーツシートを採用。シートサイドボルスターはコーナリングの際、身体をしっかりサポートする形状になっている。運転席のシートの高さ・前後スライド・アングル、リクライニングの調整は電動調整式となっている。撮影車両はオプションのシートヒーターも装着(価格7万円)

 低い位置にあるシートに体を落すように入れ、ドライビングポジションを取るといつものアウディのコックピットはスポーツカーのように変身する。メータパネルもRS特有のもので、トルクなどの現在情報を拾い上げることができる。

 エンジンはV型6気筒 2893ccターボで、出力は331Kw(450PS)/600Nm(61.2kgm)。始動すると低く整った乾いたエキゾーストノートが響く。いかにも高性能ターボエンジンらしい特性で1790kgの車両重量を引っ張る。このエンジンは柔軟性があって低速走行でも行儀がよく使いやすい。むしろスポーツカーを感じるのは走り出してすぐに伝わる路面からの正確なフィードバックだ。

V型6気筒 2.9リッターターボエンジン。最高出力450PS/5700-6700rpm。最大トルク600Nm/1900-5000rpm。燃費はWLTCモードで9.9km/L。オプションのカーボンスタイリングパッケージを追加したことで、カーボンエンジンカバーが装着されている(価格80万円)

 路面の凹凸に反応してシートに伝わってくるほど足まわりは固められており、シートも「硬いな」と感じさせるが不思議と不快感はなくバネ上の動きはスッキリしている。

 しかも速度を上げるに従って、ピシリとするところが爽快で、加えてスッキリ切れるハンドルにタイヤは正確に反応し、操舵に応じて路面を掴みながらヒラリと姿勢を変える。ロールはほとんど感じない。RSらしいキビキビした動きとボディの高い剛性は伝統でRSはいいなと思える瞬間である。

エンジンは例のRS4のV型8気筒の自然吸気のような突き抜ける感じではないが、全域トルクの塊で、どこから踏んでもレスポンスよくグイグイと引っ張っていく。まさにRSの名に相応しい

 タイトなコーナーでも押し出されるように感触もなく高い旋回力を発揮し、まして中高速コーナーは手首の動きだけでスーと回っていく。その地を這うような安定感は素晴らしく、スポーツカー好きなら誰でも心に響くものがある。

 最初は硬いと感じたシートも慣れてくるとフィット感が心地よく、まったく気にならなくなった。実際にサスペンションの上下収束とシートのそれが同調するようにバランスされており、クルマとの一体感を強く感じさせてくれる。

走れば走るほど手足の一部のように感じられ、ドライビングの楽しさをどの速度域でも感じさせてくれるのは嬉しい

 トランスミッションは8速ティプトロニックを採用。終始滑らかな変速で小気味よくシフトしていく様が心地よい。トルクの大きなエンジンとの組み合わせは街中や郊外路、山道まで必要に応じて変速していくが、初期のSトロニックにあったような迷うようなそぶりは見せず滑らかだ。

 アウディらしい硬質に回るエンジン、高いボディ剛性、接地面変化の少ないサスペンション、そしてスポーツカーとして何より大切なクルマとの一体感など、RS 5 クーペにはスポーツカーのあらゆる要素が詰まっている。

Q8のDNAはそのままに、RSのパフォーマンスを追加

 RSにもラージサイズSUVの波が押し寄せてきた。アウディSUVの頂点に立つ「RS Q8」である。

ボディサイズは5010×2000×1700mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2995m、車重は2410kg。ボディカラーはオプションのギャラクシーブルーメタリック。価格は1869万円
ハニカムデザインの八角形シングルフレームグリルはハイグロスブラックに塗装される
ハイビームのユニットを横2列とすることで高精細な照射を可能としたHDマトリクスLEDヘッドライト
5Yスポークローター マットチタニウムルックデザインの23インチアルミホイールを装着。タイヤはコンチネンタルのスポーツコンタクト6

 RS Q8は全長5mを超える5010mm、全幅はジャスト2m、全高1700mmという大きなSUVだ。ホイールベースも3mに近い2995mmとミニバン並みの長さを持ち、車両重量は2410kgと重量級。これだけのサイズと重量で、ちょっと気が重くなるドライブかと思いきや、予想以上のパフォーマンスでRSらしいSUVに仕上がっていた。

 それと言うのも最新のV型8気筒 4.0リッターツインターボの出力は600PSにもおよび、トルクも800Nmを広い回転域で発生してこの重量を打ち消している。不思議なものでパワーに余裕があるとサイズも気にならなくなることだ。

パワートレーンは、V型8気筒 4.0リッターターボエンジン(最高出力600PS/6000rpm、最大トルク800Nm/2200-4500rpm)に、走行中に発生させた回生エネルギーを48Vのリチウムイオンバッテリーに蓄え、各システムに電力を供給するマイルドハイブリッド(MHEV)システムと高速道路などでのクルージング走行などで8気筒のうち4気筒を自動的に休止させるシリンダーオンデマンド効率システム(cod)を搭載する。燃費はWLTCモードで7.1km/L

 装着タイヤはコンチネンタル・スポーツコンタクト6でサイズは295/35ZR23という巨大なタイヤを履く。23インチの大きなホイールからは2.4tの重量を止めるための大きなキャリパーが収まっているが、それがピッタリ収まっているところにこの低扁平タイヤの必然性がある。2.4tを超える重量とそれをカバーする600PSのパワーを制御するために大きな制動力が必要になるのだ。

 トランスミッションは電子制御8速ティプトロニックが用意されており、ゆったりして滑らかな変速はRS Q8の性格に合っている。

ダッシュボードは空間の広がりを感じられる水平基調のデザインが採用されている
前後シートはアルカンターラ/レザーが採用されRSロゴが刻印される。また前席のみホールド性の高いスポーツシートとなる。コーナリングの中も身体をしっかりサポートする形状となっている
電子制御8速ティプトロニックトランスミッションが搭載される
高解像度の12.3インチカラー液晶フルデジタルディスプレイに、スピードメーター、タコメーター、マップ表示、ラジオ/メディア情報などを表示。ステアリングホイールからダイレクトに表示内容を変更でき、VIEWボタンを押すことで2つの円形メーターの大小切り替えも可能としている

 サスペンションはマルチリンクにエアサスを組合わせたもので、スポーツモードである「Dynamic」からオールマイティな「Comfort」「Offroad」など情況から好みのモードを選定できる。乗り心地では一般的にお勧めなのは「Comfort」で、減衰力が伸びやかで段差乗り越しでもスーと脚が伸びる。ただ重心高が高いのでゆったりと揺れる感触がある。

 どっしりとした走り味を希望するならば、車高が40mm下げられ、減衰力も硬くなる「Dynamic」が適している。アクセルゲインは早くなるが、過激に速くなることはない。自分のドライビングスタイルに応じてアウディドライブセレクトから選べるのはありがたいし、それぞれのモードにはメリハリがある。ちなみに「Dynamic」で乗り心地は硬すぎることはないと感じた。

タイヤ性能でいえば、路面突起でもカドの取れた乗り心地を実現しており、タイヤのトータル性能のバランスは高い

 ちなみに箱根ターンパイクのような急勾配だが大きなコーナーが続くコースでは、ロール速度が抑えられる「Dynamic」が、市街地の平坦だが路面が荒れていたり、段差があるようなコースでは「Comfort」がより適している。

 ブレ―キ性能は高いというものの、がやはり下り勾配でのブレーキは距離が伸び、また平坦でも反復した急ブレーキを使うのはお勧めしない。重量級のSUVでは通常のブレーキの感覚では距離が少し伸びるので、あらかじめ早めのブレーキタイミングを取っていた方がよいだろう。

電子制御式スポーツエアサスペンション(RSアダプティブエアサスペンション)は、負荷に応じて車高と減衰力を自動的に調整。また、アウディドライブセレクトから車高を設定でき、「Allroad」/Offroad」選択時は約+15mm、「Dynamic」モード時は約40mm車高を下げる。また、荷物の積み下ろしをしやすくするために車高を65mm下げることもできる

 RS Q8で驚くべき点は小回りが効くことだ。3m近いホイールベースは大きな回転半径を予想していたが「オールホイールステアリング」とネーミングされた電子制御の4WSで最小回転半径は5.6mと小型セダン並みに小さい。特にパーキング時のような超低速で効果を発揮して狭い路が多い日本でも使い勝手がよい。

 RS Q8はスポーツカーのような機敏さはないが、ラージサイズのSUVに求められるラグジュアリーでゆったりして走れるという要件を満たしながら、時として高いパフォーマンスを発揮できる能力を兼ね備えていた。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:中野英幸