試乗レポート
アウディのスポーツモデルの頂点「RS 5 クーペ」とSUVモデルの「RS Q8」それぞれの魅力とは
2021年4月14日 11:54
スポーツカーのあらゆる要素が詰まっているRS 5 クーペ
アウディ・スポーツモデルの頂点に立つのがRSだ。今もボクに強烈な印象を残しているのはV型8気筒 4.2リッターを搭載した「RS 4」。自然吸気のストレートに伸びる圧倒的なパワーとそれを受け止める強靭なシャシーに絶句し、そして夢中になった。「最後のV型8気筒 4.2リッター自然吸気エンジンになるかもしれないから乗っておいた方がいい」と勧めてくれた人がいて試乗した。最初は馬力の大きなスポ―ツバージョンだと思っていたが、乗ってビックリ、本気のスポーツカーだった。今もそのアドバイスに感謝している。
その刺激的な体験から「RSはタダモノじゃない」という思いが常にあった。そもそもRSは「Racing Sport」の略。名前からして気合が入っている。その名の通り、サーキットもこなせる能力をもったクルマだった。
さて、久しぶりのRSはまずA5クーペをベースとした「RS 5 クーペ」からスタートした。端正なデザインの正統派ノッチバック2ドアクーペである。
おとなしいホワイトのボディに履いた大径ホイールからのぞく伝統のドリルドブレーキローターに6ポッドの巨大な赤いブレーキキャリパーが見える。他のA5と同じ120㎜の最低地上高がさらに低く見えるのは扁平率の小さな275/30ZR20のコンチネンタル・スポーツコンタクト6のためだろう。
ボディサイズは4715×1860×1365mm(全長×全幅×全高)で、ベースとなっているA5とは全長で10mm、全幅で15mm広げられている。日本ではラージサイズだが乗ってみるとそれ程サイズ感はない。
低い位置にあるシートに体を落すように入れ、ドライビングポジションを取るといつものアウディのコックピットはスポーツカーのように変身する。メータパネルもRS特有のもので、トルクなどの現在情報を拾い上げることができる。
エンジンはV型6気筒 2893ccターボで、出力は331Kw(450PS)/600Nm(61.2kgm)。始動すると低く整った乾いたエキゾーストノートが響く。いかにも高性能ターボエンジンらしい特性で1790kgの車両重量を引っ張る。このエンジンは柔軟性があって低速走行でも行儀がよく使いやすい。むしろスポーツカーを感じるのは走り出してすぐに伝わる路面からの正確なフィードバックだ。
路面の凹凸に反応してシートに伝わってくるほど足まわりは固められており、シートも「硬いな」と感じさせるが不思議と不快感はなくバネ上の動きはスッキリしている。
しかも速度を上げるに従って、ピシリとするところが爽快で、加えてスッキリ切れるハンドルにタイヤは正確に反応し、操舵に応じて路面を掴みながらヒラリと姿勢を変える。ロールはほとんど感じない。RSらしいキビキビした動きとボディの高い剛性は伝統でRSはいいなと思える瞬間である。
タイトなコーナーでも押し出されるように感触もなく高い旋回力を発揮し、まして中高速コーナーは手首の動きだけでスーと回っていく。その地を這うような安定感は素晴らしく、スポーツカー好きなら誰でも心に響くものがある。
最初は硬いと感じたシートも慣れてくるとフィット感が心地よく、まったく気にならなくなった。実際にサスペンションの上下収束とシートのそれが同調するようにバランスされており、クルマとの一体感を強く感じさせてくれる。
トランスミッションは8速ティプトロニックを採用。終始滑らかな変速で小気味よくシフトしていく様が心地よい。トルクの大きなエンジンとの組み合わせは街中や郊外路、山道まで必要に応じて変速していくが、初期のSトロニックにあったような迷うようなそぶりは見せず滑らかだ。
アウディらしい硬質に回るエンジン、高いボディ剛性、接地面変化の少ないサスペンション、そしてスポーツカーとして何より大切なクルマとの一体感など、RS 5 クーペにはスポーツカーのあらゆる要素が詰まっている。
Q8のDNAはそのままに、RSのパフォーマンスを追加
RSにもラージサイズSUVの波が押し寄せてきた。アウディSUVの頂点に立つ「RS Q8」である。
RS Q8は全長5mを超える5010mm、全幅はジャスト2m、全高1700mmという大きなSUVだ。ホイールベースも3mに近い2995mmとミニバン並みの長さを持ち、車両重量は2410kgと重量級。これだけのサイズと重量で、ちょっと気が重くなるドライブかと思いきや、予想以上のパフォーマンスでRSらしいSUVに仕上がっていた。
それと言うのも最新のV型8気筒 4.0リッターツインターボの出力は600PSにもおよび、トルクも800Nmを広い回転域で発生してこの重量を打ち消している。不思議なものでパワーに余裕があるとサイズも気にならなくなることだ。
装着タイヤはコンチネンタル・スポーツコンタクト6でサイズは295/35ZR23という巨大なタイヤを履く。23インチの大きなホイールからは2.4tの重量を止めるための大きなキャリパーが収まっているが、それがピッタリ収まっているところにこの低扁平タイヤの必然性がある。2.4tを超える重量とそれをカバーする600PSのパワーを制御するために大きな制動力が必要になるのだ。
トランスミッションは電子制御8速ティプトロニックが用意されており、ゆったりして滑らかな変速はRS Q8の性格に合っている。
サスペンションはマルチリンクにエアサスを組合わせたもので、スポーツモードである「Dynamic」からオールマイティな「Comfort」「Offroad」など情況から好みのモードを選定できる。乗り心地では一般的にお勧めなのは「Comfort」で、減衰力が伸びやかで段差乗り越しでもスーと脚が伸びる。ただ重心高が高いのでゆったりと揺れる感触がある。
どっしりとした走り味を希望するならば、車高が40mm下げられ、減衰力も硬くなる「Dynamic」が適している。アクセルゲインは早くなるが、過激に速くなることはない。自分のドライビングスタイルに応じてアウディドライブセレクトから選べるのはありがたいし、それぞれのモードにはメリハリがある。ちなみに「Dynamic」で乗り心地は硬すぎることはないと感じた。
ちなみに箱根ターンパイクのような急勾配だが大きなコーナーが続くコースでは、ロール速度が抑えられる「Dynamic」が、市街地の平坦だが路面が荒れていたり、段差があるようなコースでは「Comfort」がより適している。
ブレ―キ性能は高いというものの、がやはり下り勾配でのブレーキは距離が伸び、また平坦でも反復した急ブレーキを使うのはお勧めしない。重量級のSUVでは通常のブレーキの感覚では距離が少し伸びるので、あらかじめ早めのブレーキタイミングを取っていた方がよいだろう。
RS Q8で驚くべき点は小回りが効くことだ。3m近いホイールベースは大きな回転半径を予想していたが「オールホイールステアリング」とネーミングされた電子制御の4WSで最小回転半径は5.6mと小型セダン並みに小さい。特にパーキング時のような超低速で効果を発揮して狭い路が多い日本でも使い勝手がよい。
RS Q8はスポーツカーのような機敏さはないが、ラージサイズのSUVに求められるラグジュアリーでゆったりして走れるという要件を満たしながら、時として高いパフォーマンスを発揮できる能力を兼ね備えていた。