試乗レポート

トヨタ、高度運転支援技術「アドバンスドドライブ」で首都高速を走る

高度運転支援技術「アドバンスドドライブ」を搭載したトヨタ「ミライ」

トヨタ「ミライ」とレクサス「LS」に搭載された高度運転支援技術「アドバンスドドライブ」

 自動運転に向けての動きが急速に進んでいる。ホンダが世界初のレベル3自動運転技術を搭載した「レジェンド」を発表したのも記憶に新しい。トヨタも満を持して自動運転につながる高度運転支援技術機能「アドバンスドドライブ」を発表、トヨタ「ミライ」とレクサス「LS」に搭載して発売した。

 トヨタはモビリティ全般を担う会社に移行すると宣言し、移動にかかわるさまざまな分野に活動の範囲を広げており、モビリティカンパニーとして「幸せの量産」を最優先事項としている。そんな中、グローバルで100万人単位の交通事故死は看破できるわけもなく交通事故死者ゼロを究極の目標としている。実際に「Toyota Safety Sense」を搭載した2000万台以上のモデルが世界に広がっている。

 さらにその延長としてトヨタは以前よりクルマと人が協調して移動を楽しむという考え方「Mobility Teammate Concept」を提唱していた。それが実現したのが今回の「アドバンスドドライブ」だ。

 アドバンスドドライブは、「Intelligent(知能化)」「Reliable(信頼性)」「Receptive(高い認識性能)」「Interactive(ドライバーとクルマの対話)」「Upgradable(ソフト/ハードウェアのアップグレード)」と5つの技術的特徴を持っており、センサーとしてはLiDAR、レーダー、ステレオカメラなどから成っている。LiDARはトヨタでは初めての導入だ。

トヨタ「ミライ」。フロントホイルハウスの右上部に、側方用LiDAR搭載用の黒いエリアが見える
後方からのミライ。後方にもLiDAR増設エリアが用意されている
前方のLiDAR
前方用ステレオカメラなど
デンソーから発表されているセンサー類の配置資料

 ベテランドライバーのような自然で滑らかな動きとともに、周囲にも配慮した安全運転を実現する目指ししている。クルマに頼ることより人との協調制御を行なうことで現実的な解を求めている。トヨタはリアリストだ。

 通信によるソフトウェアのアップデートも特徴で、機能の追加を含めた更新を行ない、ユーザーにとって使いやすいクルマに成長していく。

 実際の機能は、ナビで目的地を設定すると高速道路や自動車専用道路で車載システムが高精度地図を活用してドライバーをサポートする。高精度地図によってカーブでは減速することができ、車線変更や分岐、追い越しもドライバーの指示によってアクセルやブレーキもクルマ側で行なってくれる。

 きめ細かいのは大型車を追い越すときなどは追い越し車線ではレーンの右側を走行するなどドライバー目線での走行ができることだ。これは合流部分での相手車両への配慮などにも活かされている。

 ライダーは約200m先まで検知できるので緊急時、例えば進路上に事故などが起こったときなどは高い制動Gを掛けることもできる。またVICS交通情報で制動スタンバイに入るので、渋滞時などクルマ側でも事前に準備もできる。

 さらにドライバーに何かあった場合、例えば姿勢が大きく崩れるような場面でクルマ側からの警告に応答しないときはハザードライトを点灯しつつ減速し車線内、あるいは左側レーンを走行している場合、路肩に余裕があるときは停車してヘルプネットで救急要請を行なう。

 LSとミライではブランドは違うが、アドバンスドドライブ機能は同じ。アドバンスドドライブ搭載車は、ミライの場合ベース車両から55万円高、845万円から購入できる。LiDARも含めたシステムでは例外的な価格設定で、普及を第一の目標としている。

首都高速9号線と湾岸線を中心にアドバンスドドライブで走行

MIRAI 制御開始
MIRAI レーンチェンジ(左)
MIRAI レーンチェンジ(右)
MIRAI 追い越し提案・実施
MIRAI 戻り提案・実施

 実際の試乗は燃料電池車のミライで行なった。先ず開発エンジニアがステアリングを握りレクチャーを受ける。ハンズオフとハンズオンの切り替わるところなど、試乗前の説明を改めて確認する形だ。

 コーナーの多い首都高9号線、そして速度が80km/h制限となる湾岸線をメインとして走行する。アドバンスドドライブは高速道路など自動車専用道路で使える機能だ。

 基本的な使い方として、ナビに目的地を設定しておくとそれに沿ったコースの中でアドバンスドドライブを起動させることができる。今回は使うことがなかったが、ナビに目的地を設定しなくてもアドバンスドドライブは使うことができ、その場合は道なりに走行していく。

 ステアリングスポーク右端上にあるアドバンスドドライブ起動スイッチを押すと作動する。ただしGPSなど衛星を指定数キャッチして条件などが合致しないとスイッチをONにしてもアドバンスドドライブに移行しない。正面のディスプレイ下に「Advanced Drive Ready」の表示が出て初めて起動できる。

 アドバンスドドライブが作動すると正面のディプレイ上のコースがブルーに変わりハンズオフ運転が可能になる。ACCが機能してミライは車線上をトレースするが、コーナーがあると必要に応じて減速する。滑らかな減速をするのでドライバーにはごく自然な感じで気付かないだろう。コーナーの走行抵抗で減速したようにしか感じられない巧みな制御だ。

 あまりコーナーが連続するときは、アドバンスドドライブは作動を中止してハンズオン運転になる。その場合は警告音とディスプレイ上に表示が出て、さらに今までブルーだったコース表示はグレーに変わる。

 首都高速のようなビルの谷間を縫うように走るコースではシステムにとって難関だがここで鍛えられたアドバンスドドライブは完成度が高った。ドライバーとシステムとの連携がよく分かる。システムが苦手なところはドライバーが、それ以外ではシステムが主導して走らせるのだ。

 ディスプレイがブルーになったところで恐る恐るステアリングから手を放してみる。ミライは見事に車線の中央をトレースしていく。アドバンスドドライブの設定速度は速度標識と同じ速度になるが任意でプラス15km/hまで可能だが、最高速度は120km/hに制限される。制限速度が低速では機能しないこともある。

 分岐が近づくとナビから車線変更の音声が流れ、後続車がいないことを確認して車線変更を行なう。この場合はステアリング操作を行ない隣のレーンに移動する。分岐では自動でウィンカーを出し、ステアリング操作を促す。

 自車が追い越し車線を走っていて、走行車線を大型トラックが走行していたケースでは車線中央を走っているとトラックに接近したようで怖いと感じることもある。アドバンスドドライブではフロントにLiDARを搭載して前方の状態把握が的確になったのでレーンの右端を走る。微妙な距離だが、この数センチ単位で移動するのはこれまでできなかったが、ドライバーは自然に行なっており人の運転に近づいた。

 追い越しの場合、自車の設定速度と前車の速度差が15km/h以上ある場合に追い越しをするかをディスプレイの左側にある表示が追い越しを聞いてくる。追い越しをする場合はステアリングスポーク左側にあるスイッチでONにするとクルマ側でウィンカーを出す。その上でドライバーが目視確認、つまり首を少し横に向ける仕草をモニタが確認して、初めて車線移動を行うことができる。この際ドライバーはステアリングに手を添えている必要がある。

 レーンチェンジ系はすべてハンズオンになるが、ドライバーの緊張感を促すことでより安全に走行できることがデータで示されているという。

 また合流地点で左からクルマが入ってくる場合など、左のクルマの車速を測り少し車速を落せば相手がスムースに合流できると判断すると減速して間合いを取ることができる。ただ長いトラックが横に来た場合などは自車が先に行けると判断するので、ドライバーが譲るようにはできないのでシステム任せにはできない。

MIRAI 目的地に向けたレーンチェンジ・分岐
MIRAIレーントレース(ハンズオフ状態)走行
MIRAI 合流譲り

 ディスプレイで気になったのは右側に小さく表示されるナビのマップ。次の次までのマップが示されるがシフトインジケータなどのほかの表示もあり煩雑感がある。もう少し未来感がほしい所だ。

 今回試乗で体験できたことはここまでだが、曲がりくねった首都高9号線を(時折ハンズオンを促されたが)スムースにトレースできたことにシステムの進化を実感した。

 アドバンスドドライブは自動運転の実用化に向けての道程を知ることができた点で非常に興味深かった。しかも実際に量産されたことは大きい。

 得意なところは東名高速などの流れのよい都市間高速道路で、システムへの信頼性は高い。ドライバーがほかの交通環境に気遣うような部分もかなりシステムが代わって行なう。

 ただドライバーの姿勢は常にモニタによって監視されているので、長時間横を向いていたりするとシステムから警告を受け、ハンズオフで10分経過するとハンドルを握るように注意される。

 追い越しは余裕があるときなどに使えるが、クルマの流れが多く速い場合には設定速度をオーバーして加速することもありドライバーが行なった方が早い。

 また分岐などのレーンチェンジ系は事前に情報を出してくるタイミングが早く、慣れるまでは時間がかかった。混雑した高速道路などは早い判断が必要になるのでドライバーが積極的に関与したほうがスムースだ。それでも高速道路をよく使うドライバーはリラックスした移動が得られる。

 ソフトのアップデートはユーザーから集まった情報、テストで得られた情報など安全面で有効な変更をインターネット経由で行なえる。ディーラーに行く必要はない。小さな変更はタイミングを見て随時、大きな変更は定期的なスパンで行なうという。

 フロントフェンダー後部に現在なにも入っていない窓があるが、察せられるように左右にLiDARが収まるようになっている。これらは後部に入るであろうLiDARととともにハードウェアのアップデートとして将来ディーラーで行なえる。

 これら3つのLiDARが装着されると現状でもう少し、と感じているところがキメ細かく動作することになり、ドライバーへのサポートは飛躍的に充実するだろう。

 オーナーは常に最新の状態にアップデートされたシステムを手に入れることができるのだ。クルマの在り方も変わっていくことになるのではないだろうか。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。