試乗レポート

マイチェンでどう進化した? フォルクスワーゲンの新型「パサート オールトラック」の美点とは

新型パサートの変化点

 4月6日にマイナーチェンジを行なった新型「パサート」シリーズ。セダン、ステーションワゴン、そしてステーションワゴンをベースに専用サスペンションとタイヤ大径化(直径で8~10mm)によりリフトアップさせたオールトラックの3車種が出揃った。このうち今回はオールトラックに試乗した。

 パワートレーンは定評のある直列4気筒2.0リッターディーゼルターボエンジンで、オールトラックが示すように駆動方式は4輪駆動(フォルクスワーゲンでは4WDのことを「4モーション」と呼ぶ)だ。

 4モーションは電子制御クラッチ「ハルデックスカップリング」によって、前輪100%:後輪0%の前輪駆動状態から、前輪50%:後輪50%の4輪駆動状態まで、駆動力配分を路面状況などに合わせてコントロールする。

 トランスミッションはデュアルクラッチトランスミッション(フォルクスワーゲンではDSGと呼ぶ)方式のままだが、従来の6速から7速へと細分化された。詳細は後述するがギヤ段が細分化され、日本市場で多用する上限60km/hとした速度域での力強さが大きく増している。ここが新型の大きなトピックだ。

新型パサート オールトラックが搭載する直列4気筒2.0リッターディーゼルターボエンジンは、最高出力140kW(190PS)/3500-4000rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1900-3300rpmを発生。WLTCモード燃費は15.0km/L

 試乗に移る前に外観から触れていきたい。ボディパネルこそ従来通りだが、グリルから前後バンパーの形状がエッジの効いたデザインとなり、分かりやすくシャープに生まれ変わった。筆者はフォルクスワーゲンの「アルテオン」に近い印象をもった。

 それにしても新型はとても精悍な顔つきだ。これはLEDマトリックスヘッドライト「IQ.LIGHT(アイキューライト)」と命名する新しいLEDヘッドライトシステムの効果だ。

 IQ.LIGHT の代表的な機能には、32個のLEDを個別に点灯/消灯させることで対向車や先行車を幻惑させずに最大限の照射を行ない夜間の視界を確保する機能や、ステアリングに連動した「ダイナミックコーナリングライト」機能がある。さらに「ダイナミックターンインジケーター」と呼ばれる被視認性の高いターンシグナル灯も装備する。

今回試乗したのはパサート オールトラックの「TDI 4MOTION Advance」(604万9000円)。ボディサイズは4785×1855×1535mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2790mm。ボディカラーは新色の「アクアマリンブルーメタリック」(オプションカラー)
パサート オールトラックでは同一車線内全車速運転支援システム「Travel Assist」やLEDマトリックスヘッドライト「IQ.LIGHT」などの運転支援システムを全車に標準装備。外観ではアンダーボディ保護機能がある専用バンパーとサイドシル、そして頑丈なホイールエクステンションといった専用装備が与えられる。足下は18インチアルミホイールにコンチネンタル「コンチスポーツコンタクト5」(235/45R18)の組み合わせ

 内装も色味こそ地味ながら意匠を部分的に変更。さらに、センターのインストルメントパネル下部のエアコン操作部が、ダイヤル式からタッチ式のフルロジックコントロールタイプに変更され、それに合わせて表示パネル部も新しくなった。

 センターパネル上部のハザードランプ付近にあったアナログ時計がなくなったのは個人的に残念に感じたが、その位置にはバックライトが内蔵されたパサートのロゴが設けられ、ハザードランプそのものもサイズが大きくなるなど、デザイン性と実用性を向上させている。

 ステアリング中央のフォルクスワーゲンロゴマークは、外観前後に装着されたロゴマーク同様に新世代へと変更を受けた。画像で確認いただけると思うが、運転席の周辺がずいぶんとスッキリとした。

 ステアリング左右のスイッチ類も変更を受けている。今回のパサートは全般的にデジタル化が図られているが、ステアリング越しのディスプレイに表示できる項目が大幅に増えている。変更を受けたステアリングスイッチは、この表示をコントロールするために設けられたもので、ボタンの左右移動に加えて長押しを組み合わせることで、自分好みのメーター環境を簡単に作り出すことできる。

 前後シートの形状は従来と同じ。座面は大きくバックレストにしても圧迫感がないので身体をすんなり預けることができる。身長170cmの筆者が適正なドライビングポジションをとった後席では、足下のゆとりが大きい。さすがに足は組めないものの前席下に足をすっぽりと収めることができるし、後席座面にしても大腿部をしっかりサポートするのでロングドライブでも安心だ。

新型パサートシリーズの室内では生地のデザインを変更した新しいドアトリム、トリムカラー、インストルメントパネル、ステアリングホイールなどを採用。また、タッチコントロール式のエアコンディショナーコントロールパネルを採用したほか、ダッシュパネルには従来のアナログ時計ではなくバックライト付きの「PASSAT」ロゴを配した
オールトラックならではの表示画面。ドライビングプロファイル付DCCではオフロードモードも用意される

 ラゲッジルームは広く、使い勝手に優れる。後席のバックレストが高めだから、かさばる荷物や大きなトランクケースも収納しやすい。また、分割可倒式の後席はラゲッジルーム側からリモート方式で倒すことができる。これは地味にありがたい。フロア下にはちょっとした小物も収納できる。20年以上ステーションワゴンのオーナーでもある筆者から見ても、パサート ワゴン/オールトラックのラゲッジルームは非常に優秀だ。

フラットで使いやすいラゲッジスペース。40:20:40分割可倒式のリアシートを倒すことで積載能力を高めることも可能

4モーションの高い走破性能とスムーズなディーゼルエンジン

 さて、走行性能はどうか? 今回は一般道路から高速道路、砂利道から狭い凸凹道までバラエティに富んだ試乗コースを選んだ。一般道路ではディーゼル特有の大きなトルクと7速化されたDSGとの組み合わせでスムースさが際立った。今回はオールトラックのみの限定試乗だったが、従来型パサートの試乗経験からしてオールトラックの加速度は、ほかのパサートTDIと比較して穏やかだ。

 このあたりは従来型で雪道試乗した際のレポートがCar Watchに掲載されているのでご覧いただきたいのだが、マイナーチェンジした新型もやはり、低速域ではアクセルペダルを深く踏み込むことを要求する特性が受け継がれている。

 高速道路では一転、パワフルな一面を見せる。ETCゲート通過後にグッとアクセルペダルを踏み込むと、2000rpmを境にググッと力が盛り上がり、そのまま上限の4500rpmまでスムーズに加速する。DSGの反応も機敏だ。80km/h巡航時/ギヤ段は7速、ここからアクセルペダルを踏み込むと4速まで一度にキックダウンして力強い加速をみせた。

 先進安全技術のうち運転支援系は、フォルクスワーゲンが同一車線内全車速運転支援システムと称する「Travel Assist(トラベルアシスト)」へと機能を向上させた。前走車を追従するACC機能(車間設定は5段階)と、車線逸脱を抑制するステアリングサポート機能がその全容だ。前走車への追従性能、つまり加減速特性は5段階から選べるため、こちらも自分好みの設定が見つけやすい。

 細かなところでは、ステアリングセンサーが変更を受けた。従来型はいわゆるトルクセンシング式であったため、直線路が続くとステアリングを握っているにもかかわらず、「ステアリングを握ってください」といった内容の注意喚起がディスプレイに表示されることがあったが、今回からステアリングセンサーが静電容量式となり、手を添えているだけでもアシスト機能が働く。

 山道の登坂路では2000rpmを下まわらなければ俊敏だ。ドライビングプロファイル機能で「スポーツ」を選択すれば、アクセルペダル操作に対する反応が敏感になり、さらにシフトノブ操作でDレンジからSレンジにすることでシフトアップやダウンが制限されるため、走りのリズムを掴みやすい。

 リフトアップされた車体と山道とは、マッチしないシチュエーションと思われるだろうがオールトラックは別。コーナリング特性にも優れている。ドライビングプロファイル機能の「スポーツ」では、アダプティブシャシーコントロール“DCC”のダンパー減衰特性が高めにセットされ、ステアリング操作に対して少ないロール量で右に左に向きをスッと変えていく。

 砂利道ではオールトラックならではの深い踏み込みを要求するアクセルペダルの特性が功を奏して、路面μの低いところでの発進や加速がとてもスムーズに行なえた。また、狭い道での取りまわし性も引き続き良好で、見切りのよいボディによってUターンも躊躇することなく行なえた。

 昨今、ステーションワゴン人気は世界的にじわりじわりと高まってきている。そうした中、4モーションの優れた走破性能とランニングコストが安価でスムーズなディーゼルエンジンを組み合わせた新型パサート オールトラックは、とても魅力的な1台だった。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:中野英幸