試乗インプレッション

62kWhのバッテリーで得たものは航続距離だけじゃない! 明らかに向上した日産「リーフ e+」の加速性能

袖ケ浦フォレストレースウェイで実力を体感

 日産自動車「リーフ」に追加モデルとなる「e+」が登場する。EV(電気自動車)は航続可能距離がウイークポイントなのは周知の事実だが、それを少しでも引き伸ばそうというのが狙いの1つ。だが、それだけで終わらずパワフルにすることで、さらに先を目指しているところがリーフ e+の特徴だ。

 それを実現するための変更はズバリ、バッテリー容量の拡大だ。リーフのバッテリーは“セル”と呼ばれるシート状の電池を積み重ねているのだが、現行はそれを192セル使っている。それは8セルで1パックの“モジュール”としており、24モジュール搭載する構成となる。リーフ e+ではそれを1.5倍の288セル使用している。だが、現行のモジュール構造では搭載するスペースが確保できないため、新型のモジュールを採用しているところがポイントだ。現行ではモジュールそれぞれから太いハーネスが伸び、それを1つにまとめているのだが、新型モジュールではハーネスを基盤化し、基盤とセルをレーザーで接合することで、車両に搭載しやすい形に形成することが可能になった。これにより、ハーネスのスペースが不要となりセルの積み重ね自由度が広がって、車室内スペースは一切変えずに床面にギッシリと敷き詰めることができるようになったのだ。

「リーフ e+」のボディサイズは4480×1790×1545mm(全長×全幅×全高)で、通常の「リーフ」より5mm高くなり、最低地上高は135mmと15mm低くなった。ホイールベースは2700mmで変わっていない。バッテリー総電力量は40kWhから62kWhに引き上げられ、それに伴うインバーターの制御変更やギヤボックスの強化により、通常のリーフに比べて50kW/20Nmアップの最高出力160kW/4600-5800rpm、最大トルク340Nm/500-4000rpmとなった。JC08モードの航続可能距離は400kmから570kmに伸長
リーフ e+のフロントバンパー下部には、ブルーのリップスポイラー状のパーツが追加された
撮影車は新車装着タイヤとなるダンロップ「エナセーブ EC300」(215/50 R17)を装着
ホイール中央のキャップがシルバーからブラックに変更された
6kW充電に標準対応した充電ポートには「e+」のロゴを配してさりげなくリーフ e+であることをアピール
バッテリー容量が62kWhに拡大したため、充電残量が50%の状態から充電を行なった場合でも電流が絞られることなく受け入れられるようになり、50kW急速充電性能は40kWhのバッテリーを搭載するリーフと比べると、約40%性能が向上して充電がしやくすくなった

 だが、実際にリーフ e+を見てみると車体下部にはわずかにバッテリーの張り出しがあることが分かる。これをかわすために車高は引き上げられ、全高は5mmアップ。最低地上高は15mmダウンしている。実際の数値や仕様は教えてもらえなかったが、およそ150kgの車重アップもあり、車体剛性や足まわりの見直しが行なわれた。ねじり剛性は8%アップ。ストラットに採用されるベアリングもボールベアリングを採用するなど、低フリクション化を行ない、操舵フィーリングなども向上させた。重心高は10mmダウンしており、車体のロール角は0.4G旋回時に5%低減したという。

車体下部には、少しだけはみ出したバッテリーの影が見える

 これらの対策によって得られた総電力量は40kWhから62kWhへと拡大。航続可能距離はJC08モードで400kmから570kmへ(WLTCモードでは322kmから458kmへ)。これは、99%以上のユーザーの1日あたりの走行距離を超えるという計算のようだ。また、最高出力は110kW(150PS)/3283-9795rpmmから160kW/4600-5800rpmへ。最大トルクは320Nm(32.6kgfm)/0-3283rpmから340Nm/500-4000rpmへとアップしている。

 これは現行型は2つのセルを並列に繋いでいたが、3つのセルを並列に繋ぐことで電流をアップさせたことが要因。インバーター性能もハード&ソフトをアップデートし、大電流を制御していることもポイント。ギヤボックスなども強化されたそうだ。

インテリアは通常のリーフと変わらず、各部に鮮やかなブルーの差し色を施して先進的なEVであることを表現。「プロパイロット」「プロパイロット パーキング」」「e-Pedal」といった先進技術も搭載され、e-Pedalは車両重量の変化に合わせて制御を最適化。後退時の制御を見直し、駐車時などの操作をスムーズなものとした

どこまでも伸びていきそうな加速感

発売前の試乗だったため、リーフ e+はクローズドの袖ケ浦フォレストレースウェイで試乗した

 そんなリーフ e+を発売前ということもあり、クローズドの袖ケ浦フォレストレースウェイで試乗する。どんな走りを示してくれるのか楽しみだ。まずは、どれだけの加速を示すのかを確認するためフル加速を試みると、走り始めは重さもあってか、はたまた出力特性が変化したからなのか、若干ダルになったようにも感じるが、とにかくどこまでも伸びていきそうな息の長い加速が味わえた。以前は走り出しこそグッとくるものの、その後が伸びない感覚があったのだが、それがどこまでも続くのだ。旧型から現行にモデルチェンジをした際にも同様のことを感じたことがあるが、その時のことが蘇るほど。格好はほぼ同じだけれど、次のステージへと突入した感覚が伝わってくる。日産が提示してくれたデータによれば、現行は50km/hあたりで加速Gが落ち始めるが、リーフ e+は70km/hあたりから加速Gの落ちが訪れるのだとか。これにより、80km/h~120km/hまでの中間加速タイムは13%も短縮したという。航続可能距離も拡大していることだし、これなら余裕を持ってハイウェイクルーズを楽しめそうだ。ちなみに最高速に関しては実測でおよそ140km/hから160km/hまでアップしたという。

 一方、重量アップで懸念していたコーナリングについてもそれほど違和感はない。むしろドッシリとした落ち着きがありながら旋回していく感覚は、バッテリーを床に敷き詰めたEVならではの安定感がある。ただし、動力性能が高まったことでブレーキやタイヤについてはそろそろ次を考えたほうがいいかもしれないとも思えた。それほど飛ばす人もいないだろうが、いざという時のストッピングパワーやコーナー脱出時のトラクションは、そろそろ限界を迎えているように感じる。旧型リーフから変わらないタイヤも見直したほうがいいだろうし、ブレーキの容量も拡大したほうがいいかもしれない。そんなことを考えたくなるほどリーフ e+は速くなっているのだから。それはニスモバージョンにお任せか!? そんなことを期待したくなるほど、リーフ e+の走りはとにかく爽快だった。そろそろドライバーが自制心を働かさなければならない時期に差しかかっているのかもしれない。

 これで航続可能距離が伸び、さらには充電時間の短縮なども期待できるなんて……。ウイークポイントを丹念に潰してきた結果がそこには確かに存在していた。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:深田昌之