試乗インプレッション

一部改良とは思えないほど“中身充実”のスズキ「エスクード」にシビれた

欧州生まれの輸入車として日本で販売

 スズキという会社は他のメーカーとはひと味違う戦略でグローバルビジネスを行なっている。主力市場でもあるインドはもちろんだが、北米や中国だけではなく、欧州にも独自の生産拠点を展開、特定の市場に対して経営資源を集中するやり方でビジネスを成功させてきた。実際「いい物(商品)ができれば他の経済圏でも売る」と、これまでもインドから「バレーノ」、ハンガリーから「SX4 S-CROSS」と今回試乗した「エスクード」を“輸入”して販売している。

 4代目となる現行型は2015年10月に販売を開始。導入当初は1.6リッター直列4気筒DOHC+6速ATのみの設定だったが、2017年7月には1.4リッター直列4気筒DOHC ターボエンジン車を追加した。2018年10月に1.6リッター車は「ひっそり」とカタログから姿を消したが、同12月に今回の一部改良が行なわれたという経緯を持つ。

筆者と2018年12月に一部改良を行なったスズキ「エスクード」

 なぜわざわざこのようなことを書いたかというと、エスクードの日本における販売は決して好調とは言いがたい。誤解のないように言っておくと、後述するようにクルマの性能としては非常に優れている。ではなぜ売れないのか、実は「売れない」のではなく「入ってこない(輸入台数が少ない)」のである。

 エスクードは欧州では「ビターラ」の車名で販売されているが、コンパクトSUVとしてはコンスタントに売れている。マジャールスズキの生産能力からすれば、まず優先すべきは欧州市場であり、日本市場はどうしても後まわしになることは避けられない現実である。それでも世界的なSUVブームの中、このクラスのSUVが欲しい日本市場においてはエスクードは強化したい車種の1つということになる。

日本市場のことを考え細部をセンスアップ

 今回の一部改良では、まずエクステリア&インテリアとも細部にわたるレベルアップが行なわれている。従来モデルからスモーク処理が施されたメッキグリルやLED化されたリアコンビネーションランプ、そして試乗車にも使われている新色のボディカラー「アイスグレーイッシュブルーメタリック ブラック2トーンルーフ」の採用など、ひと目で「変わった感」が理解できる。

一部改良で新たに設定されたボディカラー「アイスグレーイッシュブルーメタリック ブラック2トーンルーフ」。エスクードのボディサイズは4175×1775×1610mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2500mm、車両重量は1220kg
フロントグリルのメッキパーツはスモーク処理が行なわれ、デザインも変更されている
LEDヘッドライトのプロジェクターカバーはレッドからブルーに変更された
リアコンビネーションランプは内部の構造が変わり、外側上部のブレーキランプがLEDに変更されたほか、後退灯がリアコンビネーションランプ内からリアバンパー中央に移動している
17インチアルミホイールはブラック塗装から切削加工+ガンメタリック塗装に変わった。タイヤサイズはこれまでと同じ215/55 R17

 また、インテリアもシート表皮の変更に加え、ステアリングホイールやメーターの意匠変更、さらにカラー液晶を使ったマルチインフォメーションディスプレイの採用なども新しい。

 実際、ここまでは「よくある変更点でしょ」とか突っ込まれそうな気もするのだが、ポイントは前述したように「日本におけるエスクードの販売をどう強化するか」に対応した点である。台数としては決して多くない日本市場に対して、前々から要望の高かったインストルメントパネルのソフトパッド化や目に見える部分へのメッキパーツの多用、さらにフロントウィンドウのガラスを遮音機能付きに変更するなど、たとえコストが上がっても目の肥えた日本の顧客に応えるクルマ作りはグローバルで高く評価されているスズキのいい部分が出ていると感じた。

インテリアでは従来はレッドを使っていたステッチ類やメーター&エアコンルーバーのリングなどの配色を変更。シルバーやブラックなどの色遣いとなった
本革巻きステアリングは意匠変更され、左右のディンプル仕上げがなくなったほか、シルバー加飾も控えめになっている
トランスミッションは6速AT。パドルシフトによるマニュアル変速も備える。シフトセレクターの車両後方側にあるのは「ALLGRIP」のモードスイッチ
6スピーカーのオーディオレス仕様が基本。カーナビやオーディオなどは販売店装着オプションとなる
メーターパネルの右下に、プッシュ式のエンジンスタートスイッチや「ヒルディセントコントロール」などの操作スイッチをレイアウト
高輝度シルバードアアームレストオーナメントを装着
メーターパネル中央のマルチインフォメーションディスプレイはカラー表示となり、ALLGRIPで選択したモードなどが分かりやすくなっている
本革&スエード調の表皮を使うシートではサイドのステッチがレッドからシルバーに変わり、中央部分に幾何学的な模様のエンボス加工が施された
375Lの容量を持つラゲッジスペース。ラゲッジボードは上下2か所に固定でき、多彩な使い分けが可能
ラゲッジスペースの運転席側にラゲッジルームランプやアクセサリーソケットを設置している

“心臓からして別物”欧州仕込みの俊敏なハンドリングは他のSUVとひと味違う

 搭載するエンジンは国産コンパクトスポーツのトップランナーと言っていい「スイフトスポーツ」と同じ「K14C」型。ただし、エスクードはレギュラーガソリン仕様にすることでスペック的には少し抑えた格好だ。それでもランニングコストを考えればレギュラー仕様はおサイフにも優しいし、スイフトスポーツより車両重量が200kg以上重くても、一般道から高速道路までアクセルワークに対してこの手のクルマとしては俊敏とも言える顔を覗かせる。

直列4気筒DOHC 1.4リッター直噴ターボの「K14C」型エンジンは、最高出力100kW(136PS)/5500rpm、最大トルク210Nm(21.4kgfm)/2100-4000rpmを発生。WLTCモード燃費は16.0km/L

 全体的に重めにセッティングされたステアリングフィールだが、操舵に対してはスッとフロントが動く。また、コーナーリング中のリアサスペンションの接地感のよさは安心にもつながるし、誰が乗っても感じることができる美点とも言える。このあたりの統一感の取れたセッティングはやはり欧州車。個人的には無段変速機に慣れた昨今のSUVの初速時におけるダルな加速感とは無縁とも言える、6速ATとの相性のよさも大きな魅力なのである。

先進安全装備を強化。ACCは待望の“全車速追従対応”に

 そしてエスクードが最も進化した点が「先進安全装備」に代表される技術である。これまでのミリ波レーダーによる「レーダーブレーキサポートII」から、昨今のスズキ車で積極的に採用している単眼カメラと赤外線レーザーレーダーを使った「デュアルセンサーブレーキサポート」に変更。この他にもブラインドスポットモニターやリアクロストラフィックアラートなども採用し、大きく進化した。

フロントウィンドウ内側に設置された単眼カメラ
赤外線レーザーレーダーはフロントバンパー中央のナンバープレート下にレイアウト

 さらに評価したいのが、ACC(アダプティブクルーズコントロール)の追従走行が従来の約40km/h以上から0km/h以上へと拡大した点だ。残念ながらEPB(電動パーキングブレーキ)やオートホールド機能は搭載していないので、追従走行時に前走車が停止した場合は2秒までしか停止保持できないが、それでも高速道路における渋滞時などでは疲労軽減などの効果は絶大である。

 また、システム自体を変更したことで、従来のミリ波レーダーでは前走車の動きに対して加減速が強め(やや過敏)だったのに対し、新システムでは速度調整も非常にスムーズに行なう。要はカメラとレーダーによるフュージョン(複合)技術による物体認識精度の向上が大きく効いていると言えるだろう。

従来のACC(アダプティブクルーズコントロール)では車速が約40km/h以下になると機能が停止していたが、新たに前走車の停止に応じて停止までアシスト可能になった
ACCを操作するスイッチ類はステアリングの右側スポークに設置している
リアバンパーに内蔵するミリ波レーダーで車両後方をチェックして、隣接車線から接近する車両を検知した場合にドアミラーインジケーターで知らせる「ブラインドスポットモニター(車線変更サポート付)」も標準装備
単眼カメラで車線を認識して車線からはみ出さないようサポートする「車線逸脱抑制機能」のON/OFFスイッチはステアリング右下にある

バリュー(価値)を大きく高めた魅力的な1台

 エスクードはモノグレードで価格は265万8960円。ボディカラーは今回6色を展開するが、昨今人気のブラック2トーンルーフを選ぶと価格は4万3200円アップする。あとはカーナビやETCなどをセレクトすれば、細かい用品は別としてフル装備となる。

 スズキとしてはOEM車を除けば最も車両価格が高いクルマになるが、変更前との価格差は約7万2000円高。しかし、先進安全装備の大幅なレベルアップや内外装の質感向上は価格以上の価値向上と言える。

「山椒は小粒でぴりりと辛い」ではないが、市街地から高速道路、さらに搭載する「ALLGRIP」と呼ばれる4輪制御システムによる悪路走破性など、エスクードはオールラウンドに使えるクロスオーバーSUVとして「侮れない」1台なのである。

高山正寛

ITS Evangelist(カーナビ伝道師)/カーコメンテーター/AJAJ会員/18-19日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1959年生まれ。自動車専門誌で20年以上にわたり新車記事&カーAVを担当しフリーランスへ。途中5年間エンターテインメント業界でゲーム&キャラクター関連のビジネスにも関わる。カーナビゲーションを含めたITSや先進技術、そして昨今ではセキュリティ関連の事象を網羅。ITS EVANGELIST(カーナビ伝道師)として純正/市販/スマホアプリなどを日々テストし布教(普及)活動を続ける。また、カーナビのほか携帯電話/PC/家電まで“デジタルガジェット”に精通。リクルート出身ということもあり、自動車をマーケティングや組織、人材面などから捉えるなど独自の取材スタンスを取り、発信を続けている。

Photo:堤晋一