試乗インプレッション
一部改良とは思えないほど“中身充実”のスズキ「エスクード」にシビれた
欧州生まれの輸入車として日本で販売
2019年1月10日 00:00
スズキという会社は他のメーカーとはひと味違う戦略でグローバルビジネスを行なっている。主力市場でもあるインドはもちろんだが、北米や中国だけではなく、欧州にも独自の生産拠点を展開、特定の市場に対して経営資源を集中するやり方でビジネスを成功させてきた。実際「いい物(商品)ができれば他の経済圏でも売る」と、これまでもインドから「バレーノ」、ハンガリーから「SX4 S-CROSS」と今回試乗した「エスクード」を“輸入”して販売している。
4代目となる現行型は2015年10月に販売を開始。導入当初は1.6リッター直列4気筒DOHC+6速ATのみの設定だったが、2017年7月には1.4リッター直列4気筒DOHC ターボエンジン車を追加した。2018年10月に1.6リッター車は「ひっそり」とカタログから姿を消したが、同12月に今回の一部改良が行なわれたという経緯を持つ。
なぜわざわざこのようなことを書いたかというと、エスクードの日本における販売は決して好調とは言いがたい。誤解のないように言っておくと、後述するようにクルマの性能としては非常に優れている。ではなぜ売れないのか、実は「売れない」のではなく「入ってこない(輸入台数が少ない)」のである。
エスクードは欧州では「ビターラ」の車名で販売されているが、コンパクトSUVとしてはコンスタントに売れている。マジャールスズキの生産能力からすれば、まず優先すべきは欧州市場であり、日本市場はどうしても後まわしになることは避けられない現実である。それでも世界的なSUVブームの中、このクラスのSUVが欲しい日本市場においてはエスクードは強化したい車種の1つということになる。
日本市場のことを考え細部をセンスアップ
今回の一部改良では、まずエクステリア&インテリアとも細部にわたるレベルアップが行なわれている。従来モデルからスモーク処理が施されたメッキグリルやLED化されたリアコンビネーションランプ、そして試乗車にも使われている新色のボディカラー「アイスグレーイッシュブルーメタリック ブラック2トーンルーフ」の採用など、ひと目で「変わった感」が理解できる。
また、インテリアもシート表皮の変更に加え、ステアリングホイールやメーターの意匠変更、さらにカラー液晶を使ったマルチインフォメーションディスプレイの採用なども新しい。
実際、ここまでは「よくある変更点でしょ」とか突っ込まれそうな気もするのだが、ポイントは前述したように「日本におけるエスクードの販売をどう強化するか」に対応した点である。台数としては決して多くない日本市場に対して、前々から要望の高かったインストルメントパネルのソフトパッド化や目に見える部分へのメッキパーツの多用、さらにフロントウィンドウのガラスを遮音機能付きに変更するなど、たとえコストが上がっても目の肥えた日本の顧客に応えるクルマ作りはグローバルで高く評価されているスズキのいい部分が出ていると感じた。
“心臓からして別物”欧州仕込みの俊敏なハンドリングは他のSUVとひと味違う
搭載するエンジンは国産コンパクトスポーツのトップランナーと言っていい「スイフトスポーツ」と同じ「K14C」型。ただし、エスクードはレギュラーガソリン仕様にすることでスペック的には少し抑えた格好だ。それでもランニングコストを考えればレギュラー仕様はおサイフにも優しいし、スイフトスポーツより車両重量が200kg以上重くても、一般道から高速道路までアクセルワークに対してこの手のクルマとしては俊敏とも言える顔を覗かせる。
全体的に重めにセッティングされたステアリングフィールだが、操舵に対してはスッとフロントが動く。また、コーナーリング中のリアサスペンションの接地感のよさは安心にもつながるし、誰が乗っても感じることができる美点とも言える。このあたりの統一感の取れたセッティングはやはり欧州車。個人的には無段変速機に慣れた昨今のSUVの初速時におけるダルな加速感とは無縁とも言える、6速ATとの相性のよさも大きな魅力なのである。
先進安全装備を強化。ACCは待望の“全車速追従対応”に
そしてエスクードが最も進化した点が「先進安全装備」に代表される技術である。これまでのミリ波レーダーによる「レーダーブレーキサポートII」から、昨今のスズキ車で積極的に採用している単眼カメラと赤外線レーザーレーダーを使った「デュアルセンサーブレーキサポート」に変更。この他にもブラインドスポットモニターやリアクロストラフィックアラートなども採用し、大きく進化した。
さらに評価したいのが、ACC(アダプティブクルーズコントロール)の追従走行が従来の約40km/h以上から0km/h以上へと拡大した点だ。残念ながらEPB(電動パーキングブレーキ)やオートホールド機能は搭載していないので、追従走行時に前走車が停止した場合は2秒までしか停止保持できないが、それでも高速道路における渋滞時などでは疲労軽減などの効果は絶大である。
また、システム自体を変更したことで、従来のミリ波レーダーでは前走車の動きに対して加減速が強め(やや過敏)だったのに対し、新システムでは速度調整も非常にスムーズに行なう。要はカメラとレーダーによるフュージョン(複合)技術による物体認識精度の向上が大きく効いていると言えるだろう。
バリュー(価値)を大きく高めた魅力的な1台
エスクードはモノグレードで価格は265万8960円。ボディカラーは今回6色を展開するが、昨今人気のブラック2トーンルーフを選ぶと価格は4万3200円アップする。あとはカーナビやETCなどをセレクトすれば、細かい用品は別としてフル装備となる。
スズキとしてはOEM車を除けば最も車両価格が高いクルマになるが、変更前との価格差は約7万2000円高。しかし、先進安全装備の大幅なレベルアップや内外装の質感向上は価格以上の価値向上と言える。
「山椒は小粒でぴりりと辛い」ではないが、市街地から高速道路、さらに搭載する「ALLGRIP」と呼ばれる4輪制御システムによる悪路走破性など、エスクードはオールラウンドに使えるクロスオーバーSUVとして「侮れない」1台なのである。