インプレッション

スズキ「エスクード」

「エスクード」と言えばスズキの本格的なクロスカントリー車として認知されているが、今回紹介するのは同じエスクードでも別のラインに位置付けられるSUVだ。ちょっとややこしいが、同じなのはネーミングだけ。ちなみに、従来からあるエスクードは、本格的なクロカン車として新たに「エスクード 2.4」の車名で併売されている。

 エスクード2.4はFRベース。センターデフ式のフルタイム4WDだが、“新エスクード”は2015年の春にデビューしたSX4 S-CROSSがベースになっており、2WD(FF)とオンデマンドタイプのAWD(4WD)が用意される。

 プラットフォームはS-CROSSと共通なので新エスクードの存在が余計に紛らわしいのだが、シンプルに言えばS-CROSSよりひとまわりサイズが小さいのがエスクードで、もう少しオフロード寄りの立ち位置になる。

 実際に数値でも、ホイールベースはS-CROSSより100mm短い2500mm。全長も125mm短い4175mmとなっている。逆に全幅は10mm広くて1775mmだが、ほぼひとまわり小さいと言えるだろう。S-CROSSはサイズの余裕からファミリーユースに適し、エスクードはよりキビキビと走ることを目指しているところに違いがある。

10月に4代目にモデルチェンジした新型「エスクード」。ボディーサイズは4175×1775×1610mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2500mm

 外観デザインでは、特徴的なボンネットフードなどにエスクードの血統を見ることができる。また、横長のフロントグリルを採用しているので大きいクルマのように感じるが、横から見るといかにもBセグメントらしいギュッとしまったコンパクト感のあるデザインだということが分かる。

 ボディーはアルミなどを用いる材料置換は行われていないが、高張力鋼板のなかでも剛性の高い1500MPa級の部材を多用して剛性強化と軽量化を図っており、このクラスのSUVとしては軽いボディーを作り上げている。

 エンジンはM16Aと呼ばれる1.6リッターの自然吸気エンジンで、こちらもS-CROSSと共通。車両重量はどちらのAWD車も1210kgと同じなので、動力性能的にも変わらない。

 生産も兄弟車種のS-CROSSと同様、ハンガリーのマジャールスズキで行われている。両車とも主戦場は欧州で、日本は英国仕様をベースに日本向けの小変更が行われているが、基本的には欧州仕様のまま導入されている。

上から覆い被さるような「クラムシェルフード」やフェンダーガーニッシュはエスクード伝統のデザインモチーフ
AWD車はリアゲートに「ALLGRIP」のバッヂを装着
成形色のフェンダーガーニッシュを4輪に設定。タイヤはコンチネンタル製でサイズは215/55 R17
直列4気筒DOHC 1.6リッターの「M16A」エンジンは最高出力86kW(117PS)/6000rpm、最大トルク151Nm(15.4kgm)/4400rpmを発生。JC08モード燃費は2WD車で18.2km/L、AWD車で17.4km/L

 乗降性は最低地上高が185mmとSUVらしい高さになっているので、ドライバーズシートに乗り込むときなどに足を少し高く上げる必要もあるが、とくに乗り降りしにくいとは感じない。リアシートも同様で、着座位置が高く設定されていて、ドアの前後長が限られているのでちょっと狭くも感じるが、Bセグメントという立ち位置を考えれば十分だ。

 室内は結構広い。全高が1610mmとS-CROSSより35mm高いので、キャビンには上下方向に余裕のある。また、後席もレッグルームを含めて余裕がある。

 1.6リッターエンジンは低中速トルクがあり、スタート直後の粘り強い加速感などはなかなか好ましく、必要にして十分だ。これに伴い、エンジン騒音も中速回転域まではそれほど大きくなくて感覚的にも好ましいが、高速道路のランプウェイのようにフル加速を要求される高回転になるとちょっとうるさくなり、振動も大きくなる。

 アクセルレスポンスはフリクションの少なさが感じられる軽快なもので、活発な印象を受ける。加速感は1.6リッターの自然吸気エンジンなりだが、中速回転域を活かした走りなら、山道でもかなり軽快に走れるし、市街地ではまったく不足がない。

内装色は黒系の1種類。助手席側のエアバッグは内蔵していることを感じさせないインビジブルタイプ
インパネ中央に大型で見やすいアナログ時計を設定
ステアリングにはチルト機能とテレスコピック機能を用意し、自分に合ったドライビングポジションが設定できるようになっている
シート表皮は本革とスエード調のコンビネーションタイプ。AWD車のフロントシートには2段階で温度調節可能なシートヒーターを用意する

いざとなったときに頼りになるヤツ

 トランスミッションはS-CROSSのCVTとは異なり、6速のトルコンATを採用する。ラフロードを走る機会が多いことも想定しているエスクードには適切な選択だろう。各ギヤをワイドに設定しているのでステップ感があって好ましく、加速も節度よく伸びていく。ステアリングにはパドルシフトを備え、エンジンブレーキなどの操作が必要なときに使い勝手がよい。個人的にはATの場合はほとんどDレンジにお任せだが、低ミュー路を走る場合、確かにマニュアルモードは都合がよい。

 乗り心地は郊外路の荒れた路面を流れに従って走ると上下動が強く、とくにリア側の突き上げは強めになる。SUVという性格を考えるともう少しフラットな乗り味がほしいが、タイヤ径が215/55 R17と比較的大きく、タイヤの縦バネも強めなので余計にそう感じるのかもしれない。ただ、悪路の走破性を考えるとこのくらいのタイヤ径はほしいところだろう。日常的に遭遇する舗装路ではフラットな乗り心地を得ているので、この差は余計に強く感じられる。

 静粛性もコスト制約と軽量化の狭間に入るこのクラスでは、なかなか妥協点を見つけるのは難しいが、車内でのゴー音は小さい。かつ、リアがドンガラのSUVにとっては遮音が厳しいはずだがうまくまとまっており、高速クルージングでもロードノイズは抑えられている。それなりのノイズは入るがクラスレベル以上だ。

新開発の6速ATは指先の操作で変速できるパドルシフトを採用。低ミュー路を走る場合にも都合のよい装備だ

 ハンドリングはオンロードではなかなかフットワークがよい。ステアリングを左右に切り返すようなS字ターンでも追従性が良好で、気持ちよく駆け抜けることができる。この意味ではSUVという言葉からイメージされるよりもスポーティで期待以上の動きをする。電動パワーステアリングは早い操舵を繰り返すと操舵力変化が若干大きいが、普通の使い方なら違和感はない。操舵力そのものは軽めの設定だが、路面からのインフォメーションはきちんと伝わってきてドライビングの楽しみを阻害しない。

 直進性は、高速道路では横風や路面アンジュレーションが大きいとやや乱される傾向にあり、もう少しどっしりとした安定性が望まれる。

 使い勝手はラゲッジルームが二重フロアになっていて、また、ほぼフラットになる後席の可倒システム、荷物によって側面の仕切り板を取り外せて収納できるアイデアなど、軽自動車で培ったノウハウが注ぎ込まれており好ましい。

ラゲッジ容量は通常時は362L、斜めにも保持しておけるラゲッジボードを下ろすと375Lに拡大。ラゲッジシェルフを外してリアシートを前方に倒すと容量は大幅に増える。後輪のタイヤハウス後方に仕切り板を設定してちょっとした荷物を収納でき、この仕切り板を外すと9.5インチのゴルフバッグ2個が横置きできるようになる

 また、安全装備ではミリ波レーダーによる衝突被害軽減ブレーキの作動速度域を拡大している。前方衝突警報ブレーキでは移動車両に対して5km/h~100㎞/hの範囲で、静止車両に対しては5km/h~30㎞/hで作動し、衝突被害を軽減する。さらに前走車に追従するクルーズコントロールも備わり、高速道路での負担軽減につながる。ただし、全車速ではなく作動するのは約40km/h~約100km/hなので、渋滞時の追従機能は持たない。

 このほかにAWD車では、急勾配の下り坂で速度コントロールを自動で行うヒルディセント機能を備える。またAWDの走行モードは、場面によって後輪にもトルクを伝えるAUTOモード、AWDの領域を広げて高いエンジン回転を保ち、アクセルレスポンスを向上させるSPORTモード、滑りやすい雪道などで最適なトラクションをタイヤに伝えるSNOWモード、前後輪のトルク分配をほぼ均衡させ、空転するタイヤにはブレーキを掛けるLOCKモードが備わり、エスクードの“本格的なクロスカントリー車”というDNAは受け継がれている。

ACCの作動状況はメーターパネル中央のマルチインフォメーションディスプレイで確認できる
AWD車の「ALLGRIP」はボタンとダイヤルの組み合わせで簡単にモード変更できるようになっている

 エスクードは強い個性は持たないクルマなので、ある意味でユーザーには不満かもしれない。しかし、スズキのクルマらしく、普段は目立たなくともいざとなったときに頼りになるヤツである。価格もスズキ車らしく装備内容の割には抑えられており、2WDで212万7600円。AWDで234万3600円となっている。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一