インプレッション

スバル「フォレスター」(2015年改良モデル)

内外装がより見栄えよくなった

「乗用車進化型SUV」として1997年に誕生したスバル(富士重工業)「フォレスター」は、今ほどSUVが主流ではなかった中でも安定した人気を獲得し、一躍スバルにとって主力の1台となった。続く2002年に登場した2代目はキープコンセプト。ところが2007年発売の3代目では一気に車高が高められ、よりSUVらしいクルマへと生まれ変わった。

 そして2012年にモデルチェンジした現行の4代目は、基本パッケージは3代目を踏襲しつつ、「SUVとしての本質的な価値の実現」をテーマに開発された。現状、スバルはラインアップ数があまり多くない中で、「アウトバック」「フォレスター」「XV」という3モデルのSUVを展開しており、その中でも中間サイズのフォレスターがもっとも本格的なSUVに位置づけられている。

 そんな現行フォレスターの登場から3年が経過した今回の大幅改良は、デザインの刷新、走りの進化、安全性能の向上という3点がポイントだ。

撮影車は水平対向4気筒DOHC 2.0リッターエンジンにCVT(リニアトロニック)を組み合わせる「2.0i-L EyeSight」(268万9200円)。ボディーサイズは4610×1795×1715mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2640mm。駆動方式は全グレード4WDとなっている
エクステリアではフロントバンパーの形状変更を行うとともに、ヘッドランプ内のスモールランプをコの字型に変更。装備ではスバル車初の「LED ハイ&ロービームランプ/ステアリング連動ヘッドランプ」(2.0iを除く全車に標準装備。2.0iのCVT車はオプション設定、MT車はハロゲン4灯ヘッドランプ)を採用している
アイサイトは操舵支援機能の「アクティブレーンキープ」も備えるver.3へと進化した
「2.0i-L EyeSight」はブラック塗装&切削光輝の17インチアルミホイール(タイヤサイズ:225/60 R17)を装着。新デザインのホイールは空力性能も意識したものになっている
今回の改良で自然吸気の水平対向4気筒DOHC 2.0リッター「FB20」エンジンでは燃焼の改善やフリクションロスの低減などを行い、出力はそのままに燃費性能を向上。最高出力109kW(148PS)/6200rpm、最大トルク196Nm(20.0kgm)/4200rpmを発生させ、JC08モード燃費は従来型の15.2km/Lから16.0km/Lに引き上げられた
リアまわりではリアコンビネーションランプの赤く発光する部位を上側に集めてリフトアップテイストとし、さらにブレーキランプもコの字型にしたワイド感を強調するデザインになった
新型フォレスターの室内サイズは2095×1540×1280mm(室内長×室内幅×室内高)
インテリアではドアグリップなどに質感を高めた表皮を採用したほか、メーターパネルのスピードメーターとタコメーターの指針開始位置を左下から左真横に変更。メーターパネル中央に備わる3.5インチのマルチインフォメーションディスプレイはカラーTFT液晶パネルにスイッチし、アイサイトやSI-DRIVEなどの各種情報が確認できる
インパネ中央にレイアウトされる4.3インチのマルチファンクションディスプレイでは、瞬間燃費/平均燃費/航続可能距離やX-MODEの作動状況などを確認できる
ラゲッジスペースは505L(パワーリアゲート装着車は488L)を確保し、9インチのゴルフバックを横に4つ搭載することができる。後席は6:4分割可倒式

 エクステリアは、もともと眼力の強いヘッドランプや大型のヘキサゴングリルなど、最近のスバル車に共通するデザインモチーフが盛り込まれていたフロントフェイスが今回さらにリフレッシュされ、より個性が際立ったように映る。DITを積む「XT」には、より印象の強いフェイスが与えられているのもこれまでどおりだ。

 インテリアも質感が大きく向上したことを実感する。また、運転席メモリー機能やリアシートヒーターの設定、パワーリアゲートのスイッチへの照明の追加など、実際に使う上でありがたい装備が充実したのも今回の改良による大きな進化点の1つだ。

こちらは水平対向4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「FA20」エンジンにCVT(スポーツリニアトロニック)を組み合わせる「2.0XT EyeSight」(312万8760円)。最高出力206kW(280PS)/5700rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/2000-5600rpmを発生。JC08モード燃費は13.2km/Lとなっている。「2.0XT EyeSight」ではオートステップ制御を採用し、SI-DRIVEの「S#」(スポーツシャープ)モードの8速ステップ変速をクロスレシオ化している
ブラックを基調とした「2.0XT EyeSight」のインテリア。オプション設定の本革シートを装備
マルチインフォメーションディスプレイに表示されるSI-DRIVEの表示例。SI-DRIVEの「I」「S」(写真左、中)選択時にアクセルを高開度にするとステップ変速に切り替わる新制御を搭載。「S♯」(写真右)選択時は8段クロスレシオのステップ変速制御となり、よりスポーティな加速が楽しめる
マルチファンクションディスプレイの表示例。「2.0XT EyeSight」ではブースト圧の表示も可能

フットワークが激変

 実際に走ってみても、従来との違いは予想よりも大きかった。まず静粛性が高まっていることを実感する。今回の改良でガラスの板厚UPやシールの強化、パワートレーン系の改良など、各部に施されたことが着実に効いているようだ。

 もっとも印象的だったのはハンドンリングの変化だ。従来も軽快な走り味ではあったものの、ステアリングフィールはいささか軽薄な気もして、走りに落ち着きのない印象があった。今回、ステアリングギア比が従来の15.5:1から14.0:1へとクイックにされたので、その傾向が助長されるのではと思っていたのだが、実際には逆。キビキビしながらもステアリングの切り始めに適度な“タメ”があり、走りに一体感があるので、クルマの動きがとても分かりやすい。とても上質な走り味になっていたのだ。

 むろん、これにはサスペンションのバネ定数や減衰力の最適化も効いていることに違いない。従来はやや突っ張った印象があったところ、ロール感はより素直になっている。フォレスターのように重心の高いクルマであればなおのこと、改良後の味付けのほうが修正舵が少なくて済むし、同乗者を不快に感じさせる挙動が出にくいはずだ。

 乗り心地も従来からわるくなかったと思うが、フラット感が増している。2.0i-Lのほうが当たりがソフトで万人向け。2.0XTは、2.0i-Lに比べるとやや硬さを感じるものの、姿勢変化が小さく抑えられていて、スポーツカーのごとく切れ味鋭いコーナリングを楽しめる。それぞれキャラクターに合わせて相応しい味付けが施されている。

より進化したDIT車の変速制御

 動力性能について、DITを積む「XT」には大きな変化があった。これまでもSI-DRIVEをS#モードにセットすると、アクセルレスポンスが鋭くなるだけでなく、CVTでもATのような段付き感のある変速フィールとなっていたのだが、そのほかのモードにもオートステップ変速制御が採用された。やはりこちらのほうが人間の感性にマッチしているように思う。

 さらにS#モードでは、8段ステップ変速がクロスレシオ化された。瞬発力が増し、ギア比も接近するのだから、積極的に走りを楽しもうというときに、S#モードは大いに期待に応えてくれる。

 また、とくに変更は伝えられていないが、従来は極低回転域のピックアップがよろしくなく、低~中速走行時に速度のコントロールがしにくい傾向が見受けられたのだが、心なしかよくなっているように感じられた。なお、自然吸気エンジン車では燃費の向上が図られていることも報告しておきたい。

 X-MODEについては、久々に試すことができたのだが、やはりこれがあると悪路で楽に発進できることをあらためて確認できた。エンジン、リニアトロニック、AWD、VDCなどを最適に統合制御して悪路走破性を高めるという機構で、具体的にはまずセンターデフのイニシャルトルクを高めて前後の差回転をなくし、その上で左右のブレーキLSDを強化して左右の差回転をなくして走破性を高めるという動作を行う。

 さらに、低めのギアを保持したまま、スリップしないよう初期のトルクを緩やかに立ち上げ、トルコンをスリップさせてロックアップを遅らせるよう制御し、40km/hまで作動する。X-MODEは雪道など条件のわるい路面が不得手なユーザーにとって心強い味方になってくれることだろう。

 安全性能の向上については「EyeSight(アイサイト)」の進化が大きい。撮影時は試していないが、操舵支援機能の恩恵や、プリクラッシュブレーキやACCの性能向上は、すでに他モデルで確認済み。さらに、アイサイトのステレオカメラで正確に前方車両を検知し、ハイビームの照射範囲を滑らかに無段階調整する「アダプティブドライビングビーム」や、1灯でハイビームとロービームを切り替えられる「LEDハイ&ロービームランプ」、操舵に合わせて光軸を左右に動かす「ステアリング連動ヘッドランプ」など、灯火類にもスバル車初となる諸機能が設定されたのもポイントだ。いずれも実際に使う上で非常に有益なものであることは間違いない。

 このように当初の開発コンセプトである「SUVとしての本質的な価値」に加えて、洗練された走りとデザイン、装備の充実という大きな価値を手に入れた改良後のフォレスターは、より誰にでも薦められるクルマに成長したと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:原田 淳