飯田裕子のCar Life Diary

ブランド初のEV「I-PACE コンセプト」発表会などジャガー・ランドローバーの海外イベントレポート

 今年も残すところあとわずか。慌ただしく過ごしているなかで箸休めになるようなお話ができないかと考えていた。11月、LAショーの取材に行ったのだけれど、同時にジャガー・ランドローバーのいくつかのイベントに参加できたので、その裏話を少しの表話とともに紹介したい。

 ジャガー・ランドローバーは、LAショーをフックにバラエティに富んだ発表を行なった。新型「ディスカバリー」のお披露目に、ジャガーが2018年から販売するというジャガー初のEV(電気自動車)「I-PACE コンセプト」を発表。それ以外にもロサンゼルス市内にあるピーターセン自動車博物館で60年前のスポーツカー「XKSS」を9台だけ再生産するプロジェクトを、1台の完成モデルとともにその詳細を紹介したのだ。

LAショーのジャガー・ランドローバーブース。ジャガーは「XE」や「F-PACE」の好調もあり、北米での販売は93%、グローバルでは前年同期比で84%も伸びたそうだ。会場には既存モデルはもちろん、「I-PACE CONCEPT」や今年から参戦を開始したフォーミュラEのマシンも展示されていた
ランドローバーはグローバル販売で前年同期比15%のアップ。新型ディスカバリーの投入でさらなるブランド成長が期待できるという

 ロサンゼルスに入った翌日、ハリウッドにあるスタジオで「I-PACE コンセプト」のプレゼンテーションが行なわれた。LAショーのプレスデーを控えているとは言え(移動させる必要がある)、朝からプレゼンを行なうというスケジュールに少し「なぜ?」と思っていたのだが、行ってみて分かったのは1台のコンセプトカーをロサンゼルスに持ち込み、時差のあるイギリスのプレスも本国に集め、2拠点同時にプレゼンテーションを行なう狙いが“しかけ”とともにあったのだった。

 その“しかけ”とはVR(Virtual Reality)技術。VR元年とも言われた今年、VRを用いた自動車のプレゼンテーションを体験するのは初めてだった。スタジオ内の中央に「I-PACE コンセプト」が置かれ、その左右にはいくつものテーブルとその上にヘッドセットやコントローラーが置かれている。ヘッドセットをセットし、まずはコントローラーを使ってスロットカーを体験。いよいよ「I-PACE コンセプト」のプレゼンに入ると、性能やシステムのグラフィックの見え方が新鮮。目の前にジャガー・ランドローバーのチーフデザイナーであるイアン・カラム氏が現れ、デザインのディテールのリアルさに加え、フロント/リアシートに座ったときに見えるインテリアの雰囲気やガラス越しに見渡す景色もまるでリアル。EVシステムやサスペンションのメカニズムもクローズアップされ、走行中の動きも見知ることができる。

 プレゼンが終わると、ロサンゼルスとイギリスにいるメディアの質疑応答がインタラクティブに行なわれた。ビジネスマンの方々はテレビ会議などで慣れていることかもしれないけれど、私にとってはこの2拠点同時のプレゼンは非常に新鮮だった。

 そして、改めて夜にはプレスやロサンゼルスのセレブたちが招かれ、ショーを前にプレビューのパーティが催された。現地の方々ならもっと多くのセレブを発見できたようだけれど、筆者レベルではファッションモデルのミランダ・カーやCBSテレビの深夜番組「ザ・レイト・レイトショー」の司会者であり、俳優のジェームズ・コーデンを認識するのがせいぜい(苦笑)。北米でも販売台数を伸ばすジャガーが、近くEVの販売をスタートさせるというビッグニュースは盛大な催しとともに行なわれたのだった。

朝晩ともにI-PACEのお披露目会場となったハリウッドにあるスタジオ
まずはVRを使ったプレゼンテーション
スロットカー体験も実にリアル。コースアウトしても手動でマシンをコースに戻さなくてよいのが嬉しかった
あたかもそこに説明のエンジニアが居るかのようななか、写真のような画像や動画が個々の目の前に現れる
モデルのミランダ・カーと「I-PACE CONCEPT」。同モデルはスポーティな外観とパフォーマンス、SUVとして頼もしいスペースを持つ5人乗りのEV。駆動方式は前後にモーターを持つAWD。パワー&トルクは400PS/700Nm。航続距離はNEDC計測で500km
夜はセレブや報道陣を招いた発表&パーティが開催された
ジェームズ・コーデンもVRを体験
トークショーの名司会者でありカーガイとしても有名なジェイ・レノ(右)とジェームズ・コーデン

 ジャガーはもう1つ、クラシックカーを再生産させるという発表を市内のピーターセン自動車博物館で行なった。余談ながら、この博物館は北米でも人気のある自動車博物館の1つ。それが2015年末にリノベーションを終え、今年の始めから一般公開を再スタートさせている。私は年明けに1度取材をしていて、この博物館をもう1度見られるとあって楽しみは倍増。だが、閉館時間を過ぎた博物館は2Fフロアだけを貸切り、会場の入り口には同博物館が所有するスティーブ・マックイーンの愛車であった1956年式のXKSSがお出迎えをしてくれた。

 その先へ進むと“プレシャス・メタル”の間(通常はブルース・メイヤーファミリーが所有するすべて銀色のスポーツカーを展示)で歴史的なスポーツカーたちに囲まれ、鶯色をもう少し濃くしたようなシアーウッド・グリーンのXKSSが紹介された。しかも博物館の一室で着席式のディナーをいただきながら発表のプレゼンを聞くという優雅なもの。これは英国式と言えるのだろうか。「I-PACE コンセプト」の発表の際には、多くの首座人に囲まれ多忙を極めていたチーフデザイナーのイアン・カラム氏もこのときばかりは少しお酒も入り、きさくに話をしてくれた。しかもご自身のスマホのなかにある、氏の愛車まで見せてくれるというおまけつきで。今回は撮影許可もいただいたのでその一部を紹介させていただく。

 北米のなかでもカリフォルニアは最もクルマを愛する人が多く、夏にはペブルビーチで毎年「コンクール・ド・エレガンス」が開催されることでも有名だ。クラシックカー愛好者も多い。一方で、州レベルで環境規制も異なる北米のなかでカリフォルニアが最も厳しく、その方面でも各州をリードする。ある意味ではクラシックカーの対極にあるEVの発表もクラシックカーの取り組みも、ともにロサンゼルスで行なうのに恰好の機会であり場所だったのだと察する。

スティーブ・マックイーンが所有していた1956年式XKSS
右からクラシック部門のダイレクターのティム・ハニング、ジャガー・クラシック部門ビークル・エンジニアリング・マネージャーのケヴィン・リッチ、そしてジャガー・ランドローバーのデザインディレクターのイアン・カラム
ジャガー・クラシック部門ビークル・エンジニアリング・マネージャーのケヴィン・リッチ氏は「この重要なモデルを完全に再現し、“New ORIGINAL”バージョンの車両を製作。ナンバリングから型、2000個以上もあるリベットの位置、スミス製のゲージに至るまですべて当時のまま」という
今回、再製造されたモデルはジャガー・ランドローバーのスペシャル・ビークル・オペレーションに属するジャガー・クラシックが手掛けた。1957年式XKSSをスキャンし、デジタル再生。当時の設計図をもとに、パーツなどマテリアルのほとんどは当時のものが再現されている(現代の安全基準に従いガソリンタンクなどは変更されているという)。リベットの位置もオリジナルに忠実だとか。ダンロップ製のタイヤはこの9台のために復刻。XKSSは1954年からル・マン24時間レースに参戦し、翌年から3連勝した歴史あるレーシングカー「Dタイプ」の公道モデル。当時16台が生産されるも工場の火災により9台が消失。これを今、復活させようというのだ。お値段は1億4000万円をくだらないという。ジャガー・クラシックは技術の継承のためにもこの消失した9台を復活させるとのこと
イアン・カラム氏と筆者。彼のスマートフォンに納められたクラシックモデル数台を見せてもらった

 ランドローバーは、数カ月前にパリモーターショーでワールドプレミアした新型ディスカバリーをロサンゼルスで北米初披露。その発表にちなみ、ダウンタウンの中心のビルが立ち並ぶ中で、また多くのセレブも住むベニスビーチで期間限定のイベントが開催され、一足先にそれらを見て、体験することができた。

 ビルの谷間で行なわれていたのは、トーイングという牽引を最新のセミオートシステムで行なえるという体験。モニターを見ながら進行方向と目指す場所をダイヤルでセットし、カメラとセンサーを使ってドライバーはアクセル(ブレーキでクリープ速度を調整)もハンドルも触れることなくクルマが動く。ここでは大きな船や馬を乗せた(想定)キャリッジ、モーターホームで前進&後退&駐車の体験ができるのだった。当然ながらトーイングからして初体験だったわけで、しかもそれをより安全に行なえるこのシステムは、カー&ライフを充実させているアメリカ人にとってはとても頼もしい武器になると想像できた。

 ちなみに2017年に日本にも導入される予定のディスカバリーだが、このトーイングシステムは導入されない予定とのこと。つまり、日本人ジャーナリストにとってはこの体験はあまり意味がないものの、だからこそ貴重な体験とも言える。

事前に牽引物サイズなどをインプットし、画面上でその認証キーを選んでスタート。これはATPC(=ALL Terrain Progress Control)とアドバンスド・トー・アシストという2つのシステムがカギとなる。セット完了すると前進はクルーズコントロール状態でアクセルペダルは踏まずにハンドル操作のみドライバーが行なう。そしてリバースはシフトダイヤルの手前にあるコントローラーを引き出し、グルグルさせるとハンドルも動く。これで画面の指示(ライン)に従い角度を調節すれば、オートパーキング同様にボートもクルマも動いてくれた
キャンピングカーや馬を運ぶキャリッジでも体験ができた

 ベニスビーチでは、オープンスペースで新型ディスカバリーの内外装やユーテリティについて知ることができた。加えてヴィーガンフードやコールドプレスジュースの提供やサーフボードペインターの実演、ボードを使ったワークアウトのアクティビティ体験、オフィシャルグッズ販売などがあり、日本から来た1人の女性としてはこの“カリフォルニアスタイル”のエキシビションもまた楽しむことができた。日本に導入される際にはどんな嗜好を凝らした紹介がされるのだろう。

ボードアーティストによるペイントの実演。アートも盛んなベニスビーチらしい演出
オープンスペースは青空の下、自然光のなかで新型ディスカバリーを見ることができた。サードシートへのアクセスも楽になった
名前を聞いたけれど忘れてしまった……。バランスをとるのが難しく、海に出ずとも体幹や筋肉を鍛えられるというボードを使ったトレーニングも体験できる
ヴィーガンフードやコールドプレスジュースは、ヘルシー志向のカリフォルニアンに向けた飲食

飯田裕子

■日本自動車ジャーナリスト協会会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員/日本自動車連盟 交通安全・環境委員会 委員
東京生まれ、神奈川育ち。自動車メーカーでOLをした後、フリーの自動車ジャーナリストに転身。きっかけはOL時代に弟(レーサー・飯田章)と一緒に始めたカーレース。その後、女性にも分かりやすいCar&Lifeの紹介ができるジャーナリストを目指す。独自の視点は「人とクルマと生活」。幅広いカーライフを柔軟に分析、紹介のできる視野を持つ。自身の2年半の北米生活経験や欧米での豊富な運転経験もあり、海外のCar&Life Styleにも目を向ける。安全運転やエコドライブの啓蒙活動にも積極的に取り組んでおり、近年はIT技術を採用するクルマの進化とドライビングスタイルの変化にも注目。ドライビングインストラクターとしての経験も15年以上。現在は雑誌、ラジオ、TVなど様々なメディアで様々なクルマ、またはクルマとの付き合い方を紹介するほか、ドライビングスクールのインストラクター、講演、シンポジウムのパネリストやトークショーなど幅広く活動中。