飯田裕子のCar Life Diary
初開催の「オートモビル カウンシル」を見てきた
2016年8月18日 00:00
自動車のヘリテージや文化がテーマのオートモビル カウンシル
初開催となった自動車イベント「AUTOMOBILE COUNCIL(オートモビル カウンシル)2016」を覗いてきました。これは自動車のヘリテージや文化が大テーマとなる、今までにないコンセプトの自動車イベント。
初回となった今回は、国内外の自動車メーカー9社とヘリテージカーを扱う専門店19社が出展し、100台以上の展示があったそうだ。また3日間にわたって11テーマで行なわれた講演会&トークショーでは、なかには立ち見も出るほどの来場者もあったのだとか。自動車関連グッズを展示・販売するマルシェはクルマ好きにとっては手ぶらで抜け出すのはほぼ不可能だったのでは? また、日本の自動車文化を支えるオーナーズクラブの参加も、このイベントならではと言える。それらで構成されたホール内の雰囲気が新鮮だったオートモビル・カウンシル。
入口では1953年式のポルシェ 356カブリオレと1964年式のポルシェ カレラGTS(=通称ポルシェ 904)がお出迎えしてくれた。真っ赤な356は日本に初めて三和自動車よって正規輸入された2台のポルシェのうちの1台。そしてもう1台の904は別の愛称“式場ポルシェ”と言われるソレだった。
1960年代、日本でもモータースポーツで勝つことが自動車メーカーのコマーシャルに活用されるようになった時代、たった1度だけ出場した第2回日本グランプリでプリンス勢を負かした式場壮吉氏とそのポルシェ。このグランプリはいくつかの逸話とともに語り継がれるレース。日産自動車の前身であるプリンスに自社マシンでは勝てないと悟ったトヨタ自動車が、プリンス勢を勝たせないための対抗馬としてポルシェ 904にトヨタのドライバーである式場氏を乗せて戦わせたとか。もしくはそれは式場氏の意思であったとかなかったとか……。この904そのものが事実を知る唯一の証人ならぬ証車。というのも、ドライバーである式場壮吉氏は2016年5月にこの世を去られてしまっている。
という具合に、歴史あるモデルの解説を読んではあらゆる角度から眺め……を繰り返しているうちに、1台あたりの滞在時間はときに長引く。各ブースの展示数はモーターショーの規模からすれば決して多くはないものの、少数精鋭ぞろいのソレらをジックリと深く見入りたくなるのがこのイベントの魅力だったのではないか。自動車メーカーは最新モデルとともにヒストリックカーを展示。歴史や伝統を今に伝える1台のモデルから、ブランドの過去を遡って今を知り、改めてそのブランドの魅力を見つめ直すことができるという、クルマ好きにとってはとても有意義な機会だったと思う。
マツダはデザインをテーマに、トヨタはカローラ50周年記念展示を、本田技研工業は新旧の小型スポーツカーに思いを巡らせるラインアップを揃え、日産はプリンス時代からのスカイラインのチャレンジを、スバル(富士重工業)は水平対向エンジン誕生50周年にちなみ、その変遷を搭載モデルで辿ることができた。
トヨタ自動車
「トヨタ・カローラ 生誕50周年」がテーマのトヨタ。ブースには初代カローラ 1100 デラックス(1966)、2代目カローラのレビン 1600(1972)、カローラ 1600 GT(1979)、生誕50周年記念限定モデルのカローラ アクシオハイブリッド G“50リミテッド”を展示。報道陣向けのカンファレンスでは10代目と11代目カローラの開発責任者を務めた安井慎一氏が登壇したほか、トークセッションでは歴代カローラの開発を担当された方々が貴重な秘話を語った。
日産自動車
2016年に旧プリンスとの合弁から50年となることにちなみ、「プリンスの系譜」をテーマに掲げた日産ブース。第2回 日本グランプリに参戦したプリンス スカイラインGT(1964)、第3回 日本グランプリで総合優勝したR380(1966)、スカイライン ハードトップ 2000GT-R(1972)、日産GT-R(2017)を展示。
本田技研工業
ホンダは「新旧の小型スポーツカー」をテーマに、スポーツ360(1962年のレプリカ)、S600(1964)、S660(2016)を展示。スポーツ360は、レプリカと言っても2012年に本田技術研究所の“技術伝承プロジェクト”によって復元された素晴らしいモデル。
マツダ
「MAZDA DESIGN ELEGANCE」をテーマにしたマツダは、R360 クーペ(1960)、コスモ スポーツ(1967)、ルーチェ ロータリー クーペ(1969)、サバンナ GT(1972)、ユーノス ロードスター(1989)、RX-VISION(2015)、MX-5 RF(2016)を展示。そのほかマツダのデザインの方向性を示すオブジェの展示も楽しめた。
見どころ満載だった輸入車ブランドブース
輸入車ブランドでは、FCA ジャパンが会場でアバルト 124スパイダーを発表。2017年からふたたび新世代の124 ラリーでWRC(世界ラリー選手権)への参戦も準備中のアバルトブースでは、モータースポーツ色を強めるべく1973年式のアバルト 124 スパイダー ラリーも展示されていた。また、今回はアバルトのデザインヘッドが来日し、トークセッションでは多くの来場者を集めたそうだ。
メルセデス・ベンツ日本はSLの世界観を4台の異なる時代のモデルで紹介。加えてミニチュアやペダルカーまでSLづくしだった。マクラーレンは570GTのジャパンプレミアを初日に行ない、“究極のロードカー”であるマクラーレン F1が華を添えた。
ボルボ・カー・ジャパンは黄色の1971年式1800Eがとにかく美しくも可愛くもあり、申し訳ないが最新のXC90が目に入らぬほどだった(笑)。今年からWTCC(世界ツーリングカー選手権)に参戦中のボルボも、近年は安全性のみならずモータースポーツやスポーツモデルの開発を積極的に行なっている。懐かしい850 エステートも私の目をくぎ付けにした1800Eも実用や美しさのみならず、ボルボのパフォーマンスを改めて見直す今回の展示になったことは間違いない。
フェラーリの日本総代理店を務めるコーンズ・モータースは、近年力を入れているユーズドカー販売やフェラーリ・クラシケの認定についても知ることができるブースとなっていたのもこのイベントらしい。また、私設ミュージアムながらロールス・ロイス/ベントレーを専門に扱うWAKUI MUSEUMは、メンテナンスやレストアを請け負うことでも知られるミュージム&ファクトリーとして、今回は8台のモデル展示のなかに1920年代のベントレーを3台も並べる贅沢なものだった。
ファクトリー&ショップという点ではここで紹介していたらキリがないが、フォルクスワーゲンやプジョー、シトロエンにロータスなどなど、私ですら名前を聞いたことのある各メーカーに精通したビンテージ専門店が80台を展示/販売。「すでに初日に数台が売れたらしい……」と聞いて、空きスペースがあるのではないかと心配をしていたら、最終日まできちんと展示をしてくれると聞いてひと安心。1977年式プジョー 104 GLや205 GTI、シトロエン DSや1950年代のフォルクスワーゲン ビートルなど、名車が一堂に会するエリアも見応えがあった。いや、古いクルマも好きな筆者としてはワクワクした。そういう意味ではプリンスのレーシングカーや古いカローラ、マツダ R360クーペと向き合ったときも然り。近年は国産絶版車の人気が再浮上しているとはいえ、古いモデルには行くところに行かなければ出会えない印象があるから、このイベントがますます有意義に思えるのだった。
来年はスズキやダイハツ工業も出てきてくれないかしら。スズキはステキな歴史館が浜松にあり、その一部をちょこっと見せてくれたらきっとみんなハッピーなはず(と、訪れたことのある筆者は思う)。
アバルト
10月に発売を開始する124 スパイダーのお披露目に際し、本国からルーベン・ワインバーグ氏によるプレゼンテーションが行なわれた。報道陣向けのみならず、一般来場者にもトークセッションが開かれ、アバルトのデザインヘリテージについて紹介されたそうだ。今回展示されたのはアバルト 595 ベルリネッタ(1964)、アバルト 124 スパイダー ラリー(1973)、アバルト 595 コンペティツィオーネ(2016)、アバルト 124 スパイダー(2016)。
マクラーレン・オートモーティブ
マクラーレンは570GTのジャパンプレミアを行なうとともに、マクラーレン F1(1993)を展示。ロン・デニスとゴードン・マーレーによって生み出された究極のロードスポーツカー・マクラーレンF1とともに、マクラーレンの“今”を知ることができた。
ボルボ
1800E(1971)、850 T5-Rエステート(1995)、S60 ポールスター(2017)、XC90 T6 AWD R-DESIGN(2017)を展示。1800Eとともに並ぶ850 エステートも20年前のモデルという懐かしさ。ボルボはクラシックガレージをボルボカーズ東名横浜に開設したそうで、展示された850 エステートはテストケースとして内外装のほか必要な部分のみをリフレッシュしたモデル。お世辞抜きでキレイに仕上げられていた。
また、2009年からボルボ公式のパフォーマンスパートナーとして高性能モデルの開発/ボルボチームとしてモータースポーツ参戦も行なっている“ポールスター”が手掛けた国内100台限定となる最新モデル、S60 ポールスターとV60 ポールスターをお披露目した。
メルセデス・ベンツ
190 SL(W121型、1963)、380 SL(R107型、1984)、500 SL(R129型、1990)、SL 400(R231型、2016)を展示。なかでも190 SLは、レースモデルに端を発した当時のメルセデス最速とも言われた300 SLと同様のエクステリアを持つモデル。今となっては300 SLがメルセデス栄光の産物として注目されがちであり、むしろ珍しいと感じたのは筆者だけだろうか。オートモビル・カウンシルらしいという点では、走行距離や所有年数に応じたオーナー表彰制度も紹介。近年アクセサリーグッズ販売にも力を入れるメルセデスブースでは、ミニチュアやペダルカーの購入も可能で、ミニチュアから1/1の実車までSLを存分に楽しむことができた。
会場の独特の雰囲気もこのイベントならでは
会場の静かで落ち着いた雰囲気も独特だった。モーターショーやオートサロンとは違い、コンパニオンやBGMでショーを盛り上げる演出のない、どちらかと言えば博物館とどこかのサロンが合わさったようなムード。それでも華やかな印象が感じられたのは、そこに展示されたクルマが華となり、訪れる人々が華を添えていたからだろう、と言ったら言い過ぎかしら。大人や学生さんたちがお気に入りの1台の前でゆっくりと展示を眺め、シャッターを押す後ろ姿に静かなクルマ愛オーラが漂っていた。今後もこうしたムードが継続されたらほかとは明らかに異なる日本のカーカルチャーを支える魅力的なイベントになるのではないかと思う。
若い世代がきっかけを作るカルチャーもアリだけれど、クルマのように歴史や伝統のあるモノや事はそれらを知る大人たちが正しく魅力的なリードをし、継承していくべきではないか、と。若者のクルマ離れを危惧するなら、若い世代が憧れを抱くようなカーカルチャーの創造(今回の場合は歴史や文化の伝承を中心とした知的好奇心をそそられるような内容)や、会場へ足を運ぶ際に好奇心とともに少しの緊張感を抱けるようなイベントを魅せていくのも大事ではないか。そんな印象を受けた今回のイベント、来年の開催も期待したい。