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三菱ふそう、大型トラックのEV化や自動運転化を議論するシンポジウム
500万km以上を走行して安全確認。東京モーターショーではレベル2(運転支援機能)のトラックを出展へ
2019年9月5日 11:00
- 2019年9月3日 開催
三菱ふそうトラック・バスは9月3日、都内で関係者を招いたシンポジウムを開いた。「大型トラックにおける自動運転技術の現在と将来」と題されたこのシンポジウムでは、同社や、同社が所属するダイムラーグループが開発を進めているEV(電気自動車)トラックと自動運転トラックを含む業界の現状、今後の展望などについて、専門家を交えたパネルディスカッションで意見を交わした。
商用車のEV化には、乗用車とは異なるインフラの検討が必要
イベントでは最初に、三菱ふそうトラック・バス 代表取締役兼CEOのハートムット・シック氏が登壇し、三菱ふそうにおけるトラックのEV化と自動運転化の状況について解説した。同氏は2017年にEVトラックの「eキャンター」を発表したことを引き合いに出して、「商用車のエリアでは三菱ふそうがダイムラー(グループ)では先端をいっている」と述べ、それに加えて物流の要になるとしているテレマティクスサービスの共通プラットフォームをダイムラー・トラックで開発したことをアピールした。
今後も日米欧に開発拠点を持つダイムラーのリソースをフルに活用しながら、特に自動運転技術についてはレベル5の自動運転実現に向けて590億円もの多額の投資を行なっていくとし、10月24日に開幕する「東京モーターショー 2019」で、レベル2(運転支援機能)技術の仕組みを大型トラック「三菱ふそう スーパーグレート」に搭載して披露し、今秋発売することを明らかにした。
続いて登壇した経済産業省 自動車課長の河野太志氏は、昨今、自動車業界におけるキーワードの1つとなっている「CASE」(コネクテッド、自動運転、カーシェア、EV)のうち、特にEVに関して、政府や経産省としてどういった取り組みを行なっているのかを紹介した。同氏によると政府では、2018年7月に打ち出した「電動化で日本が世界をリードする」という方針のもと、2050年までに「世界で供給する日本のクルマにおいて、温室効果ガスを8割削減する」という目標を掲げているとした。
国土交通省との次期燃費基準の取り決めでは、乗用車の2030年の基準として、「(2016年度実績値との比較で)32%の燃費改善を求める」ことで欧州並みの燃費基準を設定。新たにEVやプラグイン・ハイブリッド車も含めて算定することとなり、2030年時点での積算の新車販売におけるそれら車種の全体に占める割合を「十分に野心的」という20%に設定した。これを元にトラックなどの商用車の基準をどうすべきか、今後議論が開始することになると話した。
このほか、政府としてはEVの社会的な受容性をどう育むかについても、さまざまな面で議論や実際の取り組みが必要だと認識しており、例えばユーザーや企業がEVにどうメリットがあるのかを訴え、分かりやすく可視化していくことが不可欠だとした。それには、MaaS(Mobility as a Service)の動きに見られるような新たなモビリティサービスの一般化や、電力をEVに供給するための給電システムやグリッドシステム(電力ネットワーク)の変革を含めたインフラ整備が必要だとし、商用車については乗用車とは異なるインフラの研究、電池のリユースなど二次利用のルール策定などが重要だと語った。
およそ100台の自動運転車が一斉に走行する大規模実証実験を10月に実施
シンポジウムのメインとなるパネルディスカッションには、モータージャーナリストの清水和夫氏をモデレーターに、パネリストの4名がトラックなど商用車における自動運転技術やEV化に関する現状と今後について意見交換した。
すでにダイムラー・トラックでは、2019年のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)においてレベル2(運転支援機能)技術の公道試験走行を行なっており、Lane Departure Warning(車線逸脱警告)や自動ブレーキのActive Brake Assistといった装備が事故防止に大きな効果があると見込んでいる。こうした状況の中で日本の法制度はどこまで進んでいるのか、パネリストの1人である国土交通省 自動運転戦略官の平澤崇裕氏が現状を解説した。
日本国内では、大型車は事故が発生した場合の被害が乗用車同士よりも大きいため、「2014年11月から順次、大型車に対して衝突被害軽減ブレーキを義務付けている」と説明。乗用車についても近年は高齢者の事故が目立っていることもあり、衝突被害軽減ブレーキの装着を義務化することを検討中で、2019年内にはその義務化時期を決定するとのこと。
国際的には、国連における1部門の作業部会として「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」が設置されており、他の国で承認を受けた自動運転に関わる装置を他国でも受け入れる「相互承認制度」を導入するための基準の検討などが進められているという。また、従来はドライバーによる運転を前提としていた日本の道路運送車両法についても、「自動運転車の総合的な安全確保の対策を講じるため、道路運送車両法の改正案が2019年5月に成立している」とした。
警察庁の管轄となる部分については、同じく国連に設置されている「道路交通安全作業部会(WP1)」という会議体で国際的な議論を進めているほか、日本では道路交通法を改正して自動運転レベル3の車両におけるドライバーのあり方などを取り決めているとした。
こうした動きと関連し、政府の各省が連携した成果の1つとして、2019年10月に国内で大規模実証実験が行われることになっている。SIP-adus(戦略的イノベーション創造プログラム 自動走行システム)サブプログラムディレクターの有本建男氏によれば、各メーカーの自動運転車100台程度が東京・お台場に集まり、一斉に実験走行してデータを集める計画だ。
ただ、有本氏は自動運転車の試験導入を拙速に進めるべきではないとも指摘する。自動運転が多くの人の生活に密接に結び付くことになるからこそ「政治も、産業界も学会も、役所も市民も、全体がハーモナイズして動かないといけない。社会受容性と言われるソーシャルアクセプタンス、これをしっかりやらないと小さなトラブルがあっただけで数か月間実験できない状況にもなりかねない」と釘を刺す。
大型トラックをはじめとする商用車が支える物流は、人々の生活に深く関わっていることもあり、「急激に(変革を)やろうとするとおかしくなる。一番被害を受けるのは市民。きちんと仕組みを考えながら、しかしビジョンとしては大きく持って進めていく時代になってきている」と述べた。
世界的に見ても特殊な日本の道路環境にどう対応しているのか
そんな中でダイムラー・トラックおよび三菱ふそうトラック・バスは、自動運転技術の開発をどのように進めているのだろうか。ダイムラー・トラックでは、先述したとおりレベル2(運転支援機能)技術の大型トラックで試験走行をすでに実施しており、三菱ふそうは東京モーターショー 2019で大型トラック「スーパーグレート」にレベル2の仕組みを搭載した車両を出展し、発売する予定となっている。
順当に考えればその次は自動運転レベル3となりそうだが、ダイムラー・トラック・アジア副社長のアイドガン・チャクマズ氏によると、ダイムラーグループではレベル3はスキップし、レベル4に向けて開発を進めているという。
レベル3をスキップする理由として同氏は、レベル3は車両と人間をつなげるハンドオーバーのようなインターフェースの規定が大部分で、これにはかなりの労力が必要になり「投資コストはレベル4とほぼ同じになる」と見込んでいるためだと述べる。単なる技術的興味で取り組むのではなく、商用車のビジネスとしてはユーザーの確実な需要を一番に考えるべき、ということも理由の1つにあるようだ。
また、高速道路における自動運転レベル4が、とりわけ米国では実現しやすい事情もある。米国では高速道路と物流拠点が近く、ハブからハブへの輸送ルートが複雑ではないうえに、高速道路では一般道路のように道路状況がいきなり大きく変わる可能性も低い。近距離で同じ区間の往復を繰り返す単調な輸送業務が世界的なドライバー不足の一因とも考えられており、米国のそうした環境はまさしく自動運転レベル4の実現が最も効果的に現れる部分になると見ているようだ。
一方、ダイムラーと連携している三菱ふそうトラック・バスではどのように自動運転車両の開発に取り組んでいるのか。三菱ふそうトラック・バス 開発本部の恩田実氏によると、ハードウェアと基本となるソフトウェアは、基幹システムとしてグローバルで開発しており、日本、欧州、米国のそれぞれで異なる環境のいずれにもマッチするように作り込んでいるという。
ただ、日本は欧州や米国と比べても特殊な環境となっている、と同氏。例えば高速道路の車線幅は3.2mと狭く、それでいて大型トラックの幅は標準的には2.5mあり、少しでも操舵にぶれが出ればはみ出してしまうほど余裕がない。「レーンの色、線の形、濃さが国によって違う。日本は高速道路でも大きなカーブがあったり、起伏があったり、二重レーンではさらに車線幅が狭くなったりする」とのことで、チューニングは難しいという。
また、一般道路になると、「外国には見られない歩道橋が多数ある。電線、電信柱も多く、それらが道路を横断しているのも特殊」とのことで、そうしたユースケースとなる部分の走行映像をもとに画像解析し、障害物として判定するロジックをダイムラーの本体の開発部隊と協力して組み上げていくことで、「どこの環境にも耐えられるソフトウェアを作る」ことができているという。
当然ながら、その活動の中で同社は安全にも最優先で取り組んでいるとする。恩田氏は、開発において「壊れたときに安全側に振るフェイルセーフの思想はもちろんあるが、お客さまが使うような状況で100万km以上を実際に走っている。グローバル全体では500万kmを走行している」という。そこで安全性を確認したうえで、世界中から集まった膨大な走行映像を解析することで、衝突を絶対に起こさないシステムを目指しているとした。