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三菱ふそうとバーラト・ベンツをデザインするデザインセンターを公開

ダイムラー乗用車部門デザイン代表のコードン・ワグナー氏らが説明

2019年3月18日 公開

新社屋「プロダクト・センター」にあるデザインセンター

 三菱ふそうトラック・バスは3月18日、神奈川県川崎市中原区にある川崎工場第一敷地内の新社屋「プロダクト・センター」にあるデザインセンターを公開。ダイムラーAG デザイン代表のコードン・ワグナー氏と、三菱ふそう デザイン部長のベノワ・タレック氏がダイムラートラックのデザインについて説明した。

デザインする理由は、愛されるブランドを作りたいから

ダイムラーAG デザイン代表 コードン・ワグナー氏

 デザインセンターの公開の前に、ダイムラーAG デザイン代表 コードン・ワグナー氏がダイムラーグループのデザインについて説明した。ワグナー氏は乗用車だけでなく、商用車についても担当している。

 ワグナー氏は「デザインセンターでは2030年くらいまでのことを考え、私たちは将来に生きていて、大きなタイムマシーンのようだ」とデザインの仕事を紹介。クルマだけでなく、未来の都市や発電をする高層ビルなどを示して「商品だけ作っているのではなく、全体のデザインアプローチをしている」とし、デザインをする理由として「最も愛される高級ブランドを作りたいから。これが私たちのデザインミッション」と説明した。

 トラックについては、乗用車と同時にインテリジェントソリューションとしてのトラックが必要とし、必要な要件をデザインに落とし込むことのほか、自動走行や将来に向けて空力をよくすることを挙げて、風洞実験を行なっていると説明。

 一方、バスについては、自動運転は比較的容易という考えを示し、「マッピングされ、低速なら自動運転のハンドリングはすぐに具現化される」と説明。実現した場合はバスで過ごすことから「公共輸送のコンセプトは、居場所になる」とした。

 さらに、三菱ふそうのデザインについては、「ヨーロッパ人から見れば日本のブランドで、日本のハイテクのトラックの会社。将来的なインテリジェントなトラックによってブランドを位置付けることができる」とした。

三菱ふそうはブラックベルトをヒーローとしたデザイン

ダイムラー・トラック・アジア デザイン代表兼三菱ふそうトラック・バス株式会社 デザイン部長 ベノワ・タレック氏

 続いて、三菱ふそう デザイン部長のベノワ・タレック氏が説明した。タレック氏はフランス出身で、メルセデス・ベンツの乗用車と商用車のデザインマネージャーを経験し、2016年10月から三菱ふそうのデザイン部長を務めるとともに、ダイムラー・トラック・アジアデザイン代表も兼任している。

 タレック氏はデザインは「顔」だけでなく全体の経験とし、デジタル化やユーザーがトラックとやり取りすることもデザインだとした。

 三菱ふそうのブランドは戦略に基づいており、1つのキー要素を定め、キャビンやインテリアなどの周囲を固めていくという「ヒーローコンセプト」を採用していると説明した。そのコンセプトは車種によっても異なっており、それぞれの車両に応じて使っていくとした。

 また、クルマの顔となるフロントアイデンティティに触れ、「過去を見ると、アイコニックなトラックがあった。1963年の初代『キャンター』や、大型トラックの『Fシリーズ』ではデザインの統合が見られる。エンブレムがあって、クーリング(フロントグリル)があり、ヘッドライトが1つのエレメントとしてシンプルに表現されている。今はクルマが洗練され、こういったシンプルなものを作るのは難しい。ただし、これが1つのターゲットでもある」と過去の三菱ふそうのデザインを評価。

 その上で、三菱ふそうのブラックベルトデザインは「非常に強いグラフィックのメッセージで、本当に中心」とし、ブラックベルトをヒーローとして、すべてのラインがそれを支えているデザインだとした。三菱のスリーダイヤについてもブラックベルトの上のよいところに配置していると説明した。

 その一方で、デザインはなるべくシンプル化していきたいとの考えを示し、「今後はより多くの情報がタッチスクリーンに入っていくが、ボタンを押した場合、自然に出てくることが重要」と、インターフェースやインテリアのシンプル化に取り組む姿勢を示した。

 また、デザインの特徴についても「競合他社はアグレッシブだが、私たちはシンプル、エレガントで、スーパーハイテック商品。大きな機関車じゃないんです。ハイテクノロジーを考える。それを守ろうと思っている」とした。

デザインセンターではVRを活用する一方でクレイ職人も健在

デザインセンターは新社屋の1階と2階になる

 デザインセンターはプロダクト・センターの1階および2階に位置し、2階部分がオフィスで、1階と2階が吹き抜けになっており、大型トラックやバスも入る大きな空間となる。イベントを行なうこともできるほか、大型スクリーンを使って設計をすることもできる。

 デザインを担当するブランドは、ふそうブランドだけでなく、ダイムラー・トラック・アジアとして協業するダイムラー・インディア・コマーシャル・ビークルズのインド市場向けブランド「バーラト・ベンツ」の一部のデザインも行なう。

 デザイナーは、ワークステーションやタブレットで設計が可能。フリーハンドでスケッチなどを行なうほか、図にしていく作業もここで行なう。スクリーンに投影することもでき、大人数で見ながら作業を進めることもできる。

 トラックやバスはモデルチェンジ間隔が非常に長いが、細かな仕様変更や仕向地による仕様変更もあるほか、担当するバーラト・ベンツのデザインもあるため、ここでこなしている仕事は多いという。

デザインセンターのオフィス。壁にはプロジェクターで画像を投影できる
デザイナーのデスク
リラックスしてタブレットでスケッチを描くこともできる
壁に投影したデザイン
スケッチを回転させたり、トラックに色を付けているシーン
スケッチも壁に貼られている

 設計の一部にはVRを活用している。VR専用のスペースを用意しており、ここでVR空間に投影して設計内容を確認する。デザインをさまざまな環境に置いて確認するほか、ボディカラーの確認もできる。インテリアはVRでの確認が有効だという。バーラト・ベンツのデザインでは、インドと回線を結んでお互いに投影しながら作業を進めることもあるという。

 実際にVRの車両確認を試してみたが、非常に精巧で、エクステリアではクルマへの景色の映り込みまで細かく確認できる。インテリアについても同様で、位置関係なども分かりやすい。VRのスペースでは大型モニターにも映像を映し出しているが、実際のVR向けヘッドマウントディスプレイの映像はモニターの映像とは違って、リアルで動きも滑らか。インテリアの実装状態や、エクステリアの映り込みも非常によく分かるようになっていた。

VRで設計を行なうスペース
VR空間の中でボディカラーの変更操作をしている様子
クルマの色が赤になった。周囲の空間とのバランスや映り込みまで確認できる
インテリアでは操作系の配置もVR内で確認できるほか、周囲の視界までも再現できる

 設計にはVRなどの最新技術を活用するが、やはり現物を作って確認することは重要で、粘土でクルマの形状を再現するクレイモデルも健在。設計には欠かすことのできないものだという。さらにクレイモデルから、より実車に近いハードモデルの製作も行なっている。

クレイモデルも健在だ
クレイモデルの作業にはクレイ職人の技が欠かせない
点を打ち、スキャナーで形状を測定している
計測されたものをデジタルデータで再現し、正確なモデルを作ることができる
クレイモデルを削り出す機械も用意してある
ここにあるスーパーグレートのキャビン部分は、実はハードモデルだ
新社屋「プロダクト・センター」の1階と2階がデザインセンター