試乗インプレッション

三菱自動車の「デリカD:5」を公道で新旧比較

変わったのは派手な顔つきだけじゃない! 走りも快適性も大幅進化

 派手なフロントマスクが話題の新型「デリカD:5」をいよいよ公道で試す時が来た。今回は旧型のデリカD:5も同じ道で走ってみることで、デザインだけでなく走りも進化したということを実感してみたい。

 すでに北海道の雪上特設コースにおいてその違いを比べた(三菱自動車の新旧「デリカD:5」を雪上比較。「アウトランダーPHEV」「エクリプス クロス」も走らせ4駆へのこだわりを再確認)ことがあるが、それはいわば極限状態。そこでハッキリとした進化は見られたが、一般公道でどこまでその変化が表れるかが注目だ。今回は御殿場を中心とした市街地、ワインディング、そして高速道路において試乗する。

デリカD:5 URBAN GEAR G-Power package 7人乗り(ウォームホワイトパール)
URBAN GEAR専用となる切削光輝仕上げの18インチホイールを採用。タイヤは225/55R18サイズの横浜ゴム「ジオランダー SUV G055」
フロントウィンドウのカメラとレーザーレーダー、電波式レーザーを組み合わせて周辺状況を検知する「e-Assist」。デリカD:5で初採用

 まずは新型デリカD:5で走り出すと、滑らかに吹け上がるように改められたエンジン、そして8速ATへと進化したことで、スタンディングスタートからして軽やかであるように感じる。ピストン、ピストンピン、ピストンリング、コンロッド、クランクシャフト、シリンダーブロックを改めることにより、回転域にもよるが7~27%のフリクション低減に成功したというエンジンは、回転フィールがかなり心地よい。そこに1速が8%ローギヤード化された8速ATが組み合わされたからこそ、軽やかなフィーリングになるのだろう。重量級と言えるデリカD:5がシェイプアップしたかに思えるフィーリングはマルだ。細かく刻まれたギヤで次々にシフトを繰り返して加速を続ければ、ストレスなく速度を高めていける感覚もなかなかだ。

最高出力107kW(145PS)/3500rpm、最大トルク380Nm(38.7kgfm)/2000rpmを発生する直列4気筒 2.2リッターディーゼルターボ「4N14」型を搭載

 同様の状況で旧型に乗ると、スタンディングスタートでは応答遅れがあり、よっこらしょとばかりに重たい車体が遅れて動き出すようなフィーリングがある。エンジントルクもあるので、力強さがあるからそこから速度は重ねられるわけだが、各ギヤが受け持つ範囲が大きいため、1度回転が高まって再び回転がドロップ。そして次のギヤでまたジワリと前に出るということを繰り返すのだ。軽やかにテンポよく、回転上昇をあまりせずに加速を続ける新型とはまったく違う印象がある。そして何より、フィーリングはいかにもディーゼルといった感覚がつきまとい、ガラガラとした音とフリクションはどうしても感じてしまうのだ。

旧型となった同じく「4N14」型のディーゼルターボエンジン搭載車にも試乗

直進安定性もはるかに向上している

デリカD:5 P

 そして圧倒的に違うのは静粛性だ。エンジンそのもののフィーリングの違いもあるが、13か所にも及ぶ遮音、吸音対策が施された新型は圧倒的に静か。それはどのシートに座っても感じられるもので、エンジンからのノイズだけでなく、タイヤから伝わってくるロードノイズについてもかなり遮断された印象が強い。三菱自動車が示したデータによれば、60km/hの時点で、1列目で2.0dB、2列目で1.5dBの低減があるという。さらには用品のフロアマットを使うと、2列目はさらに1.1dB下がったという。おかげで車内における会話のしやすさはかなり向上していた。旧型ではちょっと声を張り上げながら会話していたのだが、新型ではそうする必要もなくなったからありがたい。

同行スタッフにステアリングをあずけ、2列目や3列目のシートで乗り心地をチェック。新型は静粛性が高まり、乗り心地も向上してどちらのシートでも快適に過ごせたが、左右にアームレストを備える7人乗りの2列目キャプテンシートは快適性も上々。3列目シートは左右別々に前後スライド&リクライニング可能

 ただし、新型では主に下まわりから進入する音があまりにも軽減されたために、高速道路において窓からの風切音が目立ってしまうことも確認できた。旧型では全体から音が大きめに入ってくるためにそれが気にならなかったのだが……。聞けばガラス関係はフロントウィンドウだけ遮音ガラスにしたらしく、それ以外は対策をしていなかったとのこと。できればすべてのウィンドウに対して遮音ガラスを奢ってほしいとも思えた。

デリカD:5 URBAN GEAR G-Power package 7人乗りのインテリア。インパネ中央のオリジナル10.1型ナビゲーションはディーラーオプション
立体盤面を採用して見やすさを追求したハイコントラストメーターの間に、4.2インチカラーディスプレイのマルチインフォメーションディスプレイを備える
助手席前方の木目調アクセントパネルには青みがかった黒木目のバール杢を採用し、高級感と品格の高さをアピール
センターコンソールにストレートタイプのシフトセレクターをレイアウト。オートホールド機能を備える電動パーキングブレーキを全車標準装備
URBAN GEAR系のシートカラーはブラックのみ。シート表皮は写真のファブリックのほか、7人乗り仕様では本革シートを12万9600円高でオプション設定する

 違いはそれだけに終わらない。シャシーの走行フィールもかなりの変化が見られた。派手な顔つきに改められたことをきっかけに、フロント周りのボディ剛性アップとエンジンマウント方式などを変更した新型は、それだけで終わらず、ショックアブソーバーの径拡大、そして油圧パワーステアリングからデュアルピニオンEPSへの変更など、改良は多岐に渡る。そのかいあって、新型はとにかく軽快にボディが反応。操舵力を30%ほど軽減したというパワーステアリングは、軽いフィーリングながらダイレクト感に溢れ、クルマが小さくなったかのような軽快なハンドリングを実現してくれる。これなら奥さま方が運転したとしてもありがたいと感じるはず。ワインディングでの扱いやすさも向上していたことは明らかだった。

 そして何より違っていたのはシャシーの収まりのよさだ。入力をうまくいなし、実にフラットに走るようになったこと、これがかなりの違いに感じられたのだ。旧型では対角ロールも大きく、常にボディがユラユラとしているイメージで、どのシートに座っていても地上高が高いクルマに乗っていることを常に実感させられた。新型のこうした仕上がりならロングドライブでも疲れが軽減されるだろうし、クルマ酔いも少なくなるはず。直進安定性もはるかに向上していることもまた見どころの1つだった。

 このように、派手な顔つきだけでなくクルマ全体が正常進化した新型デリカD:5は、かなり魅力的な1台に進化したと断言できる。ドライバーだけでなく、すべての乗員が納得できるその走りは、きっと家族全員を笑顔にすることができるだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛