試乗インプレッション
TCR ジャパン参戦車両「シビック タイプR」「RS 3」に富士スピードウェイで乗ってきた
レーシングスピードでは実は扱いやすいマシンだった?
2019年4月9日 00:00
Car Watch編集部からの電話はいつもとちょっと違っていた。やや興奮気味で「TCR ジャパンのクルマに乗れるって言うんだけど予定どうにかならないかな?」と言ってきたのだ。ついに来たアマチュアレーサーの大チャンス!? もちろんOKと即答し、富士スピードウェイに向かった。
TCR ジャパンとは、今季からスーパーフォーミュラのサポートレースとして開催されるまったく新しいカテゴリーのレースだ。TCRは海外では2015年の創設以降、1750cc以上、2000cc以下の直噴ターボエンジンをベースに造られたFWD車を使って白熱したバトルが繰り広げられている。その頂点となるWTCR(世界ツーリングカーカップ)が来日したこともあり、すでにご覧になった方々もいるだろうが、それがいよいよ日本でシリーズ化されることになったのだ。今季はスーパーフォーミュラ開幕戦のオートポリスを皮切りに、菅生、富士、岡山、鈴鹿と転戦することになる。
車両は現在14メーカー・16車種がTCRにホモロゲートされているが、現在のところ日本ではホンダ「シビック タイプR」、フォルクスワーゲン「ゴルフ」、アウディ「RS 3」、アルファ ロメオ「ジュリエッタ」の4車種が参戦を表明。マルチメイクスのFWD車レースといえば、日本では1994年~1998年まで行なわれたJTCC(全日本ツーリングカー選手権)が記憶に残るが、あのころのようにさまざまな車種が登場する可能性が残されているところが興味深い。どんなレースになるかが楽しみだ。
まずはシビック タイプRから
さて、そんな中でも今回試乗させていただくことになったのは、ホンダ シビック タイプRとアウディ RS 3の2台。一体どんな走りを展開するのか? 期待と不安、いや、ほとんど不安ばかりの状況でいよいよ乗り込む。
まずはホンダ シビック タイプRだ。派手なエアロと狭いコクピットという、市販車ベースとはいえかなりレーシーな仕上がりをしている。コクピットドリルをするために、張り巡らされたロールケージを跨いでドライバーズシートに収まると、ダッシュボード以外はほぼ面影を残さない視界が広がる。ハンドルにはボタンがいくつも取り付けられ、何が何だかわけの分からない状況。センターコンソールにもボタンがいっぱいで、教えられなかったらエンジンスタートさえままならないだろう。
けれどもメカニックさんは、バカにも分かるように丁寧に必要なボタンだけを説明してくれた。エンジンスタートはコレを押して、ギヤを入れる時にはニュートラルスイッチを押しながらパドルを引いて……。うん、これだけなら覚えられそうだ(汗)。
スタート時のみクラッチを踏み込み、ジワリとピットを後にする。あとはアクセルとブレーキだけ。ブレーキペダルは左足ブレーキで踏むドライバーが多いらしく、かなりの面積があった。だが、初めてのオッサンが慣れない左足ブレーキなどにトライするのはクラッシュのもと。いつも通りに右足1本で勝負だ!
ピットレーンを後にしてフル加速を試みると、フロントタイヤはみごとに空転しながら豪快に加速していく。こりゃ大変そうだ……。実戦ではABSを作動させない状況で競われるらしいが、このシビックはスーパー耐久仕様で、ABSは活かしたままだというからひと安心。とりあえずいつものように走ってみる。
タイヤが温まりレーシングスピードに近づいていくと、実に扱いやすいマシンであることが伺える。空力効果もあるのだろうが、クセもなく軽快に走り、難しさもない。2ペダルでシフトミスがないことも嬉しいところだ。
また、乗っている感覚も市販車のシビックの延長上といった感覚がある。機敏な動きはなく安定志向で、けれどもコーナリングとなればリアのイン側をやや浮かせ気味でクルリと向きを変える様は、派手さや造りの凄さに圧倒されていたが、あくまでも市販車ベースという感覚。シビックらしさが滲み出ていた。ちなみにシビックはコーナリングが得意なため、性能調整を行なわれ、車高をやや高めることを要求されているらしい。
RS 3で250km/hオーバーを記録
市販車を引き継いでいるという点は、アウディ RS 3に乗り換えても実感したところだった。ステアリングの切りはじめから機敏な反応を示す一方で、ストロークをタップリと取り、4輪をきちんと接地させながら走り続ける様はアウディらしさを引き継いでいる。
ストレートではトルクフルながら伸びのあるエンジンのおかげもあって、富士のストレートエンドでは250km/hオーバーを記録。1コーナー進入はややスリリングだ。壊しちゃまずいから150m看板手前でブレーキングを開始しながら走っていたが、それでも1分49秒台前半で周回を続けていた。これはなかなかの速さだ(ちなみにプロは48秒台でした……)。
これならオッサンでも何とかなりそう! なんて言おうかと思ったが、ペースが上がるにつれてハアハア言い出してしまう始末。ブレーキはかなりの踏力が必要なこと、そしてGの発生が大きいことがその主な原因だ。カッコは市販車だが、中身はかなりレーシー。だからこそ扱うにもかなりの体力が必要だと感じたのだ。こりゃ、きちんとトレーニングしておかないと対応するのは難しいだろう。本格的なモータースポーツとはこういうものかと、いやというほど思い知らされた。こんなクルマでバトルを繰り広げるなんて、やっぱりレーシングドライバーって凄い! けれども、そこに挑戦してみたいな、っていうのが本音だ。頑張れば手が届きそう、けれどもそこには難しい壁があるってところが惹かれる理由である。
そんなドライバーのために、TCR ジャパンにはプロが参戦するオーバーオールクラスのほか、ジェントルマンクラスも存在する。オーバーオールクラスはFIAドライバーカテゴライズシステム・シルバー以下、ジェントルマンクラスはブロンズ以下となっている。さまざまなクルマとさまざまなドライバーによって争われるTCR ジャパンがどう盛り上がっていくのかに注目だ。