試乗インプレッション
プジョーのフラグシップモデル新型「508」を2700kmテスト。一般道&高速道路、その印象と燃費は?
2019年4月10日 08:00
3月20日にフルモデルチェンジして発売されたプジョーのフラグシップモデル「508」を、2700kmほどテストに連れ出すことができたのでその模様をレポートする。
借り出したのは「508 GT BlueHDi」で、2.0リッター直列4気筒ディーゼルターボエンジンに8速ATが組み合わされる。最高出力は177PS/3750rpm、最大トルクは400Nm/2000rpmを発生。このほか、ラインアップにはガソリンエンジンモデルもある。また、夏ごろに「SW」と呼ばれるステーションワゴンが追加される予定だ。
細かい詳細などは別項をご覧いただくとして、早速走り出してみよう。
取りまわし性能がはるかに向上
都内にあるPSAグループの広報車デポにテスト車両を引き取りに行く。日暮れになってしまったこともあり、慣れないクルマで路地裏や混雑する幹線道路を走るのはあまり嬉しいものではないが、それは致し方ない。逆な見方をすると、クルマの弱点が見えやすいこともある。
まずドアを開けて室内に乗り込んだとき、おや?と思った。非常に高い品質を感じたのだ。ピラーレスのため、ドアの開閉を容易にするためにドアハンドルを引くとすっとサイドウィンドウが下がり、ドアを閉めるとピタッとサイドウィンドウが上がり密着する。ドアの閉まる音もひとクラス上のモデルのようなどっしりとしたもので、これまで以上の質感の高さを感じたのだ。
ステアリングやシート位置を調整し、センターコンソールにあるスタート・ストップボタンを少し長めに押すと、2.0リッターディーゼルターボはすぐに目覚めた。冷えている時こそわずかに振動を感じるものの、暖まってしまえばディーゼルエンジンを意識することはない。それは振動だけではなく音もそうで、後述する高速道路でさえディーゼルを感じさせるシーンは皆無だった。
幹線道路に向かうために細い路地を進むと、先代508で気になっていた小まわり性が大きく改善されていることに気付いた。正直に告白すると、先代508の初期のガソリンモデルは乗り心地を含めて非常によいクルマで、テスト車両を借り出すのが楽しみなくらいだった。ただ、惜しむらくは小まわりがあまり効かず(5.9m)、取りまわしに気を使うことがままあったのだ。
しかし、新型では最新のプラットフォーム「EMP2」を手に入れたこともあり、最小回転半径は5.5mと大幅に改善。4750mm、1850mmという全長と全幅をそれほど気にすることなく路地を抜けることができた。“それほど”と書いたのは、Aピラーの角度にデザインの影響で傾斜がつけられており、室内側から太く見えること、そしてドアミラーがAピラー付け根あたりから生えているので、左右前方の視界には少し注意が必要だから。せめてドアミラーがもっと手前でドアから生えるようなタイプであれば、はるかに視界は改善されたことだろう。
もう1つ、乗りやすさで貢献しているのは新世代インテリア「Peugeot i-Cockpit」だ。小径ステアリングとその上から見るようにレイアウトされたメーター類は、もしかしたら慣れるまで奇異に感じるかもしれない。しかし、一度慣れてしまえば前方を見ながら視線移動が少なくメーター類を確認でき、また、小径ステアリングのため大きな操作をせずとも路地の右左折が可能だ。もちろんステアリングギヤ比は適切なので、どのようなシーンでも過敏ということもない。実はこのテスト終了後、ドイツ車のステーションワゴンに乗り換えたのだが、しばらくの間、ステアリングの大きさに戸惑ってしまった。
混んだ幹線道路に出て、流れに乗って走り始めるとトルクフルなエンジンとともに、静粛性の高さに気付いた。508のボディは先代から大きく変更され、テールゲートが与えられたハッチバック形状だ。従って、ボディ剛性を高く保つのが難しい形状なのだ。しかし、新型508は多少の段差を超えてもみしりとも言わないし、フロアまわりからの振動、ステアリングポストからの剛性の低さからくる震えのようなものも皆無だった。実はこの辺りが弱いと、高速の直進安定性に大きく影響する。従って、508の長距離はとても快適に楽に過ごせるのではないかという期待につながった。
余談だが、もしクルマに乗る機会があったらこのあたりを観察してほしい。例えばコンビニに入るときの歩道の段差程度でも、意識をそこに向けていると、段差を乗り越えた瞬間にステアリングがぶるぶると震えるクルマがあるはずだ。そういったクルマは大概ボディ剛性が低く、高速での直進安定性が低い傾向にある。
閑話休題。押しなべて街中で好印象だった508だが、気になる点を挙げるとすればタッチスクリーンとその下のトグルスイッチをまず挙げなければなるまい。タッチスクリーンはその画面上で操作するため、物理スイッチを減らすことができ、デザイン上も好感を持てるものだ。しかし508の場合、例えばエアコンの温度調整をしたい場合には①トグルスイッチの空調関係のボタンを押して画面を切り替える。②エアコンの温度を画面上で調整。③元の画面に戻すためナビであればトグルスイッチのナビボタンを押す。という3ステップが必要になるのだ。これが物理スイッチであれば、温度調整のボタンを押すだけで終了し、しかもほとんどの場合がブラインドタッチできるので安全面でも安心だ。このあたりは今後、音声操作が可能になってくることが想定され、それを踏まえたものであろうが、今の段階では物理スイッチに勝るものではないと感じた。
また、そのトグルスイッチも照明が少々暗く、角度も今ひとつなのでパッと見た時に何のスイッチなのか分からず、「左から3番目が空調スイッチ」など、順番を把握するまではブラインドタッチが難しかったことを付け加えておく。
気になったことはこのくらいで、荒れた路面での乗り心地も含め、全体が締まった印象ではあるものの、しなやかさとともにフラット感もあり、またよくできたシートと足まわりのセッティングのおかげで路面からのショックも伝わりにくい。タイヤが現在の235/45R18(テスト車はミシュラン「パイロットスポーツ4」)ではなく、ベーシックグレードのAllureが装着する215/55R17であれば、バネ下が軽くなることでよりしなやかさが強調されるので、乗り心地を望む向きにはこちらをお勧めしたい。
流麗なデザイン
翌日の昼間、ゆっくりと508を観察する。そのデザインは流麗で先代の少しぽってりした印象を刷新し、いわば4ドアクーペ方向にデザインしている。従って、頭上高はかなり削られており、オプションのサンルーフはスライドさせると外へ出るタイプになっている。前述したテールゲートのおかげで荷室は広大。最後部の上下方向はデザインの犠牲となっているが、より奥行きを利用することで十分に荷物を載せることができるだろう。それでも足りなければ後席を倒してしまえばいいことだ。
それにしてもデザインの質感は非常に高い。1つひとつの作り込みがきちんとなされているので、ちょっとしたラインのずれなどもなく、そのレベルの高さを強調している。それはインテリアにおいても同様で、トグルスイッチをはじめとしたスイッチ類の質感や操作感も高く好感の持てるものだった。
また、ボンネットフードに車名のエンブレムが付けられたのは、古くからのプジョーファンにとっては嬉しいことだろう。
安全運転支援システムを有効活用
高速道路での印象に移ろう。テストした2700kmほどの走行のうち約7割は高速移動で、中央自動車道、名神高速道路などを使って岐阜から近江八幡へ向かい、一度東名高速道路で東京に戻った後、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)や常磐自動車道で気仙沼へ。帰りは東北自動車道で東京へ戻るというルートを辿った。
ここで特筆すべきは、やはり直進安定性の高さによる疲れの少なさだ。それを証明したのは東北自動車道での帰京の際だ。およそ600kmを一度も休憩せずにイッキに帰り着いたのだから。
こういった高速移動が多かったこともあり、安全運転支援システムを多用した。操作は簡単で、ステアリングコラムから生えているクルーズコントロール関係がまとめられているレバーで行なう。①ダイヤルスイッチを回してONにする。②レバーの裏側にあるボタンを押して指定速度を決める。という2ステップで行なう。車間距離調整は上側にあるボタンで可能だ。単眼カメラなのでその限界はあるものの、レーンキープなどほとんどエラーなく使うことができる。
その限界というのは、追い越し車線を走行中、前方車が走行車線に戻って前方が空いたとき、その前にクルマがいたとしてもそこまでイッキに加速して、追いついた途端に少し強めのブレーキングが行なわれるというものだ。これはほかの単眼カメラ搭載モデルでも同様なので、システムの限界なのだろう。508では一定速度を維持するのが苦手なのか、わずかに加減速を繰り返す(もちろん前後左右にクルマはいない状態)こともあった。
また、直進安定性が高いことが裏目(でもないが)に出て、ステアリング操作をするように警告がたびたび出ることがあった。それがうっとうしいと感じた時はステアリングアシストをOFFにしてしまえばいい。そうすれば軽くステアリングに手を添えているだけで、淡々と高速道路を走り抜けることが可能で、実際にそのように使用することも多くあった。
積極的に安全運転支援システムを利用したのは、テストという意味ももちろんあるのだが、実はアクセルペダルの角度が少々わるく、足首が疲れやすかったこともある。もう少し角度を寝かすなどの仕様変更を望みたい。
高速道路で最も評価したいのは静粛性の高さだ。ディーゼルノイズ、というよりエンジン音そのものはほとんど室内に入ってこず、今ディーゼル車に乗っているのか、ガソリン車に乗っているのかなどまったく気になることがない。ロードノイズに関しても同様で、荒れた路面であればそれなりに侵入してくるが、それも許容範囲で、同セグメントでもより大きく入ってくるクルマはいくらでもある。
さらに特筆すべきは、このクルマがハッチバック形状を備えている点だ。このタイプだとリアまわりの開口部が大きいことから遮音がしにくく、ロードノイズの侵入を許しがちになるものだ。しかし、508の場合はまったくそういうことはなく、セダンタイプと同程度かそれ以上の静粛性を保っていた。これは高いボディ剛性のなせる業で、ボディのゆがみが少なく、遮音が的確に行なわれたことによるものだ。資料を見ると、新しい溶接技術の導入と計24mの構造用接着剤の併用とあるので、点とともに面でボディを接続させたことによる効果だと思われる。
乗り心地も市街地と同様、硬めながらショックを一発で吸収するフラットなもの。もうワンサイズ小さいタイヤであれば、バネ下がバタつく印象は消え、さらに乗り心地に貢献することだろう。
なお、今回の燃費は以下の通りだった。
市街地:10.5km/L(10.7km/L)
高速道路:17.2km/L(16.5km/L)
郊外路:13.8km/L(13.9km/L)
※()内はカタログ記載のWLTCモード
市街地ではもう少し伸びてほしいところだが、2.0リッターディーゼルターボであればこのくらいだろう。全体を通して好燃費であった。
気仙沼まで足を延ばして
今回、関西と東北方面へ向かったのは、日本の大動脈となるいくつかの高速道路での印象を得たかったこととともに、震災後8年となる気仙沼の様子を知りたかったからだ。ちょうど2018年夏にも訪れており、そこから加速度的に復興は進んだように見えたが、それでもまだまだこれからという印象だ。なかなかボランティアなどで訪れることができないので、こういう機会に訪問して経済の循環につながればという思いもあった。
気仙沼ではクルーシップという制度がある。いわゆるポイントカードで、筆者もこのカードを前回訪問した際に作った。加盟店は気仙沼市に70店舗以上あり、通販サイトもある。そこで買い物をすると、ポイントを最長2年間貯めることができ、1ポイント1円で使うことが可能だ。通常のポイントカードは期限が過ぎるとそのポイントは消滅してしまうのが普通だが、このクルーシップの場合は気仙沼市に寄付される仕組みだ。従ってポイントが無駄になることはなく、復興支援につながる素晴らしいシステムである。
今回の訪問の際にお話を聞くことができたクルーシップ事務局 気仙沼地域戦略の渡邊幸市さんは、「そもそもこのクルーシップを始めようとしたきっかけは震災です。気仙沼は水産が基幹産業ですが、これも大きなダメージを受けました。また、震災以前から人口流出があったのですが、これも止まらない状況になってしまいました。そこで水産ではない産業を起こさないといけないと思ったのです。外から来ていただく人口を増やすことで、これからの気仙沼を作ることができるのではと考え、そこから観光という視点ができました。また、アドバイザーからデータベースを作ることが重要だと教わり、それで始まったのがクルーシップなのです」と説明する。
人件費などの予算は気仙沼市が確保し、積極的に支援していることも活動に拍車がかかっている印象だ。現在、クルーシップの会員は1万7000人を数えるほどになった。その多くがリピート会員だという。このデータを使い、加盟店へ集客の提案を始めたタイミングになった。つまり、データを活用した提案が始まったのだ。
東北方面に行くと、まだまだ震災の傷跡が生々しく残っている。それらを見るにつけ、もっと何かできるのではないか、という思いが心の中を駆けまわる。その1つがこのクルーシップで、筆者もせっせと加盟店で食事をしたり、お土産を買ったりと使わせてもらった。
さまざまな土地へ508で向かった。見ず知らずの土地も多く、道も分からない中、508の機動性は高く、取りまわしがよいのでどこへでも自信を持って入っていける。これは観光地に訪れた時には強い味方だ。そう、この508を手に入れたならば、積極的に遠くへ行きたくなる、長い航続距離(高速道路であれば55Lをフルタンクで使い切ると900kmオーバーだ)とともに高い直進安定性による少ない疲れで目的地までたどり着ける魅力はなかなか味わえないものだ。
車両価格は490万円ほどだが、これだけの性能を備えていれば十分に対価満足度は高いと思うので、“ジャーマン3”を考えている方は一度実車を見て試乗することをお勧めする。