試乗インプレッション

トヨタの新型「RAV4」、ダイナミックトルクベクタリングAWD車は雪上でもグイグイ旋回

“トヨタの屋台骨”がフルモデルチェンジ

「RAV4」はグローバルで180か国以上、累計896万台を販売しているトヨタの屋台骨を支えているSUVだ。直近では日本で販売していなかったが、フルモデルチェンジを機に日本でも再デビューとなった。

 ここでRAV4のポジションを整理しておくと、1994年の登場当時はクロスカントリークラスの中でも乗用車の軽快感を活かしたコンパクトSUVとして位置付けられ、大きなヒットとなった。RAV4の本質はオフローダーにあるが、モデルを経てその認識が薄れていったのは否めない。新型はデザインもタフさとクリーンなイメージを取り入れたスマートなものだが、オフローダーであることを再認識させるスタイルとなっている。

 その新型RAV4で雪上をドライブするチャンスに恵まれた。しかも北海道士別市のテストコースという素晴らしい環境である。

4月10日に発売された新型「RAV4」。ひと足早く北海道で雪上試乗できたので、その模様をモータージャーナリストの日下部保雄氏がレポートする

 フルモデルチェンジと言うからにはすべてが新しい。プラットフォームはクルマ作りの概念「TNGA(Toyota New Global Architecture)」によるカムリのGA-Kプラットフォームに属するものだ。RAV4はカローラなどに近いサイズであり、その分プラットフォームには余力がある。プレゼン資料では空力と排気損失を抑えるため、フロアを下から見ると左右対称となる作りとしている。構造的には荷重分散にも力を入れた設計で、さらに超ハイテン鋼の採用拡大や鍛造のアルミナックルなどで軽量化と高剛性化を図っている。

 トヨタは新しいプラットフォームで低床のセダン系、中床のSUV系、高床のミニバン系と、3つの概念から最も効率のよいプラットフォームを選んで使うが、RAV4は中床の第1弾となる。

 ガソリンエンジンは「M20A-FKS」型で、レクサス「UX」にも搭載されている2.0リッター直噴エンジンだ。このエンジンは自然吸気ながら、トルクがあって力強い。UXとはプラットフォームが異なるために、排気系の取りまわしなどが違う。トランスミッションはダイレクトシフトCVTを採用する。

 駆動系でのハイライトは、Adventureグレードに設定された新しい4WDシステム。「ダイナミックトルクベクタリングAWD」とネーミングされ、前後と後輪左右のトルク配分を行なう。通常あるデフを廃して後輪の左右にカップリングを設け、簡単に言えば必要だと判断すればカーブで後輪内側のホイールにブレーキを掛けることで旋回しやすくする。

 もう1つ、燃費面では後輪に負荷のかからない場面では前後輪の連結を完全に切り離すディスコネクト機構を持っているために、4WDでありながら抵抗の少ない2WD(FF)並みの燃費が期待できる。

新型RAVではガソリンモデルの「X」「G」「G“Z package”」「Adventure」、ハイブリッドモデルの「HYBRID X」「HYBRID G」の計6グレードを展開。写真のAdventureのボディカラーは専用開発されたアーバンカーキで、ルーフに新色のアッシュグレーメタリックを組み合わせた2トーン仕様。新開発の「ダイナミックトルクベクタリングAWD」は後輪へのトルクを左右独立で制御するトルクベクタリング機構と、4WDが必要ない場合はプロペラシャフト前後で動力伝達を切断して燃費向上を図るディスコネクト機構を採用
Adventureのエクステリアでは、力強いデザインの専用フロントグリルとフロントスキッドプレート、ボディのリフトアップ感を強める専用フロントバンパーとフロントフォグランプベゼル、専用デザインの19インチアルミホイール、大型化したホイールアーチモールなどを採用し、オフロードイメージを高めている

 ハイブリッドは2.5リッターの「A25A-FXS」型だ。こちらは後輪をモーターで駆動するE-FOURとしているので、ダイナミックトルクベクタリングAWDとは違ったシステムだ。雪上試乗に備えて、試乗車はブリヂストンのスタッドレスタイヤ「BLIZZAK DM-V2」を履く。

ガソリン仕様の「G」グレード(シルバーメタリック)。駆動システムは「ダイナミックトルクコントロール4WD」
ハイブリッド仕様の「HYBRID X」グレード(ダークブルーマイカ)。新型E-Fourを採用し、前後輪トルク配分を100:0~最大20:80まで変更可能

世界初採用の「ダイナミックトルクベクタリングAWD」とディスコネクト機構の実力

 まず、サーキットコースではダイナミックトルクベクタリングAWDではないが、4WDの統合制御であるAIM(AWDインテグレート・マネージメント)を採用するGグレードから試乗した。AIMは駆動力、4WD、ブレーキ、ステアリングの統合制御を行なうもので、各ドライブモードの選択に応じて制御を変える。

 2.0リッターエンジンは雪上コースを気持ちよく加速していく。中速回転以上でエンジン音が盛り上がるのはこのエンジンの特徴だ。ステップ感のあるCVTが変速していく感じはトルコンATに似ており、全開域でのラバーバンドフィールは若干あるものの、なかなか好ましい。

 ハンドリングも素直で、ロールも少なく、前後のロールバランスがよい。雪上でもサスペンションが素直に路面を捉えるのが分かる。ハンドル操舵に対してクルマが自然に反応し、コントロールしやすいのだ。また、スポーツモードとノーマルモードでは可変ダンパーではないのでサスペンションの硬さは変わらないが、エンジンレスポンスや変速制御にメリハリが与えられており走りやすい。

 ドライバーがコーナー手前で姿勢を変えるようなモーションを与えると、予測しやすい動きでジワリとフロントが向きを変え、その後も4WDの効率的な制御で安定した姿勢を保ってコーナーを旋回してくれる。背の高いSUVと言うよりもセダンのようで、いたって素直な動きだ。

 一方、ダイナミックトルクベクタリングAWDを持つAdventureは、コーナーではユニークな動きをする。コーナーに入ると後輪内側のブレーキ制御がかかり、外側は変わらずトルクがかかるためにコーナーをより簡単に旋回してしまう。Gグレードでは少しアウト側に膨らむような場面でも、Adventureではグイグイと回っていくのだ。通常はアクセルOFFにしてコーナリングする場面でも、何気なく旋回していく感じは新鮮だ。もちろんタイヤ性能以上のことはできないので過信は禁物だが、路面変化にもある程度まで対応できる。

 試しにオールマイティなノーマルモードをベースにして、VSC(ビークルスタビリティコントロール)をカットしたり、ドライブモードをMUDにしたり、スポーツにしたりといろいろトライしてみた。MUDではVSCがカットされ、後輪の駆動トルクが大きくなるのでFR的になり、雪上でクルマを振りまわすのはこのモードでも面白かった。ただし本来の使い方ではないのでおススメはできない。

 ダートモードではフロントの駆動力が高くなり、通常はこのモードでも安定して走れる。スノーモードの設定はないが、もともと4WDで駆動力が高いのでトルクを抑える必要がなく、ドライブ制御をきめ細かく行なっているので必要ないとの判断だろう。

 ハイブリッドはカムリの2.5リッターダイナミックフォースエンジンを使ったもので、前述したように後輪はモーター駆動のE-Fourになる。2.0リッターのコンベンショナルエンジンよりもバッテリー、モーターの分だけ重いが、それでも加速力は鋭い。RAV4ではリアのモーター駆動を大きくしているので、トラクションはさらに自然で力強く、グンと前に出る感触が印象的だ。

 ダイナミックトルクベクタリングAWDとは異なり、グイグイと曲がっていくわけではないが、4WDの安定性の高さと、DIMによる旋回力の高さを安心して楽しめる。ただ、重量も大きいためにコンベンショナルモデルよりは横流れ量が大きくなる。

 続いて、テストコースの中でもコース幅の狭いワインディングコースに場所を移して試乗を続ける。各モデルともに上記の雪上サーキットで確認できたことは変わらないが、タイトコーナーも多くなるので、挙動をわざと作るような走りよりも現実的な速度でのライントレース性が重要になる。いずれも安心感の高いハンドリングを確認できたが、ダイナミックトルクベクタリングAWDは路面のグリップ力変化にもよく対応して曲がってくれる。この点でもシステムの優位性が理解できた。

 ハイブリッドではそのパワーも実感でき、狭いコースではレスポンスのよいパワートレーンの使いやすさを感じることができたが、横滑り量は若干大きくなる。

 ワインディングロードではスカットルが低いので直前視界がよいのと、斜め前方の視界も優れていて車幅感覚を掴みやすい。市街地のみならず、早めに障害物の発見が重要な雪道でもありがたい。

新型RAV4 adventureグレードの雪上走行イメージ(51秒)
新型RAV4 Gグレードの雪上走行イメージ(3分22秒)
新型RAV4 HYBRID Xグレードの雪上走行イメージ(5分)

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。