【JAF鈴鹿グランプリ 2018】WTCR日本初開催。7メーカーのTCR車両が参戦するWTCRはどんなレース？

予選2-Q3でトップの31号車 Alfa Romeo Giulietta TCR

　FIA World Touring Car Cup（以下WTCR）は、2017年までWTCC（World Touring Car Championship）として開催されていたツーリングカーによる世界選手権に変わって開催されているレース。WTCCが「TC1」という規定の車両を使ったレースだったのに対して、WTCRは「TCR」と呼ばれる比較的低価格で作成されるレーシングカーで、BOP（Blance Of Performance）により性能のばらつきを調整するという仕組みを採用することで、異なるメーカーの車両でも同じような性能で戦わせることを目指している。

　2017年までのWTCCがシトロエンやホンダ、ボルボといったメーカーのワークスチームが主役のレースだったが、WTCRはマニファクチャラー選手権は設定されておらず、ドライバー選手権となっている。低価格で車両が提供できるため、多くのメーカーがTCR車両を作成し、プライベーターに提供する形という間接的な形で参加することになる。

　アルファ ロメオ、アウディ、クプラ（セアト）、ホンダ、ヒュンダイ、プジョー、フォルクスワーゲンという7メーカーの車両が参戦するというバラエティに富んでいることも特徴の1つだ。

WTCCからWTCRへと看板が掛け替えられ、車両もTCRへと変更されたWTCR

　WTCRは、2017年までWTCCとして開催されていたツーリングカーによる世界選手権に変わって開催されているレース。2017年までのWTCCがチャンピオンシップ（選手権）だったのに対して、WTCRはカップ（杯）とされており、微妙にその位置付けは異なっている。

　WTCCが他のFIAの選手権（F1やWEC、WRCなど）と同じようにドライバー、マニファクチャラーの両方にポイントとタイトルが与えられるシリーズだったのに対して、WTCRはドライバーとチームに対してだけポイントとタイトルが与えられるようになっており、マニファクチャラーは黒子という扱いになっていることが大きな違いになっている。このため、自動車メーカーは後述するTCR規定の車両を作成し、ドライバーが所属するチームに対して車両を販売するという形で関わることになる。

　そうした形であっても、自社の車両がレースで勝てばそれだけ宣伝になることもあり、各メーカーとも積極的にTCR車両を製造して販売するという形になっており、今回の鈴鹿に参戦している車両を見ても、アルファ ロメオ、アウディ、クプラ（セアト）、ホンダ、ヒュンダイ、プジョー、フォルクスワーゲンといった7メーカーの車両が参加している。なお、マニファクチャラーのワークスチームの参加は禁止されており、メーカーはユーザーチームを陰に日向にサポートするという形でWTCRに関わる形となる。

5000台以上生産した4/5ドア/FF/最大2リッターの生産車ベースのレーシングカーとなるTCR車両

25号車 Volkswagen Golf GTI TCR

　TCR規定の車両は、TCRのプロモーターであるWSC（WTCCを立ち上げたマルセロ・ロッティ氏が立ち上げたプロモーター）が決めた規定に基づいている。プロモーターのWSCが公認した車両に限られており、自動車メーカーが製造する4ドアないし5ドアの量産車（12か月間で5000台が製造されている車両）がベースで、エンジンは1.75～2リッターで量産車に使われているガソリンターボエンジンである必要があり、同一メーカー内であれば他車種のエンジンでも活用することができる。なお、駆動方式はFFに限定されている。

　最大の特徴はBOP（Balance Of Performance）が前提になっており、プロモーターであるWSCがBOPテストをしたりして決定するが、2018年のWTCRではWSCとFIAの技術担当者が変更できるようになっており、レース毎に前のレースを結果などに基づいてウェイトハンデやエンジンマップの変更などで性能調整を行なうようになっている。このため、仮に強力なクルマを作ってきても、BOPで性能を制限されてしまうので、無理に速いクルマを作るモチベーションが起きなくなるというシリーズ全体のことを考えたルールになっている。

69号車 Audi RS3 LMS

　ただし、レース毎にBOPで性能を制限できるという仕組みがあるということは、逆に言えばプロモーターやFIAのさじ加減でレースでの性能や、シリーズの行方が左右されるということでもある。実際、この鈴鹿に来る前の中国でのレースでは今シーズンを席巻しているヒュンダイ勢に厳しいBOPがかけられて議論を呼んだ。

　レースとしてはいかがなものかという意見があるのは事実だが、ある意味ではSUPER GTのウェイトハンデと同じようなもので、どこかのチームだけが独走するということを防ぎ、誰が勝つか毎回分からないという意味では、シリーズを面白くする取り組みだと評価していいだろう。このため、どのレースでも非常に接近した激しいバトルが繰り広げられており、3つあるレース（今回は土曜日にレース1、日曜日にレース2とレース3）のうち、リバースグリッドになるレース2は本当に激しいレースが展開されることが多く、鈴鹿でもレース2は要注目だ。

74号車 Cupra TCR

WTCCに参加していたドライバーが参加。ホンダ勢は5台のエントリーで、1年以上ぶりに復帰のモンテイロ選手も

予選1の3位 86号車 Honda Civic TCR

　参加しているドライバーは、基本的には2017年まで行なわれていたWTCCに参戦していたドライバーやチームなどがスライドする形になっている。ただし、すでに述べたとおりマニファクチャラーの参加は禁止となっているため、例えばホンダのワークスチームであるヤス・モータースポーツなどは参加していない。それ以外のチーム、セバスチャン・ローブ・レーシング、ゼングー・モータースポーツなどはWTCCからのスライド組であり、そのほかにもWTCC4度のチャンピオンに輝いたイヴァン・ミューラーのYMRや元F1ドライバーであるティエリー・ブーツェンが興したブーツェン・ジニオン・レーシングなど、WTCRから参加したチームも少なくない。

　ドライバーも同様で、YMRのチームオーナーで4度のWTCCチャンピオンであるイヴァン・ミューラー選手、2017年のWTCCチャンピオンであるテッド・ビョーク選手、元F1ドライバーで09年のWTCCチャンピオンであるガブリエーレ・タルクィーニ選手、2012年のWTCCチャンピオンのロブ・ハフ選手といったおなじみの顔ぶれがWTCRにも参加している。

　また、2017年のWTCCの中盤までホンダのエースドライバーとしてシリーズをリードしていたものの、バルセロナで行なわれたテストで負傷してしまったため、それ以降欠場となって惜しくもチャンピオンを逃してしまったティアゴ・モンテイロ選手がこのレースで復帰するのも大きなニュースの1つだ。モンテイロ選手は2017年9月の事故以来、1年以上振りの本格的なレーシングへの復帰となる。チームメイトはこちらも日本ではなじみが深いトム・コロネル選手（1997年の全日本F3選手権、1999年のフォーミュラ・ニッポン王者）。

　そしてホンダのエースチームとなるのがミュニッヒモータースポーツの3台で、2017年の終盤戦でモンテイロ選手の代わりにホンダのワークスカーをドライブしたエステバン・グエリエリ選手、ヤン・エアラッシ選手、そして2008年と2009年のDTMチャンピオンのティモ・シャイダー選手が3台目をドライブする。

　ホンダの母国である日本でこうしたホンダ車に乗る選手がどれだけ活躍するのかも大きな注目点となる。

予選1の4位 68号車 Honda Civic TCR

予選2では上位5台が全部違うメーカーの車両に、激しいレースに期待高まる

　10月26日には予選が行なわれ、13時から行なわれた予選1でレース1のグリッドが、15時半から行なわれた予選2の1回目（Q1、上位12台がQ2へ）、予選2の2回目（Q2、上位5台がQ3へ）、予選2の3回目（Q3）の3回の予選でレース2（上位10台までがリバースグリッド）とレース3のグリッドが決定された。

予選2-Q3結果表

順位	ドライバー	チーム	車両	タイム	差
1	Kevin Ceccon	Mulsanne Srl	Alfa Romeo Giulietta TCR	2:10.742	-
2	Gabriele Tarquini	BRC Racing Team	Hyundai i30 N TCR	2:11.441	0.699
3	Aurélien Comte	DG Sport Competition	Peugeot 308 TCR	2:11.635	0.893
4	Yann Ehrlacher	ALL-INKL.COM Münnich Motorsport	Honda Civic TCR	2:11.746	1.004
5	Mehdi Bennani	Sébastien Loeb Racing	Volkswagen Golf GTI TCR	2:13.608	2.866

　予選2回目は非常に興味深い結果で、上位5台がアルファ ロメオ、ヒュンダイ、プジョー、ホンダ、フォルクスワーゲンとそれぞれ異なるメーカーの車両になっており、非常にタイトな競争が繰り広げられていることがこれでよく分かるだろう。

　地元となるホンダ勢はレース1の予選で、グエリエリ選手が3位、エアラッシ選手が4位。シャイダー選手が18位、モンテイロ選手が20位、コロネル選手が23位となった。レース2-Q1の予選ではエアラッシ選手が4位、グエリエリ選手が11位、モンテイロ選手が16位、シャイダー選手が18位、コロネル選手が23位だった。

予選2-Q3の2位 30号車 Hyundai i30 N TCR

予選2のQ3の3位 7号車 Peugeot 308 TCR

　WTCRのレースは10月27日の14時からレース1が、10月28日の11時からレース2が、12時30分からレース3がスタートする予定だ。今回のWTCRはスーパーフォーミュラとの併催になっており、1度でスーパーフォーミュラとWTCRの両方のレースを楽しめるイベントになっている。チケットは鈴鹿サーキットや各種プレイガイドで販売されている。詳しくは鈴鹿サーキットのWebサイトを確認していただきたい。