試乗インプレッション
ビッグマイチェンで進化した新型「デリカD:5」、オンロード&オフロードの実力は?
12年ぶりの大幅なアップデート内容はフルモデルチェンジ並みだった
2018年12月18日 00:00
独自の世界観を持ったミニバン
並み居る箱型ミニバンの中でもずっと異彩を放ち続けている三菱自動車工業の「デリカD:5」は、現行型の発売から12年が経過するが根強く支持されていて、新型車である「エクリプス クロス」よりも売れる状態が続いているというのは大したものだ。
それは独自の「世界観」を持ったミニバンだからだろう。おそらくこのまま変更しなくても、当面は一定数が売れ続けることと思う。とはいえ、12年という歳月で技術は大きく進化し、クルマに求められるものも少なからず変わった。今回のアップデートは、その要素を多岐にわたって採り入れたもので、ビッグマイナーチェンジながら内容的にはフルモデルチェンジ並みとなっている。
まずは見てのとおり大きく変わった強烈なフロントフェイスが物議を醸しているようだが、実車と対面すると、写真で初めて見たときに感じたほどのギョッとするような印象はなく、むしろまとまりがよく感じた。いまや箱型ミニバンたちは顔の派手さを競うかのような状況となっているが、今回のビッグマイナーチェンジでその急先鋒に立った。三菱自動車らしさもあってよい。外野がとやかく言おうが、デリカファンにとって気に入られるものであればそれでOK。デリカD:5らしい標準系もよいが、個人的には新設の「URBAN GEAR(アーバンギア)」の方が好みだ。
インテリアも大きく変わって、これまでの武骨な感じもデリカD:5には似合っていて個人的には好みだったのだが、どうやら女子ウケがわるかったとか。そこでこうしたモダンで上質な雰囲気のただよう空間になった。キルティングのシートも高級感があってよい。標準系で選べる明るいインテリアカラーの印象も上々だ。
よりスムーズかつリニアで力強く
今回は伊豆 修善寺の「自転車の国サイクルスポーツセンター」のコースにおいて、新旧モデルを同じ条件で乗り比べることができたのだが、すべてにおいて想像を超える進化を果たしていることがよく分かった。見た目はイカツくなったけど、実は中身は人に優しくなったというのが第一印象だ。
まずエンジンが別物だ。新型はディーゼルのみの設定だが(ガソリン仕様は従来型を継続販売)、尿素SCRシステムの採用やフリクション低減が効いてか、従来とは比べものにならないほど音や振動が小さく抑えられ、アクセル操作に対するレスポンスもリニアになっている。
加えてエンジン自体が従来よりもトルクフルになり力感が増している。アップダウンの多いこのコースでも、ものともせず駆け上がっていく。
これには新しい8速ATの採用も効いている。オーバーオールのギヤ比がワイドになり、低いギヤがローギヤード化されているほか、エンジントルク増加制御やアクセル急閉操作時の制御、ブレーキング時の制御を見直したとのことで、これらと応答性に優れるエンジンが相まって力強さとスムーズさが格段に増していて、より乗りやすくなっている。
また、パワートレーン系の発する音が抑えられることに加えて、車体側にも相当に手が加えられたことも効いて、静粛性が大幅に引き上げられたことも実感する。
これなら新型がディーゼルのみの設定とされるのも大いに納得。もしガソリンという選択肢があっても、おそらく大半の人がディーゼルを選びそうな仕上がりだ。同乗者にとっても、より快適に感じられることは言うまでもない。
オンもオフもより快適に
足まわりの印象も上々だ。現行型が出た当時のミニバンは3列目がおざなりにされた感のあるものが多かった中で、デリカD:5は3列目までしっかり配慮されていて最良だと思っていたが、後発勢が改良を重ねてきた中でデリカD:5もさらに磨きがかけられた。
従来型に改めて乗ると、乗り心地自体はわるくないのだが、路面の段差を通過したときのインパクトハーシュネスが大きいことがやけに気になったり、突き上げはそれほどでもないが微振動がずっとあったり、姿勢変化が大きめだったりと、いろいろアラが目立って感じられた。
ステアリングも重く、中立付近に反応に乏しい領域も認められる。そのあたり新型はずっと現代的に洗練されていて、全体的に走りが軽快で、意のままに操れる感覚が増すとともに、ワンランク上の質感を実現している。ステアリングフィールのよさには、デュアルピニオン式の電動パワステを新採用したことがかなり効いているのは言うまでもない。操舵力が軽く、切り始めからリニアに応答し、路面からの情報も伝わってくる。よいものだと分かっていながら、コストの問題もあって日本車ではなかなか採用が進まないところ、デリカD:5には採用されたことを大いに歓迎したいと思う。
また、ボディ剛性が高まり基本骨格がさらにしっかりしたことに加えて、リバウンドスプリングを内蔵した新しい構造のダンパーにより、路面からの入力の受け止め方がまったく変わった。しなやかに受け流し、かつ旋回時のロールやブレーキング時のダイブなども抑えられてフラットな乗り味となっている。
一方で、オフロードコースを走らせて悪路走破性の進化を体感することもできた。新型は現行型に対して最低地上高やアプローチアングルなどの数値で微妙に落ちている。とはいえ、他のミニバンと比べても数値的にずっとよいことには変わりはなく、実質的な落ち込みは無視できるものとの説明があったが、まさしくそのとおり。実際、こうした路面でも下まわりを擦ることもなく、いとも簡単に走り切ってしまった。
加えて各種デバイスの制御やATのシフトマップの見直しによって、滑りやすい急な上り勾配でリア片輪が浮いているという非常に難しい条件でも、アクセルを踏むだけでものともせず登っていけることにも感心した。デリカD:5にとっては普通のことだが、そんなことのできるミニバンなんてほかにない。さらに、ラリードライバーの増岡浩氏(現在は三菱自動車工業 広報部所属)がドライブするデリカD:5に同乗させてもらい、このクルマのポテンシャルをより深く知ることもできた。
また、先進安全装備についても最先端の機能を備えたものに一気にアップデートされて、他社の最新版と比べてもまったく見劣りしなくなったことも今回の大きな改良点だ。
このように、新型デリカD:5は全方位にわたって進化を遂げていて、とりわけ走りが非常に上質で快適になっていたことが印象的だった。開発陣が「プレステージ性を追求した」と述べるのもよく分かる。“デリカらしさ”をより高めるとともに、現代のクルマに求められるものの数々を採り入れた12年ぶりの大幅なアップデートは、マイナーチェンジとはいえフルモデルチェンジと呼んでもまったく構わないほどで、まさしく別物に進化していた。コワモテだけど実はとっても優しいデリカD:5は、これまでにも増して多くの人に支持されていくのではないかと思う。