試乗インプレッション

日産のインテリジェント モビリティを雪上で体感

いろいろなクルマで先進技術の恩恵を確認してみた

試乗車は、EVのリーフ、e-POWERのセレナ、ノート、ノート NISMO Sや、ガソリン車のエクストレイル、GT-R、フェアレディZ NISMO、スカイライン 400R、スカイライン、デイズ、NV350 キャラバンなどが用意された

雪上でも乗りやすいモーター駆動

 日産自動車が雪上試乗会を北海道で開催するのは、2019年に続いて2回目。会場は前回と同じくモータースポーツパーク札幌。今回のテーマは、「リーフ」やe-POWERといった日産が誇る電動駆動車の雪上での安全性と操縦性、走行性能の高さを体験することと、いろいろなパワートレーンや駆動方式による走りの違いを確認することだ。

 ここ1年の日産ラインアップの動向としては、「デイズ」「ルークス」のフルモデルチェンジをはじめ、「リーフ」「スカイライン」「GT-R」などのアップデートが挙げられる。中でも電動駆動車で他メーカーを先んじている日産を象徴するリーフに2019年春に追加された「リーフ e+」は、航続距離が伸びただけでなく、出力が向上して制御系も進化している。

リーフ e+は、従来の40kWhから大幅増となる62kWhの高性能バッテリーを搭載。さらに最高出力は45%増の160kW、最大トルクは6%増の340Nmを発生。車体やシャシー、ステアリングなども専用に手当てされており、雪上での走りも向上
初代発売から10年を迎えるリーフ。これまでに国内累計で13万2000台以上を販売。2月にマイナーチェンジされてプロパイロットなどが進化した
e-Pedalはモーターとブレーキを併用して、4輪でより安定した減速が可能だ
VDCは車輪の空転を検知して、ブレーキやモーター出力でタイヤの空転を低減させてくれる
リーフとe-POWERの構造の違い

 立って歩くのも難しいほどツルツルの氷上で8の字旋回を試みたところ、2WDと思えないほどラクに発進できることに感心。これはモーターで1万分の1秒単位の繊細なトルク制御を可能にしているEVなればこそ。滑りやすい路面でもスムーズに発進加速できるわけだ。旋回ではVDC(ビークル ダイナミクス コントロール)が適宜リアを流してアンダーステアを抑え、スムーズにターンインできる。電動パーキングブレーキのスイッチを引くとわずかなタイムラグののち一瞬だけリアブレーキをつまむので、それをきっかけにインを向けるといったこともできる。

 同じモーターを使う「ノート e-POWER」でも十分に走りやすいが、リーフの方が制御の精度が高いのは、開発関係者によればモーターのレスポンスの違い。e-POWERはバッテリー容量が小さい上、エンジンを動かして発電した電力をモーターに供給するため、どうしても遅れが出てしまう。対してリーフはリチウムイオンバッテリーから直にモーターへ電力を流しているため、そうした遅れがない。発進や強くアクセルを踏み増した際にはハードの限界かわずかに空転したり、横方向の制御も最新世代に比べるとやや粗さを感じるものの、駆動しているのが前輪のみでこれほど走れるとは恐れいった。

滑りやすい雪道でも電子制御のおかげでスムーズな走行ができた
e-POWERはモーターにより回生エネルギーを得ている

 ノート e-POWER 4WDでは、圧雪されたハンドリング路を試走した。スタートしてすぐに最大15度の上り坂があって、2WDのままでは平坦路で発進できても勾配の途中で車速が徐々に落ち、途中で止まるとVDCがOFFでもONでも発進できなくなってしまった。そこで4WDを選択してアクセルを軽く踏み込むと、前輪はやや空転するが後ろから押してくれるのでスルスルっと上れた。e-POWER 4WDが後輪を駆動させるのは30km/hまでとなるものの、滑りやすい路面で最も重要なゼロ発進をアシストしてくれるだけで、こうも違うものかと改めてその恩恵を痛感した

2WDと4WDの切り替えは手元のスイッチでワンタッチで完了
最大15度の斜度は空が見えるほど。意外と急勾配
多数のメディアが走行したことで、かなり磨かれた場所があった

 ただし開発スタッフによると、均等圧雪であれば2WDでもこれぐらいの上り勾配なら走破できるよう社内の実験で規定しており、今回上れなかったのは表面が磨かれてかなり厳しい条件となっていたからだという。ひとたびコースに出て車速が上がるとFFになるわけだが、リニアな加速に加えて、アクセルOFFだけで減速度を発生するe-Pedalも効いて、低ミュー路でも安定して加減速することができ、走りやすかった。

望外によかったデイズの走り

試乗したのはデイズ ハイウェイスターの、これまで試乗したことのない4WD車

 コースではエンジン駆動車も含めいろいろなクルマをドライブしたが、中でもまず望外に印象のよかったデイズの4WDについて述べたい。

 現行型もトランスファーなどは従来のキャリーオーバーながら、「日本の夏場に冬になる南半球のニュージーランドにまで足を運んで制御を徹底的に見直した」という旨をデイズの走りを仕上げた永井暁氏は語る。さらに、軽自動車の4WDにもメーカーによって特徴があり、安定性重視だがトラクションかからないものから、逆に安定性よりもトラクション重視のものまでいろいろ見受けられるが、老若男女問わず幅広いユーザーを対象とするデイズでは、トラクションと安定性を両立し、最も高いバランスを探ったという。

VDCのON/OFFはステアリングにあるスイッチで行ない、確認はメーターの真ん中でできる

 また、軽自動車でありながら登録車レベルのシャシー性能を追求し、ロール剛性と前後重量配分を最適化したほか、フロントストラットにリバウンドスプリングを、リアに柔らかいウレタン製バンプラバーを採用し、ロール時にリアのトーインを確保するなどした。それらのかいもあってスタビリティが高く、しっかりと前に進むセッティングを実現していることを直感。さらにリアの駆動力が十分に確保されている印象で、アンダーステアも出にくく、VDCをOFFにしてガンガン踏んで横を向けてもコントロールしやすい。また、特徴の1つであるブラシレスモーターを用いた電動パワステの、スッキリと正確な操舵フィールは雪上でも安心感がある。印象はとても上々だった。

400Rらしく“ドライバー重視”

「400R」を名乗る話題の走り系のスカイライン。最高出力405PS/6400rpm、最大トルク475Nm/1600-5200rpmを発揮する専用チューンの「VR30DDTT」型エンジンは高出力化とハイレスポンスを両立
センターコンソール後方のシーソースイッチでドライブモードを選択可能

 デイズと同じコースを「スカイライン 400R」でも走ってみた。こちらはドライバーオリエンテッドVDCコンセプトを採用していて、SPORT+モードを選択すると、アクセル開度とステアリング操作をドライバーの意図として制御に取り込むことで、よりコントロール領域を広げてくれるという。

 これも効いて、ターンインでは操舵したとおりによりスムーズに曲がり、アクセルONでのVDCの介入が遅く、確かにコントロール性が高いように感じられた。また、400Rには標準設定であるインテリジェントダイナミックサスペンションの電子制御ダンパーはこうした路面でもよく動き、ダイレクトアダプティブステアリングは凸凹を乗り越えてもキックバックがなく、相乗効果で雪の上でも快適に走れたことをお伝えしておきたい。

 その他、マイナーチェンジしたFRのガソリンV6エンジンのスカイラインと4WDのNV 350キャラバンでも、氷上で定常円と8の字の旋回を試みた。キャラバンは空荷だと2WDではトラクションがかからないが、4WDにすると走破性がまったく別物となる。

スカイラインの標準仕様に搭載されるVR30DDTT型エンジンは最高出力304PS/6400rpm、最大トルク400Nm/1600-5200rpmを発生。なお、スカイラインのガソリン車に4WDは未設定だがハイブリッドには設定されている
試乗したNV350 キャラバンはアウトドアユース向けの「トランスポーター」。4WD車には「YD25DDTi」型エンジンを搭載。最高出力129PS/3200rpm、最大トルク356Nm/1400-2000rpmを発生する。スイッチ1つで2WDと4WDの切り替えが可能

GT-RやフェアレディZは雪上でもパワフルで楽しい!

 コースにはお楽しみのためにフェアレディZ NISMOやGT-Rの2020モデルも用意されていた。世界で唯一のトランスアクスル4WDを搭載したGT-Rは、やっぱりグリップさえあればどこを走っても無敵。2020年モデルは雪上での挙動もより穏やかになり、これまでにも増して乗りやすくなったように感じられた。

 後輪駆動のフェアレディZは、VDCをOFFにすると写真のような感じで走れて楽しい。搭載されているシンクロレブコントロール機能をONにすると、クルマの方で自動的にエンジン回転数をトランスミッションの回転数と同期させてくれて、シフトチェンジがスムーズになり、ステアリング操作に集中できる。また、VDCをONにすると、タイヤの空転に応じてエンジン出力が抑えられ、ほぼカウンターステアを使うような姿勢になることもなく、安定して走ることができ、改めて電子制御の恩恵に感心した次第。

先進の制御が光るエクストレイル

エクストレイルの20Xi。「MR20DD」型エンジンは最高出力147PS、最大トルク207Nmを発生

 公道では「エクストレイル」のガソリン車と「ノート e-POWER NISMO S」「セレナ e-POWER」の2台のe-POWER搭載車に試乗した。雪は降っていたもののさすがは北海道、除雪が行き届いていて幹線道路はあまり苦労することなく走れたので、あえて圧雪の路面も走ってみた。

インテリジェント 4×4は、AUTOモードでは各種センサーの情報から4WDコンピューターが走行状況に応じて100:0から約50:50で前後トルクを自動的に配分。LOCKモードでは約50:50に固定して走破性を高める

 インテリジェント 4×4に加えて数々の先進のシャシー技術を搭載するエクストレイルは、とにかく安定していて走りやすい。自動的に前後トルク配分を調整してヨーモーメントをコントロールするほか、路面状況や操舵量、アクセル、ブレーキ操作に応じて4輪個別にブレーキを制御して滑らかなコーナリングを実現するインテリジェントトレースコントロールや、状況に応じてバネ上を制振したり、エンジンブレーキを付加してフットブレーキの操作負荷を軽減するなど、自動的にクルマがいろいろ細かくコントロールしてくれるおかげで、雪道でもいたって安定していてなんら不安なく走れた。ロードクリアランスも十分にあるので多少の轍でもものともしない。

ノート e-POWER NISMO Sは専用のセッティングにより、モーターの性能を最高出力136PS、最大トルク320Nmまで大幅に引き上げている

 さらにノート e-POWER NISMO Sは、専用チューンのパワートレーンや足まわりなどにより、雪上でも「S」の付くモデルらしいスポーティなムードを味わえる。ステアリングを通じて路面の状況が手に取るようにダイレクトに伝わってくる。一方で、ECOモードでBレンジを選択すると駆動力と回生が穏やかになり、より調整しやすい雪道に適したモードとなる。

「ECO」のほか、高速巡行に適した「Normal」、エコかつワインディング向けの「S(=Smart)」という3つのドライブモードを設定

 セレナ e-POWERは、2WDながらモーター駆動の強みをコースでの試乗でも感じたとおり、とても走りやすい。絶対的な動力性能には物足りなさを感じなくもないが、そこは今後に期待することにしたい。

 このように、滑りやすい路面でも、日産独自の電動駆動車をはじめ、優れた安全支援技術のおかげで、安心して楽しく走ることができた1日であった。

公道試乗ではちょっと足を伸ばして「北欧の風 道の駅 とうべつ」に行ってみました

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。