試乗インプレッション
日産のインテリジェント モビリティを雪上で体感
いろいろなクルマで先進技術の恩恵を確認してみた
2020年3月6日 00:00
雪上でも乗りやすいモーター駆動
日産自動車が雪上試乗会を北海道で開催するのは、2019年に続いて2回目。会場は前回と同じくモータースポーツパーク札幌。今回のテーマは、「リーフ」やe-POWERといった日産が誇る電動駆動車の雪上での安全性と操縦性、走行性能の高さを体験することと、いろいろなパワートレーンや駆動方式による走りの違いを確認することだ。
ここ1年の日産ラインアップの動向としては、「デイズ」「ルークス」のフルモデルチェンジをはじめ、「リーフ」「スカイライン」「GT-R」などのアップデートが挙げられる。中でも電動駆動車で他メーカーを先んじている日産を象徴するリーフに2019年春に追加された「リーフ e+」は、航続距離が伸びただけでなく、出力が向上して制御系も進化している。
立って歩くのも難しいほどツルツルの氷上で8の字旋回を試みたところ、2WDと思えないほどラクに発進できることに感心。これはモーターで1万分の1秒単位の繊細なトルク制御を可能にしているEVなればこそ。滑りやすい路面でもスムーズに発進加速できるわけだ。旋回ではVDC(ビークル ダイナミクス コントロール)が適宜リアを流してアンダーステアを抑え、スムーズにターンインできる。電動パーキングブレーキのスイッチを引くとわずかなタイムラグののち一瞬だけリアブレーキをつまむので、それをきっかけにインを向けるといったこともできる。
同じモーターを使う「ノート e-POWER」でも十分に走りやすいが、リーフの方が制御の精度が高いのは、開発関係者によればモーターのレスポンスの違い。e-POWERはバッテリー容量が小さい上、エンジンを動かして発電した電力をモーターに供給するため、どうしても遅れが出てしまう。対してリーフはリチウムイオンバッテリーから直にモーターへ電力を流しているため、そうした遅れがない。発進や強くアクセルを踏み増した際にはハードの限界かわずかに空転したり、横方向の制御も最新世代に比べるとやや粗さを感じるものの、駆動しているのが前輪のみでこれほど走れるとは恐れいった。
ノート e-POWER 4WDでは、圧雪されたハンドリング路を試走した。スタートしてすぐに最大15度の上り坂があって、2WDのままでは平坦路で発進できても勾配の途中で車速が徐々に落ち、途中で止まるとVDCがOFFでもONでも発進できなくなってしまった。そこで4WDを選択してアクセルを軽く踏み込むと、前輪はやや空転するが後ろから押してくれるのでスルスルっと上れた。e-POWER 4WDが後輪を駆動させるのは30km/hまでとなるものの、滑りやすい路面で最も重要なゼロ発進をアシストしてくれるだけで、こうも違うものかと改めてその恩恵を痛感した
ただし開発スタッフによると、均等圧雪であれば2WDでもこれぐらいの上り勾配なら走破できるよう社内の実験で規定しており、今回上れなかったのは表面が磨かれてかなり厳しい条件となっていたからだという。ひとたびコースに出て車速が上がるとFFになるわけだが、リニアな加速に加えて、アクセルOFFだけで減速度を発生するe-Pedalも効いて、低ミュー路でも安定して加減速することができ、走りやすかった。
望外によかったデイズの走り
コースではエンジン駆動車も含めいろいろなクルマをドライブしたが、中でもまず望外に印象のよかったデイズの4WDについて述べたい。
現行型もトランスファーなどは従来のキャリーオーバーながら、「日本の夏場に冬になる南半球のニュージーランドにまで足を運んで制御を徹底的に見直した」という旨をデイズの走りを仕上げた永井暁氏は語る。さらに、軽自動車の4WDにもメーカーによって特徴があり、安定性重視だがトラクションかからないものから、逆に安定性よりもトラクション重視のものまでいろいろ見受けられるが、老若男女問わず幅広いユーザーを対象とするデイズでは、トラクションと安定性を両立し、最も高いバランスを探ったという。
また、軽自動車でありながら登録車レベルのシャシー性能を追求し、ロール剛性と前後重量配分を最適化したほか、フロントストラットにリバウンドスプリングを、リアに柔らかいウレタン製バンプラバーを採用し、ロール時にリアのトーインを確保するなどした。それらのかいもあってスタビリティが高く、しっかりと前に進むセッティングを実現していることを直感。さらにリアの駆動力が十分に確保されている印象で、アンダーステアも出にくく、VDCをOFFにしてガンガン踏んで横を向けてもコントロールしやすい。また、特徴の1つであるブラシレスモーターを用いた電動パワステの、スッキリと正確な操舵フィールは雪上でも安心感がある。印象はとても上々だった。
400Rらしく“ドライバー重視”
デイズと同じコースを「スカイライン 400R」でも走ってみた。こちらはドライバーオリエンテッドVDCコンセプトを採用していて、SPORT+モードを選択すると、アクセル開度とステアリング操作をドライバーの意図として制御に取り込むことで、よりコントロール領域を広げてくれるという。
これも効いて、ターンインでは操舵したとおりによりスムーズに曲がり、アクセルONでのVDCの介入が遅く、確かにコントロール性が高いように感じられた。また、400Rには標準設定であるインテリジェントダイナミックサスペンションの電子制御ダンパーはこうした路面でもよく動き、ダイレクトアダプティブステアリングは凸凹を乗り越えてもキックバックがなく、相乗効果で雪の上でも快適に走れたことをお伝えしておきたい。
その他、マイナーチェンジしたFRのガソリンV6エンジンのスカイラインと4WDのNV 350キャラバンでも、氷上で定常円と8の字の旋回を試みた。キャラバンは空荷だと2WDではトラクションがかからないが、4WDにすると走破性がまったく別物となる。
GT-RやフェアレディZは雪上でもパワフルで楽しい!
コースにはお楽しみのためにフェアレディZ NISMOやGT-Rの2020モデルも用意されていた。世界で唯一のトランスアクスル4WDを搭載したGT-Rは、やっぱりグリップさえあればどこを走っても無敵。2020年モデルは雪上での挙動もより穏やかになり、これまでにも増して乗りやすくなったように感じられた。
後輪駆動のフェアレディZは、VDCをOFFにすると写真のような感じで走れて楽しい。搭載されているシンクロレブコントロール機能をONにすると、クルマの方で自動的にエンジン回転数をトランスミッションの回転数と同期させてくれて、シフトチェンジがスムーズになり、ステアリング操作に集中できる。また、VDCをONにすると、タイヤの空転に応じてエンジン出力が抑えられ、ほぼカウンターステアを使うような姿勢になることもなく、安定して走ることができ、改めて電子制御の恩恵に感心した次第。
先進の制御が光るエクストレイル
公道では「エクストレイル」のガソリン車と「ノート e-POWER NISMO S」「セレナ e-POWER」の2台のe-POWER搭載車に試乗した。雪は降っていたもののさすがは北海道、除雪が行き届いていて幹線道路はあまり苦労することなく走れたので、あえて圧雪の路面も走ってみた。
インテリジェント 4×4に加えて数々の先進のシャシー技術を搭載するエクストレイルは、とにかく安定していて走りやすい。自動的に前後トルク配分を調整してヨーモーメントをコントロールするほか、路面状況や操舵量、アクセル、ブレーキ操作に応じて4輪個別にブレーキを制御して滑らかなコーナリングを実現するインテリジェントトレースコントロールや、状況に応じてバネ上を制振したり、エンジンブレーキを付加してフットブレーキの操作負荷を軽減するなど、自動的にクルマがいろいろ細かくコントロールしてくれるおかげで、雪道でもいたって安定していてなんら不安なく走れた。ロードクリアランスも十分にあるので多少の轍でもものともしない。
さらにノート e-POWER NISMO Sは、専用チューンのパワートレーンや足まわりなどにより、雪上でも「S」の付くモデルらしいスポーティなムードを味わえる。ステアリングを通じて路面の状況が手に取るようにダイレクトに伝わってくる。一方で、ECOモードでBレンジを選択すると駆動力と回生が穏やかになり、より調整しやすい雪道に適したモードとなる。
セレナ e-POWERは、2WDながらモーター駆動の強みをコースでの試乗でも感じたとおり、とても走りやすい。絶対的な動力性能には物足りなさを感じなくもないが、そこは今後に期待することにしたい。
このように、滑りやすい路面でも、日産独自の電動駆動車をはじめ、優れた安全支援技術のおかげで、安心して楽しく走ることができた1日であった。