試乗インプレッション
FF最強の座を競うルノー「メガーヌ ルノー・スポール トロフィー」、筑波サーキット試乗
サーキット走行により適したシャシーの仕上がりを実感
2019年12月31日 09:00
ホットな走りに定評のある、「R.S.」の記号が与えられたルノー車たち。その中にあっても「トロフィー」の名が加えられたバージョンは、サーキットでの絶対的なスピード性能向上によりフォーカスした“特別なR.S.”と言っていい存在だ。
ここに紹介するのは、日本では10月末から販売がスタートした「メガーヌ ルノー・スポール トロフィー」。トランスミッションは2タイプが用意され、6速MT仕様が489万円、6速DCT仕様が499万円という価格が設定されている。
サイズは同様ながら専用のデザインが施された19インチのロードホイールや、控えめながらも誇らしげに“TROPHY”のロゴが加えられたフロント・エアインテークブレードなど、ベースであるメガーヌ ルノー・スポールに対するエクステリア上の違いはごくわずか。
それでも、たたずむ姿そのものがすでに躍動感にあふれているのは、オリジナルのメガーヌに対してフロントが60mm、リアが45mm拡幅されたR.S.モデル専用ボディや、チェッカード・フラッグを想起させる個性的デザインの中にフォグランプやハイビームなど多彩な機能を備えた「R.S.ビジョン」と称するフロントのライティングシステム。走り去る姿に迫力を与えるのみならず、実際にも大きな効果を発揮しそうなセンター・テールパイプ+リアディフューザーなどなど、何ともスポーティなディテール・デザインが各所に採用されているゆえだ。
インテリアでは、いかにもスポーティな造形のレカロ製フロント・バケットシートが、まずは“トロフィー”ならではのポイント。ステアリングホイールの一部にアルカンターラ素材が奢られたり、パーキングブレーキが電動式からレバー式へと改められているのも“トロフィー”ならではのトピックだ。
こうして、いくつかの見た目の違いも指摘はできるものの、“トロフィー”ならではの見どころはもちろん、そもそものR.S.モデルでも高い走りのポテンシャルをさらにアップさせた点にある。
フロントフード下に収められた1.8リッターの直列4気筒エンジンは、ターボ付きの直噴というスペックまではベースのR.S.モデル用と同様。その上で、最高出力が21PS増しとなる300PSと「ルノー・スポール史上で最もパワフル」と紹介されるに至っているのは、ターボチャージャーの軸受けにセラミック・ボールベアリングを採用するなどの機軸を盛り込んだ上で、専用のエンジン・セッティングを施したゆえと説明される。
R.S.モデル用エンジンの2400rpmに対して、こちらは3200rpmとより高いポイントで発せられる最大トルク値は、MT用ユニットが400NmでDCT用ユニットが420Nm。そこには20Nmの差が開いているが、これは「DCTの方が許容トルクが大きいため」との理由による。
こうしたパワーユニットに対し、さらに大きな変更幅が認められるのがシャシー関係。「4コントロール」(4WS)や「HCC」(セカンダリー・ダンパー内蔵式ダンパー)など、すでにR.S.モデルにも採用されている特徴的なアイテムに加え、スプリングやダンパー、フロント・スタビライザーのレートを高めた「シャシー・カップ」やトルセン式LSD、バイマテリアル構造のフロント・ブレーキローターを採用するなど、よりコンペティティブな内容を備えることが特徴。
というわけで、ピットロードにたたずむR.S.トロフィーに乗りこみ、早速エンジンへと火を入れてみると、その瞬間から周囲に響き渡る迫力あるエキゾースト・サウンドに、思わず頬が緩んでしまうこととなった。
「“出色”と言うしかない出来栄えだ!」と太鼓判を押したくなる
ベースのR.S.モデルに対して、こちらのR.S.トロフィーでは搭載するエンジンのチューニングに違いがあることは前述の通り。だが、実はR.S.トロフィーの場合、エンジン本体のみならず、エキゾースト・システムにも独自のチューニングが施されている。
このモデルに標準で採用された「スポーツエキゾースト」は、ルノー・スポールの作品としては初となるアクティブ・バルブ付き。「2つの排気ルートを構成するメカニカル・バルブが採用され、それを開閉することで高い静粛性を得たり、逆に通気抵抗を低減させてより高いエンジン・ポテンシャルを引き出すのに貢献する」とされている。
実際、センターディスプレイ上のアイコン操作によって、このバルブを開いた際のサウンドは、すでにアイドリング状態からレーシーなもの。前述のように思わず頬が緩んでしまうのが、もちろん「バルブを開いた時」の方であることは言うまでもない。
そんなサウンドをBGMにアクセルを深く踏み込むと、R.S.トロフィーは脱兎のごとくピットロードを後にする。何しろ、発表されている6速DCT仕様の0-100km/h加速タイムは5.7秒という値。実は、そんなデータは同じ6速DCTを採用する“普通のR.S.”に対してコンマ1秒の向上でしかないのだが、いずれにしても、加速時には駆動輪である前輪の荷重が抜けてしまうFFレイアウトの持ち主の成績としては「文句のつけようがない」速さであることは間違いない。
さらに、1周の慣熟走行の後ペースアップを図ると、すぐに明らかになったのはコーナー脱出時のトラクション能力の高さ。今回の試乗の舞台となった筑波サーキットでは、タイトな1コーナーや2か所のヘアピンコーナーでそれが顕著に実感できた。こうした場面では、やはりR.S.トロフィーに限って標準採用されたバイアスレシオが2.6対1に設定されたトルセン式のLSDが、見事な効果を発揮していたに違いない。
こうして、1.8リッターという排気量にして300PSの最高出力を達成したエンジンと、パワーフローを途切れさせることなく電光石火の変速を実現するトランスミッションが、類いまれなる動力性能を発揮していたことは紛れもない事実。
が、そんなパワーパックの強化にも増して、走りの精彩さを高める要因になっていると感じられたのが、ベースのR.S.モデルに対してフロント23%増し、リア35%増しのスプリングレートや、25%増しのダンパーレートのハード化など、さまざまな部位にサーキット走行により適した手が加えられたことが報じられるシャシーの仕上がりだった。
タイヤが持つグリップ力の上限に近いサーキット・スピードで走行していてすら、毎周同じライン上を狙うことに無理のない正確なステアリングの効きや、ハードな減速を繰り返し行なっていっても、実際の効きはもちろん、ペダル・タッチにもさしたる変化を示さない強靭なブレーキ・システムを備えるゆえ、フロントヘビーであることを意識せずに高いスピードのままコーナーへと飛び込んでいく気になれる。
実際に「あっ、ちょっとオーバースピードだったかな……」と、そんな気持ちと共にステアリングを切り込んでいっても、コントロールが困難なアンダーステアに陥ることなくノーズがしっかり向きを変えてくれるという挙動には、「最高で約100km/hの速度までは後輪が逆位相側に制御される」という、「レース」モード選択時の「4コントロール」の働きも効いているに違いない。
いずれにしても、これほど速く、そしてこれほどコントローラブルなスポーツモデルが、500万円を切る価格で手に入るというのは「大バーゲン!」と評するしかないように思う。
どれもこれもが類まれなる走りのポテンシャルを味わわせてくれるのが「R.S.」という記号を備えたルノー車の通例。その中にあっても、このメガーヌ ルノー・スポール トロフィーというモデルのリアル・スポーツモデルとしての完成度は、まさに「“出色”と言うしかない出来栄えだ!」と、太鼓判を押したくなるものだ。