試乗インプレッション
最強の2.0リッターエンジン搭載。「メルセデスAMG A 45 S 4MATIC+」の凄まじいパフォーマンスを富士スピードウェイで体感した
エンジンの進化とともにハンドリングと乗り心地の進化にも驚く
2019年12月30日 09:00
最強の2.0リッターエンジン搭載
メーター読みの話だが最高速262km/h。富士スピードウェイ ストレートエンドの200m看板付近までアクセルを踏み続けた時の最高速がこれだ。「メルセデスAMG A 45 S 4MATIC+」は凄まじいパフォーマンスを見せた。
新しくなったメルセデスAMG A 45 S 4MATIC+、そのスペックを紹介しよう。車体のサイズはキャプションを参照していただくとして、これから紹介するのはメカニズムだ。まずこの最高速を叩き出すほどの強烈なエンジンだが、量産の直列4気筒2.0リッターエンジンとして世界最高峰の最高出力310kW(421PS)/6750rpm、最大トルク500Nm(51.0kgfm)/5000-5250rpmを発生し、エンジンはトップエンドの7200rpmで回転リミッターが作動する。
これまでの「A 45 AMG」に搭載されていたエンジンは、同じ2.0リッターターボの「M133」型。今回搭載された新型エンジンは「M139」型だ。M139型になって何が変わったかと言うと、排気と吸気の方向が180度変わったのだ。これまでのM133型は前方排気で、横置きのエンジンの前側が排気で後ろ側が吸気だった。それがM139型になって前方吸気・後方排気に逆転したのだ。
ボクの記憶では、昔のFFエンジンは前方吸気・後方排気が多かった。しかし前方吸気は追突時にフューエル系へのダメージが大きく、火災の危険性があるということで前方排気のシステムを採用するFFモデルが増えていった。M139型であえて前方吸気にしているのは、こうすることでエンジンを低くマウントできるから。もしも追突して吸気系にダメージを負うことがあったとしても、安全性を確保しているからにほかならない。
また、M139型にはF1用のエンジンにも採用されているナノスライド技術が投入された。これは最近のメルセデスのエンジンに広く採用されているもので、ピストンが上下する時の摺動抵抗を低減する技術だ。主には燃費対策だが、F1にも採用されているようにレスポンス向上にも貢献する。
さらにタービンの軸受け部にはローラーベアリングが採用された。これはターボのフリクションロスを減らすことが目的で、ピックアップが大きく向上する。また、タービンの最大過給圧は2.1barで、タービンの回転数も最大で16万9000回転まで許容する。実際、最大トルクの発生回転数は5000rpmと高めだが、3000rpmレベルからのトルクの立ち上がりもとてもスムーズで、しかも力強い。だからコーナリングの立ち上がりではまるで大排気量の自然吸気エンジンのようにアクセル操作に対してトルクがしっかりと立ち上がる。
アクセルをON/OFFした時のピックアップはターボだから自然吸気ほどのレスポンスはないけれども、アクセルを全閉にさえしなければコーナリング中のスロットル調整も容易。コントロール性の鋭さは、これまでのM133型から大きく進歩している。もちろんM133型も素晴らしいエンジンであることは疑う余地もないのだが。
エンジンの進化とともにハンドリングと乗り心地の進化にも驚く
421PS/500Nmというとてつもないパワーを受け止めるには、FFではもう無理。従って、メルセデスAMG A 45 S 4MATIC+はこれまで同様に駆動方式は4WDなのだが、その4WDも大きく進化してリアの左右トルク配分が電子式となった。この効果は抜群で、コーナーにターンインしてからアクセルを踏み込むと、フロントを起点にリアがスルスルと曲がり込むように横に移動する。つまり、コーナリング中のリア外輪のトルクが大きくなっているのだ。
さらに強くアクセルを踏み込むと明らかにリアがスライドし、少ない操舵角で巻き込むように曲がっていく。しかしスピンするほどの状況には陥らず、電子制御のスピンコントロールもちょうどいいレベルで、介入した際のコントロール性はすこぶるよいのだ。この時、明らかにリアデフの左右トルク配分が効いていることを実感する。これはドライブモードを「Sport+」にした時のハンドリングの話で、「Comfort」モードではこれほどエキセントリックなことは起きない。
このドライブモードの変更は、新世代の「AMGパフォーマンスステアリング」と呼ばれる非常にメカニカルなステアリング上の左右に配された「AMGドライブコントロールスイッチ」によって容易に変更することができる。そのドライブモードはComfort、Sport、Sport+、Slippery、RACEの5種類から瞬時に切り替えることができる。さらに、自分だけのオリジナルモードを記憶できるIndividualが設定されている。
トランスミッションは8速のAMG スピードシフト DCT、デュアルクラッチトランスミッションだ。Sport+モードで走行した時のシフトアップダウンの素早さ、シフトチェンジした時のクラッチのつながりが瞬時なので駆動感に切れがなく、常にタイヤをコントロールしている感覚が嬉しい。このDCTのダイレクト感が4MATIC+のリア左右駆動配分に対してとてもリアリティがあり、右足でアクセルをコントロールしてコーナリングする感覚がリアルに伝わってくる。
例えば、100Rをコーナリングしている際のシフトアップダウンに対しても、この駆動の切れのないフィーリングがブレのないコーナリングを約束してくれる。AMGドライブコントロールスイッチのESPを長押しすることによってESPを完全にOFFにすることができ、こうすることで100RではまるでFRマシンのようにリアをスライドさせる超スポーティな走りが可能。とはいえ、誰でも試していいレベルとは限らないので、一般道でESP OFFを使うことは控えた方がいいだろう。
足まわりには専用の「AMG RIDE CONTROL サスペンション」が採用されている。こちらは専用開発のスプリングサブフレームなどを採用していて、キモは電子制御ダンパー。これまでのA 45 AMGに対して明らかにホイールストロークがスムーズで、路面をしっかりとつかんでいる感覚がある。しかも乗り心地がいい。以前のようなレーシングカートチックなフロントの反応は少なくなってしまっているけれども、速い操舵、遅い操舵、それらをミックスした操舵にしっかりと反応するので、奥の深い玄人受けするハンドリングに成長した。従って、ドライバーの扱い方次第でアンダーにもニュートラルにもオーバーにもコントロールすることが可能だ。筆者自身はエンジンの進化に驚愕することよりも、このハンドリングと乗り心地の進化に驚いている。
冒頭に戻ると、262km/hを記録したスピードから1コーナーを曲がる速度まで減速するのに使う、6ピストンのフロントブレーキの力強い減速感に感心した。周回を重ねるにつれ、若干スポンジーなフィーリングに変化するものの、メルセデスAMG A 45 S 4MATIC+のブレーキは減速フィールがほとんど落ちないのだ。これはサーキットを走るのに一番重要なことだろう。
新しくなったメルセデスAMG A 45 S 4MATIC+は、普段使いも苦にならないスーパーコンパクトマシンだ。