インプレッション

ランドローバー「レンジローバー ヴェラール」(車両型式:LDA-LY2NA/公道試乗)

スターティングプライスは699万円。ディーゼルモデル、その実力は?

スターティングプライスが699万円からに

「ヴェラール」はレンジローバーのラインアップの中で「レンジローバー スポーツ」と「イヴォーク」の中間に位置するモデル。かつこれからのレンジローバーのデザインの方向性を示す重要なモデルになる。レンジローバーの持つ独特の上質感と精緻さを磨き上げたヴェラールのデザインは、世界で高い評価を受けている。実はヴェラールの兄弟車にはジャガー「F-PACE」があるが、スポーツカーを原点とするジャガーと、クロスカントリーをルーツとするレンジローバーでまったく別物に仕上がっているのは見事としか言いようがない。

 2017年の夏に日本でデビューした当初は、最上級のV型6気筒3.0リッタースーパーチャージャーが先行デビューし、そのシルキーでレスポンシブルなエンジンと、シュアなハンドリング、滑らかな乗り心地はさすがレンジローバーと思わせる威風堂々としたドライブフィールを持っていた。ロングドライブで真価を発揮する落ち着いたヴェラールは、心安らぐプレミアムSUVであった。

 一方、トップグレードのため、どうしても価格は上がり1000万円前後の価格帯になっていたが、年末に入ってようやく2.0リッターのディーゼルターボが導入され、価格帯は一気に699万円からになった。スターティングプライスでは装備が限られるので、実際にはプラス約100万円の「S」グレード(800万円)からのスタートになるだろうが、レンジローバー各モデルの中でのヴェラールの価格バランスはとれることになる。

 すべてのラインアップが揃うと、出力の異なる2つの2.0リッターガソリンターボエンジンと1つの2.0リッターディーゼルターボエンジン、V6 3.0リッターのスーパーチャージャーガソリンエンジン、そして大別してR-Dynamicとそれ以外のグレードがあり、合わせると33グレードという幅広い展開を果たすことになる。

今回試乗したディーゼル仕様の「ヴェラール HSE」(1005万円)。ボディサイズは4820×1930×1685mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2875mm。10スポークの20インチアルミホイールに組み合わせるタイヤは、ピレリのオールシーズンタイヤ「スコーピオン Verde」(255/50 R20)
撮影車のヴェラール HSEではシグネチャーライト付マトリックスレーザーLEDヘッドライトを装備

 今回のディーゼルエンジンはジャガー・ランドローバー最新の2.0リッターINGENIUMターボで、日本では2015年のジャガー「XF」シリーズからデビューした最新のエンジン。レンジローバーブランドでは日本初見参になる。

 ボア×ストロークは83.0×92.4mmのロングストローク。ディーゼルエンジンでは信頼感の高い比較的オーソドックスなレイアウトだが、最新のディーゼル技術のトレンドに則って高圧コモンレール+直噴、エキゾースト側の可変バルブタイミングを採用し、水冷インタークーラーの組み合わせにより低燃費/クリーンな排出ガスを実現している。最高出力は180PS/4000rpmで、430Nm/1750rpmという低速域で強大なトルクを発生するのが特徴だ。

直列4気筒 2.0リッター直噴ターボディーゼルエンジンは最高出力180PS/4000rpm、最大トルク430Nm/1750rpmを発生。JC08モード燃費は14.4km/L

低速トルクが高く力強い加速を実現

 さて、ヴェラールのサイズは日本ではLクラスSUVになる。4820×1930×1685mm(全長×全幅×全高)と、全幅が広いのがヴェラールの特徴だ。しかし、レンジローバーの伝統に則ったアルミのボディは2020kg台とサイズの割に車両重量が軽く、レンジローバーのセールスポイントの1つでもある。

 キャビンに乗り込むには「デプロイアブルドアハンドル」と呼ばれる平面化したドアノブを用いるが、これは自動的に手前に持ち上がり、手袋をしていても開閉しやすく、ドアは重厚に開く。特徴的なシート表皮、ダイヤモンドカットパターンで形成されたシートは適度な硬さと深さ、そして柔らかさを持ち、どのシートも心地よい。

 試乗車のステアリングホイールは、ヌバッグ素材を一部に使ったレンジローバーらしく手にしっとりなじむ好ましいもので、大きさや操舵力もクルマの質感を感じさせる巧みさがある。

 インテリアもエクステリア同様にすっきりした上質感のあるもので、2つのカラーディスプレイが目を引く。すべてタッチパネルになっており、深い階層に入らなくても必要なものは直観的に操作できるようになっているので、マニュアルを見るのを必要とするのは詳細なセッティングの部分になる。タッチパネルは汚れやすいのが欠点だが、操作性はわるくない。ただ、カーナビなどはユーザーの手に渡るまでにもう少しブラッシュアップされる必要がある。

ヴェラール HSEのインテリア。シートはタップルグレー/ライトオイスター(プレミアムテキスタイル)のコンビネーション
全グレードに2つの10.2インチタッチスクリーンで構成される最新のインフォテインメントシステム「Touch Pro Duo」を標準装備
スエードクロスのステアリングホイール
12.3インチの高解像度TFTバーチャルコックピットの表示例。ドライブ情報、ナビゲーション画面、アクティブセーフティに関する情報などを表示できる
「Touch Pro Duo」の下部の画面表示。走行状況に合わせてエンジン、ギヤボックス、ディファレンシャル、シャシーシステムを最適に設定する「テレインレスポンス」では、「ダイナミック」「ECO」「コンフォート」「草地/砂利/雪」「泥/わだち」「砂」の6種類のモードから選択できる

 SUVはヒップポイントが高く、視界がよいのが通例だが、レンジローバーはその中でもスクエアなボディのため視界がよい。伝統の“コマンドポジション”で自然と姿勢のよいドライビングポジションが取れ、スクエアなボディで四隅が掴みやすく、サイズをあまり感じさせない。これはどのレンジローバーにも共通している美点だ。

 V6 3.0リッタースーパーチャージャー仕様では、ガソリンエンジンらしい伸びやかな加速とアクセル操作に対してリニアに追従するエンジンの性格が好ましかった。一方で、ゆったりとした気持ちにさせてくれる2.0リッターのINGENIUMディーゼルエンジン。アイドリング時でも言われなければディーゼルと分からないほど振動、静粛性ともによく抑えられており、ガラガラ音も非常に小さい。さすがにイグニッションを入れた直後はディーゼルの鼓動を感じ、フロアもわずかにバイブレーションがあるが、乗員にとってはほとんど気づかないほどの許容範囲にある。特にキャビンでは遮音がしっかり効いているので、V6エンジン並みとはいかないが、レンジローバーらしさを享受できる。

 加速力も低速トルクが高いので力強い加速が可能だ。アクセルを強めに踏んだときは、3.0リッタースーパーチャージャーのようなパンチ力はないが、グイグイと速度を乗せていく感じは気持ちがよい。アクセル踏み始めのターボ特有のタイムラグもわずかで、一瞬の間を待つまでもなく加速に移り、ディーゼルターボの力強さだけを享受できた。さらに日常的にラフに使ってもエンジン側でいなしてくれるような手軽さがあり、3.0リッタースーパーチャージャーのヴェラールとは違う一面を知ることができた。

 また、車両重量はトップモデルの3.0リッタースーパーチャージャー仕様よりも軽く、エンジン重量の違いでノーズが軽い分、回頭性に違いがある。軽快な印象で、それがヴェラールディーゼルのキャラクターの違いとなっている。

 パフォーマンスにプライオリティを感じるドライバーには3.0リッタースーパーチャージャー仕様を勧めるが、ヴェラールの上質な持ち味を気楽に楽しみたいというドライバーはディーゼル仕様で後悔しないだろう。とくにクルージング燃費は大きな魅力だ。

 また、定評ある4WDのパフォーマンス、そしてどんな路面にも対応するテレインレスポンスはレンジローバーの生命線でもある。この後に続いて登場する、新開発2.0リッターガソリンターボエンジンと比べるのが楽しみだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛