インプレッション

フォルクスワーゲン「アルテオン」(車両型式:ABA-3HDJHF/公道試乗)

フォルクスワーゲンのグローバルフラグシップモデル

デザインが大きな見どころの1つ

 質実剛健、王道、保守的といった、これまでフォルクスワーゲンを形容してきた言葉がどれもちょっとしっくりこない。それが、精悍さと大人の余裕を融合したような美しさをたたえる、「アルテオン」を目の前にしたときのファーストインプレッションだった。

 アルテオンは2017年のジュネーブショーで世界初披露された、フォルクスワーゲンの新たな世界的フラグシップモデルだ。中国専用車としては、もう1つ上の「フィデオン」というモデルがあるが、全世界ではアルテオンがその座につく。全長が5mに迫る4865mmと大きいこともあり、さすがの堂々たる存在感。プラットフォームはMQBを採用し、基本的には「パサート」と共通となるが、アルテオンの方が全長・全幅はやや大きく、全高は低く抑えられており、そのシルエットが冒頭に挙げた形容詞とは違う、かなり“攻めてる”印象を強くしているのかもしれない。

 そしてこのアルテオンは、パサートのように「セダン」とは言わず、旧「パサートCC」のように「4ドアクーペ」とも表現されない。リアハッチゲートを備えたファストバックスタイルを採り、型にはまらない「グランドツーリングカー」を名乗るのは、車名の由来からして「Art」と「eon」の造語であるとおり、アート、つまりデザインが大きな見どころの1つだからだろう。

 フロントビューは、VWエンブレムから水平にバーが伸び、ヘッドライトまでシームレスにつながる新世代のグリルデザイン。そこからクッキリとボンネットに伸びるプレスラインが、みずみずしい筋肉のようにボリュームのあるフェンダーまわりを演出する。そしてサイドにまわれば、このサイズだからこそ生きる伸びやかなルーフライン、高めの位置にパキッとエッジを効かせるキャラクターラインが、セクシーで躍動的。さらに日本導入モデルはアルテオンの中でも頂点となるR-Lineのみで、その証がサイドミラー下にしっかりと記され、大径ホイールがドーンと収まり、スポーティなスパイスも薫る。また、フロントのドアを開けてみると、多くのクルマにはガラス部分の端に枠が付いてくるが、アルテオンはガラスだけ。ちょっと繊細なイメージで、そんなところも「アート」を感じさせるポイントだ。

日本では10月25日に発売されたフォルクスワーゲンの新フラグシップモデル「アルテオン」。「R-Line 4MOTION」(549万円)、「R-Line 4MOTION Advance」(599万円/撮影車)の2グレードが展開され、いずれもボディサイズは4865×1875×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2835mm。同社のセダン「パサート」(2.0TSI R-Line)から80mm長く、45mm広く、25mm低いスリーサイズで、ホイールベースは45mm長くなっている
フロントまわりではアグレッシブなR-Lineバンパーを採用。ヘッドライトおよびテールランプはLED。また、フォルクスワーゲン初採用となる「デイタイムランニングライト」、万が一の事故の際に歩行者への衝撃を緩和する「アクティブボンネット」といった安全装備を採用している
「R-Line 4MOTION Advance」は20インチアルミホイール(タイヤサイズは245/35 R20)を標準装備
ボディサイドに備わる「R-Line」バッヂ
小ぶりなトランクスポイラーがスポーティな印象を高める

 インテリアを見てみると、こちらはそれほど攻めた印象はない。インパネまわりのデザインはほとんどパサートと変わらないし、大きなドアポケットなどできる限り収納スペースを取り、スイッチ類はシンプルに配置するといった、いつものフォルクスワーゲンらしい空間にホッとする。でもブラック&チタンブラックのナッパレザーシートは、肌触りのよさだけでなくしっかりとサイドサポートが張り出すタイプで、足裏にカッチリとした感触のアルミ調ペダル、太めの握り具合のレザーステアリングなど、男心を刺激しそうな要素が散りばめられている。そこにセンターパネル上に置かれたアナログ時計や、ジェスチャーコントロールも可能なインフォテイメントシステム「Discover Pro」など、高級感と先進性もプラスされている。

 室内の広さは全高が低いのでどうかなと思ったが、フロントだけでなく後席も余裕たっぷり。2835mmのロングホイールベースを生かした足下スペースに、意外や頭上スペースも圧迫感がなく、みごとなパッケージングだ。そしてラゲッジ容量は通常で563L、6:4分割できる後席を倒すと最大1557L。これは通常時はパサートに少し負けるが、最大容量ではパサート以上の積載力で、もちろんトランクスルーも可能。足の動作で開閉できるパワーテールゲート機能もある。室内の広さと合わせて、見た目から想像する以上に高い実用性を兼ね備えているのがアルテオンだ。

インテリアはブラック基調のR-Lineデザインを採用。本アルミを用いたデコラティブパネルやピアノブラックのセンターパネルなどで高級感を高めている
R-Line 4MOTION Advanceではアラウンドビューカメラ「Area View」、駐車支援システム「Park Assist」に加え、スタティックコーナリングライト、ダイナミックライトアシスト、ヘッドライトウォッシャー/オールウェザーライト、ヘッドアップディスプレイ、デジタルメータークラスター「Active Info Display」、パワーシート(運転席/助手席)、シートヒーター(運転席/助手席/後席左右)など、さまざまな快適装備が与えられる
ラゲッジスペース容量は563~1557L(ISO測定法)を確保

フォルクスワーゲンじゃなければ造れなかった

 攻めのエクステリア、守りのインテリア。さて走りはどっちが出てくるのかと期待しつつ運転席に座った。グレードは「R-Line 4MOTION」とその上の「R-Line 4MOTION Advance」があり、パワートレーンはどちらも280PS/350Nmを発生する直列4気筒2.0リッターインタークーラー付ターボに、湿式クラッチ式の7速DSGという組み合わせ。試乗車は20インチタイヤを履くAdvanceだ。

 車重が1720kgあるので発進はズシリと重さを感じるかと思いきや、ヒュンと鋭いレスポンスとモリモリ湧き出るトルクで力強く加速していく。7速DSGのシフトもキレがあり、どこからでも次々とパワーが繰り出される感覚だ。ただ街中を走っている限りは、ボーとおとなし目のサウンドのせいなのか、乗り手の心を揺さぶるような官能性はなく、ちょっとビジネスライクな印象。

 ところが高速道路に入って高回転まで回した途端、フォーンッとご機嫌なサウンドを奏ではじめ、加速フィールも優雅に軽やかに踊るようなフィーリングに変わった。そして高速コーナーではビターッと張り付きながらアウト側をなぞり、一気に駆け抜けていくヤンチャぶりもチラリ。これは街中や山道などの走行シーンに応じて、ギヤ比を最適化するプログレッシブステアリングや、アンダーステアを軽減する電子制御式ディファレンシャルロック「XDS」などのおかげもある。ワインディングなどへ連れて行けば、まだまだ違う顔が出てきそうな予感だ。

 20インチの足下は、街中ではややドタバタとした傾向があり、4MOTIONらしくないなと思ったが、ダンパーの減衰力を瞬時にコントロールし、「エコ」「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」「カスタム」とモード変更できるアダプティブシャシーコントロール「DCC」をノーマルからコンフォートに変えてみると、しっとり感がアップ。スポーツやエコモードも試したが、かなりフィーリングが変わるので、自分好みの特性を見つければより快適に走れるはずだ。

 そして先進安全装備は、フラグシップモデルにふさわしい充実度。予防安全、衝突安全、二次被害防止のどれもトップレベルの装備に加えて、車庫入れだけでなく出庫までもサポートしてくれる駐車支援システム「パークアシスト」など、日常での運転の不安やストレスも軽減してくれるのが頼もしい。運転席にはシートマッサージ機能もついているので、長距離ドライブが多い人でも肩こりや腰の痛みまで和らげてくれそうだ。

 アルテオンには、これまでのフォルクスワーゲンとはひと味違う魅力があふれている。でも、心地よく使い勝手のよい室内といい、走りや安全性の高さといい、そのどれもがやっぱり、フォルクスワーゲンじゃなければ造れなかっただろうと思わせるものだった。デザインにひと目惚れして買ったとしても、使うほどにもっと好きになれそうだし、家族の反対を押し切って買ったとしても、乗ればきっと家族も納得してくれそう。そんな、“いつもと違うけどいつもどおり”なフォルクスワーゲンが、絶妙なサジ加減で詰まっているのがアルテオンだ。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:高橋 学