インプレッション

日産「エルグランド NISMOパフォーマンスパッケージ装着車」(車両型式:DBA-PE52)

総額100万円以上のNISMOパーツ装着モデル

発売から時間が経っても根強い支持

 思えば2017年は、一世を風靡した初代の登場からちょうど20年。筆者は当時、ブーム真っ只中だった「アストロ ローライダー」を愛車としていて、某自動車誌で「アストロよりもカッコイイ」として紹介されていたのが、初代エルグランドだ。アストロ乗りだった筆者は、さすがにそれには全面的には賛同できなかったのだが(笑)、とにかく日本でもこうしたクルマが出てきたことを頼もしく思ったものだ。

 その初代エルグランドが、けっして安くはない価格設定ながらバカ売れしたのもご存知のことだろうが、のちにトヨタ自動車にしてやられてしまうのは周知のとおり。その後、初代が確立した価値を継承しつつ、2度の世代交代を経て2010年8月に現行の3代目が登場したものの、件のトヨタの競合車である「アルファード」「ヴェルファイア」に販売台数でだいぶ水をあけられているのは否めない。しかし、発売から時間が経過しても一定の数を維持しているのは、このクルマが根強く支持されているからに違いない。

 そんな現行エルグランドに、久々にじっくり乗る機会を得た。「350 ハイウェイスター プレミアム」の「NISMOパフォーマンスパッケージ」装着車。同パッケージは、すべてを装着することでより高い効果が得られるよう、NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)がレーシングテクノロジーを駆使して開発したパーツを組み合わせてパッケージ化したもので、同車には専用エアロキット、ダーククロームフロントグリル、カーボンドアミラーカバー&ブルーミラー、カーボンピラーガーニッシュ、19インチアルミホイール「LMX6」、「S-Tune」サスペンションキット、チューニングECM、「S-Tune」スポーツマフラーなどが装着されていた。ほどよくローダウンしたブリリアントホワイトパールのボディに、赤のアクセントが映える。

撮影車は「エルグランド 350 ハイウェイスター プレミアム」のNISMOパフォーマンスパッケージ装着車。ベース車のボディサイズは4945×1850×1815mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3000mm。ベース車の価格は533万7360円だが、これにNISMOパーツをはじめとするオプション品(総額126万2893円)が与えられる
エクステリアではNISMOのノウハウが注ぎこまれたエアロキット(フロントアンダースポイラー、サイドスカート、リアアンダースポイラー、リアサイドスポイラー)とともに、19インチアルミホイール&ブリヂストン「POTENZA S001」(245/45 R19)、オールステンレス製スポーツマフラー、S-tuneサスペンションキットを装着。車高はノーマルからフロント約20mm、リア約15mmローダウンする。このほかにもカーボンドアミラーカバー、ダーククロームグリルといったディーラーオプションパーツも付いている

走りのよさをさらに高めるパッケージ

 現行の3代目エルグランドの特徴は低床、低全高であることで、それは最大の好敵手であるアルファード/ヴェルファイアとのもっとも大きな違いでもある。これにより箱型ミニバンにありがちな、いかにも重心の高そうな感覚や車体のフラつきを払拭した、LLクラスミニバンらしからぬ軽快な操縦性を実現している。

 また、いち早く採用したリアマルチリンクサスペンションは、アルファード/ヴェルファイアが現行型でマルチリンクを導入したものの、アーム長が短くフリクション感が強いのに対し、エルグランドはアーム長が十分に確保されていて、ストローク感がある。おそらくアル/ヴェルも直近のマイナーチェンジでそのあたり手を入れたことだろうが、エルグランドはもともとその点で優位であることも、あらためてお伝えしておこう。

 NISMOパフォーマンスパッケージは、スポーティなルックスはもとより、そんなエルグランドの優位性である走りのよさをより高めたものだ。同パッケージ装着車は別の個体で同パッケージが登場して間もないころから過去に何度かドライブしたことがあるのだが、それに比べると、おろしたての今回の車両は全体的に洗練されているように感じた。

 第一印象として感じたのは、まず乗り心地がよいことだ。以前ドライブした車両では、ダンパーの初期の動きが渋く、やや突き上げが強かったのとはだいぶ印象が違う。それでいて、引き締まった足まわりによりフラット感が増している。ステアリング操作に対する一体感も高く、より路面をしっかり捉える感覚がある。

 今回は高速道路でかなり長い距離を走ったのだが、もともと優れていた直進安定性がさらに向上して、横風に対しても強くなり、ステアリングが取られる感覚も低減している。よりラクに高速巡行できるようになったおかげで、疲労感も小さくてすんだ。これには足まわりはもちろん、エアロパーツも少なからず効いていることに違いない。なお、車両に関する改良はとくに伝えられていないが、いわゆるランニングチェンジは折にふれて行なわれているはずだし、おそらく同パッケージのパーツ自体も発売当初に比べると微妙なところで進化しているのだろう。

あくまで主役はドライバー

エルグランド 350 ハイウェイスター プレミアムが搭載するV型6気筒DOHC「VQ35DE」は最高出力206kW(280PS)/6400rpm、最大トルク344Nm(35.1kgm)/4400rpmを発生。JC08モード燃費は9.4km/L

 また、いち早く採用した「スマート・ルームミラー」も、以前は画像のピントが甘く後続車の状況が分かりにくかったり、夜間に後続車のライトにより画面の大半が白くなって有効な視界が得られなくなったりしたものだが、それらがずいぶん改善されるなど、いろいろ進化していることが分かった。

 エンジンについては、経済性に優れる2.5リッターでも性能的には大きな不満はないものの、やはり力強い加速とV6ならではの重厚なエキゾーストサウンドを味わえる3.5リッターの方がエルグランドの本命に違いない。また、2.5リッター車はかつては大きかった3.5リッター車との装備差もだいぶ縮まったとはいえ、依然としてACC(アダプティブクルーズコントロール)が選べないのがネックだ。

 登場から時間が経過しても色あせることのない、広く豪華な室内空間もエルグランドの大きな魅力だ。途中、運転を交代して後席にも乗ってみたが、中折れ機構やオットマンを備えたキャプテンシートの座り心地は相変わらず素晴らしく、思わずここにずっと座っていたくなるほどだ。また、試しに3列目にも座ってみたが、3列目まで快適な乗り心地を実現しているのもエルグランドの強みであることをあらためて実感した。これには3列目をよくある跳ね上げ式ではなく、シートのサイズやクッション厚を確保する上で有利な前倒し式を採用したことが効いている。むろんワンステップで乗り降りできるのも低床プラットフォームならではである。

インテリアではNISMOのロゴ付フロアマット(吸音機能付)を装備
リアカメラの車両後方映像をルームミラーに映し出す「スマート・ルームミラー」。スイッチのON/OFFで液晶モニターとしても通常のルームミラーとしても使える

 よくミニバンではドライバーは脇役と認識されがちだが、エルグランド、とりわけNISMOパフォーマンスパッケージ装着車の場合は、あくまで主役はドライバー。そして同乗者にも、より快適に移動できる空間が提供される。ドライバーにとっても同乗者にとっても、非常に高い満足感を与えてくれるモデルである。

 次期モデルの情報もなく、当面は現行モデルのままいくようだが、すでにさまざまなバリエーションが展開されているところ、約1年前にも黒と白のコントラストを際立たせた特別仕様車「ハイウェイスター ホワイトレザーアーバンクロム」を加えるなど、ますます魅力的な選択肢が増えているのもうれしい。また今後、日産がこれまで以上に注力していくことを発表した「NISMO」や「オーテック」ブランドにおいて、エルグランドについてもなんらか動きがあることも考えられる。まだまだ現役バリバリ。今後の展開にも大いに期待したい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一