試乗レポート
マイチェンした日産「エルグランド」、“ならではの価値”に改めて触れてみた
2020年12月8日 11:25
デザインと先進運転支援技術を刷新
前輪駆動の3代目になってから、思えばもう10年あまりが経ったとは少々感慨深い。普通ならとっくにモデルチェンジしてもおかしくないところ、その気配もなく、あるいは生産終了になっていてもおかしくない。
自販連のデータによると、2019年12月に588台を販売して月販ランキングでギリギリ50位となって以降、2020年に入ってからは上位50台から外れている。かつては国産LLクラスミニバンの双璧と称され、しのぎを削った競合相手がコロナ禍の中にあっても絶好調なのとは対照的ではある。それでも、このタイミングでデザインをリフレッシュし、先進安全技術系をアップデートするなど現状でできるかぎりのことをやったのは、根強いニーズに少しでもよい形で応えるためにほかならない。
久々に触れるエルグランド。日産の新色を含む5色がラインアップされたボディカラーのうち、歴代初で唯一の2トーンとなる撮影車両の「ディープクリムゾン/ミッドナイトブラック」が見せる、これまでなかった独特の雰囲気も新鮮だ。
細部では、繊細な作り込みのフロントグリルを採用したほか、漆黒のフロントグリルやフォグランプフィニッシャー、グラファイトフィニッシュの18インチアルミホイールなど、専用装備に加えた特別仕様車「アーバンクロム」シリーズが新たに設定された。撮影車両がまさしくそれだ。
インテリアはインパネからドアトリムにかけて水平基調のデザインとされ、中央にピアノブラックでまとめた10インチの大型ディスプレイが配置されたことで、雰囲気がガラリと変わった。プレミアムシートは連続したキルティングパターンへと変更されたのも新しい。USB電源が増設されたのもありがたい。
360°セーフティアシストを全車標準装備
先進安全技術では、「360°セーフティアシスト」を全車標準装備とし、新たに前方を走行する2台前の車両を検知し、回避操作が必要と判断した場合に警報を発するFCW(前方衝突予測警報)や、隣接レーンの後側方を走行する接近車両との接触を回避するようステアリング操作を支援するインテリジェントBSI(後側方衝突防止支援システム)、BSW(後側方車両検知警報)、RCTA(後退時車両検知警報)などの機能を備えた。加えて標識検知機能では最高車速と一時停止の標識が検知可能となった。かつては3.5リッター車でないとACCすら選べなかった当時のことを思うと、大きな進化に違いない。ステアリングの制御まで行なう「プロパイロット」を搭載できないのは現行世代ではやむをえないだろうが、いろいろ制約のある中でよくぞここまでやったといってよいだろう。
なお、2.5リッター車についても2018年12月の改良ですでにインテリジェントLI(車線逸脱防止支援システム)&LDW(車線逸脱警報)、インテリジェント エマージェンシーブレーキ、ハイビームアシスト、前方の歩行者も察知・作動できるように機能向上した踏み間違い衝突防止アシスト、インテリジェント クルーズコントロールなどは一部を除いて標準装備されている。
走りに関する変更は今回も伝えられていないのだが、時間の経過とともに乗り味が少なからず変わっている。登場当初に比べると車体の揺れやノイズが低減して乗り心地や静粛性が向上していたり、応答遅れやキックバックを感じたステアリングがスッキリとしたフィーリングになったりと大なり小なり改善されてきた。現状のまとまりはわるくなく、設計の新しい競合勢に対してもひけをとるものではない。
あらためて感じたエルグランドならではの価値
低床プラットフォームの恩恵で前席にはワンステップで車内にアクセスでき、運転感覚もミニバンっぽさをあまり感じさせることもない。もともとリアにアームの長いマルチリンクサスペンションを採用していることも効いてか乗り味にもストローク感がある。
後席の居住性も上々だ。いちはやくエルグランドが採用した中折れ機構やオットマンを備えた2列目キャプテンシートの座り心地は申し分なし。極上の移動空間を乗員に提供してくれる。
3列目も居住性の確保に配慮されていて、構造的にシンプルで、シートのサイズやクッション厚を確保する上で有利な前倒し式を採用したことも効いて、着座感はいたって良好だ。
以前はエルグランドを買うなら3.5リッター車が本命と思っていたのだが、今回2.5リッター車をドライブして、そのよさを再確認した。むろん3.5リッターほどの余裕のある力強さや重厚なサウンドは得られないにしても、2.5リッターでも動力性能に不満は感じない。フル乗車に近い状態でも出足の加速は十分で、ストレスを感じることもなく、なにより実燃費がよくレギュラーガソリン仕様であるなど経済性に優れる点も魅力だ。
次期型についてはいろいろな情報が飛び交っているが、このタイミングでマイナーチェンジしたからには、もうしばらく現役を続行することには違いない。そして、一定数がずっと存在する、エルグランドならではの価値に共感する人々は事情もよく理解しているだろうから、彼らにとっても今回のマイナーチェンジは、よくぞここまでやったと感じられるものなのではないかと思う。