試乗レポート

ポスト・オピュレンス(脱贅沢)を標榜するロールス・ロイスの新型「ゴースト」試乗

「マジック・カーペット・ライド」の気持ちのよさはこの上ない

日本では10月に公開されたロールス・ロイスの新型「ゴースト」に乗った

コンセプトはポスト・オピュレンス(脱贅沢)

 ロールス・ロイスは一時の低迷期から完全に復活し、特に2009年にデビューした「ゴースト」はロールス・ロイス史上最大のヒットとなった。2020年9月にフルモデルチェンジを受けて2代目に進化した。そのコンセプトはゴージャスできらびやかな贅沢から、シンプルで内容の濃いポスト・オピュレンス(脱贅沢)である。

 このカテゴリーで常に顧客が何を望んでいるかアンテナを張り巡らしているロールス・ロイスは、初代ゴーストの登場から顧客の志向が変わってきたと分析、ゴーストの方向をポスト・オピュレンスに向けて開発を決定した。贅沢の極みと思われているロールス・ロイス自らが時代の中で変わろうとしているのだ。

 少しメカニズムについて触れておこう。ロールス・ロイスは車種に応じて自在に変化させることができるアルミスペースフレームを開発し、「ファントム」「カリナン」と作り上げてきた。具体的にはクルマの4隅に設けた固定ポイントを基準として、自在に位置を設定できるアルミの二重バルクヘッド、フロアとクロスメンバーなどで構成されている。少量生産ならではの特徴を活かした柔軟性のあるプラットフォームだ。

 また、フロントサスペンション・アッセンブリーを極力前に出し、V12エンジンをフロントアクスルの後方に置くことで前後重量配分50:50を達成している。

 アルミのボディサイズは5545×2000×1570mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3295mmと、ロールス・ロイスらしく堂々として先代のゴーストよりもひと回り大きくなった。ロングホイールベース(3465mm)のエクステンデッドになると、さらに全長は5715mmとなる。

 エンジンはファントムから使われている6.75リッターのツインターボV12。BMWオリジナルのエンジンだが、ロールス・ロイスの手によって各モデルに合わせてチューニングされる。ゴーストは専用マッピングで、最高出力420kW/最大トルク850Nmのスペックを持つ。

「マジック・カーペット・ライド」に感心

新型ゴーストの価格は3590万円(ゴースト・エクステンデッドは4200万円)。ラジエーターグリル頂部の下に配された20個のLEDが内側のバーを淡く照らすことで優美な個性を表現

 いよいよ乗り込む。何しろラグジュアリーブランドの頂点に立つロールス・ロイスである。緊張しないわけはない。そして大きく高価なクルマだ。苦手である。

 そんな心配はユッタリして柔らかいドライバーズシートに座り、なんとも落ち着いた室内に癒されると、身体と心が柔らかくなっているのが分かる。分厚いドアを締めると静寂の世界が広がる。

 例えば、石造りの頑丈な建物でジッとしていると身体に圧力のようなものを感じ、耳がジーとする経験がないだろうか。ゴーストはこの感覚だった。クルマでここまで感じたのは初めてである。

 ステアリングコラム右側から出ている細いレバーをDレンジに入れ、粛々と走り出す。アクセルもブレーキもすべてが滑らかで心安らぐ。アクセルストロークや踏力など絶妙なのだ。ブレーキタッチも同様でストップ&ゴーを繰り返してもユッタリと動くので、乗員への負担は最小限だ。プロのショーファードライバーの経験がしっかり活きている。

パワーユニットは最高出力420kW(571PS)/5000rpm、最大トルク850Nm/1600-4250rpmを発生するV型12気筒 6.75リッターツインターボエンジンで、トランスミッションは8速AT、駆動方式は4WDを採用

 そして動き出してすぐにゴーストの実力を思い知った。路面からの微細な動きを見事にカットしており、ロールス・ロイスの言う「マジック・カーペット・ライド」とはこれかと感心した。ファントムでさえ多少なりともある不可避的な振動やピッチングが見事に解消され、気持ちのよさはこの上ない。

 ロールス・ロイスは電子制御のエアサスペンションを使っているが、さらにゴーストで採用された幾何学的に水平を意味するプラナーから採った「プラナー・サスペンション・システム」は、さらに洗練された乗り心地を生み出した。エアサスで吸収しきれなかった振動は、アッパーウィシュボーンに取り付けられたマスダンパーによって吸収される。エアサスは上下動を吸収するが、そこで吸収できなかった分をマスダンパーで、さらにマスダンパーは水平方向の振動吸収にも寄与できるという。

 プラナー・サスペンション・システムの効果は確かに大きい。以前から考えられていたシステムだが、実用化したのはロールス・ロイスが最初で、エンジニアは乗り心地を追求した結果プラナー・サスペンションに辿りつき、開発には10年が必要だったという。

 プラナー・サスペンション・システムにはさらに自動車の黎明期に、赤い旗を持った旗手(フラッグペアラー)が見物人に危険を示すためにクルマの先導をしたという故事に倣って、100km/hまでの速度域ではカメラが前方の路面を見てエアサスペンションを事前に調整するという「フラッグペアラー・システム」と、GPSで自車位置を把握して常に最適なギヤポジションを選ぶことができる「サテライト・エイディッド・トランスミッション」も広義での快適な乗り心地に貢献し、その一翼を担う。

 最上の乗り心地はサスペンションシステム、ボディ、シートの調和で成立するが、ゴーストは素晴らしく高いバランス点を見出していた。

プラナー・サスペンション・システム

 ステアリングフィールは、操舵力も軽いが手応えのあるものでスローな設定。センターフィールも滑らかでどっしりして、かつ段付き感が皆無な滑らかさが素晴らしい。期待どおりのステアリングフィールだ。

 最小回転半径は3295mmというホイールベースの割には意外と小さい。ゴーストは4WSを採用して、低速大舵角で逆相になるので小回りが効くのだ。高速ではもちろん同相になる。

 日本的なツイスティな山道に入る。大きな車体を持て余すかと思ったが、ステアリングの応答性も素直でライントレース性は想像以上に高い。次々と現れるS字カーブもスマートにクリアしていく。今まで抱いていたロールス・ロイスのイメージは完全に覆えされた。ロールの進行もよく抑えられており、どっしりとした姿勢でコーナーをクリアしていく。ロールス・ロイスの精緻なハンドリングはサイズを感じさせない。

新型ゴーストのインテリア

 今回の試乗では、急激に冷え込んだ気候のためにピレリのウィンタータイヤ「SOTTO ZERO」(255/45R20)を装着していた。さすがにタイトコーナーでは2540kgの重量を持つゴーストはステアリング操舵の遅れを感じる場面もあったが、それ以外ではどのコーナーで気持ちよく走れる。

 標高が高くなると路面に雪が現れた。この程度のシャーベット状の雪では掻き分けるよう走破する。ゴーストの4WDは前後トルク配分を0:100~50:50に分配するもので、常に安定方向に配分する。シャーベット状の雪も轍も安心して走ることができそうだ。実際に今回の試乗では滑りを感じたことは一度もなかった。もし850Nmのトルクを全開で解き放てばまた話は違うだろうが、そんな勇気は私にはない。

 晴れた翌日のテストドライブではタイヤをピレリ「P ZERO」のランフラットに履き替えたが、ほんのかすかにあったパターンノイズは消えて静粛性はさらに高まった。細かい凹凸に対してはウィンタータイヤよりも多少ゴツゴツした感じはあるが、実際のボディに伝わる細かいショックはキレイに吸収されている。どっしりとした直進安定性はロールス・ロイスらしい。

 自動車専用道路はACCに任せて、余裕ある車間距離を保持して約1時間のドライブは快適そのもだった。ちなみにエアサスは車高を変えられ、LOW、NORMAL、HIの3つの車高が選べる。自動的にNORMALを選定することになるが、悪路や深い雪、アクセスなどの場面に応じて自ら選ぶこともできる。

 後席のアクセスはロールス・ロイスならではの観音開きのドアで、締めるときはCピラーにあるスイッチを押せばよい。また、ドアハンドルを持っているとアシストが加わり、風の強い時や、少しだけ空けたい時も自在に止めることができる。とても優雅なシステムだ。

 もちろん後席は広々としており、身体をソフトに包み込むようなシートに身を任せておけば、心も身体もとろけるようだ。

 明治時代、英国の外交官であるアーネスト・サトウやハリー・パークスらがこよなく愛した日光をゴーストで走るというショートトリップは素晴らしい経験だった。ホッとして天井を見上げると星空が広がっており、時おり流れ星が飛ぶという心憎い演出があって、最後までサプライズの連続だった。

【お詫びと訂正】記事初出時、エンジンの表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。