ニュース
ロールス・ロイス、新型「ゴースト」発表 “魔法の絨毯のような乗り心地”がさらに進化
420kW/850NmのV12 6.75リッターツインターボエンジン搭載
2020年9月1日 21:01
- 2020年9月1日（現地時間）発表
ロールス・ロイス・モーター・カーズは9月1日（現地時間）、同社の116年の歴史の中でもっとも成功したという「ゴースト」をフルモデルチェンジして発表した。
史上最も成功したロールス・ロイス
それまでの「ファントム」などよりも少し小さいロールス・ロイスを求めていたユーザーのニーズにピタリとはまり、年齢やクラスを超えたまったく新しい顧客を獲得し、2009年からの10年間で、ゴーストは116年のロールス・ロイスの歴史の中でもっとも成功したモデルとなった。
そして新型では今後の10年に向けて、ゴーストのオーナーの心に響く新製品を開発するためにユーザーの声を拾い、ダイナミックで落ち着き、快適さと完璧なミニマリズムを兼ね備えた、新しいタイプの超高級サルーンとなる新型ゴーストを作り上げた。
その結果、先代ゴーストからのキャリーオーバーはスピリット・オブ・エクスタシーと傘だけで、それ以外はすべてイチから設計されているという。「これまででもっとも技術的に進歩したロールス・ロイスが誕生した。ゴーストのユーザーニーズと完全に調和し、時代にも完全に調和している」とコメントするのは、同社の最高経営責任者であるトルステン・ミュラー・エトヴェシュ氏だ。
脱贅沢
ゴーストのデザインコンセプト“ポスト・オピュレンス（脱贅沢）”は、建築、ファッション、ジュエリー、ボートなどのデザインにすでに根付いているもので、ミニマルで直線的でありながら、光と反射を上手く利用することで無機質さを感じさせないものとされている。
ゴーストでも荘厳さや華やかさではなく、ピュアでクリーンなデザインを追い求めた結果、このコンセプトが採用された。その一方で、まぎれもなくロールス・ロイスであることも重要視されている。
まずデザインチームは全幅を30mm拡大し、さりげなく存在感をアピール。これは、角張ったライトシグネチャーと交差するシャープな弓状のラインによって縁取ることで、全幅を主張しながらも美しいフロントエンドを生み出している。さらにフロントエンドに独自のエーテル的（霊的）なキャラクターが与えられた。これは、あからさまなデザインではなく光によって実現したもので、ラジエターグリル上部の下側にある20個のLEDが、“血管（グリルの縦バー）”をさりげなく照らしている。
サイドビューでは、直線基調で途切れることのないキャラクターラインにより、クルマの長さを強調。下部の“ワフトライン”（ふわりと浮かぶようなライン）はボートのデザインを参考にしていて、反射を利用して表面を明るくし、ピュアでシンプルな動きの感覚を作り出している。
ウィンドウエリアに目を移すと、前後のドアが同じプロポーションのウィンドウグラフィックとなっていて、ゴーストがドライバー志向とショーファーカーとしてのバランスを取っていることが示されている。また、微妙に弧を描くルーフラインは、そのダイナミックな意図を表現。リアエンドはこの動きの感覚を踏襲するように絞り込まれている。
徹底管理されたインテリア品質
新型ゴーストのインテリアもエクステリア同様、ミニマリズムの原則を追求し、細かいディテールや表面的な装飾を排除し、よりリラックスできる空間とともに、素材感をより強調。オーダーメイドのカラーパーソナライゼーションの効果を最大限に発揮させている。
しかし、シンプルでエレガントなインテリアを作ることは非常に複雑な作業であり、最高級の素材を調達する必要もある。装飾に頼らず、素材自体の魅力でユーザーの厳しい審美眼にかなうためには、上質のレザー、ウッド、メタルが必須となる。
そのために、新型ゴーストのインテリア・スイートに使用される1台あたり20枚のハーフ・ハイドのレザーは、自動車業界でもっとも厳しい品質管理を経て選別され、338枚（見えない箇所に使われるものも含む）のパネルはすべて最高品質で仕上げられているという。
また、新型ゴーストのインテリアには凝った複雑なステッチはあえて使わず、驚くほど長いステッチを完全に真っ直ぐに縫い上げ、ユーザーの審美眼にかなうレベルに仕上げるために、ロールス・ロイスが長年培ってきたレザークラフトの高度な技術が活かされている。
新型ゴーストのウッドセットには、素材をありのままに見せるオープンポアフィニッシュも用意されている。具体的には2種類が新たに開発され、1つ目は溶岩に見られる豊富な色の多様性にインスパイアされたオブシディアン・アユース。
2つ目はダーク・アンバーで、ダークウッドの表面に微細なアルミの粒子で細かな模様を施したもの。レザーフィニッシュと同様に、この素材も長い1枚の薄いべニアをむき出しの形で使用していて、その間には冷たくて手触りのよい金属製エアベントを採用。ここからMEPSフィルターで清浄化された空気がキャビンに送り込まれる。
ビスポークコレクティブメンバーも参画したイルミネーテッド・フェイシア
新型ゴーストのために、デザイナー、エンジニア、職人で構成されるビスポークコレクティブのメンバーが、イルミネーテッド・ファシアを製作。これは、スピリット・オブ・エクスタシー、ファントムグリル、ダブルRモノグラムと同様に、ロールス・ロイスの象徴となっているスターライト・ヘッドライナーをさりげなく再現した世界初の革新的なデザインだ。
2年の歳月と1万時間以上をかけて開発されたこの作品は、850個以上の“星”に囲まれたゴーストの銘板をインテリアに取り入れている。ダッシュボードの助手席側に配置され、室内灯が点灯していない時には、星たちとワードマークはまったく見えない。
このイルミネーション自体は、ファシアの上下に取り付けられた152個のLEDから成立しており、それぞれの色はキャビンの時計と計器盤の照明に細心の注意を払いながら合わせられている。
ゴーストのワードマークを均一に点灯させるために、厚さ2mmのライトガイドが使用され、表面には9万個以上のドットをレーザーでエッチング。これにより光が均等に分散されるだけでなく、フェイシアに沿って視線を動かしたときに光がきらめいて見える効果をもたらし、スターライト・ヘッドライナーの繊細な輝きが反映されているのだ。
このイルミネーション・ファシアが点灯していない間は、完全に見えないようにするために、3層の複合材料を使用。1層目はピアノブラックの基盤で、レーザーでエッチングし、ワードマークと星の集まりに光が差し込むようになっている。これに濃い色のラッカーを重ね、使用しないときはレタリングを隠している。最後はこのフェイシアに薄く色付けされたラッカーを塗り重ね、手で研磨。厚さ0.5mmのハイグロス仕上げを実現している。
50：50の重量配分
ロールス・ロイス独自のアルミスペースフレーム構造をゴーストにも採用。2つの鋳造されたサスペンションマウントアセンブリをできる限り前方に配置するとともに、V型12気筒6.75リッターエンジンをフロントアクスル後方に搭載することで、理想的な50：50の重量配分を実現。
新型ゴーストでは、インテリアを損なうことなくこのレイアウトを収めるために、全長は先代から89mm伸びて5546mmとなり、全幅は30mm広がって1978mmとなった。また、二重構造のバルクヘッドとフロア構造のパッケージングも大幅に変更。これは4輪駆動、4輪操舵、完全に設計変更されたプラナー・サスペンション・システムを採用するために行なわれたもので、“マジックカーペット”の乗り味をさらに向上させるとともに、コーナリング性能を確保するために低重心化も実現している。
また、新型ゴーストのボディはアルミニウムを100％使用。アウターボディは、Aピラーからルーフ、そして後方へとシームレスに流れており、その姿は「シルバー・ドーン」や「シルバー・クラウド」を思い起こさせる。このように流れを遮るシャットラインがないことで、見るものの視線をフロントからリアまで目線を走らせることができる。
これを実現するために、4人の職人が同時にボディを手で溶接している。また、ドアには100％アルミ製のレーザー溶接ドアを採用。これにより、軽量化と4万Nm/degという驚異的な剛性を実現しただけでなく、スチールよりも音響インピーダンスが低く、車内の静粛性などの向上にも寄与しているという。
進化したマジック・カーペット・ライド
新型ゴーストに搭載されるエンジンは、V型12気筒6.75リッターツインターボエンジンで、最高出力420kW（563bhp）、最大トルク850Nm/627lb-ftを発生。最大トルクは1600rpmから生み出される。また、静粛性をさらに改善するため、エンジン吸気システムの口径を拡大し、キャビンに伝わるエンジン音を低減させている。
ロールス・ロイスの特徴の1つ、マジック・カーペット・ライドも進化。新型ゴーストでは“プラナー・サスペンション・システム”と呼ばれるシステムを搭載。プラナーとは完全に平らで水平な幾何学的平面を指す用語で、10年にわたるテストと開発の成果であり、これまでのクルマでは実現できなかった陸上での飛行感覚を実現したという。
物理的な技術開発だけでなく、高度なスキャニング技術とソフトウェア技術を駆使して開発されたこのシステムは、世界初のアッパー・ウィッシュボーン・ダンパー・ユニットをフロント・サスペンション・アセンブリの上部に搭載し、より安定して楽な乗り心地を実現。
これは、カメラを使って前方の道路を読み取り、路面の変化に対応してサスペンションシステムの作動を準備するフラッグベアラーシステムや、サテライト・エイド・トランスミッションと連動し、もっとも過酷な路面にも対応できるようになっている。
フラッグベアラーシステムは、フロントガラスに内蔵されたステレオカメラシステムにより前方の路面状況を把握し、100km/hまでの速度域でサスペンションを事前に調整。また、ロールス・ロイスのサテライト・エイデッド・トランスミッションはGPSデータを用いて、これからのコーナーで最適なギヤを事前に選択してくれる。
エフォートレスドアも進化
近年のロールス・ロイスはセルフクロージングドアを採用しており、ダッシュボード上のボタンと、4ドアではCピラー上のボタンで操作することでドアを閉めることができた。新型ゴーストでは、この特徴的な技術をさらに発展させ、初めてパワーアシストでドアを開けることが可能になった。
閉めるときは、ドアハンドルのボタンを押すだけで、ドアを完全に自動的に閉めることができる。各ドアに搭載された縦・横センサーとGフォースセンサーにより、坂道や傾斜のある場所に停車した場合でも同じ速度で開閉する。
また、新型ゴーストでは新しいマイクロ環境浄化システム（MEPS）を採用。空気ろ過技術では高感度の不純物検出センサーを導入し、周囲の空気の質を検出。許容できないレベルの空気中の汚染物質が存在する場合には、新鮮な空気の取り入れ口を自動的に循環モードに切り替える。これにより、すべてのキャビンエアをナノフリースフィルターに通すことで、ほぼすべての超微粒子を2分以内に除去することが可能とのこと。
そのほか、600m以上の照射距離を誇るLEDとレーザーヘッドライトや、昼夜の野生動物や歩行者の警告を含むビジョンアシスト、アラートネスアシスタント、パノラマビュー、全方位視界、ヘリコプタービューを備えた4つのカメラシステム、アクティブクルーズコントロール、衝突警告、交差交通警告、車線逸脱・車線変更警告、業界をリードする7×3の高解像度ヘッドアップディスプレイ、Wi-Fiホットスポット、セルフパーク、最新のナビゲーションとエンターテイメントシステムが搭載されている。
静粛性のさらなる向上と隠れた入力
新型ゴーストでは当然のことながら静粛性の向上も行なわれた。ロールス・ロイスのスペースフレーム・アーキテクチャーはアルミニウム製の構造により、スチール製に比べて音響インピーダンスが高く、さらに複雑な形状から構成されている。
また、平面的な共振面ではなく複雑な形状で構成され、バルクヘッドとフロアセクションもダブルスキン化されており、室内に侵入するロードノイズを低減するために複合ダンピングフェルトを挟み込んでいる。また、ドア、ルーフ、2重ガラス窓の間、タイヤの内側、アーキテクチャーのほぼすべての部分に合計100kg以上の制振材が使用されている。
このように高度に遮音した室内が作られると、ほとんど感知できないほどの音波を発生させる部品が表れてくる。これらは音響技術者によって“隠れた入力”と呼ばれ、このエンジニアが許容できないと定義した騒音が発生していないかも評価する。
すべてのコンポーネントを調査し、その結果として完全に再設計された。例えば、空調ダクトの内部では許容できないレベルの風切り音が発生していたため、これを除去して磨き上げ、最終的なコンポーネントの製造に反映させている。また、プロペラシャフトの直径を調整し剛性を高めることで、音響特性を改善した。
その一方、音響の専門家たちは静粛性が高すぎると人間は不安を感じることも分かった。そこで僅かに音として感じられる柔らかな小声で話すときのような“ささやき”を作り出した。そのために、各部品を共通の共振周波数にチューニングし、例えば初期のプロトタイプのシートフレームは、ボディとは異なる周波数で共振していたためダンピングユニットを開発し、ノイズを1つの音にまとめた。
さらに507Lの大きなトランクの空洞では、高速走行時に感じられる低周波を発生させていたことから、リアのパーセルシェルフの下にこれらの音波を逃がすためのポートが設けられるなど、さまざまなな工夫が凝らされている。
最高経営責任者 トルステン・ミュラー・エトヴェシュ氏のコメント
創業者であるヘンリー・ロイス卿は「小さなことが完璧を作るが、完璧は小さなことではない」という、非常に洞察力に富んだ言葉を残しています。今日、ロールス・ロイスでは、シンプルさを生み出すことは非常に複雑なプロセスであるため、この言葉の影響を実感しています。
これは、新型ゴーストの開発においても同様でした。私たちは、ロールス・ロイスの本質とは何か？ 私たちは非常に洗練された市場で事業を展開していますが、私たちは顧客が誰なのかということに焦点を当てなければなりません。このような素晴らしい人々こそが、私たちの生命線です。ロールス・ロイスのラインアップは、それぞれ異なる顧客価値観を表しています。私たちの顧客グループの各層は、個人の生活空間に特有のさまざまなニーズや欲求を持っています。
さて、2009年に先代ゴーストを発表したとき、私たちは新しい、影響力のある顧客である、起業家、創業者、成功したビジネスリーダーの要求に応えていました。彼らが求めていたのは、それまでのラインアップとは異なる種類のロールス・ロイスでした。派手さを抑えたシンプルなロールス・ロイスで、ビジネスツールとして、また個人的にも自己運転を楽しむことができるようなものでした。そこで私たちは、このような人々を念頭に置いて、最初のゴーストを開発しました。そのクルマは私たちの野心的な期待に応えてくれ、11年の歳月を経て、ロールス・ロイス史上最も成功したクルマの1つとなったのです。
そしていまから5年前、私たちはゴーストのユーザーとのオープンな対話を始め、多くのことを学びました。彼らは本当にゴーストを愛していましたが、私たちの顧客の中でも特にもっと洗練され、派手さを抑えた、ミニマルなデザインのクルマを求めていたのです。しかし、すべての点で真のロールス・ロイスであることに変わりはありません。もちろん、技術とエンジニアリングのあらゆるレベルでの進歩が必要でした。しかし、オリジナルのシンプルさを犠牲にしたくはありませんでした。
そこで、私たちのデザインチームは仕事に取り掛かりました。彼らは不要なデザインの装飾やシャットラインをすべて削除しました。さらに外内装の余計なディテールも削除したのです。そして、私たちのエンジニアたちは、ロールス・ロイスのアーキテクチャを完全に再構成しました。その結果、信じられないほど純粋で洗練されたドライビング・パーソナリティを新しいゴーストに吹き込んだのです。
そして、グッドウッドにあるロールス・ロイスのホーム・オブ・ロールス・ロイスのエキスパートたちによるこの華麗で創造的なプロセスが、非常に特別なクルマ、新型ゴーストを生み出しました。多くの人がよりシンプルで洗練され、抑制された“ポスト・オピュレンス（脱贅沢）”な世界を求める今日の世界において、ニューゴーストは時代の流れにぴったりとフィットしています。ニューゴーストは、まさにロールス・ロイスの真骨頂なのです。
それは囁きであり、叫ぶのではありません。
それはより少ないのですが、よりよいものです。
それはまさに「ニューゴースト」なのです。
そしてそれ以上のものはありません。