インプレッション
マツダ「CX-8」(車両型式:3DA-KG2P/北海道雪道試乗)
“躍度”にこだわって作られたマツダ車の雪道運動性能
2017年12月28日 00:00
雪道においてもリニアな走りを示す「CX-8」
マツダの新型SUV「CX-8」を北海道 剣淵町の雪道で乗ってみた。ドライ路面におけるインプレッションは以前の記事「マツダ『CX-8』(公道試乗)」をご覧いただきたいが、圧縮比から燃料噴射の仕方、さらにはタービンの作りなども変更して応答遅れをなくした2.2リッター ターボディーゼルエンジンは、まさにリニアに走るように感じた。また、一見穏やかだが求めれば求めるだけ応答するシャシーの仕立ても扱いやすい。CX-5に対して200kg以上重く、さらにはホイールベースを230mmも延長したにも関わらず、マイルド過ぎず、けれどもリニアに走れるところに共感したのだ。
マツダ CX-8 インプレ記事一覧
それはスノードライブをしてみても同様。マツダ独自の4WDシステム「i-ACTIV AWD」を装備したCX-8のステアリングの応答は穏やかながらもリニアに立ち上がり、瞬間的にグリップを失ってしまうようなことはない。おかげでタイヤのグリップを使い切りやすいと感じることができた。また、4WDシステムの制御も絶妙であり、シッカリとしたトラクションを得ることを可能にしながらも、コーナーリング時にはフロントの駆動を緩め、さらにはGベクタリングコントロールでトルクを抑えることでコーナーへ無駄なくアプローチしてくれる。
ライントレース性はかなり高く、安心したドライブにつながっている。ただ、1つネガを言うならば、あまりに快適にドライブすることが可能なあまり、ついついスピードが高まり、ブレーキングで止まり切れず、コーナーリング限界を飛び越す状況に陥る可能性があるということだ。2t近いクルマを動かしていることをドライバーが常に意識すべき、それくらいCX-8のスノー路面における走行性能は高かった。
こんな仕上がりを実現できたことは、マツダがいま“躍度”に注目してクルマの開発を行なっているからではないだろうか。単位時間あたりの加速度の変化率を示す躍度(加加速度)については別途記事をお送りするが、平たく言ってしまえば急激な加減速や急操舵を行なえば躍度は跳ね上がることになる。躍度が跳ね上がれば乗員は揺らされ、さらにはタイヤに無理な力が加わって瞬間的にグリップを失い、最終的には思いどおりにコントロールできない状況に陥る。
北海道剣淵町にあるマツダの冬期テストコースで“躍度”を実感
これを理解するために北海道剣淵町にあるマツダの試験場で用意されたクルマは、CX-5の2WD仕様にオールシーズンタイヤを装着したものだった。ダッシュボードには加速度と躍度が示されるモニターが装着されており、いかにも実験車両的な雰囲気である。まず乗り込んだのは前後方向の加速度と躍度のみを測定できる車両だ。これでワインディングコースを走ってみる。アクセルワークを慎重に行ない、静かに加速を重ねてみると、躍度がそれほど急激に立ち上がらず、2WD+オールシーズンタイヤという状況ながらもスリップすることなく速度が高まっていくことが理解できる。だが、アクセルを少しでも乱暴に扱うと躍度が急激に立ち上がり、スリップを始めてしまう。躍度を跳ね上がらせないことがいかに重要なのかを即座に体感することができた。
その後、スロットルレスポンスをあえて敏感にした仕様に乗ってみると、いくらアクセルワークに気を付けてもタイヤはスリップをしてしまうことを確認。無駄なピッチングを出してしまい、コーナーへのアプローチがしにくかったり、コーナーからの立ち上がりで急激なアンダーステアを誘発してしまうことも体感できた。マツダは走行モードをドライバーに選択させることなく、あえて1モードだけで走らせようという思想でクルマづくりを行なっているが、それがいかに絶妙なものかを体感できるよい機会のように感じた。すなわち、ドライバーの右足が求めたとおりにトルクが発生すること、これが大切だということだ。これはブレーキに対しても言えることで、マスターバックに細工を施し、ブレーキ踏力がかなり必要な仕様にも乗ったが、ブレーキコントロールのしにくさから、ABSを急激に介入させてしまったり、また慎重に踏めば止まり切れないようなこともあったのだ。
躍度の跳ね上がりは横方向、つまりはステアリング操作に対しても同様のことが起きる。それを体感するために、続いては加速度センサーを横方向に取り付けた試験車に乗る。すると、ステアリングを切り始めてジワリと操舵していけば躍度は急激に立ち上がらず、タイヤのグリップを余すことなく使い切ることができる。だが、グッと瞬間的にステアリングを切り込めば躍度の跳ね上がりが急激になり、タイヤに瞬間的に力が加わることで早い段階でスリップが始まり、狙ったラインをトレースしにくくなってしまう。これはシャシーセッティングにもよるものだろうが、操舵ゲインの立ち上がりが急激なクルマの場合は乗りにくくなることは明らか。ステアリングを切り込んだら切り込んだ分だけリニアに応答する最近のマツダの仕立ては間違っていないのだと感じることができた。
今回は躍度を学び、試験場においてあらゆる計測データを知った上でスノードライブすることで、いかにドライバーが慎重に、そして静かに動かすことが重要かということを体感することができた。これは安全運転にも間違いなく繋がるだろう。もちろん、躍度に着目したクルマづくりを行なうことで、CX-8のようなよりよいクルマが誕生しているということも理解できる。だからこそ今回の躍度を示すモニターはぜひとも市販モデルに搭載してほしいとも感じた。躍度を急激に出さないドライブはどうすれば可能なのか? モニターと自分の運転を照らし合わせることで、より効率的に動かすことが可能になるだろうし、タイヤのグリップを使い切ることも、パッセンジャーに不快な思いをさせない運転もできるようになる。すなわち、躍度モニターは多くの人々に運転技術向上のチャンスをもたらすのではないだろうか。さらに一般ドライバーの躍度情報を解析して開発に活かせれば……。
ならばマツダコネクトに躍度モニターを実装するしかない。一般的な機能しかない標準装着のナビゲーションシステムは、いまやスマートフォンに対して優位性を失いつつある。そこにマツダならではの特徴を盛り込めばナビの販売、さらにはクルマの販売にもつながるような気もしてくる。それくらい躍度の解析は面白い。マニアックに、そしてストイックに躍度を追い続けているその姿勢には、マツダらしさが光っていた。