試乗インプレッション

仮想敵は“パナメーラ”。メルセデス AMGオリジナル第3弾の「GT 4ドアクーペ」試乗

V8 4.0リッターツインターボの「GT 63 S」、直6 3.0リッターターボ+ISGの「GT 53」をテストドライブ

「メルセデス AMG GT」とは別物

 パフォーマンスに特化したメルセデス・ベンツのサブブランドとして、メルセデス AMGは特にここ数年、意欲的にニューモデルの投入を続けている。なかでも熱い視線が集まっているのが、メルセデス・ベンツ車をベースとしないAMGオリジナルモデル。スポーツカーブランドとしてのメルセデス AMGの存在感を際立たせる重要な役割を果たしていることは、マーケットの状況を見れば明らかだろう。

 そんなAMGオリジナルモデルとして、「SLS AMG」「AMG GT」に続く第3弾として発表されたのが「メルセデス AMG GT 4ドアクーペ」だ。車名からすると、2013年にデビューした「メルセデス AMG GT」をストレッチして4ドア化したかのようだが、実際にはその中身は別物。狙いもまったく異なっている。ありていに言えば、メルセデス AMG GTがスポーツカーの名門、ポルシェの主力である「911」に狙いを定めていたように、メルセデス AMG GT 4ドアクーペはポルシェ「パナメーラ」を仮想敵に生み出されたのだ。

米国 テキサス州オースティンで「メルセデス AMG GT 4ドアクーペ」の国際試乗会が行なわれた

 全長5mを超える大柄のボディは、4枚のドアにテールゲートを持つクーペフォルムを描く。そのフォルム自体に2ドア版との共通項はあまりないが、特徴的なシグネチャーライトとAMGパナメリカーナ・グリルで構成されたフロントマスクが、見紛うことのない個性をアピールしている。

 インテリアも、やはり最新のメルセデス・ベンツの様式に従い、ドライバーの眼前には大型TFTディスプレイを2枚連結させたワイドスクリーンコクピットが鎮座。2ドア版と共通イメージのセンターコンソールには、新たにTFTディスプレイを埋め込んだスイッチが左右に並べられている。ドライブプログラムの選択ダイヤルがステアリングに移されたのも目新しいところ。但し、あまりにポルシェに似ているが。

 前席は比較的タイトでスポーツカー的な囲まれ感があるが、後席も背もたれの角度は起きているし、座面自体も大きくはない。リムジンとして使うには、導き入れる人を選びそうだが、3人掛けのベンチタイプだけでなく左右独立の2人掛け、さらにはその大型コンソール付きも選択できるから、どんな需要にも対応できる。

 ラゲッジスペース容量は395Lで、さらに床下に60Lのストレージが備わる。ベンチタイプの後席を選べば、バックレストが左右分割可倒式となり、容量を最大1324Lまで拡大することも可能だ。

2018年のジュネーブショーで公開された「メルセデス AMG GT 4ドアクーペ」。写真はV型8気筒4.0リッター直噴ツインターボエンジンを搭載する「メルセデス AMG GT 63 S 4MATIC+」
エクステリアではAMGパナメリカーナ・グリルとともに、フレームレスのサイドウィンドウ、スリムなLEDテールランプなどを採用。V8モデルではフロントバンパー両サイドのダクトに3本のルーバーが備わるほか、台形の4本出しテールパイプなどを採用する
インテリアではイルミネーション機能を備えるタービンデザインのエアコン吹き出し口を採用するとともに、「クラシック」「スポーツ」「スーパースポーツ」の3種類から表示を選択可能な2つの12.3インチ高解像度ディスプレイをV8モデルで標準装備(直6モデルはオプション)。ラゲッジスペースは容量は395L~1324L
GT 63 Sが搭載するV型8気筒4.0リッターツインターボエンジンは最高出力470kW(639PS)/5500-6500rpm、最大トルク900Nm/2500-4500rpmを発生。トランスミッションは9速AT「AMG スピードシフト MCT 9G」

 このボディは構造的にも、やはりアルミ製となる2ドア版との共通点はなく、どちらかと言えば「CLS」や「Eクラス」との距離の方が近いスチール製のモノコックとなる。但し、ホワイトボディを見ると要所には軽量かつ高剛性のアルミダイキャスト製パーツが奢られ、補強用のガゼットやクロスメンバー、ステーがそこらじゅうに取り付けられている。後席バックレスト背後の隔壁、ラゲッジフロアはCFRP製。これも軽く、そして圧倒的に高い剛性によって強靭なボディを作り出すのに大いに貢献しているポイントである。

 エンジンは、まず「GT 63 4MATIC+」「GT 63 S 4MATIC+」にV型8気筒4.0リッターツインターボを搭載する。両者はチューニング違いで、63が最高出力585PS、63 Sが同639PSを発生する。そして「GT 53 4MATIC+」の心臓が、48V電装系を採用した直列6気筒3.0リッターターボと電動スーパーチャージャー、ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)の組み合わせだ。さらに、エントリーとしてそのスペック違いとなる「GT 43 4MATIC+」も後から追加されている。前者は最高出力435PSに電気モーターの22PS、後者は367PS+同22PSとなる。

直列6気筒3.0リッターターボエンジンに電動スーパーチャージャー、最高出力16kW&最大トルク250Nmの電気モーター、48V電気システムなどを採用する「メルセデス AMG GT 53 4MATIC+」
GT 53が搭載する電動スーパーチャージャー付きの直列6気筒3.0リッターターボエンジンは、最高出力320kW(435PS)/6100rpm、最大トルク520Nm/1800-5800rpmを発生。トランスミッションは9速AT「AMG スピードシフト TCT 9G」

 駆動方式はすべて4WD。可変トルク配分式のAMGパフォーマンス4MATIC+を採用する。さらに、V型8気筒モデルにはそれに加えてエアサスペンション、電子制御式LSD、後輪操舵機構などが搭載される。直列6気筒モデルのサスペンションはコイルスプリング式で、減衰力可変式ダンパーとの組み合わせだ。

 アクティブエアロシステムにも触れないわけにはいかない。これはフロントエプロン下部のパネルとリアスポイラーを走行状況に応じて冷却寄り、ダウンフォース寄り、ドラッグ低減寄りにと可変させるもの。「AMG GT R」譲りの技術である。

最大トルク900Nmは伊達じゃない

 一般道で最初にステアリングを握ったのは、GT 63 S 4MATIC+である。このエンジンはとにかくパワフル。正直、車重が2tを超えるだけに多少は物足りなさを感じたりするのかも、という危惧もあったのだが、最大トルク900Nmは伊達ではなく、発進の瞬間から実に頼もしい感触を味わわせてくれた。しかも初のボールベアリング式タービンの採用で、吹け上がりがより緻密で滑らかになっていたのも朗報。パワーだけでなく、エンジンの息吹きそれ自体をも堪能できるようになった。

 これほどの出力を受け止めなければならないだけに、21インチタイヤ&ホイールと組み合わされたサスペンションは相当に締め上げられている。しかしながら、徹底的に剛性が高められたボディがまるでビクともせず、鋭い突き上げも丸くいなしてしまうのには驚いた。これほどガッチリしたボディ、量産車ではそうはない。

 サーキットでの走りっぷりも見事なものだった。クルマの大きさ、重量をまるで意識させないほどクルマの反応が正確で、一発で決まるステアリング操作で思ったラインに容易く乗せていくことができる。スライドもあくまで漸進的。必要な分だけのトルクを前輪に配分する4WDのおかげで、滑りながらもクルマが前に進んでいく、速いドリフトを楽しめる。ブレーキも信頼に足る効きとタッチで、夢中になって走ることができた。

 続いて、ふたたび一般道で試したのはGT 53 4MATIC+。こちらの仕上がりは、サーキットに行く機会がほとんどないなら、試してみるべきと言える。サスペンションは適度な硬さで、高いボディ剛性と相まって乗り心地は極上。直列6気筒ならではの吹け上がりもスイートで、とても気持ちのよいドライブを楽しめた。

 同じAMG GTを名乗るとは言え、2ドア版とはまったく異なる内容を持つ4ドアクーペだが、その徹底的なまでに走りを突き詰める姿勢は、両車まったくの共通だと言っていい。率直に言って、期待をはるかに上まわる出来栄えに大いに感心させられてしまった。パナメーラもうかうかしてはいられないぞ、というところ。日本導入は2019年中盤前後になりそうである。

島下泰久

1972年神奈川県生まれ。
■2017-2018日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国際派モータージャーナリストとして自動車雑誌への寄稿、ファッション誌での連載、webやラジオ、テレビ番組への出演など様々な舞台で活動する。2011年版より徳大寺有恒氏との共著として、そして2016年版からは単独でベストセラー「間違いだらけのクルマ選び」を執筆。また、自動運転技術、電動モビリティを専門的に扱うサイト「サステナ」を主宰する。